な、なんであたしはここに連れてこられたのでしょう。
 今日は朝から目覚めがよくって、とっても幸せな気分でした。いまが幸せじゃないと言うわけじゃありませんが、少なくとも胸を張って『幸せです』と言える状況ではありません……。え、えと、それはいいんですけど、いつもどおりの一日だったんです。……さっきまでは、何ですけど。つまり、さっきからいつもどおりじゃないってことなんでしゅ。
 
 珍しくあまり元気のなかった涼宮さんが、突然元気を取り戻しちゃって、この……えと、あたしを文芸部室?にまで引っ張ってつれてきちゃったんでしゅよぅ。しかもそこに変な部活を作って、あたしは強引に入れられちゃいました……。
 
 同じ女の子のあたしから見ても凄い美人さんで、頭も良くって、あたしとちがってスポーツ万能で……でも性格が、そのぉ……どっ、独特な感じの女の子であるこの涼宮ハルヒさんは、あたしの高校生活がはじまった日からあたしの後ろの席(出席番号離れてるはずですけど……)にいたんですが、彼女は……ちょっとツンツンしてて喋りにくかったし、あたしも人見知りがはげしいので結局話しかけられていなかったんですぅ。代わりというわけじゃないんですけど、中学校からのお友達の国木田君やクラスメートの阪中さん達とお話したりして、ちょっとしたところで自分でも嫌にになっちゃうようなドジをしちゃいながらも、頑張りながら学校生活を楽しんでいました。
 
 で、でもぉ……それが原因だったんでしょうねぇ……。
 
 あたしは自分からしてもドジばかりしてて、周りに迷惑をかけちゃったり、ちょっと笑われちゃったりしてる、おバカなんでしゅ。人見知りも激しいし気が弱くって、臆病で……。自分でも嫌になっちゃいます……。
 でも、涼宮さんはそんなあたしを目に付けちゃったんですぅ。
 
『あなた、気に入ったわ! 今日からあなたのこと、みくるちゃんって呼ぶから!』
 
『はっ、はひぃぃ!!』
 
 こうしてあたしはドジっ娘の上から、クラスで唯一涼宮さんとお話できるというよくわからないレッテルを張られたのですが、それから何日か経って、えっとぉ……あのっ、いろ~んなことがあって、その……げ、現在に至るんですぅ。
 あ、あたしは涼宮さんに何にも余計なことは言っていませぇん! ……言ってないんですが、じゃあ何であたしはここにいるんでしょう……。
 

 

 

 
【もしもシリーズ号作:みくるちぇんじ】
 
 
 
 
「あ、あのぉ……朝比奈みくるでぇす! よ、よろしくお願いしまぁす!!」
 
「…………長門有希」
 
 そんな会話があった翌日、長門さんとあたしはいま2人っきりで部室にいるんですぅ。長門さんと言うのは、涼宮さんみたくあたしからみても美人さんなんですが、あまりお話が得意じゃない見たいでぇ、無表情がちょっと怖くてぇ……とっても気まずいんですぅ……、はぁ。
 でもだめ、ダメよみくる! 話かけないと仲良くはなれないんだから!
 あたしは自分を叱咤しながら、覚悟を決めて(何で同級生に話しかけるのに覚悟がいるんでしょうねぇ……)、窓辺でパイプ椅子に座って重そうな本を読んでる長門さんに話しかけようとしました。……ですが、やっぱりちょっと……だからそれじゃだめ!
 
「あ、あのぉ!」
 
「……………」
 
 ……う、うぅ、反応さえしてくれませぇぇん……で、でも話せなくては何にもなりません!
 
「あの、その、えぇっと~……、な、なに読んでるんですかぁ!!?」
 
 あたしの場違いな口調での質問に、長門さんはゆっくりとこちらを向いて、本の題名をみせてくれました。は、ハイぺ、ハイペリオン?の没落……かな……。
 
「お、面白いです……かぁ……?」
 
「………………………ユニーク」
 
「どっ、どういうところがですかぁ……?」
 
「…………全部」
 
「ほ……本が、好きなんでしゅねぇ……」
 
「…………わりと」
 
「そ、そうですかぁ」
 
 わ、悪い人じゃないのはわかるんですが……ちょっぴり逃げてしまいたい気分ですぅ……。そんな完全な弱気モードになってしまっていたのですが、突然ドアが乱暴に開けられました。思わず「ひぃっ」と小さく叫んでしまい、ちょっと恥ずかしいです。
 
「やあごめんごめん遅れちゃって、捕まえるのに手間取っちゃって」
 
「のわぁっ!」
 
 こ、今度は男の子でしたぁ……。ぱっと見たらよくわかりませんが、でも結構かっこいい人です。背は涼宮さんより頭が一つ分大きいくらいで、その人はその涼宮さんに部室の中に放り込まれてどこかを打ったらしくて、いたそうに後頭部を擦っていますぅ。
 
「な、何なんだよ、あとここ何処だ、何で俺は連れてこられたんだ……」
 
 涼宮さんがかけた鍵の音が、何故か無情に大きく響きました。
 
「何で鍵を閉める!!? 大体お前……」
 
「黙りなさい」
 
「ひゃうっ」
 
 悲鳴はあたしのなんですが、でも涼宮さんがすっごい怖い声で言ったからなんですよぉ……、あの人だって強張ってましゅ。
 
「紹介するわ、本名は知らないけど名前はキョン!」
 
 そ、それは名前って言わないんじゃあ……。でもあたしにつっこむ勇気も余裕もないですし、長門さんは本を読むだけですぅ……。そして涼宮さんは既に満足げな顔で仁王立ち……紹介、終わりですかぁ?
 
「ど、どこから、その、拉致してきたんですかぁ……」
 
「そんなことしないわ! 任意同行よ」
 
 似たようなものじゃないんですかぁ…。
 
「二年の教室でぼんやりしてるとこを捕まえたの。あたし休み時間には校舎を隅々まで歩くようにしてるから、何回か見掛けて覚えてたわけ」
 
 休み時間にどこにいってるのかと思ってたら、そんなことをしていたんですねぇ……。って、ふえ?
 
「ぁ、じゃあこの人は上級生じゃないんですかぁ?」
 
「それがどうかしたの?」
 
「……まあいい、そこなキミ、続けてくれ」
 
 彼が面倒くさそうに眉間を押さえ、あたしを催促しました。あ、あたしなんですかぁ……。
 
「え、えっとぉ、キョン先輩、でしたっけぇ。な、なんでこの人なんですかぁ?」
 
「まあ見て御覧なさいよ!」
 
 涼宮さんが、思いっきり彼の顔へと指を向けます。それに対して、キョン……暫定的に『先輩』です。キョン先輩は不愉快そうに顔をしかめましゅ。
 
「ぱっと見たらよくわかんないけど、よっくみると結構イケメンでしょう?」
 
 さっきのことと合わせて、いけないストーカーさんみたいなことを言ってます。
 
「あたしね、『萌え』って結構重要なことだと思うのよね~」
 
「……………………ふぇ?」
 
「『萌え』よ『萌え』!! いわゆる一つの萌え要素! 基本的にね、何かおかしな事件が起こるような物語には、こういう地味な隠れイケメンってキャラが一人はいるもんなのよ」
 
 思わず、キョン先輩と目を合わせてしまいます。確かに、イメージ的にはそうなんですけど……。キョン先輩は不愉快と言うよりもむしろ呆れた表情をしています。
 
「それだけじゃないのよ!」
 
 いつのまにか彼の背後にいた涼宮さんは、素早く彼のカッターシャツのボタンを解きはじ……め……?
 
「って、のわぁ!!? 何しやがる!!!」
 
「わかる? 細身の割にすっごい筋肉質で結構腹筋も割れてるでしょ!? 隠れイケメンで隠れ筋肉質? これも対女子の『萌え』での重要要素の一つなのよ!!」
 
「知らん!! いいからやめれ!!」 
 
「う~ん、でもホントにがっちりしてるわねぇ。胸板厚いし……、写真集でも出したら結構売れるかも」
 
 あたしは両手で目を覆ってます。恥ずかしいです。……決して指の間からはバッチリ見えてるだなんてことはありませぇん!!
 
「アホかァお前は!」
 
「そ、そうですよぅ。逆セクハラですよぅ」
 
「でもマジがっちりしてんのよ! 包容力あるぅ~って感じなのよ! みくるちゃんも触って見る?」
 
「え? …………ふぇえええっ、ええええええええ遠慮しておきますぅ!!!!」
 
 ……実は結構誘われてたりなんかしません。
 
「……あ、あのぉ、その、つまり……涼宮さんは、キョンさんがかっ、隠れイ、イ、イケメンで、ききききききんにくしちゅだからという理由で、ここにつれてきたんですかぁ?」
 
「そうよ!」
 
「……真性のアホかこいつ」
 
「こういうアンチレディース用のマスコットキャラも必要だと思って。キョン、あんた他に何かクラブ活動してる?」
 
「はぁ? ……書道部だが?」
 
「意外以外の何物でもないわね。んじゃあそこ辞めて? 我が部の活動の邪魔だから」
 
 戦時中の日本の政治家もビックリな理論構成ですねぇ。
 
「……あ~……っと、その、なんだ? ……って、お?」
 
 ふと気付くと、彼が一心に長門さんを見つめていました。なんて言うか、そーゆーのじゃなくって……驚いてる、って感じですねぇ……。彼が深い溜息をつきました。
 
「……はぁ~、成程な。……わかった」
 
 な、何がわかったんでしょう。
 
「書道部は辞めて、こっちに入部すればいいんだろう? だが、文芸部が具体的に何をするのかなんて、俺は知らんぞ」
 
「我が部は文芸部じゃないわよ」
 
「……はぁ?」
 
「あ、あの、ここの部室は、一時的に借りてるだけなんですぅ……。涼宮さんが入れようとしているのは、涼宮さんが作る、何をするのかもどんな名前なのかもわからない同好会ですよぅ。あ、あとぉ、窓の方で本を読んでいるのが、長門さんっていう本当の文芸部員なんです……」
 
「……ほお」
 
「大丈夫、名前ならたった今考えたから!!」
 
「……な、なんていうんですかぁ?」
 
 みなさんお知らせします、新しくここにできるクラブの名前は、今ここに決定しましたぁ。
 
「S・O・S・団!!!」
 
 Sekai wo(世界を) Ooini moriagerutame no(大いに盛り上げる為の) Suzumiya haruhi no dan(涼宮ハルヒの団)、略してSOS団、だそうです。……絶妙でしゅ。
 そこから、あたしはキョンさんと一緒に涼宮さんへ色々と議論をしたのですが、かくかくしかじかで結果的に結論を変えられませんでした。
 こうして、SOS団は無事に結成されてしまったんですぅ。……もはや、あたしには何も言えませぇん。
 
 
 
 
 な、何も言えなかったのがいけなかったんでしょう。あまり思い出したくないことでパソコンを強引にもらったりもしました。……キョン先輩、元気出してください。とりあえず、帰りましょう?
 
「……ああ、そう……だな……」
 
 キョン先輩は二年生で、あたしは一年生。彼の方が上級生なんですが……なぜか、今はとても母性本能をくすぐられます。
 
「……キョン先輩、こんな、その、よくわからない団に関わらないほうがいいですよぉ。今後も、涼宮さんが何を考えるか、わかりませんし、わかってもあたしにはとめられません……」
 
「……いや、いいんだよ。……キミもいるんだろ?」
 
 思わず、ドキンと来てしまったのを誰が責められるんでしょうか。彼はこめかみの脂汗を拭いながら、少し俯きます。
 
「大方、これがこの時間平面上の必然なんだろ……」
 
「……ふぇ?」
 
「それに長門がいるのも気になるしな」
 
「なにがですかぁ?」
 
「ん? ああ、そういうんじゃない。何でもない。至らないではあるけど、よろしくな。それと、俺の事だったら『先輩』なんて付けずに『君』なんかでいいよ、むずっかゆいし」
 
 こうして、あたしは彼の事を『キョン君』と呼ぶ事となる事が決定して、涼宮さんにサイト作りを命じられてから作って(殆どをキョン君にやってもらって、最後の〆だけをあたしがやったんです)翌日に完成して、長門さんから本を借りたりをしました。この辺りは……あっ、跳ばすみたいでしゅねぇ。
 
 
 時間は、サイトの完成や長門さんから本を借りさせられた日の次の日の放課後に移りましゅ。つ、着いてきてくださいねぇ……。
 
「こっ、こんにちはぁ!」
 
 さて、そういう習性が身に染み着いてしまったかのようにこの部室へと足を運んでしまったあたしなんですが、その時には既に長門さんとキョン君は来ていました。長門さんはいつものようにパイプ椅子で、なんか難しそうな本を読んでて、キョン君はその近くに置いた椅子に座って窓の外を眺めています。
 ドアを開けたあたしに、キョン君は穏やかな笑顔を、長門さんは三点リーダ?を返してくれました。……長門さんのそれは、反応してると言っていいんでしゅかぁ? でも2人とも、そんなに暇なんですねぇ……あたしも同じですけど。
 
「涼宮、だったか。あいつはどうしたんだ?」
 
「う~んと……ごめんなさい、わかりませぇん……。6時間目には、もういませんでしたけどぉ……。またどこかで、乱暴な事してなかったらいいんですけど……」
 
「うっ……俺は、また昨日みたいなことされるのか? 是非ともご免こうむりたいものなんだが」
 
「こっ、今度はあたしが全力で阻止しましゅ!!」
 
 あ、あんなことは世の中にあってはいけないのです!! ……あたしが頑張ったところで、みたいなことはここではあえて考えません。
 
「はは……少しは期待しておくよ」
 
 ……キョン君は考え付いちゃったみたいでしゅねぇ。
 そうして軽く落ち込みかけたところで、部室のちょっと古そうなドアが勢い良く開かれましたぁ。びっくりしたぁ……。
 
「やっっほーーーーー!!!」
 
 や、やっほーって……。
 入ってきたのは、もう間違いなく涼宮さんです。喜色満面とはこのことです、といった表情で、抱えていた幾つかの紙袋を机において、素早く、手馴れた、流れるような手つきでドアの鍵を閉めましたぁ。あたしとキョン君は思わず戦慄します。いやな予感は、確かにしました
 
「ふふん、まずはこれ!」
 
 涼宮さんは真っ先にあたしのとこに来て、目の前に一枚の紙を置きました。え、えっとぉ?
 
「SOS団結団に伴う、しょ、所信表明……でしゅかぁ?」
 
 あたしが読み終える頃には涼宮さんは長門さんとキョン君にも紙を渡して、紙袋をキョン君の所に置きました。嫌な予感が濃くなってますぅ……。
 
「それからこれ! じゃじゃじゃじゃーーーん!!!」
 
 そういって涼宮さんが高らかに紙袋から取り出したのは、白と黒の布、服かなぁ……?
 
「これ着てビラ配りにいくのよ!」
 
「ど、どこへですかぁ……?」
 
「校門! いまなら下校中の生徒もいるし」
 
「……で、何を着るんですかぁ?」
 
「残念だけどみくるちゃんじゃあないわ! 着るのはキョンで……ホステス風衣装、あーんどホスト風スーツ!!」
 
「……それをどうするって?」
 
「さあさあ着替えて着替えて」
 
「ええい、何で着替えなければならん!! 断固拒否する」
 
 ふぇ、ふぇええ?
 
「うるさい! 脱いだ脱いだ!!」
 
 ふえっ、そんな……ふぇええええ!? ちょっとそれは、
 
「はあ? って、のわあぁあぁ!!」
 
「すっ、すすすす涼宮さん!!! 何を」
 
「やぁっかましい、着替えてやるからお前らさっさと出てけーーーー!!!!!!」
 
 
 
 あたしと涼宮さんが廊下に出てから数分が経ちました。あたしは窓に顔を出してぼうっと部活動の様子を見ているふりをして顔に残ってる熱を冷まそうとしてて、涼宮さんは近くのお手洗いで衣装に着替えてから、部室のドアの直ぐ横の壁にすがってずっとむすっとしてます、怖いですぅ……。
 
「は、入っていいぞぉ~……」
 
「はんっ、やっとぉ? 遅すぎるわよ、団長を待たせるだなんて!」
 
 ま、まるで悪代官ですぅ……。
 でも、溜息をつきながら出て着たキョン君は、赤面するのも忘れるくらい恰好よかったですぅ。シャツは胸元のしっかりと開かされた仕様になってて、制服と同じようにズボンから出してて、ネクタイをつけずに羽織ったスーツはみすぼらしくない程度によれてて、本当にテレビとかで見る、ほ、ほ、ホストさんみたいでしたぁ。
 
「ふふん、予想もびーんご! どうよみくるちゃん、これで注目度もばっちりでしょ?」
 
 涼宮さんの衣装も露出が強調されていて、同じく胸元がぱっくり開いて膝からより足の付け根から計ったほうが数値も小さいんじゃないかってほど短いスカートの赤いサマードレスでしゅ。……妖しげな通りにいっぱいいそうな格好でしゅ。嫌でも目に付きますよぅ。
 
「あ、あたしと長門さんはいいんですかぁ?」
 
「1着ずつしか変えなかったのよ、オーダーメイドの流品だから高かったんだから」
 
「そ、そんなのどこで買ったんですかぁ……?」
 
「ネット通販!」
 
 ……納得です。
 
「じゃ、いってくる。……ほら何ボーッとしてんのよキョン、行くわよ」
 
「ま、待て待て、マジでこれでいくのか!?」
 
「マジもマジ、大マジよ!」
 
「…………くっ」
 
 忌々しげにキョン君が引きずられて行きます。すみませんキョン君、正直言って、あたしもドキンときちゃいました……。
 引きずられて行ったキョン君を見送ったあたしは、とりあえず部室で待つ事にして、向きなおると、長門さんがちょいちょいと床を指差しています。……涼宮さん、着替え終わったからって下着も纏めて放ると言うのは、よくないと思いましゅ。
 ……………………ていうか、長門さん? 長門さんって、もしかしてずっと中にいました?
 
「………………」
 
「………………」
 
「……ユニーク」
 
 無口文学少女って言うのは、結構美味しい役なのかもしれません。
 
 
 
 
 
 時間は夕暮れ時。
 先程戻ってきたキョン君は、さも殺人スケジュールに追われた短気出張から帰宅して来たサラリーマンのように、疲労にまみれた溜息をついて、眉間を押さえつつパイプ椅子に座っています。あたしはそのそばに、さっき買ってきたアイスココアを置きます。
 彼はゆっくりとこちらへ顔を向けて「ありがとう」と言ってくれましたが、そこに浮かべられた微笑は『弱々しい』と形容できそうなほどに力の無いもので、思わず目の奥にツンとしたものを感じてしまいました。
 そして突然、それとは対を成すような強さで部室のドアが叩き開けられました。
 
「腹立つ~っ!! 何なのあのバカ教師共、邪魔なのよ邪魔ぁ!!!」
 
「な、何か問題でもあったんですかぁ~?」
 
「問・題・外よ!! まだ半分しかビラまいてないのに、教師が止めろとかいうのよ!? 何様よ!!?」
 
 教育という日本の重要な一つのシステムに勤めている地方公務員様だろ、というキョン君の声が小さく聞こえたような気がします。
 でも、テレビなんかで見る裏界隈にいそうな格好の男女が2人して県立学校の校門の前でそういう紙を配ってたら、先生じゃなくても飛んで来ると思いますよぅ。青い制服の地方公務員さんたちとか。
 
「そこにいるキョンはやる気なさそうに適当にやるし、あたしは生徒指導室に連行されるし、ハンドボールバカの岡部も来るし!! 人だけなら男も女もデレデレして集まってきたってのにぃ!!」
 
 高校生にはちょっと刺激的過ぎる格好ですし、たぶん先生たちだって目が泳いでたんじゃないですかぁ……?
 
「もう! 今日はこれで終わり! 解散!!」
 
 涼宮さんの宣言と同時に、キョン君が溜息と共に立ち上がって着替えを手に取って、そさくさと廊下へと出て行きました。その頃にはすでに涼宮さんも脱ぎ始めていました。キョン君のスムーズな動きは素晴らしかったですね。
 
 五分ほど経って、空気が重すぎて同じく廊下に出てきちゃったあたしに、お手洗いで着替えてきたんだろうと思うんですけど、制服姿のキョン君がゆっくりと手を差し出して着ました。手には某午後のミルクティー。
 
「……ココア、ありがとうな」
 
 あたしは声もかけられずに、ただそれを受け取りました。キョン君はそれを確認してから、階段の方へと歩いていきます。
 ここは何と言うべきなんでしょう。去って行くキョン君の後姿は、まるで徹夜して完成させたレポートを手に授業を受けるけど先生がお休みで結局あまり意味が無かった疲労に嘆く学生か、サッカーでフル出場したんだけど実はボールに触ってもいなかった人みたいでしゅ。つまり、極度の疲労と呆れに肩を落としているんです。かわいそうでしゅ。
 
 
 
 次の日、涼宮さんの名前は有名を飛び越えて学校の人みんなの常識にまでなっていました。
 
「ねえみくるちゃん、あなたいよいよ涼宮さんと愉快な仲間達の一員になっちゃってるのね」
 
「うぅ、言わないでくだしゃいよぅ」
 
 やってきた国木田君の隣で、お友達の阪中さんがあたしの背中を擦ってくれます。そう、もっと問題なのがおまけとして、あたしとキョン君の名前まで囁かれ始めたという事なんですぅ。あたしが何をしたんですかぁ……。
 
「ほんっと昨日はびっくりしたよ、ホストさんとホステスさんが校門に立ってるんだから。あれ、もう一人は二年のキョンとかいう先輩だよね」
 
「もう全校生徒の注目の的になっちゃってるのね、みくるちゃん達」
 
「このSOS団って、何なの?」
 
 俯いていたあたしが顔を上げると、昨日の紙をぴらぴらと揺らしながら委員長の朝倉さんが立っていました。その口調は、ちょっぴりあたしをたしなめるような色が含まれています。あたしは何もしていませんよぅ。
 
「涼宮さんに聞いてくださいよぅ、あたしも良くわからないんですぅ……わかっちゃいけないような気もします」
 
「面白い事してるみたいね、あなた達。でもあれはちょっとやりすぎだと思うな」
 
 あたしのいう事を聞いてくれてるのか、いよいよ疑問です……。
 
 
 そして放課後に涼宮さんが不満を爆発させたり、長門さんに本を読めと催促されて云々あって、宇宙的な不思議なお話を聞いたり、あと謎の転校生が来たりしたんですが、えっと、省きますねぇ。え~っと、原作から各々勝手に想像してくれるように、だそうでしゅ。拾った紙にそう書いてあっただけですよぉ……。
 
 
 そして、SOS団の活動内容が団長もとい涼宮さんから明確にされた翌日の放課後です。
 この日は特に何も無く、穏やかな気持ちで部室のドアを開けたのですが、そこに繰り広げられていたのは、
 
「わかったから止めろってんだろーが!!」
 
「いいから脱いでってば!!」
 
「…………」←長門さん
 
「あ………」←あたし
 
 とんでもない乱痴騒ぎ、というか逆………詳しくは禁則事項です!! それで3秒ほど空間が固まって、
 
「……出て行きやがれェーーーー!!!!!!」
 
 長門さん・涼宮さん・そしてあたしの三人は廊下へと放り出されました。読んで字の如く、本当に放り出されたんです。ちょっと痛いですぅ……。
 
「ったたぁ~、何よ、放り投げる事はないじゃない! 何かあたしが悪い事したぁ!?」
 
「…………先程の行為は、俗に言う逆レ「それ以上言っちゃいけませんよぅ!!!」……そう」
 
 アレ以降、あたしの中で長門さんのイメージが混乱と言うか氾乱(あえて誤字です)しています。あたしは、ゆっくりと溜息をつきました。
 
 
 キョン君の声に再びドアを開けると、
 
「やっぱり対女子の萌えといったら和服系統でしょ」
 
「その統計をどこから抽出してきたのか、じっくり聞かせてもらいたいもんだ」
 
「うっさいわね、学園ストーリーで一人はいるものよ」
 
「ど、どんな学園ストーリーですかぁ……」
 
 はい、キョン君は和服姿でした。浴衣ほど簡単じゃなくって、制式の和服ほど重厚でもない、多分略式の格好です。確か、『色無地』って言うんだったと思いますが、家紋なんかも入っていない普段着用の色無地みたいです。色は藍色で、帯は濃い目の灰色。……『萌え』がどういうのかはわかりませんが、凄く似合って恰好いいです。
 
「さて~、記念に写真でも!」
 
「はぁ? こんなの撮ってどうすんだよ」
 
「いいからいいからぁ~」
 
 あごを引いて、もっと目つきを鋭く、今度は緩めて、そこの湯のみを持って「なんだよ?」みたいな感じの視線を送って流し目で、と逐次指示をしつつテキパキと写真を撮る涼宮さんと、それに従いながらも全身から『呆れたぞオーラ』を惜しみなく放出してるキョン君、本を読んでるのかと思いきやじっくりと様子を見ている長門さんに、呆然としてるあたし。……シュールですぅ。
 
「みくるちゃん、カメラマン代わって!!」
 
「ひゃ、ひゃぁいぃ……」
 
「ふっふっふ~、キョ~ン、ちょっと色っぽくしてみようかぁ……?」
 
「待て、落ち着け、近付いて来るな、目が怖いんだよおぞましい!」
 
 退くキョン君ですが、涼宮さんの手つきは素早く、帯を緩めて、襟――掛襟って言うのかな、要するに胸元ですねぇ――を開けさせて、昨日のホスト風スーツ見たくして……。
 あたしは自分が標的にされるのが怖いから、大人しく淡々とシャッターを押していきます。ごめんなさい、何故か生々しい性質の嫌な予感がするんです。
 
「有希、メガネ借して!」
 
 そういったときには既に取ってますよね。はい、メガネon。和服にメガネって、なんかシュールですねぇ。でも、この写真何に使うんでしょう……?
 
「う~ん、なんっかちょっと違うわねぇ……。そっか、隠れイケメンには重厚な『いかにも』って感じか鋭いフォルムって相場が決まってるけど、あんたは後者ね! どっかから獲って来ないと……。でも隠れイケメン+和服は文句なしね!」
 
 とってくる、の字が違いますよぅ……。
 
「キョン? これから部室にいるときは和服を着るようにしなさい! いくつかバリエーション確保しとくから! あんたも自己調達しときなさい!!」
 
「そんな、お前なぁ……」
 
 そんな壮絶な状況の中、部室のドアが男の人もとい古泉君によって開けられました。
 
「わあ、なんですかこれ?」
 
「あ、いいとこに来たわねぇ~、これからキョンにみんなでイタズラしなぁ~い?」
 
「成程、流石は涼宮さんですね。面白そ「殺るぞ」……遠慮しておきましょう、後が怖そうだ。お、お気になさらず、どうぞ続きを……」
 
 …………今一瞬、すっごい殺気を感じました。あたしと、涼宮さんと、長門さんのもそうですが、キョン君からのも壮絶でした。対生物的危機の防御能力は凄まじいものみたいです。古泉君のいつものにこにこ顔が、脂汗にまみれています。
 じゃあなかった、まずは止めないと。
 
「も、もういいんじゃないですかぁ……そろそろ犯罪者さんになっちゃいますよぅ……」
 
 いや、既に訴えられれば敗訴確実、性別が逆なら懲役ものの事はしていますけどぉ……。何の法律によってよ、って迷惑防止条例とかですねぇ……。
 
 
 
 色々あって、その週の土曜日、つまり今日、北口駅前に九時集合とのことで不思議を求めて市内探索ツアーを敢行するんだそうですぅ。来なきゃ死刑。死刑って……。かの異端審問レベルの横暴具合ですねぇ……。
 
「遅い、罰金!!」
 
「うるさいな、慣れてもいない和服で来いと言ったのはお前だろうが。着付けなんてした事もないから途中で慣れていそうな友人に頼んでまで着てやったんだから、少しくらい大目にみろよ」
 
「物事は先までみて置くことが重要なのよ。キチンと状況を見てから予習してこなかったあんたが悪いの、だから罰金!!」
 
 ということで、キョン君の強制奢りで喫茶店にはいっているあたしたちです。さっきの会話でわかると思いますが、キョン君は和服、それも今度は制式のそれです。色使いなんかは昨日と同じようですが、見た感じの重厚さが明らかに違いますぅ。
 本人は恥ずかしそうにしていましたが(この現代で正式の和服を着て街中を歩く男子高校生と言うのは確かにシュールですけど)、とても似合ってるのもあって、そう言う意味での目立ち方はしていません。でもあたしたちの私服は当然洋服なのでちょっと浮いていそうですが、長門さんは制服なので、相殺してる感じもします。
 とりあえず少し省略して結果から言えば、あたしとキョン君組・涼宮さんと長門さんと古泉君組というわけ方で二手になってそれぞれ東西に探索するって事になったんですが、
 
「さて、どうするか」
 
 どうしましょう、ねえ。
 
 
 
 やってきたのは、街の西側にあるとある公園です。公園と言っても頭に『広域』がつくようなところで、小川が流れたり林があったりっていうドラマに出てきそうな場所なんです。実際に撮られたっていう話も聞いた事があるくらいなんですけど、そこを2人で散歩する事になりました。ちょっとしたデート気分ですぅ。
 
「俺ってさ、こんな風に出歩くのが初めてなんだ」
 
「こんな風に、って何ですかぁ?」
 
 和服で、ってことなら、それはそうでしょうねぇ……。
 
「いや、それもあるけど。そうじゃなくて、女の子とゆっくり散歩することがってこと」
 
 ぽーっと聞いていると、ふと体が当たっちゃいました。ひゃう、って小さく声を上げて離れちゃいます。彼はそれに微笑みました。うぅ、勿体無い……。
 
「へ、へぇ~、そうなんですかぁ。意外ですねぇ、今までどなたかと、つ、つ、つ、付き合った事はないんですかぁ?」
 
「ない、ね」
 
 ちょっと驚いて、ちょっとほっとして、
 
「で、でもぉ、キョン君なら『付き合ってほしい』とかいわれた事が一回くらいはありそうなんですけど……」
 
「はは、ないない。精々鶴屋……ああ、これを着付けてもらった友人で元気はつらつな女子なんだが、そいつにおどけた冗談で言われるくらいだよ。他の女子からもからかわれたりするが、まあそんくらいだな」
 
 フラグ・デストロイヤー。
 そう書かれた紙が小川を流れて言ったような気がしますけど、多分気のせいです。「それに、」
 
「それに、ダメなんだよな。俺は誰にも付き合うわけにはいかない、少なくとも、この……」
 
 彼にしては変ないい淀み方をします。不思議に思った時には、キョン君がじっとこちらを見つめていました。「朝比奈」
 
「少し、話したい事がある」
 
 
 
 今、あたしたちはベンチに座っています。
 中々話を切り出せずにいたキョン君は、やがて、言葉を区切るようにしてこう言った。
 
「さて、信じてもらえないかもしれないが」
 
 周りを警戒するようにしてから、
 
「俺は、この時代の人間じゃあない。もっと未来から来たんだ」
 
 
 
「いつ、どの時間平面からここに来たのかは言えない。過去の人間に未来のことを伝えるのは厳重に制限されているんだよな」
 
「時間と言うのはな、連続性のある川の流れのようなもんじゃなくて、その時間ごとに区切られていて、丁度アニメ映像を想像してみてくれ。あれはまるで動いているように見えるが、その本質は静止した1コマが連続して構成されていてだな、」
 
「時間と時間との間には断絶がある。それは限りなく0にちかい断続だが、決して0じゃない。だから、」
 
「時間移動ってのは、積み重なった時間平面を三次元方向に移動する事なんだよ。未来から来た俺は、この時代の時間平面上ではパラパラ漫画の途中に書かれた余分な絵みたいなものなんだ」
 
 …
 …
 …今度は何なんでしょうかぁ。
 
「三年前、大きな時間振動が検出されたんだ。ああ、今の時間から数えて三年前なんだが、調査する為に過去に来た俺達は驚いた。どこをどういじくってどうやっても、それ以前の過去に遡れなかったんだ。デカい時間断層が時間平面の狭間にあるんだろう、ってのが出てきた結論。原因らしいもんがわかったのもつい最近でね、つってもこれは俺がいた未来から見ての最近なんだが、」
 
「その、原因って言うのは……」
 
「あの涼宮ってポンポコピー」
 
 また涼宮さんですかぁ、長門さんといいキョン君といい……。それより、涼宮さんを結構散々に言ってますね。
 
「時間歪曲の中心点にあいつがいやがったんだが、それ以上は禁則事項だから説明ができん。だが、過去への道を閉ざしやがったのがあいつだというのは確かだな」
 
「す、涼宮さんにそんなすごいことができるとは思えないんですけど……」
 
「俺にもわからん、お手上げだ。涼宮だって、自分が時間振動の源だって自覚してないし、まあ時間振動についてもわかってないだろうよ。俺はだな、その涼宮の近くで新たな時間の変異がないかどうか監視するために送られた……まあ監視係か、そんなもん。……まあ信じてもらえるとは思ってないよ」
 
「あの……でも、なんであたしにそんな事を言うんですかぁ?」
 
「君が涼宮によって選ばれた人間だから、ってとこか。詳しくは禁則に引っかかるから言えんが、恐らく君は涼宮にとっての重要な人間、キーパーソンだ。あいつの一挙手一投足には必ず理由がある、それがヘンテコでもな」
 
「じゃあ、長門さんや古泉君は……?」
 
「あいつらは、俺と極めて似た役柄だな。まっさかあいつが、これほど適格正確迷惑横暴にも俺達を集めちまうとは思わなかったけど……」
 
「キョン君は、あの人達が何者か知ってるんですか?」
 
「禁則事項、だな。いずれ聞くだろうが……」
 
 事実、長門さんからはそれらしき話を聞いています。
 
「じゃ、じゃあこれから涼宮さんはどうなるんですかぁ?」
 
「禁則事項みたいだ」
 
「未来から来たなら、わかりそうなものですけど……」
 
「……悪いけど、禁則事項だ」
 
「あ、あのぉ、まず涼宮さんに直接言ってみたらどうなんでしょうか?」
 
「…………すまない、禁則事項だ」
 
 ……はぐらかされてるみたいで、あまりいい気分じゃありません。
 
「本当にすまないと思ってる、けど俺にはそれらを言う権限がないんだ。忌々しいが、上意下達社会はこっちでも健在でね……。信じなくていい、ただ知っておいて欲しかったんだ、君にはな……」
 
 似たようなセリフを、先日誰かから聞きましたねぇ……。
 
「ごめんな、急にこんなこと言っちまって」
 
「そ、それは別にいいんですけど……」
 
 宇宙人の次は未来人の登場ですかぁ……。どうなってるんでしょう、この時点で聞いた話をすぐに信じられる人がいたら、連絡が欲しいです。代わってあげますから。……現実逃避もしたくなります。
 
「キョン君」
 
「ん?」
 
「全部保留で良いですかぁ? あの、信じるとか、信じないとかは全部脇に置いておいて、保留ということで」
 
「……ああ、勿論! ありがとうな」
 
 キョン君が心底の安堵と嬉しさを込めた笑顔を浮かべました。うん、でも一つだけ、
 
「一つだけ、聞いても良いですか?」
 
「……何だ?」
 
「キョン君、本当はいくつなんですかぁ?」
 
「27で既婚の子持ち」
 
「へえ、そうです…………ふぇえええええええ!!!?」
 
「なんてのはウソぴょんで、実際の所はだな、」
 
 キョン君は、混乱してからフリーズしたあたしを差し置いて、
 
「禁則事項だ」
 
 どこからか出した扇子であたしの頭をポンと軽く叩き、偽悪的にニヤリと笑いました。
 
 
 
 
 それから午後。
 電話で再び涼宮さんに呼び出されたあたしたちは、また再びにチーム分けをする事となり、長門さんと一緒になったあたしは図書館につれて言ったり、色々あったりで、その日の探索を終えました。ええ、それだけでした。
 そして週明け。つゆじみた高温多湿な気候に涼宮さんも気分を害されたみたいで、ずっと不機嫌で困っていたり、古泉君からは超能力的なお話を聞いたりしましたが、ばっさりカットでしゅ。
 あとでしゅねぇ、
 
『うん、それ無理』
 
『じゃ、死んで♪』
 
『それまで、涼宮さんとお幸せに』
 
 的な展開があったんですが、思い出すのも怖くて仕方がないので、やめます。でも、長門さんにはどれだけ感謝しても足りないくらいですね! ……あと、ここに置いてある紙には『各自の脳内補完を要請する。想像つくでしょ』って書いてありますけど、なんでしょうねぇ……。
 
 
 
 それじゃあ、取り上げるお話はその話のすぐ後の日のことです。
 
 
 
 あたしを今、いつもの部室へと誘っている原因は、今朝封筒の形をしてあたしの下駄箱に入っていました。
 何でしょうねぇ、下駄箱に手紙を入れるのが最近の流行なんでしょうかぁ……。あ、でもぉ、今度のは一味違いますよぉ。なぜって中に入ったノートに切れ端らしき紙に書かれていたのが、
 
《昼休み 部室で待っている。 キョン》
 
 ふらふらっと出かけて行って、また命が危なくなるような事は嫌ですけど、でもここでいかないわけにもいきません。だって、キョン君からの呼び出しですよ?
 も、勿論この手紙を書いた人が、キョン君本人だっていう根拠はありませんけど、あたしは全然それを疑いませんでした。だって、キョン君はこの手のお話が苦手で回りくどい事をしそうだし、難しい顔をしながらも時折慌てて顔を紅くしつつ、いそいそとレポート用紙にペンを走らせている様子は彼に似つかわしいですし、想像もしやすいです。それに、昼休みの部室なら長門さんもいるでしょうしぃ……。まぁなんとかなりますよぉ。
   あたしは四割の期待と四割の嬉しさ、一割弱の不安にその他諸々を胸に秘め、ドアをノックしました。
 
「っと、どうぞ~」
 
 その応答に、ドアを開けるとそこには、
 
「朝比奈、久しぶりだな」
 
 えらいイケメンが、そこにいた。
 …
 …
 …はっ、いまのはあたしのじゃありません! もっと別な場所から来た声ですよぅ。あたしじゃないんですよぅ……。
 って、そうじゃあありません。ところで、この男の人は誰なんでしょうか? 顔の造形にはぱっとしたものこそないけれど、でも全体としてのバランスがよく、何より目の色が深くで優しい。飛び出るほどではないけれどそこそこ長身で、手足は長い。着ている群青と浅葱の和服も総合すればとても……恰好いいんですが、さて。
 誰かにとても良く似てもいますよね?
 
「あ、あのぉ、キョン君のお兄さんですかぁ?」
 
「ん、あ~……何と言うかな、そうじゃない。そうじゃなくてだ、俺は俺で、つまりそのキョン本人なんだ。ただし、君の知っている俺よりももっと未来から来た、といえば理解してもらえるか……。会いたかったよ」
 
 ………………………。
 
「ん、信用していないな。じゃあ証拠を見せてやる」
 
 自称キョン君(大)は拗ねたように少し口を尖らせたあとそう言ってあたしに背を向けて、襟にかかるくらいにまで無造作に伸びた後ろ髪を書き上げました。な、なんなんですかぁ?
 
「ああ、この辺だったか。俺には見えんがここに黒子があるそうじゃないか。場所が場所だけに俺も気付かんし、他のヤツらも気付かなかったが、いつだったか君が……」
 
 た、確かに黒子が見えますけどぉ、そんなところを見るような機会はありませんでしたし、そんな観察眼もありませんよぅ……。でもキョン君はしばらくしてから、「あっ」と何かに気付いたように目を見開きました。
 
「……ああ、そうか。そういやこの時期はまだ……。すまん、忘れてくれ。勘違いだ」
 
 なんというか、残念そうにそれだけ言うと、キョン君(大)は小さく溜息をつきました。ぼそっと、「やれやれ、俺も年か」って聞こえた気もしましたけど……そこまで老けてはいませんよね?
 
「わ、わかりましたぁ、とにかく信じますからぁ……。今のあたしは、大抵の事は信じてしまえるような性格を獲得したので……って、あれぇ? そしたら今、2人のキョン君がこの時代に入るって事ですかぁ?」
 
「ああ、まあそういうことだ。過去の……俺から見れば過去の俺は、現在教室で友達連中と弁当中だろう。君に一言だけ言いたい事があって、上のおっさんらから非常に、非常に積極的な協力を得てまたこの時間に来させてもらったんだ。あと、長門には席を外してもらった」
 
「あ、あのぉ、キョン君は長門さんの事を知ってるんですかぁ……?」
 
「すまない、禁則事項だ。お、これを言うのも久しぶりだな」
 
「あ、あたしはぁ、その、ちょっと前に聞いたばかりなんですけどぉ……」
 
 あたしがそう言うと、キョン君は一瞬固まって、「しまったな、やれやれ」と呟く(ように聞こえただけなんですけどぉ)と、眉間をぐっと押さえました。疲れているんでしょうかぁ……。
 
「いや、大丈夫だ、ありがとう。とにかく、俺はあまりこの時間には留まれない、だから手短に言う」
 
 少し間を空けて、
 
「『白雪姫』って知ってるか?」
 
「それは……知ってますけどぉ……」
 
「これから、きみが何か困った状態に置かれたとき、その言葉を思い出してくれ」
 
「あの、『七人の小人さん』とか、『魔女さん』とか、『毒りんご』とかの、あれですかぁ?」
 
「そうだ。『白雪姫』の物語を、ね」
 
「こ、困った状態……というか、怖い状態なら昨日遭ったばかりなんですけどぉ……」
 
「それじゃないんだ。もっと……そうだな、詳しくは言えないんだが、そのとき君のそばには涼宮のアホもいるはずだ。ていうか、あいつが原因だし」
 
「……涼宮さん、でしゅかぁ? いつ起こるんでしゅかぁ、どこで起こるんでしゅかぁ、なんで起こるんでしゅかぁ……?」
 
「……あー……まあいいや、そのとおり。涼宮のヤツは、それを困った状況だと思わないかもしれない。つうか思わん、あのアホのことだ。だがな、君だけじゃなく、俺達全員にとっても困った事になる」
 
「あのぉ、詳しく教えてもらうわけには……いかないんでしゅよねぇ……」
 
「……すまない。でもヒントだけならギリセーフだから、それだけでもと思ってね……。これが俺の精一杯」
 
 本当にすまなそうに、そして落ち込むようにおなだれるキョン君。……あたしは、そんなのはあまり見たくはありませんでした。
 
「……それが、『白雪姫』なんですね?」
 
「ああ」
 
「……わかりました、覚えておきます」
 
 そう答えたあたしに、キョン君(大)はゆっくりと、安堵したように柔らかな微笑みを向けてくれました。うん、これでいいんです! 
 キョン君(大)はそれから部室を懐かしそうに見回して、ふと気付いたように物干し竿(キョン君の部室内用和服グッズがかけられています)へと近付いて、呆れたように溜息をつきました。
 
「やれやれ、俺もよく着せられたもんだな。それが今まで定着してるのもかんがえると、いやはや驚くね」
 
「涼宮さんには、他にどんな服を、その、着せられたんでしゅかぁ?」
 
 言葉のニュアンス的に、ちょっと別の色が見えなくもないのは気のせいでしゅ。
 
「内緒、にしたいとこだが、どうせばれるし、もう開き直っちまおう。そうだな、鶴屋の持ってきた甚平やら袴……袴は剣道着のようなものとか侍の着てるようなものとかだ。和服だけじゃない、ゴスロリっていうのか、そんな感じの服だろ、ぴっちりとしたタキシード、黒とか白とか。中世的な服とか、あとこっちで言う近未来的な服……は長門の思し召しだったな。プラグスーツなんかも着せられたか。あとは他校とか業者・会社の制服や軍服、その他色々……。まあ後々わかるさ」
 
 そこまで言うと、キョン君(大)は「さてと、」といって、こちらへ歩いてきて、あたしを見つめてきました。ちょ、ちょっと恥ずかしいでしゅ……。
 
「んじゃ、そろそろ行くよ」
 
 気付くと、あたしの頭にはキョン君(大)の手が乗せられていました。それでゆっくりと動いて……な、撫でられてるのかな、あたし……。そしてキョン君(大)がそのまま口を開きます。「最後にもう一つだけ」
 
「俺とは、あまり仲良くしないでやってくれ」
 
 そうしてキョン君(大)は、もう一回ちょっと力無げに微笑んで、素早く廊下へと体を流しました。帰っちゃうんですか!?
 
「あ、あたしにも一つ教えてくださぁい!!」
 
 とっさに出たあたしの一言に、キョン君(大)は動きを止めました。それでも、キョン君(大)は振り返りはしません。それでもいいから、言わないと! 「キョン君」
 
「いま、年いくつ?」
 
「……27で既婚の子持ち、なんてのはウソぴょんで、実際のところはだ、」
 
 キョン君はどこからか扇子を取り出して、振り返りながらバックスッテップをとり、開かれていない扇子の先をこちらへ向けて、
 
「禁則事項だ」
 
 またニヤリと偽悪的に笑いました。
 その子どもっぽい笑顔は、見るもの全ての心を奪うかのような――――
 
 
 
…………………
………………
…………
………
……
 
 
 
「ふぇえ、これが結果でしゅかぁ」
 
「但し、数々の既定事項を無視しているからこのような結果は実際にはありえないがな。まったく、上もわからないものだ。何故この僕が、こちらとあんた達の社会での最高位のコンピュータである時空間安全局の第七世代有機コンピュータを直結して、あんたの要望どおりのシミュレートをしなければならないんだ。それもこんな程度の低い……」
 
 “あちら”の人間である自称“藤原”君が愚痴を言っていますが、あたしはそれどころではありません。色々と計画して、やっと捻り出してもらったこのシミュレート結果によると、このまま行けばいわゆる『キョン×みくる』ルートに繋がるって……!! シミュレーションの延長を申請して置かないと。
 
「第一、これは、例のあの男の……」
 
「ちょっとうるさいですよぅ。九曜さぁん、約束どおりキョン君の写真を挙げるのでぇ、やっちゃってくださぁい……」
 
「――了……解――」
 
「なっ、周防九曜! 何故お前がここに……って、待て。それはなんだ。そこになんか浮いてるものはなんなんだ!!?」
 
「――見ての……――とおり……ね――」
 
「それはわかってる、そんなことはいい!!! それをどうするきなんだ、この僕に!!!?」
 
「―――……挿、入?」
 
「や、やめっ……むぼごォ、もががががががっがががああああーーーーーーー!!!!!!!!!」
 
「――約束……大事―……ね…――」
 
「そうでしゅねぇ、お疲れ様でしたぁ。はい、この前涼宮さんにあたしのメイド服『とか』を着せられたときの写真が30枚とぉ、私服姿が15種類ですぅ♪」
 
「――ありが……とう…――?」
 
「そうでしゅよぉ、偉いですねぇ。お礼を言わないとですもんねぇ」
 
「彼――に……教えて――もらっ、た―……」
 
 それだけいうと、九曜さんはあたしから写真の入った封筒の中身を確認してから、あたしにもわかるくらいに喜色満面といったようすでどこかへと消えちゃいました。天蓋領域さんは、時間移動ができるのが特徴なんでしょうかぁ……。
 
「もがががっががああああああーーーーー!!!!」
 
「もおぉ、うるさいでしゅよぅ。……えい!」
 
ぶっすう♪
 
「もがががああああ、あ゛あ゛ッ(ビクビクッ)!! …………………(シーン)」
 
 ふう、これで静かになりましたねぇ。え? 今何を刺したのか? これはですねぇ、昔いたって言う権威ある科学者さんの残した謎のお薬の中の一つのアンプルを、丸ごと打ったんですぅ。何だか中で2層になっていて、下が緑色で濁ったどろどろした液体でぇ、上が紫の澄んでさらさらした液体でしたけどぉ、効果は知りませぇん。あとぉ、その科学者さんは、染めた金髪で黒眉の女性だったときいていまぁす。
 あ、そろそろ時間ですねぇ。それじゃあ、あたしはこれからもっとシミュレートを進めたいので、これで失礼しまぁす。それでは、おーばー♪
 
 
 
 
――読了――
 
 

 
 
 
 
 
 
 
【ユニーク】
 
朝比奈「待ってください、何で、あたしの時には、綺麗な落ちが、ないんでしょうか?」
 
藤原「しかも、僕が悲惨な運命をたどってるのは何故だ。こんなことは既定事項には無い!」
 
作者「えー、他にゲストの呼びようが無いので、この三人でお送りしたいと思います。さて、それぞれの質問にお答えしてしんぜよう」
 
作者「まずですね、朝比奈さんは書きにくいんですよ、一人称が。舌足らず口調にどもり、それらを要れるタイミングの分析や適応なんかも試行錯誤しました。勿論、途中で諦めて適当にしましたが」
 
朝比奈「意味ありませんね」
 
作者「でも事実書きにくいんですよ。キョンは当然として、長門さんの一人称小説は多いでしょう。何故かって、人気もそうですが書きやすいのもあります。三人称をちょっと昇華したような感じですし、一般的な市場の小説の一人称の感覚に近いってのもあります。しかしそのほかとなると、それより人間味を出しつつも、キョンの一人称程には出してはならないため抑えなくてもならない。そのバランスを考えるのは難しいのですよ」
 
藤原「あんたの主観では、の話だろう」
 
作者「他の方のお話は聞いていませんからね。でもそうじゃありません?」
 
朝比奈「もういいです、それは置きましょう。で、でもぉ、あたしとちぇんじっていうなら、重要なエピソードがありますよね。それはどうなるんですかぁ」
 
作者「ええ、一応検討の余地に入れています。まあその決定については何か降りてくるものがあるかどうか、つまりインスピレーションの問題です。あとは、やる気ですかね」
 
藤原「……ところで、ゲストに僕以外を招きようがないと言うのはどう言うことだ? 全開は結構着ていたじゃないか」
 
作者「未来人、2人だもん」
 
朝比奈・藤原「……成程」
 
作者「では、次いってみよー」
 
 
【裏会合】
 
ハ「やっぱり略されてるわね、あたしたち」
 
長「もはや、しかたのないこと。私は現状で少し満足している」
 
ナルシスホモ「僕は遺憾です。解除されてませんし、タブリスが」
 
長「古泉一樹の有機情報連結の解除であれば可能」
 
ナルシスホモ「後生ですから止めてください、長門さん」
 
ハ「それに、有希はもう出たもんね~(ジト~)」
 
作「(ゾクッ)。まあまあ、物事には順序というものがあります」
 
ハ「あたしはまだその順番で無いとでもいうのかしら?」ゴゴゴ
 
作「いえ、つーかインスピレーションが……」
 
ナルシスホモ「(PiPiPiPi)…………少し用があるので席を外します。では申し訳ありませんが、逝ってきます」たったったった
 
長「ナルシス……古泉一樹が帰った」
 
ハ「この際どうでもいいわ。さっさと吐きなさいよ、ね~え? あたしとのちぇんじだって要望が出てんじゃないの?」
 
作「ぐええ~、はい、確認しています。まあ順等に、その、あの、えっと、お楽しみは取っておく的な考え方で御一つ穏便に」
 
ハ「あ、あらそう?ならいいのよ、そうよね、大御所が紅白のオオトリを飾るものだもの!」
 
長「……疑問もいくつか挙げられているのを確認している。まずは『づ』と『ず』の件」
 
作「ミスです」
 
ハ「小学生の国語からやり直してきなさいよ」
 
長「次に、『重力ピエロ』の唐突な登場について」
 
作「私の趣味。好きなんですよね、伊坂幸太郎。『鴨とアヒルのコインロッカー』や『砂漠』、『ゴールデンスランバー』そして『重力ピエロ』あたりは最高です。読書に何を読もうかと言う方、オススメですよ。ライノベばっかよまずに、そういうのも読んでくださいね」
 
ハ「自己主観の押しつけって最悪よ」
 
長「でも伊坂幸太郎はとても優秀」
 
ハ「ま、まあ有希が言うんならいいんだろうけどさ……」
 
作「それと、私原作読んでません。某米国動画共有サイトでアニメをみて、ウィキで調べ、二次創作を読み漁って形成させています。キャラ崩壊についてはデフォルメですが、それでは解決できない部分はどうぞご容赦を」
 
ハ「最悪ね。アンチが生まれるわよ絶対」
 
作「覚悟の上です。しかし事前にキチンと言っておくことはとても重要でしょう。知ったかで書いて、ぼろくそに言われるより、事前に言ってからぼろくそに言われた方がマシです。ぼろくそに言われぬように書くのが、我々に課せられた最低限の条件、ボーダーラインではありますが。まあ感覚的に楽しんでいただけましたら、私としては本望です。では、新たな事実を暴露いたしましたが、その上での賛否両論があると思います。賛が大いに越した事はありませんが、自らの筆力はこのようにタカが知れておりますのでそこまで期待は致しておりません。あくまで自分で楽しめれば、それを共有できたら、それは幸せだな、と思ってこのように筆を走らせているわけであります。まあページ頭に書いてありますように、気楽に何も考えず理論なんかはかなぐり捨てて読んで頂ければ幸いと存じます。改めまして何とおよろしくお願いします」
 
ハ「長い」
 
長「今後はもっと短くさせるよう対処する。この場は大目に見て欲しい」
 
作「では、『みくるとちぇんじ』はおまけも含めこれにて読了でございます。次回作も、楽しむために書きます」
 

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