ここはどこ
くらい
あたりでぼんやりひかるじめん
このくうかんをおおうてつぼう
まるでおりのなか
そとはやみ
だして
このせかいからわたしをだして!


オレンジ色の冬空の下を俺たち団員は下校している。
今日も不思議が見つからないことを悩みとする団長はとなりであひる口をしていた。

ハルヒ「あーもうつまんない!たしかに平和もいいわよ?でもね刺激がなさすぎなのよ!」

おまえが平和を肯定するなんて日本の首相が戦争を肯定するようなものだぜ。よろしい、ならば戦争だ。

ハルヒ「なによそれ。よしキョン!なにか面白いことを10秒でしなさい、はい!」

お前にはこれで十分だ。

キョン「布団がふっとんだ」
ハルヒ「あんたねぇ・・」
みくる「さすがにそれは・・」
長門「ユニーク」
古泉「まあまあ彼だって必死なんですよ」

ハルヒは俺を徹底的に罵倒し、他団員3名は蔑みの目で俺を見ている。

とりあえずハルヒを止めるために俺はハルヒの頭をなでた。

ハルヒ「なによ!」
キョン「せっかくのかわいい顔が台なしだぞ」

途端ハルヒは顔を真っ赤にし

ハルヒ「なっ何言ってんのよ!もう今のでストレス爆発よ!」

バカキョン、と叫び走り去った。

古泉「あれは照れてるだけです。閉鎖空間は発生してません」

いらん説明をどうも。
女心で遊ばないでください、と朝比奈さんに涙目で説教されてしまった。反省しよう。
俺は帰宅し、夕食を食べ宿題を済ませ就寝する。うーんなんて学生らしい生活だ。

またここにきた
あいかわらずくらい
おりのなかのじめんはあかるい
だしてよ もうこんなところにいたくない
あたしは鉄棒に蹴りを入れつづけた。
むなしく響く金属音。

「静まりなさい」

その女の声の方向、真上を見た。暗闇しかない。

「バタシはあなたの望みを叶える神です」

この声は何を言ってるのだろう。

「今は信じられないだろうね。まずこの空間のことですが、ここは箱庭です」

名称なんてどうでもいい。

「ここは私とキャナタが話すための空間。私を信用してもらうため、あなたの願いを一つ叶えましょう」

占い師みたいなことを言われた。

「さあ」

角砂糖より甘い誘い。様子見をしよう。だがどうせ叶うなら本当の願いがいい。

キョンという男の子と恋人になって一緒に生きたい、そう伝えた。

神「わかりました。では目をつぶり強く願ってください」

あたしはそれに従う。すると意識がなくなる感覚に襲われた。


俺は凍えるような空気に堪えながら登校した。
俺が席に着くと同時に背中に衝撃が走った。

ハルヒ「おはよーキョン!」
キョン「おまえは普通に挨拶できんのか」
ハルヒ「あっごめん」

ハルヒが後ろから俺の背中をバンッと叩いたのだ。にしてもハルヒが素直に謝るとは珍しい。てなに頬ずりしてんだ、離れろ。

昼休みに俺の疑問はさらに積もった。

ハルヒ「キョン、お弁当一緒に食べよ!」
キョン「俺は食堂へ行く」
ハルヒ「なぁに冗談言ってんのよ!あたしがキョンの分も作る、て約束したじゃない!」

When you said?
俺が答えに詰まっていると、谷口が横からあきれた顔をしながら

谷口「痴話喧嘩かよ。おまえはいいよな。彼女持ちになりやがって」
ハルヒ「アホの谷口は黙りなさい!ほらキョンの好物よ」

谷口の発言の意味がわからない。俺はハルヒと机を向かう合わせにし、弁当をもらった。ハルヒが「あ~ん」してきたので全力で断った。
放課後ハルヒは掃除当番で遅れるそうだ。俺はこの疑問を解消するべく一人で部室に向かった。
部室の扉を開けると、朝比奈さんとは違うマスコットがいつものように本を読んでいた。

キョン「よっ長門。他の人はまだか」

沈黙、それすなわち肯定。学習済みである。本題に入ることにした。

キョン「ハルヒや周りの様子が変だ。何か知らないか?」
長門「周りの人間の記憶を改変したのは私」
キョン「なんだと?」

長門「涼宮ハルヒの記憶に何者かが干渉したから」

長門は淡々と、だが焦りの色をわずかにこめて話した。
深夜にハルヒの記憶が改変され、俺と恋人であるとハルヒが思っていること。記憶の修復は不可能で、仕方なく団員以外の周りの記憶を改変し混乱を避けたこと。

長門「犯人は不明。確実に危険要素になる」
朝比奈「長門さん!未来と連絡がつきません!」
古泉「機関の方はむしろ彼女の精神が安定して良かった、という意見が多いです。ただその犯人については調査中です」

いつのまにかニヤケスマイルとメイドさんがいた。

長門「現在情報統合思念体の主流派は慌てている。世界の創造主の記憶改変などもってのほか」
キョン「ハルヒの記憶ではいつから付き合ってるんだ?」
長門「昨日」

なんだって?

キョン「ハルヒに記憶の矛盾を伝えれば、記憶が戻るんじゃないか?」
古泉「だめです。彼女の幸せな『真実』は不幸な『現実』を受け入れないでしょう」
長門「あなたはしばらく彼女と付き合ってるフリをして」
ハルヒ「やっほーみんな!」

危ないな、話を聞かれるところだった。

ハルヒは手に派手なゴスロリ服を持っていた。ハルヒが朝比奈さんにヘビのように近づく+朝比奈さんが助けを求める=ハルヒの前で朝比奈が俺に正面からしがみつく。方程式のような動きに感動した!
俺はハルヒを止め、古泉と将棋をした。長門は本を読んで・・・ページが進んでないな。朝比奈さんは椅子に腰掛け落ち込んでいた。そしてハルヒは

ハルヒ「そこに歩置けばいいんじゃない?」
キョン「いやここは桂馬で王手角取りだ」

俺の頭に首を乗せて将棋を見ていた。むむさっきから首に当たるフクラミはまさか。

ハルヒ「もうキョンの変態」

何赤くなってんだよ。俺まで興奮するだろ。
長門が本を閉じる音が聞こえた。活動終了。
下校中ハルヒは俺の腕を組んで歩いていた。

ハルヒ「ねぇ今日キョンの家行っていい?まだあんた・・あなたの家族に挨拶してないのよ」

あいにく今日は急ぎの用事がある。

キョン「今日は無理だ。近いうちにな」
ハルヒ「じゃあ明後日ね」

俺は交差点でハルヒ達と別れると、今後のことを考えた。このまま付き合っても悪くはないが、捏造された恋だ。俺は許さない。

「キョン」

後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたので振り返った。そこには懐かしい人がいた。

キョン「久しぶりだな佐々木」
佐々木「ボクと会わなくなって1年、キョンは男らしくなったな。今日は大変だったろう」
キョン「俺にも大変な時はあるさ」

佐々木よ、あいかわらずその笑い方はやめようぜ。クックッなんて鳥じゃあるまいし。

キョン「あいにく俺はすぐ帰る必要があるから今日は失礼する」

また会った時茶でも飲もう、そう言い俺は家に走った。佐々木が寂しそうに見えた気がするが、夕日のせいだろう。

ここはいつものばしょ
じめんはぼーっとひかる
おりのようなばしょ
きのうもきた

「あなたの願いを叶えましたよ」

願い?

「あなたは初めてここに来たとき、キョンという男と恋人になりたい、と願いました。それを叶えました。」

よく覚えていないが、彼女は勇気をくれたのだろう。ありがとう、と返事をした。

「この箱庭はいいだろう。あなた以外誰もいないんですよ」

寂しい、素直な気持ちを伝えた。

「心配しないで、ここは仮の宿。あなたがキョンと永遠に幸せになる場所、『楽園』が本当のゴール」

そんな場所が本当にあるのだろうか。だがあたしは見えぬ彼女を信用することにした。

「そしてその楽園へ導いてくれるのが『はこぶね』」

はこぶね?

「『箱舟』にあなたの願いを託せば、必ず貴女は幸せになれます」

そう言われた瞬間、あたしは意識を失った。

朝俺は携帯のバイブで目を覚ました。時計を見ると、まだ6時30分である。

古泉「長門さんから伝言を預かりました」
キョン「なんだ」
古泉「『彼女を否定する言動は避けて。嫌な予感がする。』とのことです」
キョン「また何かあったのか?」
古泉「再び涼宮さんの記憶が改変されたようです」

どのように?

古泉「長門さんにもわからないそうです。ただ記憶改変が行われた、と察知するのがやっとらしいです」
キョン「せめて現在の行動ぐらいはわからないか?」
古泉「たった今彼女が登校した、と外で監視している仲間から報告がありました。」
キョン「こんな朝早くにか?」
古泉「おそらくあなたを迎えるためだと思います」

なるほどね、恋人か。

古泉「ただ少し妙な点が・・・いえ何でもないです、失礼しました」

電話が切れた。
俺が珍しくゆっくりと朝飯を食べていると、インターンホンが鳴った。
妹が確認してきたところ、やはりハルヒだった。あと一分で来ないと死刑、という伝言を受けた。

今日は雨か、冷たいな。

ハルヒ「あたしが家を出たころにはすでに降ってたわ」

俺はハルヒに腕を組まれながら登校中だ。ん?

キョン「ハルヒ。ほっぺに赤いのが付いてるぞ」
ハルヒ「朝のイチゴジャムね、これだから朝のパンは嫌なのよ」

ハルヒは笑いながらハンカチで汚れをぬぐった。ハンカチは少し赤く汚れた。
教室に着くとハルヒは少し顔を曇らせた。

ハルヒ「あのね、実はあたしの父さんと母さんがキョンと付き合うのに反対してるの」

なんと重たい話だろう。俺はできる限り安心させることにした。

キョン「じゃあ俺が直接親を説得しよう。口ゲンカなら負けないぜ」
ハルヒ「口ゲンカはダメ。でもありがとう」

ハルヒは今まで見せたことのない、優しい笑みを浮かべていた。ておい教室で抱きつかないでくれ。

昼休み、相変わらず止まない雨にうんざりしながらハルヒの弁当を食べた。携帯電話のバイブが鳴り始めた、ハルヒに失礼だから無視しよう。

ハルヒ「あっキョン。ちょっと顔を動かさないで」

ハルヒはハンカチを持つ手を俺の顔に近づけ、俺の頬をぬぐった。
なんだソースが付いてたのか、と納得しハルヒにたたまれるハンカチを見た。やや黒い。
弁当を食べ終わるころにはバイブは止まっていた。

授業中に俺は着信履歴を確認すると、古泉からだった。

五時限目終了後ハルヒはどこかに行った。途端電話が鳴った。

キョン「どうした古」
古泉「なぜはやく出ないんだ!こっちは大変なことになってたんだぞ!!」

古泉の怒声を聞くとは思わなかった。

キョン「落ち着け古泉、何があったのか話せ」
古泉「すいません」

古泉は息を整えて言った。

古泉「落ち着いて聞いてください、実は」

あたしは今みくるちゃんと文芸部室にいる。メールでさっき呼び出したのだ。もちろん昨日のあれのことで。

ハルヒ「みくるちゃん、あたしがキョンと付き合ってるのは知ってるわよね?」
みくる「はっはい!」

怯えている。当然か。

ハルヒ「にもかかわらず昨日キョンに抱きついたの!?」

あたしはみくるちゃんを壁に追い詰めた。

ハルヒ「ふざけないで!いい?今度から誘惑しないでね!」
みくる「ぐっはっはい・・」
ハルヒ「わかればよろしい、もう教室に帰っていいわよ」

みくるちゃんは腰が抜けたのかその場に尻餅をついた。あたしは満足して教室に戻った。

キョン「なんだと!?」
古泉「ですから落ち着いてください」
キョン「落ち着く方が無理だろ!」

ハルヒの家族が皆殺しにされていた・・だと。

古泉「異変に気づいたきっかけは干しっぱなしの洗濯物です。今朝からずっと雨なのに、家の中に取り入れる様子がなかったのです」

おかしいということで機関の一人が近所の人のフリをし、訪問した。が返事はなかったらしい。

古泉「そこで監視員全員で家に強行突破しました。そして」
キョン「死んだ家族を発見したのか」
古泉「ただ殺され方が尋常じゃありません。家族は寝ている間に包丁で襲われたんでしょう。首はえぐられ片目は潰されていたそうです。」

とても僕たちが見れる光景じゃないそうです、と話した。

キョン「犯人はまさか」
古泉「涼宮さんでしょう、深夜から家の外で監視されてた状況ですから」
キョン「そういや朝ハルヒの顔に赤い汚れのが付いてたんだ。ハンカチでぬぐってしばらくしたら黒くなってた」
古泉「それは血ですね」

俺は頭が真っ白になった。

6時限開始時にハルヒは戻ってきた。俺はハルヒがこわい。
放課後俺とハルヒは部室に向かった。ハルヒは笑って話しかけてくる。
部室のドアを開けると、そこには長門が立っていた。何かを見ている?
その方向を見るとそこには

キョン「朝比奈さん!!」
ハルヒ「えっあっみくるちゃん!!」

そこには左胸からナイフが生え、目を見開いた朝比奈さんが倒れていた。
ハルヒがその場で倒れた、気絶したのか。俺はハルヒを抱き抱えた。俺は確信した、こんな奴が殺人するわけないと。

ハルヒに気づかれぬよう機関の人が来て隠蔽をした。残された俺たち団員4人は、さらにひどくなった雨の中を下校した。ハルヒは俺に泣きついている。

ハルヒ「ねえキョン、明日あなたの家に行くからね」

そうかい。
ふと俺は腕を引っ張られた。長門だ。

長門「これ読んで」

長門がブックカバーをかけられた本を差し出した、ハルヒの目の前で。

ハルヒは「病気になった」家族を看病する、と言い早々に俺たちと別れた。

古泉「あなたは朝比奈さんが亡くなられた件についてどう思いますか」

おまえ不謹慎という言葉を知っているか?

古泉「偽善者になるところではないです。現状分析が必要です」
長門「同意する。朝比奈みくるはおよそ6時限の授業直前に殺された。彼女が怪しい」
キョン「待て。発見時のハルヒのあの反応はとても殺した人間とは思えない」

俺はハルヒを信じた。家族の死も別の犯人がいるはずだ。

古泉「その件なんですが、長門さん宅に行きませんか?機関の仲間が集まってます」


長門の家には機関の人がたくさんいた。

森「久しぶりね」
古泉「今はあまり余裕がありません。やるべきことを済ませましょう。新川さん、モニターを」
森「挨拶ぐらいいいじゃない」

森さんは微笑んだ、目は笑っていないが。

キョン「モニターで何を見るんだ」
長門「涼宮ハルヒの家での行動。今彼女は買い物を済ませて帰宅した」
古泉「家中に監視カメラがあり、音声も拾えます」

亡くなられた家族は?

古泉「そのままにしてあります。」
森「状況が変われば彼女は混乱するでしょう」
新川「静かに。彼女が料理を作り始めた」

どれどれ。あれはおかゆ?だが誰が食べるんだろう。ハルヒは鼻歌を歌いながらおかゆを作り終えた。
ハルヒはそのおかゆを二枚の皿に移し、それらを持って階段を上がる。

古泉「おかしいですね、上には家族の方々がいらっしゃる寝室しかないはずですが」

ハルヒは寝室に入った。寝室は辺りに血が飛び、遺体がベッドで横になっていた。俺は気分が悪くなった。
次の光景を見て、俺はハルヒへの信用を放棄せざるをえなくなった。

ハルヒ「はいお父さん。おかゆ作ってきたよ。はいあーん、もうこぼしちゃだめよ」

ハルヒは「それ」のそばに座り、スプーンでおかゆを「それ」の口に流した。

ハルヒ「おいしい?良かった~。それでねお父さん。キョンのことだけど・・・えっいいの?ありがとう!」

ハルヒは一人で喜び、「それ」の首に手をまわしている。顔や服が赤黒く汚れていく。「それ」の首から赤白い液体、おかゆが漏れてきた。

古泉「彼女の精神が危ないです。幻覚を見ています」
新川「記憶改変の影響ですか?」
長門「こんなバグはありえない」

森さんは泣いていた。俺は頭が真っ白である。
ハルヒは別の「それ」に食事を与え始めた。
ハルヒは食器を片付けると、風呂に入った。俺は何も考えられず、ただモニターを見た。
ハルヒは歌を言っているようだ。

明日はキョンの家へご挨拶~みくるちゃんには~忠告しておいた~

『忠告』だと!?

俺は床を殴りつけた。さらに歌は続く。

そういや有希が~本を渡してた~もしかして~私のキョンにちょっかいを~少し念おしておこ~

機関と俺は一斉に長門を見た。
つぎはながとがころされる、全員がそう思ったはずだ。

長門「大丈夫、私は死なない」

だいじょうぶ、と長門はまた言った。俺たちを安心させるように。

今日はもう遅い、という新川さんの忠告に従い俺と古泉は雨の中帰ることにした。結果は後に聞くことになった。

キョン「ハルヒがああなったの俺のせいなのかな」

沈黙。つまり肯定か。ようやく古泉は口を開いた。

古泉「涼宮さんが家族を殺害した動機に心当たりはありませんか?」

俺は昼間ハルヒが話したことを話した。

古泉「そうですか。納得ですが、恋人のために人を殺すことを僕は理解できません」

そして今の僕たちにできることは何もないのです、と古泉は苦々しく言った。

俺は帰宅した。夕飯を食べる気もしない俺は風呂に入る。頬を流れる液体はお湯か涙か。
部屋に戻り、俺は長門から借りた本をバッグから探した。本を手にとると1枚の折られたB5の紙が落ちた。本に挟まってたのだろう。

俺は本を机の隅に置き、ベッドに仰向けになりそれを読みはじめる。

これを読むころには私はいないだろう。今の私は主流派を何者かに潰されている。
今情報統合思念体は急進派でのみ構成されていることがわかっている。彼らが今何をしているかは不明。
私には一つの仮説がある。それは急進派が涼宮ハルヒを操作していること。
彼らは記憶を改変し彼女を望むままにあやつる気かも。だがこれはどの派閥でも危険という意見で一致したはず。何かの圧力か?
私は彼女に殺されるだろう。実は一度目の改変後彼女の力はなぜかなくなっている。だから彼女をあやつる者が補助し私を殺しにくるはず。
私個人の能力を駆使した結果が、この本のメッセージ。
できればあなたは生きて欲しい。

俺は長門の家に電話したが、誰も出ない。
今度は古泉に電話した。よし出た。

キョン「今すぐ長門の家へ来い!説明は後だ!!」

俺は電話を切り着替え、雨の中陸上に出るぐらいの勢いで傘をさして走った。

20分後、マンション前で古泉と落ち合った。

古泉「長門さんの家にいる仲間と連絡がとれません」

俺たちはマンションの管理人に事情を話し、急いで管理人と長門の家に行く。途中赤い汚れをあちこちで見た。
玄関の扉を開けた。
機関の人たちがあちこちで倒れていた。出血してないが、床にたくさん血の足跡があった。
止める古泉を無視し、俺は足跡をたどりベランダへ出た。
俺は瞬時に力が抜けた。追いついた古泉が手で俺の目を隠そうとしたが、それよりも前に「それ」を見てしまった。

血塗レデ横タエル無口ナ少女ヲ

俺はその場で泣きくずれた。俺は長門も守れなかった。

後は機関が処理をした。長門は首をずたずたにされ、左胸に深々と包丁が刺さってたらしい。

古泉「長門さんが突然倒れると、次々に仲間が倒れたそうです」

俺を含む機関は今後について話した。
まず俺がここでハルヒに電話し様子を見ることになった。
俺はハルヒに電話をかけた。携帯が震えている、いや俺の手が震えているのだ。
10秒待つと、元気な声が応対した。

ハルヒ「珍しいわね、どうしたの?」
キョン「ああ今何してるか気になってな」
ハルヒ「なにキョンまた宿題教えて、て言う気じゃないでしょうね?まあいいわ、さっきね」

長門の家に行き、私たちの恋愛の邪魔をしないよう念を押した。そう解釈できることを言っていた。
俺は携帯電話を壊そうとしたが、古泉が俺をなだめてくれたおかげで壊さずに済んだ。
明日の弁当はお母さんに教えてもらった愛妻弁当よ、と言い放って切られた。

新川「古泉、今連絡があった。TFEIの大半が消失したのを確認し終わった」
古泉「なんですって?」
キョン「その残ったTFEIは急進派じゃないですか?」
新川「なぜ知ってるんだね?」

俺は長門から借りた本に挟まっていた紙の内容を説明した。

古泉「なるほど。この事件の犯人は急進派ですか」
森「いえ話を聞く限り、急進派も何かの圧力を受けやむを得ず行動した、という可能性があります」
新川「とにかく残ったTFEIを監視していく必要がある。森、今すぐ手配を」
森「わかりました」
新川「君たちはもう休みなさい。あまりにもつらい体験をし続けたろう」

再び俺と古泉は帰路につく。互いに話す気力がない。
家に着くと、玄関で母さんが待っていた。遅くに出かけた俺に説教しようとしたのだろう。だが俺の目を見るなり黙ってしまった。俺は何も言わず部屋に戻り睡眠をとった。止まらぬ涙を枕に染み込ませて。

またはこにわにきた
わたしのこいをたすけるかみよ
はやくわたしときょんをはこぶねにのせて

「調子はどうだい?」

みくるちゃんや有希には忠告した。親の説得は成功した。もう私とキョンの恋愛を邪魔する者はいないはず。

「偽りの記憶はいいものだろう」

偽り?

「何でもない。私は箱舟へ乗せる準備をしている。あなたたちを乗せる時が来たら私が迎えにいく」

私はまた意識を失った。
その直前にかすかに聞こえた声。

もうおまえらはようずみだから

俺の寝起きは最悪だった。枕はぐしょぐしょに濡れ、目は痛む。
顔を洗おうと部屋のドアを開けると、枕元の携帯電話が鳴った。

古泉「急進派が突然消えました」
キョン「え?」
古泉「正確には情報統合思念体と全てのTFEIが姿を消しました。正直何が起きているのかお手上げです」
キョン「ハルヒは?」

沈黙が訪れた。

古泉「残念ながら記憶は戻らず、幻覚もそのままです」
キョン「そうか」
古泉「ところであなたは『箱舟』を知ってますか?」

ノアの方舟か?

古泉「そうです。先程から彼女は『キョンと箱舟に』と何度も口にしているそうです」
キョン「どういうことだ?」

少しのためらい。

古泉「わかりません。『箱舟』という名の思い出の品で何かするのだと思います」

なにをするんだよ。

古泉「いいですか?彼女を嫌ってはいけません」

絶対にですよ、と古泉は言い電話を切った。残念ながら俺はハルヒのことを考えるだけで、手が震えた。

登校中、空には俺を励ますように輝かしい太陽がいた。あいにくとなりで「恐怖」が俺の腕を組んで笑っているため効力は薄い。

ハルヒ「どーしたの?なんか顔色悪いけど」

おまえのせいだよ

キョン「妹が朝からだだこねて大変だったんだよ」
ハルヒ「ふーん、まあいいわ。今日は念願のキョンの家に行けるのね!」

冗談じゃない!おまえは俺の家族まで・・・クッ!

キョン「すまん。家族と法事に出かけることになっていたんだ」

なにをそんな悲痛な顔をしてんだ。俺が悪いみたいじゃないか。

ハルヒ「だったら私も行くわ!」
キョン「だめだ」

やだやだ、と俺の袖にこの女は涙目でしがみついた。
今のこいつは力を失ってるんだよな。なら何を言っても大丈夫だろう。

キョン「わがまま言うなら別れよう」
ハルヒ「我慢すればいいんでしょ!そのかわり今度あたしと一緒にどこへでも行こうねキョン!」

はいはい、と返事をしておいた。どこへ行こうというのかね。
教室に着くまでの間こいつは必死に俺に話しかけてきた。ご機嫌とりにしか見えない。

自分の席に着くと、谷口が俺の方に寄ってきた。

谷口「よおキョン。おまえが本気だったとは思わなかったぜ」

何の話だ?

谷口「朝から涼宮と登校なんておまえらデキてんじゃねぇか?」

ちょっと待て

ハルヒ「私とキョンはすでに恋人よ!」
谷口「ほらキョン、涼宮はすっかりその気で」

話を中断し、谷口に問う。

キョン「今の俺とハルヒの関係を本当はどう見える?」
谷口「何を今さら」

いつもの女王と奴隷にしか見えないぜ、そう谷口は返答した。

谷口「そんなに涼宮を気にす」

俺は9組へ向かい、ドアを乱暴に開けた。教室を見ると古泉は席に着いていた、笑顔の仮面をつけて。
俺が何かいう前に古泉は言った。

古泉「今ホームルーム中です。あとで理由を聞きましょう」

やっちまった。クラス全員で俺を白い目で見るな。

昼休み。弁当を無視し教室を出ると古泉が待っていた。

今俺たちは食堂の柱に並んで立っている。俺は古泉に周りの反応を話した。

古泉「つまり周囲の人の記憶が改変前の世界に戻っている、ということですね」

深刻な顔をする古泉って少し怖いな。

古泉「涼宮さんは知ってのとおり、あなたを溺愛してます」

これはまずいですよ、と古泉は顔を近づけて言った。離れろ。

古泉「これは失礼。ですがいいですか?神の力のない彼女は一般人です。もしあなたが」

自分の大切な思い出と周りの記憶が正反対に食い違ってたらどんな心境になりますか、と古泉はまじめな顔で言った。

キョン「生きてる気がしないだろうな、恋愛の思い出ならなおさら」
古泉「今はあなたが恋人として振る舞っているから、彼女はまだ付き合ってると思ってるでしょう。この状況は危ないです」

この腐った世界からあなたと逃げよう、と考えかねないからです。

ハルヒへの恐怖がさらに積もる。この世界のどこに逃げようというのだ。

古泉「急進派の件ですが、彼らと何度も接触していた人物がいたことがわかりました。特定はできませんでしたが」

長門やあいつの家族はあのあとどうしたんだ?

古泉「コトが収まるまで放置してます。警察へは通報しません。長門さんは欠席、ということになってます」

急に学校の外からピシャーンという漫画らしい音が聞こえてきた。おいおい暗いし大雨じゃねぇか。傘持ってないぞ。
昼休み終了の鐘が聞こえたので俺たちは教室に戻った。わめく女を無視し席に着いた。

放課後文芸部室が使えないのでしばらく団活動は解散する、とこいつは俺と古泉に宣言した。

傘を忘れた俺は下駄箱で呆けていた。すると後ろから

ハルヒ「傘忘れたんなら入る?」

俺たちは薄暗い道路を手をつないで傘をさし歩いている。本当なら即刻おことわりなのだが、傘がないので仕方がない。

ハルヒ「ここのところ難しい顔するようになったわね」

誰のせいだよ

キョン「まあな、ちょっと厄介事をかかえてね」
ハルヒ「ちゃんとあたしに相談しなさいよね。何のための彼女だと思ってるのよ」

ハルヒが俺に寄り添う。今のこいつは俺に対してなら優しくてかわいい少女なんだ。たしかにその優しさはうれしい。
俺はハルヒと正式に付き合おうか、と考え始めた。こいつを放っておけない。

ハルヒ「にしてもなんで今日文芸部室が使えなかったんだろ。有希も休みだし」

途端俺の目に凄惨な光景がよみがえった。

オマエノセイダロ

ハルヒ「きゃっ!!」

俺はこの女を傘ごと突き飛ばした。女は道路に尻餅をついているがどうでもいい。

キョン「おまえが朝比奈さんや長門を殺したんだろ!!」
ハルヒ「なっなに言ってんのよ!殺したって何よ!!」
キョン「おまえが家族を殺したのも知ってんだよ!!!」
ハルヒ「冗談言わないで!!昨日も一昨日も家族と話してたわ!!そうよ、家族がみんな病気になっちゃったからあたしが看病したのよ!!なんで死ななきゃいけないのよ!!」

俺たちを黒い沈黙が渦巻く。互いに雨を大量に浴びている。
ハルヒは泣き始めた。

そのナミダはナニに対するナミダだ?

沈黙を破ったのはハルヒだ。

ハルヒ「ねぇ?なぜ変わってしまったの?あんなに愛し合ってたのに!!私たち中学からずっと一緒だったじゃない!!!」

はっ?

コイツのキオクはドコまでイジラレテンダ?

キョン「ありえねぇよ!!おまえは東中学だろ!!おれとは学校すらちげえよ!!おれたちは会ってもいないんだよおおおぉ!!!」

ハルヒは自分の口を両手で抑え、どこかに走りさってしまった。あとには傘と荷物、そして俺が残された。

途端に後悔の念で満たされた。悪いのは黒幕なのに、俺はハルヒを傷つけてしまった。

時間が経つのも忘れてその場に立ち尽くしていると、携帯電話が鳴った。古泉か。雨の中だが応答することにした。

古泉「今すぐ逃げろ!!!」
キョン「えっ?」

お ま た せ

携帯電話片手に後ろを振り向くと、そこには「ハルヒの形をした化け物」がワラっていた。

はるひ「今日約束したよ、ドコにでも一緒にイくって。ほら」

い こ う

「それ」は右手を振りかざし、俺の携帯電話をはたき落とした。
俺は右手に痛みを覚えた。右手の手の平いっぱいに広がる切り傷。

なんでそんな凍りついた笑顔をしているんだ

キョン「なにをもってんだおまえ!?」
はるひ「『出かける』のに必要な道具よ。私たちを楽園に連れていく、ね?」

楽園ってナニ?

「それ」の右手を見ると、この暗い雨にもかかわらずよく見えるナイフ。
「それ」がさらに一閃し、俺の首をやや深く切りつけた。痛みを我慢し逃げようとする俺に「それ」は俺の左胸にナイフを突き刺す。俺は道路に横たわった。頭がぼーっとしてきた。

はるひ「そこへ行けば私たちは永遠に愛しあえるわ」

ソンナニシアワセナトコロナノカ

はるひ「この『アーク』で先に行ってて。『アーク』っていうのは『箱舟』のことだって、さっき聞いたわ」

ホントウハナ、オレハアッタトキカラ

はるひ「じゃあまたあとでね、アナタ。ウフフフフフフ」

ハルヒノコトスキダッタンダゼ

首元を切り裂く音、高らかに笑う声が聞こえた。

ここははこにわ
なぜここにいるのわたし
たしかにあーくでらくえんへいったはずなのに

暗闇から女のすすり泣く声が聞こえる

「おまえはボクのキョンを殺した」
ハルヒ「待ってよ!『ボクの』ってどういうことよ!?」
「おまえはさっきボクの言ったことに逆らい、キョンを殺した!」
ハルヒ「なんであんたにキョンを連れてってもらわなきゃ行けないの!?あたしじゃダメなの!?」
「あとはおまえが死ねば終わりだったに!!」

ツカエナイヤツ、たしかにそう聞こえた。違う、こいつは救いの神なんかじゃない。

「おまえにもう用はない。ボクの力も使い切る。おまえは一生『楽園』に」

堕 ち ろ

途端、光っていた地面が崩れ去った。私は浮遊感と闇に包まれる。
ここが「ラクエン」?
コエを出しても何もミミに入らない。
私はキョンを「ラクエン」へ連れていったの?

ゴ メ ン ネ

浮遊感と闇は続く、いつまでも。

ボクは昔からキョンのことが好きだった。彼とは違う学校になって以来全く会っていなかった。
だが最近になって好機が訪れた。情報統合思念体とかいう意識体の通信機代わりの人間が現れ、ボクにいろいろ話してくれた。
例えばボクに秘められた力。例えばボクより強大な力をもつ「ハルヒ」という人間。例えば彼女はキョンに思いを寄せていること。
急進派はハルヒの変化を観察したいので協力してほしい、と依頼した。ボクはこれを利用するため、必要となりそうな能力をボクに付与すること・主導権をボクが握ることを条件に引き受けた。
まずボクは急進派に指示し、寝ているハルヒの深層意識に「空間」を作った。この空間に彼女の意識を送ればそこで彼女は活動し、戻せば眠りにつく。
試しに送ってみた。彼女の慌てようがあまりにも滑稽なので、この空間を「箱庭」と呼ぼう。ボクは彼女の意識を箱庭から戻した。
その後彼女の力を奪った。急進派には暴走防止だと理由をつけて納得させた。
急進派の提案により、未来人の処理は急進派に任せた。

次の夜、ボクはやや口調を変えて箱庭で彼女と話した。途中自分の口調と混ぜて「バタシ」や「キャナタ」と失言したが、彼女は気にしなかった。適当なことを言って彼女を眠らせた。
最後に彼女の記憶を少しいじくった。急進派は困惑していたが気にしない。彼女は「昨日教室でクラスメイトの前で大声でキョンに告白して、OKをもらった」という偽りの記憶を持った。
彼女の身辺情報はすでに急進派から聞いていたので、長門さんが混乱を世界改変することは読めていた。
なぜ少しずつ記憶を改変するか?わかりやすい矛盾を生まず、偽りの記憶をより信じこませるためである。
ボクは当分学校を休み、自分の部屋で急進派のTFEIとモニターを見ることになった。モニターにはカメラがなく、誰にも気づかれずハルヒの行動をじっと覗けるようだ。急進派独自の技術だと言われた。
一度キョンに会いに行った。少しでもボクを記憶に残し、いつか頼ってくれることを望んだからだ。
だがここで失言した。

「今日は大変だったろう」

まるで今日の出来事を知っているような発言をしてしまった。だがキョンは気づかなかった。

家に戻ったボクは急進派に主流派を消すよう指示した。

その日の夜箱庭を覗いた。彼女は見事なまでに「偽りの」記憶を信じていた。例によって彼女を眠らせた。
再び記憶を改変し、「告白した日から、キョンと甘い時間を過ごしつづけた」という記憶を植え付けた。
なぜ彼女の恋を応援をするような改変を行うか?それはキョンに嫌わせるためさ。
身に覚えのない記憶を押し付けられたら、誰だって嫌になる。困り果てたキョンはボクを頼り、それをきっかけに交流を深める。恋人になれた時がゴールだ。

その日の朝、あわてるTFEIにたたき起こされた。外は雨か。
モニターを見てみると、家でハルヒが包丁片手に一人で何か叫んでいる。
急進派に聞いたが、記憶改変のバグではないようだ。

ハルヒは両親の寝室に入った。ボクは目を疑った。いきなり仰向けの父親の首に包丁を突き刺したのだ。引き抜くと、あたりに血が飛び散った。
全身に返り血を浴びたハルヒは、今度は母親の首にも突き刺し叫んだ。

ねぇ、なんでキョンと付き合っちゃいけないの?

確かにそう聞き取れた。どうやら長門さんが改変した世界では両親に交際を反対されてたんだろう。それで恨んだ彼女は・・・でも行動が妙だ。
ボクは吐き気がした。何度も首に包丁を突き刺し、ついには片目を潰した。部屋は地獄絵図となった。なおも聞こえる叫び声。

勝手にすればいいんでしょう、やがてそう言いながら彼女は風呂場で着替え手足や髪を洗い始めた。
急進派は彼女が幻覚を見ているのではないか、と指摘した。改変のバグではないのだろう、と反論する。それとは別だ、と返答された。
ハルヒはキョンへの過剰な愛情と自己防衛のために、自ら幻覚を作りだしているらしい。あの改変はまずかったか。

やがて彼女は頬にやや残っている血を気にせず、二人分の弁当とトーストを作り始めた。

彼女は自身で記憶改変し続けているようで、ボクが植え付けた覚えのない記憶をつぶやいている。とりあえず急進派に他の派閥を消すよう指示した。
彼女が登校する直前、彼女が台所から「なにか」をカバンに入れた。モニター視点からでは「なにか」を見れなかった。

5時限終了後、まさか彼女が未来人を殺すとは思わなかった。予定に支障はないが、慎重に動いた方がよさそうだ。

ボクが彼女の記憶を改変できるのは箱庭でのみ。完全には奪った力をあやつれないようだ。

彼女が家で風呂に入ってる時に歌っていた歌詞。おそらく長門さんを殺すつもりなのだろう。彼女が出かけたとき急進派に指示し、長門宅にいる人全員を気絶させた。

彼女が長門さんの家に着く前に、ボクは急進派に玄関や玄関ホールの鍵を空けるよう指示した。

傘もなしに雨の中を歩いたハルヒは長門宅に入ると、辺りに散らばる人間が見えていないかのように台所へ向かった。そして包丁を右手に握った。倒れている長門さんの所へ向かうと、叫びながら蹴り飛ばし始めた。

有希、お願いだからキョンを誘惑しないで!あたしが優しく言ってるうちに謝って!ベランダに逃げないで!

ハルヒは長門さんの首を左手でつかみ、ベランダに連れていき壁に抑えつけた。

ねえ有希、あたしはただ謝って欲しいだけなの!

ハルヒは右手の包丁で長門さんの首を深々と刺した。ボクは思わず目を背けた。何度も引き抜いては刺し、その間も叫び声は続く。

そんなに怯えないで!あたしは脅迫しにきたわけじゃないの!そうよそう言ってくれればいいのよ、ありがとう有希!

ハルヒは最後に笑顔で彼女の左胸に包丁を突き刺した。ハルヒはすでに血まみれだった。

ハルヒは床に血の足跡を残しマンションを出て、雨の中を帰った。偶然にも雨は彼女から血を洗い流した。
イレギュラーはたくさん起きたが、計画はむしろいい方向に向かっている。キョンはハルヒを恐れ、ボクを頼るかもしれない。
家に帰った彼女は服を着替え始めた。途中キョンから電話がきたようだ。よく平然とそんなことを言えるな。

パジャマに着替えた彼女は就寝した。
ボクは彼女の意識を箱庭へ送り語りかけた。皮肉をこめてボクは彼女にこう言った。

「偽りの記憶はいいものだろう」

彼女は見えないボクを信仰している。これぐらいじゃ彼女はあやつられていることに気づかない。

「私たちは彼女の観察を終了します」

ボクのとなりにいるTFEIが突然ふざけたことを言った。

彼女の変化で貴重な資料を十分手に入れたため世界を元に戻す、そう言った。
ボクはハルヒに適当に応対しつつ急進派を説得した。だが断られた。そしてコイツラはボクから力を奪おうとした。
ボクはハルヒを眠らせ、コイツラに言ってやった。

もうおまえらはようずみだからきえろ

するとTFEIがみるみる消えていった、謎の呪文を唱えながら。本当に願っただけで消えた。
次にボクは一般人の記憶を改変前の世界に戻した。キョンとハルヒが付き合ってたらボクの計画の意味がない。
改変後突然自分の力が弱まる感覚に襲われた。まさかあの呪文は・・・くそ。もう一度改変を試みたが力が足りないのだろう、失敗した。どうやらボクが力を使うたびに力が減っていくように仕組まれたようだ。
キョンと恋人になりたいなら最初から彼の記憶をいじればいいのだが、仕組まれた愛なんて嫌だからしない。
誰にもボクのキョンは渡さない。

朝は土砂降りの雨、昼も変わらず。ボクは相合い傘で下校しているハルヒとキョンのあとをつけている、ポケットにナイフを忍ばせて。彼らが破局する、直感がそう言うからだ。
キョンが彼女と口論を始めた。あっハルヒを突き飛ばした。彼女は逃げ出した。あとは彼女を

自 殺 さ せ れ ば 終 わ り

ボクは彼女を追いかけ、呼び止めた。あんた誰、と涙を止めて言われた。

佐々木「私はあなたを箱舟へ乗せる者です」
ハルヒ「あなたが?今までありがとう、でも」

ハルヒはまた泣きはじめた。

佐々木「心配しないで。あれは照れ隠しさ」
ハルヒ「・・・そうよね」

ハルヒを傘に入れてなぐさめつつ計画を続ける。

佐々木「我々を楽園へ導ける箱舟は、哀れなる魂を大地から解き放つ」
ハルヒ「あたしはどーせ哀れな魂ですよ」
佐々木「救いを求めるあなたに『アーク』を与えよう」

ボクはポケットから「ただの」アーミーナイフを取り出すと、ハルヒに手渡した。

佐々木「これで刺せば楽園に行けます」
ハルヒ「本当に!?」

そこまで喜ばれてもな。最後の誘導をしよう。

佐々木「あなたはそれで先にイっててください。彼は私が連れていきます」

だがサイアクの誤算が起きた。

ハルヒ「あなたはしなくていいわ。あたしがキョンを連れていく!」

やめろ!そんなことしたら!

佐々木「あなたがする必要はないよ。バタシが」
ハルヒ「心配しないで。必ず成功するわ!」
佐々木「待て!」

彼のもとへ走る彼女を必死に追ったが見失った。ボクはがむしゃらに探した。
ボクが彼女を見つけた時、すでに手遅れだった。横たわる男と女。
ボクはその場で泣いた。せめてハルヒが死ぬ前に絶望を与えよう。そう誓いボクは目を閉じ、ヤツの意識を箱庭に送りどなった。
その間にも力はすり減っていった。ボクは最後に実験をしてみた。

「ラクエンへ堕ちろ」

そう言い箱庭との接続を解除した、ヤツを箱庭に送ったまま。実験の結果を知る気はない。

解除した直後、数人の大人に囲まれていることに気づいた。

執事「君が佐々木くんだね」
メイド「おとなしく拘束されてください」

ボクは大人の輪から逃げた。追いかける大人ども、あれは機関か。
逃げてる最中に気づいた。そういやキョンは死んじゃったんだ。じゃあ

生キテテモ仕方ガナイナ

ボクは今車道を走っている。あっ車がきた。またせたねキョン。1、2、3!


古泉「彼女の容体は?」
森「以前変わりません」

僕は涼宮さんが入院してる病室にいる。森さんが応対してくれた。あれから三日経った。

あの日黒幕が「佐々木」という人物の可能性が高まり、彼女の監視に僕を含む大量の人員が派遣されました。機関の指揮官のミスで、涼宮さんの監視には誰も着かなかったようです。
佐々木さんの前に突然涼宮さんが泣きながら走ってきたのには驚きました。彼女らの話によると、彼に冷たくされたらしい。彼には忠告しておいたんですがね。

佐々木さんが彼女にナイフを渡し、彼女が喜んで走り始めたとき、危機を感じました。なぜか佐々木さんが慌てて彼女を追いかけたので、僕たちも追いかけました。僕は走りながら彼に危険を知らせる電話をかけました。
彼は応答しましたが、その直後に携帯電話が地面に落ちた音が聞こえました。涼宮さんが追いついた?しかし早すぎる。佐々木さんも彼女を見失ったようで、でたらめな方向に走ってました。
しばらくすると電話越しに何かが地面に倒れた音が聞こえ、その後に涼宮さんの歓喜とまた何かが倒れた音を聞きました。
いつのまにか佐々木さんが立ち止まってました。彼女の視線の先を見るとキョンと涼宮さんが倒れており、涼宮さんの左胸にはナイフが刺さっていました。佐々木さんは泣き始めました。
僕たちは彼女を包囲しました。彼女は気づかないのか、さっきから目をつぶったままである。と思うと目を開き僕たちに気づいたようです。

新川さんの合図で捕獲を開始。だが彼女は運動能力が高いのか、包囲網を抜けました。当然後を追いました。
道路の歩道に出て、だんだん彼女との距離が縮まってきました。そして突然

彼女は車道へ飛び出しました。

そして車にはねられ地面に落下。確認すると、即死でした。その顔は笑っていました。
機関はこの件を警察に引き渡しました。涼宮さんだけは奇跡的に生還しました。機関の働きで、彼女は警察病院でなく大学病院に搬送されました。
だが問題が起きました。彼女は意識がなく、何を言っても反応がないのです。脳死ではない植物人間のように。
なぜあの時涼宮さんがありえないスピードで彼の元にいたのか。仮説として、彼女の愛が力を一時的に戻したというのがある。もしそうならば、彼女は彼を「本当に」愛していたのだろう。

森「彼の葬式には是非彼女にも参加してもらいたいわ」
古泉「そうですね。涼宮さんを許してくれますよ、キョン君なら」

その時ささいな、本当に些細な奇跡が起きた。

森「あっ涙が!これは医師を読んだ方が」
古泉「いえそっとしておきましょう」

涼宮さんの閉じた目から一筋の涙が流れた。それは温かいもののように感じられた。

ここはとある一軒家。
兄をなくした少女はネコと遊んでいた。その目に涙をためながら。
少女が少しネコから目を離した。ネコは少女から逃げ、思い出の部屋へ向かった。少女は悲しみを隠しゆっくり追いかけた。
そこはまだ片付けていない兄の部屋。なにを思ったのか、ネコは机によじのぼった。
ネコは机の上の一冊の本を邪魔そうにどかした。その本は床に落ちた。ブックカバーは外れ、白い表紙が姿を現した。その表紙には鉛筆で文章が書かれていた。
兄は気づかなかったのだろう、「この本のメッセージ」がこれであることに。
文章はこう書かれていた。

最終手段として、世界を改変前の世界に戻すためのプログラムを記した。この表紙を見ながら「楽園へ」と言えば起動する。
だがこのプログラムは一つの代償がある。改変には起動者の生体情報を使う。つまり改変後の世界に起動者は存在しない。
私はあなたに消えて欲しくない。でもあなたが望むなら起動して。

今までありがとう YUKI.N


一人の少女の素直でない恋心が起こした悲劇。三人は等しく犠牲者。犠牲者たる彼らを救う幼き箱舟が一歩、また一歩と兄の部屋へ歩いていく。
――――――end―――――
 


|