教室に入ると俺の元のクラスの奴ばっかりだった。
まぁそりゃそうか。
ここで全員知らない奴だったらどうしていいかわからん。
卒業してから見たこと無い奴もいるな…あれ?そういや高校まで一緒の奴っていなかったのか?
「はーいみんな席に付いてー」
そんなことを考えているとおばさんチックな担任が入ってきた。
俺の席は…ここだっけか?
「キョンくん…そこ私の席」
「…すまん」
…結構忘れてるもんだな。
「はい席に着いたかなー?」
見りゃわかるだろ。とつっこみたくなるが抑える。
周りは小学生なんだよな…今の俺もだけど。
「それじゃ、昨日も言ったとおり、今日から新しい友達がこのクラスに加わります」
しかしだな。いくら小学生だからって6年生だぞ?
もう少し普通の話し方で…って。
何だって?
…今転校生と言ったか?
俺の記憶が正しければ小学校時代に転校生は…いなかったはず。
「入ってきて良いわよー」
そして俺は唖然とした。
そいつは勢いよくドアを開けてドスドスと入ってきた。
への字に曲がった口。
有無を言わさない瞳。
黄色いカチューシャ。
違うところと言えばロングヘアーか?
「涼宮ハルヒです…よろしくお願いします」
とりあえず3つわかったことがある。
ひとつめ
この世界は元の世界とは別物であること。
ふたつめ
したがって、長門、古泉、朝比奈さんがこの世界にいる可能性があること。
そしてみっつめ
「あたしからは干渉しようとは思わないので、なるべく私のことはほっといて下さい。以上」
…俺の頭が痛いことだ。
高校の時まではいかないがまたぶっ飛んだ自己紹介だな。
周りの奴らまで唖然としてるぞ?
…というか担任まで困ってやがる。
「えっと…じゃあ涼宮さんの席は…あそこね」
あそこ。
そう言って担任が指さしたのは…俺の真横だった。
「キョン君、涼宮さんまだ教科書持ってないから見せてあげてね」
…今更なんだが俺この世界でもキョン認定?
「はい、じゃあ授業始めるわよー」
物凄い不機嫌オーラを発してハルヒが横に座った。
「…よ、よろしくな」
「…うるさい」
…早く元の世界に帰りたい。
ハルヒは…やっぱりこの世界でも孤立しかけていた。
朝倉のような委員長的存在の子が話しかけても
「邪魔」
「うるさい」
「あっちいけ」
の一点張りでまともに会話すら続かない。
あーあ…泣かせちゃってるよ…
それでもハルヒは不機嫌オーラ全開だ。
この世界は…きっとハルヒが望んだんだろうか…
「…なにジロジロ見てるのよ」
「…別に」
だとしたらこいつは今、小学生に戻してまで何を望んでここにいるんだろうな…
ちなみにハルヒの運動神経は抜群、でもって頭もいいという超人ぶり。
ここも高校の時と変わらんか。
授業が終わって終令をかけ終わるとハルヒはすぐに帰って行った。
…俺も帰るか。
「おいキョン!」
「ん?何だ?…って」
谷口…か?
「お前俺の顔忘れたのか!?」
「あーいや、気にするな」
そうか、別世界だからこいつがいてもおかしくないのか。
中学校もハルヒと一緒だっていってたし…その名残になるのか?
「で、何だ?」
「転校生のことに決まってんだろ!」
「同じクラスじゃないのか?」
「違うだろ!隣だよ!お前絶対俺のこと忘れてるだろ!?」
…なんか色々面倒くさい設定だな。
「冗談だ冗談…で、ハル…じゃない。涼宮がどうかしたのか?」
「ばっかお前…可愛いかどうかに決まってんだろ」
…というかこの世界でもこいつはこんな感じなのな。
「知らん。自分で確かめろ」
「ちぇー…で、どこ?」
「あぁ、さっき帰ったぞ」
「何!まだ間に合うか!?じゃあなキョン!俺は涼宮とやらを見てくる!」
「…おう」
…そのまま蹴られて星になってしまえ。
というわけで帰宅。
無論ひとりでだ。
最近はSOS団で帰ってたからな…寂しい…か。
長門が時間平面を改変させたときもそうだったが…やっぱりもう生活の一部みたいになってるんだよな。
ハルヒの笑い声に朝比奈さんのくれるお茶、本を読んでいるだけの長門…ただにやけてるだけの古泉でさえいないと落ち着かない。
…しかし
本日の収穫 ゼロ
…早く元の世界に帰りたい。
「ただいまー…と」
自分の部屋についてため息をひとつつく。
なんか…長門達がいないと何もできないんだな俺…
部屋のなかを見回す。
なんとなくパソコンが目に付く。
そういや長門が時間改変したとき…パソコン使ったんだよな。
…あー…
「…俺パソコンなんか持ってたか?」
…またそのパターンか。
椅子に座る。
それがスイッチになったのかパソコンの電源が自動的に付く。
そして
YUKI.N> 見えてる?
…待ちわびたよコノヤロー
YUKI.N> あなたは今こちらの時間平面上から消滅している
…マジでか。
YUKI.N> 情報操作により一時的にあなたの存在を無かったことにしている
何気に酷くないか?
YUKI.N> 安心して。涼宮ハルヒ以外のSOS団メンバーはあなたのことを覚えている。しかし…
しかし何だ?
YUKI.N> あなたの名前が思い出せない
…奇遇だな。俺もだ。
というか思い出したら大事件だ。
YUKI.N> そう。とりあえず今の状況を説明する
………
YUKI.N> 涼宮ハルヒが別世界を作り出してそこにあなたを放り込んだ。
…それだけ?
YUKI.N> それだけ。理由、原因は一切不明。私の力ではどうしようもない
…俺次第って事か?
YUKI.N> そういうことになる。
…ハルヒはそっちの世界ではどうなってる?
YUKI.N> 常に楽しいという感情を持ち続けていたはず。しかしたまに勿体無いと感じることもあったよう。
…勿体無い…か。
まぁ大方高校生活の期限の少なさを嘆いているんだろうが。
…ここらへんが鍵になりそうだな。
YUKI.N> それと、今回の件について私たちは何の関与もできない。
…へ?
YUKI.N> そこの空間に入ることを許されたのはあなただけ…しかし涼宮ハルヒはあなたに何とかしてほしいと思っていることは事実。
…とりあえず「してほしいこと」を探してみるか。
YUKI.N> また帰ってくることを望んでいる。私も、朝比奈みくるも、古泉一樹も。
…あぁ、わかった。
YUKI.N> ちなみに
ん?まだ何かあるのか?
YUKI.N> 今日はSOS団でカニ鍋を食べた。
………
YUKI.N> 羨ましい?
ブツン
それだけ言うとパソコンの電源が切れてしまった。
カニ鍋か…羨ましくなんかないからな。
カニなんてその気になればいつでも食えるし。
だけどカニなんて久しく食ってねぇなぁとかカニ味噌はどうしたんだろうかとか…
何のカニ使ったのかなぁとか、俺の分残ってるかなぁとか…
別にカニの出し汁でおじやをする事とか考えてないからな。
………。
俺は口に付着した涎を拭いベッドに倒れ込んだ。
「…これからどうしようかね」
思わず独り言がもれてしまった。
その日寝付けたのは3時間後のことだった。