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 俺の日常から平穏という概念が抹消されて、早くも9ヶ月弱もの月日が流れた。
 赤子に例えて言えば差し出される物全てに口を開いていた時期を過ぎ、離乳食の味に不満を覚えて口を閉じて拒否する事を
覚えだしている頃だろう。
 結果、両親に小賢しい演技を要求しだす程の時間を経て俺が覚えた事はと言えば、ハルヒの行動は子供と極めてよく似てい
るって事だ。つまり、予測しようとするだけ無駄ってもんで、目に付いた面白そうなものであれば何であろうともやってみな
いと気がすまないのさ。
 子供とハルヒの共通点はそれだけではない。
 例えばだ、お気に入りのおもちゃを取り上げられた子供は泣いて叫んで不満を全力で訴えてくるだろう。
 それがいけない事だとか食べられない物だなんて事は関係ない、常識やモラルなんて概念は言ったところで聞くわけも無く
興味が無くなるまでひたすら突き進むのみ。
 もちろんハルヒも暴れるだろうな。ただ、決定的に違うのはハルヒの不満ってのは物理的にも精神的にも見境無しという点だ。
 物理的な事は俺に八つ当たりする分にはまあいいさ、不幸にも矛先が朝比奈さんに向いてしまったのならフォローもしよう。
 しかしながら、精神的な部分に関しては俺や朝比奈さん、もしかしたら長門でもどうにもならないのかもしれない。
「そこで僕の出番。と、いう事ですね」
 そうなるな、世界を崩壊から守る為に頑張ってくれニキビ治療薬さんよ。
 我ながら愚痴でしかない俺の話を、隣を歩く古泉は楽しそうに聞いている。
 で、俺が言いたいのはさ。赤子が成長するにつれて我侭やいたずらをしなくなるように、ハルヒもいつかは大人しくなって
くれるのか?それともあいつの精神的な成長期はすでに終わってしまっているのか?どうなのか?って事さ。
「それは僕にもわかりませんね。心の成長は出会いや経験次第で、時間の経過とは無関係に進む物ですから」
 宇宙人に未来人、超能力者なんて非日常な連中に囲まれてる間はあきらめろって事か?
「さあ?どうでしょう。今、貴方が言った3人ではないもう一人こそが、涼宮さんの精神面に大きく影響を与えていると
僕は思うのですが?」
 思わず返事につまる俺を見て、何か言いたげな顔で古泉は笑っている。
「僕も子供と涼宮さんの共通点に一つ心当たりがあります」
 なんだよ。
 俺と古泉の少し前を歩くハルヒ達へと視線を向けて、古泉の細い目がさらに細くなる。
「子供も涼宮さんも、どんないたずらをされてもつい許してしまう。そんな素晴らしい魅力を持っているという事です」
 素晴らしい魅力ねぇ……。
 そうだとするなら、俺が今ついたため息は育児に悩む母親のそれと同じなのかもな。
 俺は現在の懸念事項となっている自分の手に握られた少し固めの紙で作られたチケットへ目を落とす。
 チケットの枚数はこの場に居る人数と同じ5枚。
 これは、巨大アミューズメントパークのプレオープン特別招待チケットなんだそうだ。


涼宮ハルヒの欲望 Ⅰ


「すみません、これも全ては」
 ハルヒのガス抜き、ひいてはストレス解消の為だろ?
 ため息まじりに答える俺に、古泉はいつもの罪悪感とは無縁の笑顔を浮かべている。
「その通りです」
 ハルヒのストレス解消=世界滅亡の危機を回避する為、我々SOS団一行は休日を利用して郊外に新設された「巨大アミューズ
メントパーク」とやらに向かって歩いている。
 古泉がいるにしても、美少女と言って過言のない女の子達と一緒にゲームセンターで休日を過ごす事に、俺のようなごくごく平凡な
高校生に過ぎない男には何一つ文句など無いさ。
 問題なのはその3人が一人としてただの高校生ではなく、宇宙人に未来人、最後の一人はなんでも自分の思い通りになると思って
いて、実際思い通りになってしまう、そんな神様みたいな存在だという事だ。
 おまけに俺以外の男子である古泉にいたっては、超能力者を自称しているという念の入れよう。
 むしろただの一般人でしかない俺が、このメンバーに含まれている事に違和感を覚えるね。
 古泉、聞くだけ無駄かもしれんが確認しておくぞ。そこは普通のゲームセンターなんだろうな?
「アミューズメントパークです。まあメインはゲームセンターらしいですから、そう呼んでも間違いではありませんが」
 ……普通なんだろうな?
 普通という所を強調しておくぞ?
 何故、俺がたかがゲームセンターを警戒しているかと言えば、このチケットが古泉がどこからともなく仕入れてきた物だからだ。
「さあ? どうでしょう」
 俺の質問を楽しそうにはぐらかす所を見ると、どうやら何か企んでいるらしいな。
 また孤島の時みたいにドッキリでも準備しているのか?まったくご苦労な事だぜ。
 俺の不安をよそに、ハルヒ、長門、朝比奈さんの3人は楽しそうに……。
 いや、二人は楽しそうだが長門は無表情なままという、いつもの状態でパンフレットを眺めて何やら話している。
 今日は休日なのでみんな私服、いつもメイド服を着せられている朝比奈さんも今日は私服だ。
 ……朝比奈さんの貴重な私服姿を見ることが出来たんだから、まぁいいか。
 古泉が何を企んでいるかは知らないが、それで少しでも平和な日常を過ごせるなら協力しないでもない。
 俺の視線に気づいたのか、前を歩いていた朝比奈さんが振り向いて極上のスマイルを振りまいてくれる。
 これだけで今日という休日に意味があったと思えるのは、俺だけじゃないだろうな。
「キョン君、後でみんなでプリクラ撮りませんか?」
 いいですね。
 微笑む朝比奈さんを見ていると、俺が笑顔になるのは自然現象です。
 偶然にも朝比奈さんと2人っきりでプリクラを撮る事になる妄想にふけようとしていると、
「みくるちゃん、ここ見てここ! この店のプリクラって衣装貸し出ししてるみたいよ!」
 無情にもハルヒのでかい声が俺を現実に引き戻した。
「えええ?!」
 朝比奈さんの驚きの声には、ある種の悲鳴に近いものが混じっている。恐らく、これまでの経験から自分の運命が決まって
しまった事を理解したんだろうな……。
 それでも僅かな望みを残しているのか、朝比奈さんはパンフレットの違う場所を指差し、
「す、涼宮さん! こっちにほらぬいぐるみコーナーってありますよ?」
「今日はプレオープンだからお客も少ないはずだし、こーなったら衣装全部借りてきちゃうしかないわね」
 聞いちゃいねえ。
「あのあの! ええっと、ここにはアイスクリームが売ってるみたいです」
 なんとかハルヒの意識をプリクラから逸らそうと健気に頑張る朝比奈さんだが。
「古泉君、悪いけど開店したら速攻で衣装全部確保してきて! いい? 全部だからね?」
 やはり、失敗に終わったようだ。
「わかりました」
 俺の隣で罪悪感の無い笑顔でうなずく古泉。
 お前、もしかして朝比奈さんがコスプレさせられるのを楽しみにしてないか?朝比奈さんには申し訳ないが、俺はすこーししている。
「そんなぁ~」
 切ない悲鳴が響く中、俺達はついに目的地であるアミューズメントパークに辿り着いた――のだが……。


 誰も居ないな……。
 目的の建物は確かにそこにあり「本日プレオープン!」などと書かれた立て札もそこら中にあるのだが、客どころか店員すら
一人も見えず無駄に広い駐車場にも一台も車は無かった。
「おかしいわね……ちょっとみくるちゃんと探検にいってくるから! みんなはここに居なさい! いいわね?」
 そう言い終える頃には、すでにハルヒは走り出していた。朝比奈さんの手を握ったまま。
 長門、招待されたのは今日であってるよな?
 俺に聞かれて長門が取り出した――ハルヒが飽きて押し付けたらしい――パンフレットには、確かに今日の日付が書かれている。
 チケットも念の為に確認してみるが、時間は多少早いが日付は間違っていなかった。
 もしかしてオープンが間に合わなかったとか?
 しかし素人の俺の目には、建物は概観上はいつでも営業可能にしか見えない。
 ……何かあったのかもしれないな。
「変」
 ん、お前が相槌を打つなんて珍しいじゃないか。
 改めて見てみると、私服の長門は制服の時と変わらず地味な感じだ。
 ところで、お前の私服はいったい誰が選んでいるんだ?意識なんとかって奴の趣味なのか?もっとこう、明るい感じの服もいいと
俺は思うんだが……。
「確かに変です」
 古泉も真面目な顔で何か考えているようだ……っておい、まさか
「お察しのとおり、ここは通常の空間では無いようですね」
 俺はまだ何も言ってないぞ。
「貴方の顔を見れば、考えている事はだいたいわかります」
 怖いことを言うな。
 あ、もしかしてお前にはそんな能力もあるのか?
 見た目は怪しい好青年に見えるがこの古泉、実は超能力者である。しかし力を使うには場所や条件が限定される為、普段は
普通の高校生と変わらないと言っていたが。
「いえ、以心伝心ってやつですよ」
 じゃあ今日はこのまま帰ろうと思ってる俺の気持ちも察してくれよ。
 まてよ。
 おい古泉、さっきここが普通の場所かって質問に答えなかったのは……まさか
「確かにこの施設には僕の所属する機関が関わっていますが、空間を変異させるなんて事は涼宮さんや長門さんでなければ
できません」
 俺達の会話に自分の名前が出たせいかはわからないが、無言のまま長門が今来た道を戻っていく。
 お~い、どこへ行くんだ長門有希。
 もしかして俺が帰りたいって思ってるのを察してくれたのか?
 無言のまま途中まで戻ってから、長門は行くのと同じペースで帰ってきた。
「空間が閉じていない、戻る事も可能」
 じゃあ、帰れないって事はないんだな。
 そう何度も異空間に閉じ込められるなんて経験はしたくない。
「涼宮ハルヒはこの場所で遊ぶ事をとても楽しみにしている。このまま帰るという選択肢によって閉鎖空間が生まれる可能性は高い」
 長門は俺の顔を見ながら返答を待っている。
 古泉も俺の方を見て何も言わないでいた。
 おい、なんでいつも俺に決めさせようとするんだよ。そうやって俺に選択させて、結果的に責任を取らせようとしてないか?
「涼宮ハルヒは貴方の意見を聞く事は殆ど無い、でも貴方が先に帰ってしまえば彼女も帰るという選択肢を選ぶと予測される」
 ……つまり、あいつの機嫌を損ねる覚悟でここで俺が帰ってしまえばここでは何も問題は起きないだろうが、後で散々愚痴を
言われて、おまけに閉鎖空間を発生させてもいいなら帰れって事なのか?
 以心伝心なんてものを信じるわけじゃないが、俺は長門の目をじっと見てみた。
 いつもは表情が殆どかわらない長門だが……なんというか、今日は楽しそう(?)に見える。
 長門、お前もしかしてゲームセンターが楽しみなのか?
 普通の高校生ならありえない事だが、ハルヒの監視役として毎日過ごしている長門の事だ、もしかしたら、今日生まれて初めて
ゲームセンターに来たのかもしれない。
 ……わかったよ、帰らない。
「そう」
 そうこたえた長門の返事はいつもと同じだけど、僅かに暖かい感じがしたと思うのは気のせいだろう。


 入口の自動扉は俺達の気配を感知してあっさり開いた。
 扉に電源が入っていない、もしくは鍵がかかっていて入れないという展開を期待していた俺の願いは儚くも叶わなかったわけだ。
 中にも誰も居ないんだな。
 店内は様々なゲームが並べられ、電源も入っていて賑やかな音楽が混ざって流れているんだが、人の気配がないせいでどこと
なく不気味な感じが「さー!さっそくプリクラにいくわよ!古泉君、今日は貸切みたいだから先に行かなくていいからね」
 しないようだな。こいつには。
「わかりました」
 俺達の声が不自然なほどホールに響いていく。
 その時、ここに誰も居ない理由がなんとなくわかってしまった。
 おそらく……俺のこれまでのハルヒとの付き合いで得た経験による推測によれば、だ。
 ハルヒが無意識で望んだ事っていうのは、ゲームセンターを貸しきってみたいって事なんだろう。
 もしも俺の想像通りならば、いつものような危険な空間って事はないだろうしそこまで気を張ってなくてもいいかな。
「キョン君……なんか怖いです」
 脅えた顔で俺の後ろに隠れる、その反応こそが普通ですよ?朝比奈さん。
 すがりつく腕に当たる柔らかな感触には、気づかない振りをしておこう。
「あの、どうして誰もいないんでしょうか?」
 正直わかりません。でもまあ長門が言うにはですが、ここは閉鎖空間とは違うらしいので、出ようと思えば出られない事もない
そうですよ。
 いざとなれば逃げればいい、それだけでも俺や朝比奈さんみたいな実質一般人には救いになる。
「長門さんが……わかりました」
 まるで苦い薬を飲む決心をした子供のように気合を入れる朝比奈さん。
「見つけた! みくるちゃんプリクラあったわよー」
 早くも目標を発見したハルヒが手を振っている。
「あう……」
 朝比奈さんの入れたばかりの気合が抜けていくのが見えるようだ。


 抵抗する事をあきらめた朝比奈さんを掴んで更衣室に入っていくハルヒ。
 扉に鍵がかけられるとすぐに
「ええ! こんなの無理です?着れません!」
「だ~いじょうぶ、絶対似合うから!」
「無理です~!」
「ああもう無駄な抵抗はやめなさい! これもSOS団の崇高なる広報活動の為なのよ!」
「プ、プリクラ撮るだけじゃないんですか?!」
「知らないの? 最近のプリクラは撮影データをメールで送れるの!」
「それだけはだめですー! あ~あ~? なんでそんな衣装があるんですか?!」
 いったい中では何が起こってるんだ?
 なあ古泉。
「なんでしょう?」
 お前らの機関がハルヒの為にわざわざ準備したってのは……もしかしてこのコスプレブースの事か?
 俺の言葉に、古泉は笑顔のまま固まっている。
 ……図星なのかよ。
「上の人は、とにかく涼宮さんの趣向に会う物を準備すればいいと思っている所がありまして……」
 このまま、スケープゴートにされた朝比奈さんの悲鳴を聞き続けるのも失礼な気がする。俺達は2人を残して、
無人のゲームセンターを探索する事にした。


 なんていうか、誰も居ないゲーセンって不気味だよな。
「夜の学校とは別の怖さがありますね」
 わざとか。わざとだな?
 嫌な事を思い出させるな。
 最新型のゲーム機がデモを流しながら並ぶ店内を俺達はあても無く進んでみたが、やはりというか誰とも出会う事はなかった。
 別にここでゲームをしてはいけないって事はないんだろうが、なんとなく何か変な事が起こりそうでその気になれない。
 そういえば、古泉はゲーセンってよく来るのか?
「いえ、高校生になってからは初めてです。最近はおかげ様でアルバイトは減っていますが、こう見えて忙しいんですよ、色々とね」
 ちなみに古泉の言うアルバイトとは、マックやコンビニの店員などではなくハルヒが無意識に作り出してしまう閉鎖空間をなんとか
することだそうだ。
 セールスマンの様なこの笑顔の下には、俺のような一般人には理解できないストレスもあるのかもしれん。
 ちなみに、さっきから俺と古泉で話しているが長門も一緒についてきている。
 いつものように無言の長門なのだが、珍しい事に回りを時々見回していた。
 長門、何か変な所でもあったのか?
 俺の質問に黙って首を僅かに横に振る。
 こいつが危険を見つけない限りは、多分俺達も大丈夫なはずだ。
 ……何か面白そうな物でも見つけたか?
 ありえないだろうが一応聞いてみると、長門はすぐにうなずいた。
 こいつが興味を示すものっていったい……あ、マジックアカデミーとかか?
 しかし俺達が今居るのは大型の筐体が並ぶスペースで、見まわしてはみたがそれらしいものは見当たらない。
 どれが面白そうなんだ?
 無言のまま長門が指差したのは。
「意外ですね……」
 店の一角を埋めるように作られたRPG体験ゲームだった。
 俺もよく知らないが、内部にモニターがついているヘルメットをかぶってシートに座り。擬似世界で冒険をする……みたいな
ゲームだったと思う。あれ? 俺はどこでそんな情報を知ったんだったかな……。
「おまたせ~!」
 ハルヒが朝比奈さんを引きずって追いついてきた……ってお前。
「み、見ないでください……」
 ハルヒの後ろに隠れる朝比奈さんはすでに涙目で、黒いバニーガールの姿に、蝙蝠の羽のような物を腰に付けたコスプレの
衣装だった。
 制服越しでも直視すれば心拍数が上がってしまう様な朝比奈さんのスタイルが、今は所々狙ったかのように生地が足りない
バニースタイルでさらに強調されている。
 しかも羽付き。
 こんな小悪魔が現れたら、魂なんていくらでも集まるのではないだろうかと思うね。俺だったら喜んで差し出す。
「もう、いつまで恥ずかしがってるの? 前にも着た事があるバニーなんだから恥ずかしくないじゃない」
 お前は私服のままなんだから恥ずかしくないだろうよ。
「恥ずかしいです……これ、なんの服なんですか……? なんで羽がついてるんですか……?」
「知らないわ」
 ハルヒ、いつもならお前を責める所だが今日は褒めてあげたい。俺は表情を変えないように努力しながら、さっきの話通りならば
今頃部室のPCに転送されているであろう朝比奈さんの画像を秘密のフォルダにコピーすることを心に決めた。
「あれ? 有希……めずらしいわね。あんたこれやってみたいの?」
 長門は一人、筐体に置かれた説明書を黙々と読んでいる。
 どうやら本当に興味があるみたいだな。
「へ~……たまにはこーゆーのもいいかもしれないわね……」
 ハルヒが筐体のあるスペースの中に入って行ったので、俺達もそれに続く。
 スペースの中の壁には、10個程のアンティークな扉が並んでいた。扉の間隔は狭く壁を見る限り奥行きもない、どうやら一部屋に
一人ずつ入る仕様らしいな。
 扉の横に1ゲーム500円の文字とお金を入れる場所があるのを見て、ハルヒはさっそく財布から500円硬貨を取り出している。
 やってみるのか?
「あんたもやるの! 多人数で遊ぶゲームっぽいしみんなで一度にプレイしたほうが楽しそうじゃない」
 長門も財布から500円硬貨取り出している。
 おいハルヒ、お前このゲーム知ってるのか?
「知らないわ、やって覚えればいいじゃない」
 お前は説明書を読まないタイプだと思っていたよ。
「面白そうですね」
 ここが普通の空間ではない事を覚えているのか忘れているのか、古泉もやる気だ。
 朝比奈さんはと言えば少しでも早く個室に隠れたいらしく、すでに扉を開けようとしている。
 ハルヒの500円硬貨が投入口に消えると、大げさな金属音がして扉の鍵が外れた。


 扉の向こう側には大型のソファーとテーブルがあり、その上には色々ケーブルが付いたヘルメットが置かれている。
 他には何も無い、モニターもキーボードもハンドルも何一つ無い。
「先にはじめてるから!」
 壁越しにハルヒの声が聞こえる。
 わかった!
 どうやら壁は薄いみたいだな、俺も大声で答えておいた。
 他に選択肢もない以上こうするしかないよな。
 俺は扉の鍵をかけて、さっそくシートに座ってみた。
 ヘルメットはわかるが、これってどうやって操作するんだ?テーブルに置かれたヘルメットはフルフェイスになっている。
 かぶる……しかないよな?多分。
「わー! すご~い……ヘルメットかぶるだけでいいんですね~」
 どうやら朝比奈さんも問題ないようだな。古泉は少しはゲーム慣れしてるだろうし長門はゲームの説明書を読んでいたくらいだから
大丈夫だろう。
 個室の中を探しても説明書らしき物も見つけられなかった俺は、ヘルメットをかぶってみた。
 そういえば、このゲームってどこにもタイトルらしい名前が書いてなかったな……。


 ん……なんだ……?
 ヘルメットで視界が隠されて真っ暗になると思っていたが、何故か視界は真っ白だった。
 白い光に照らされているって感じじゃない。どんな理屈かはわからないが、外からの音や光は完全に遮断されている様に感じる
のに視界には何も無い真っ白な空間が広がっていて、静かだが無音というわけでもない。。
「遅かったわね」
 ハルヒの声に振り向くと、そこにはみんなはすでに集まっていた。
 全員が筐体に入るときの姿のまま、つまり朝比奈さんは羽付きバニーガール姿だ。
 ……っておい、俺は後ろを見ようと意識しただけだぞ?
 意識のまま視界が動いていることに、俺は驚いていた。
「真っ白ですね」
 ナレーションもなく音楽も無い、ただ真っ白な空間に俺達は立っている。
「もしかして、まだ調整中だったのかもしれませんね」
「えー! じゃあ遊べないの?」
 古泉の言う事はもっともな気がする……が、時折わざとらしく送られてくる視線に嫌な予感が止まらない。
 ハルヒに気づかれないようにそっと宇宙人の隣に移動して小声で聞いてみる事にしよう、できれば思い違いであって欲しい。
 長門、これはもしかしてゲームなんかじゃなくて……。
「閉鎖空間」
 わかりやすい返答ありがとう。
 この時点で、俺は平凡な休日を楽しめる可能性を諦めた。
 やっぱりそうなのか。
 いくら最近の技術革新が凄いからって、複数のプレイヤーの外見を完全に反映した別空間を演出する技術なんて聞いた事もない。
 ましてそんな技術があったとしても、500円1プレイなんて値段じゃないのは確かだ。
 古泉もここが閉鎖空間だとわかっているらしく、ハルヒとのんびり話を続けながらもどことなく緊張している様に見える。
「キョン君、私ゲームって詳しくないんですけど……これってこの後どうすればいいんですか?」
 えっとですね。
 どうやら可愛い未来人さんはこれがゲームの世界だと信じているらしい。
 なんて説明すればいいのか迷っていると、何か寂しげな音楽が流れ始めた。白い空間に音楽にあわせて文字が下から浮かんで
くる。
 ……これはなんだ?
 俺達は流れ続ける文字をじっと目で追っていった。

 

 世界の真ん中に立つ塔は
 楽園に通じているという

 遥かな楽園を夢見て
 多くの者達が
 この塔の秘密に挑んで行った
 だが、彼らの運命を
 知る者はない

 そして今、また一人……

 

 文字が最後まで流れきると、ただでさえ白い空間が一瞬光り俺達は見たことの無い街に立っていた。
 見た感じ石造りの古い感じの街で、中世のヨーロッパって感じだろうか。見たことなんて無いから断言はできないが。
「ふぇ~……この時代のゲームって凄いんですね~」
「本当、凄いわね……壁も床もちゃんと触れるし」
 朝比奈さんとハルヒは地面や壁に触れながら、純粋にゲームの世界を楽しんでいるようだな。正直羨ましいぜ。
 って、朝比奈さん。今何気にこの時代とか言ってませんでした?
「困りましたね」
 古泉はハルヒに見られないように苦笑いをしている、事情を知ってしまっている俺達は素直に楽しめそうにないな。
 出られないのか?
 ハルヒ達に聞こえないように古泉に聞いてみた。常識が通用しない世界で頼りになるのはこいつか長門しか居ない。
「ここは僕の感覚では閉鎖空間に間違いありません、ですが何故かここには神人の気配がしません。それにいつもと違い色彩も
豊かですし……正直、状況がつかめません」
 確かにいつもなら閉鎖空間はモノクロの世界だ。
 これがハルヒの無意識から生まれた閉鎖空間だったら、神人を倒すことで元の世界に戻れるはずだ。だが、その神人が居ない
ならどうすればいいんだ?
「どうやらここは涼宮さんの作り出した閉鎖空間では無いのかもしれません。となると、例の最終手段もここでは意味がないかも
しれませんね?」
 意味深な笑みを浮かべる古泉を睨んでおく。
 こいつは古い事をいつまでも……。
 長門、お前はどうだ?
 頼りにならない超能力者から最終兵器元文芸部員へと視線を移すと、
「…………」
 何故か長門は何も喋らない、いや喋らないのはいつもの事なんだが返事もしないのは珍しい。
 それにまるで電池の切れた機械みたいにじっとしている。
 長門?
 俺は顔の前で手を振ってみたりかるく揺さぶってみたりしたが、長門はまるでネットゲームでモデムが再起動を始めたかのように
何も反応しなかった。
「何かお困りですか?」
 俺達に話しかけてきたのは、優しい笑顔を浮かべた黒いスーツの男の人だった。
 その人はいかにもゲームの世界の人物らしく、シルクハットなんて物かぶっている。
「友達が貧血を起こしたみたいなんです」
 古泉の返答にうなずくと、
「この先に休めるところがありますのでよかったらどうぞ」
 シルクハットの人が指差す先にはINNと書かれた看板があった。ここがゲームの世界だとするならば、宿屋みたいなものが
あるはずだよな。
 ありがとうございます。
 軽く頭を下げる俺に、良識のある人シルクハットの人は会釈をしながら街の中に戻っていった。


 いつのまにか居なくなっていたハルヒと朝比奈さんを探してみると、二人はすぐに見つかった。
 町の人を見つけるたび、次々と楽しそうに話しかけていっている。
 どうやらなんの疑いも無くゲームを楽しんでいるようだな。正直、うらやましくもある。
 ハルヒ! ちょっと長門の具合が悪いんだ。
「え? ……あ、本当ね。有希、大丈夫?」
 長門は相変わらずなんの反応も示さない。いつものように無表情だけど、見ようによっては辛いのを我慢しているように
見えなくも無い。
「長門さん、どうかしたんですか?」
 朝比奈さんも心配そうに長門の顔を見ている。
「貧血じゃないですかね。そこに休めるとこがあるって街の人が言ってました」
「ん~……じゃあ、私とみくるちゃんでもう少し情報を集めてきてあげるから、キョンと古泉君は有希と休んでて」
 よほどこのゲームが気に入ったらしい、俺がうなずけばすぐに走りだしそうな雰囲気をハルヒから感じる。
 確かにハルヒと一緒に居たら、何に巻き込まれるかわからないから動けない長門はハルヒと別行動したほうがいい、が。
 ついてるだけなら俺一人でもいいし、古泉も一緒に行ってこいよ。
 俺じゃあ、何かあってもハルヒを止める事も守る事もできないからな――無茶をしないように見張っていてくれ。
「そうですね、僕も少しはゲームに詳しいですから涼宮さんに付いていきますよ」
 俺の気持ちが本当にわかっているのか、ハルヒ達に見えないように古泉はウインクしてみせた。


「キョン、ふたりっきりだからって有希に変な事したら死刑だからね!」
 するかよ……。
 宿屋に俺と長門を残して、ハルヒ達は街に出かけていった。
 そこは宿とは言っても広い空間にベットが規則正しく並んでいるだけの場所で天井すらないスペースだった。
 どちらかというと野戦病院みたいな感じだな。それにしては屋根が無いのは致命的だと思うのだが、ゲームの世界には
雨は降らないのかもしれない。
 ベットの上に座った長門は、相変わらずなんの反応も示さないでいる。
 俺は長門の向かいのベットに座って、のんびり長門の回復を待つ事にした。
 さてさて、これからどうなるんだろうな……。
 今までの経験からすると、長門か古泉が状況を把握しない限り異常事態が解決した事は無い。となると一般人でしかない
俺にはのんびり待つしか選択肢がないよな……。
 ベットに寝転んで雲ひとつない空を眺めていると、宿屋のすぐ傍に立つ巨大な塔が視界に入った。
 その塔は物理法則を無視するかの様にどこまでも高く伸びていて頂上は見えず、まるで宇宙まで続いているかのようだ。
 塔……そういえばどこかで聞いた気がするな。
「駄目」
 突然聞こえてきた長門の声に起き上がると、向かいのベットの上にはさっきと寸分変わらぬ体勢の長門が居た。
 何が駄目なんだ?
「統合思念体と限定的な形でしかコンタクトできない、情報連結は繋がっているけれど意思の疎通に無視できない障害がある」
 相変わらずこいつの話す言葉は、普通の高校生でしかない俺には理解しにくい。
「……携帯の電波が悪くて、お互いの声がうまく聞こえないって感じか?」
 長門は小さくうなずく。
 おお、あってた。
 それってまずいのか?
「私の基本方針は統合思念体の意思によって決められる、その意思が伝わらない時は状況を見て行動するように指示されている」
 今日の説明はいつもよりはわかりやすいな。つまりいつもは言われるままに行動してるけど、今は好きにしてもいいって事か。
 じゃあ今日は休日だな。
 流れの無い湖底の様な揺るがない瞳が俺の顔を見つめている。
 長門の好きに行動していいんじゃないか?
 俺の返答に、長門は珍しく困ったような表情を浮かべているように見えなくもない……いや、やっぱり無表情か。
 お前に好きにしろって言ったらずっと本を読んでるかもしれないが、それはそれでいいかもしれない。
 ずっとハルヒの監視だけなんて高校生活じゃ面白くないだろうしな……ってまてよ、今はそんなのんきにしてていい状況じゃ
なかった!
 長門、お前はここから出ようと思えば出られるのか?
 考えてみれば俺達は今、この世界に閉じ込められているんだった。
「出られない。統合思念体と正常にアクセスできない現状では、限定的にしか力を使えない」
 マジかよ。
 古泉も長門でも何ともならないなんて、これからどうすればいいんだ?
「この閉鎖世界は通常の空間とは別の次元に、ゲームのルールに従って作られている。ゲームをクリアする事で通常空間に
戻れるかもしれない」
 クリア……か。
 どうやらこのゲームはRPGのようだが、クリアにはどれくらいの時間がかかるんだ?
 しかも俺達はゲームの世界の人間みたいに、怪我をしても宿屋に泊まれば一晩で治るような特殊能力なんてないんだ。
 怪我とかしないように慎重に進まないといけない……が、かといって時間がかかりすぎるとハルヒもここが普通の空間じゃない
事に気がついてしまうかもしれない。
 ……まてよ?
 長門、この世界がゲームの世界だっていうならさ。コンピ研の時みたいにデータを改変する事ってできないか?
「少しなら可能」
 おお、望みが出てきたんじゃないか?
 そうだ、どうせならばいきなりクリアとかは。
「無理」
 やっぱりそうだよな。
「ただいま~」
 宿の入り口付近に騒がしい気配を感じると、ハルヒ達が妙にご機嫌で帰ってきた所だった。
 とりあえずゲームをクリアするしか道が無いのなら、俺もハルヒみたいにゲームを楽しむのが正しいのかもしれないな。
 現実逃避と言われても仕方ない発想だが、それしかないならそれが正道だろう。
 何かわかったのか?
 俺の言葉に、ハルヒは顔を輝かせて俺の後ろを指さす。
「それがね! あそこに見えているあの塔、あれって天界ってとこに通じてるんだって!」
 嬉しそうに話し始めるハルヒの話を聞いているうちに、俺は少しだけだがこのゲームに興味を持ち始めていた。
 ――3人が町で集めてきた情報によると、だ。
 この町の塔は天界に通じているのだが、塔の鍵を玄武という魔物が英雄の像に隠してしまったらしい。
 いかにもって設定だな。
 後は、ここから南東に行くと町があるけれど、町の外はご丁寧にモンスターがうろつく無法地帯だそうだ。
「南東の町でもう少し情報を集めるしかないでしょうね」
 その前に、装備を整えないとな。
 わざわざ無法地帯とまで言うくらいだ、敵も出るだろう。
 長門、もう大丈夫か?
 いつものように長門は無言のまま頷く。
「決まりね! まずは武器を買いにいくわよ!」
 ハルヒを先頭に、俺達は宿屋を後にした。


「ちからのもと? ってこれ何、野菜?」
「HP200……キョン君、これって何ですか?」
 店にはいかにもゲームのアイテムといった商品が並んでいる。店主もプログラムされた事しか話せないのか、何度話しかけても
「なんの ようだ!」としか答えてくれない。それにしても無愛想な店主だ。
 俺もこのゲームは初めてだからわかりません。……長門、わかるか?
「HP200は体力の最大値を上げる薬、ちからのもとは力を上げる薬……」
 すらすらと長門はアイテムの説明を話はじめ、それは店にある全てのアイテムの説明が終わるまで止まらなかった。
 驚いた顔で固まる俺達、朝比奈さんはぱちぱちと手を叩いている。
「有希、このゲームやった事あるの?」
 長門は首を横に振り。
「説明書に書いてあった」
 と答えた。
「じゃあ、どれが私向き?」
 店に並んだアイテムの中から長門がハルヒに選んだのは、細身の剣「レイピア」だった。
「あの~私はどれがいいでしょうか……」
 長門はまるで規定事項のように朝比奈さんには弓を――俺には何故か盾を選んだ。
 武器を選んで貰ったハルヒ達はさっそく武器を試してみている。
 ハルヒと違って朝比奈さんは武器なんて触った事もないだろう。
 まあ、俺もハルヒもないはずだが。
 それとなく長門に聞いてみる。
 まあ俺が盾なのはいいとしてだ、朝比奈さんに弓はまずくないか?
 あの人の場合敵に当てられないというより、味方に当ててしまいそうな気がするんだが……。
「オートロックオンモード。敵にしか当たらない設定、大丈夫」
 視線の先で、朝比奈さんがおっかなびっくり構えた弓から勢いよく矢が飛んで行った。
「キョンく~ん! この弓凄いです! 狙ったとこに飛んでいくんですよ!」
 町の壁には、朝比奈さんが放ったのであろう矢が一か所に何本も突き刺さっていた。
 朝比奈さんは大喜びで手を振っている。
 普通はそんなに弓が強かったりしないんですよ? なんて無粋ことは決して口にはしない。
 ああそうか、野球大会の時みたいな感じなんだな。それなら自分の身も安心だ。
 一方ハルヒはと言えば、そんなに軽そうには見えないレイピアを片手で華麗に振り回している。こいつには苦手な物などないのか?
 長門と古泉はどれにするんだ?
「僕はこの世界では多少、力が使えるみたいです」
 言いながら差し出した古泉の手の上に、例の赤い玉が現れる。
「ゲームの世界の能力。エスパーボーイって事でお願いします」
 公然と能力が使えるのが楽しいのか古泉は嬉しそうだな。
 古泉、長門の話だとどうやらこのゲームをクリアしないと元の世界には戻れないらしい。
「そうですか、じゃあ頑張らないといけませんね」
 のんきな返答にしか聞こえないが、実際それ以外に方法は見つからない。
 長門はどれにするんだ?
「大丈夫」
 大丈夫って……。素手でいいのか?
 いつものように長門は無言のまま頷く。気のせいかもしれないが、その顔は少しだけ楽しそうに見える。
 ちなみに、長門のデータ改変のおかげで店の売り物は全部無料だった。
「プレオープンキャンペーン中」
 という説明でハルヒはあっさり納得したらしい。
 ステータスアイテムもいきなり最大値まで使ったおかげで、長門によればよほどの事が無い限り怪我とかの心配はしなくても
いいそうだ。
 ご都合主義? 制作者には悪いが。先が見えないゲームの世界でルールなんて物にかまってられないのさ。


 南東は……道が一方にしか伸びてないからこっちだろうな。
 準備を終えた俺達は、さっそく南東の町へ向かって出発した。
「さー! モンスターでもなんでもいらっしゃい!」
 物騒な事を言いながらハルヒが先頭を歩いている。
 その後ろに俺、長門、朝比奈さんと続き最後尾は古泉だ。こうして歩いていると、いよいよ冒険の物語って感じがするな。
 広い荒野には俺達しか姿が無く、遠くからは鳥の声が聞こえてくる。
「……おや、どうやら敵がきたようですよ?」
 広い荒野に小さな影が見えたかと思うと、それはまっすぐこちらに向かって走ってきた。
 小さな子供位の大きさで、手にはナイフを持つ醜悪な外見の怪物。
 ゴブリンか?
「コボルトかもしれませんね」
 いきなりホブゴブリンって事はないだろうな。
「名前はいいから!あれって倒してもいいんだよね?」
 目を輝かせながらハルヒが聞いてくる。その闘争本能をスポーツにでも活かせばいいだろうに。
 友好的には見えないから戦っていいぞ
 俺が言い終わらない内にハルヒはゴブリン(仮称)を迎え撃ちに走りだした。
 敵のナイフが届かない間合いを維持しながら、ハルヒのレイピアが敵を突き倒していく。
 やれやれ、俺達の出番はないみたいだな。
「そうでもないようですよ?」
 答えながら古泉が赤い玉を作り出て構える、その視線の先には5つ程の小さな鳥の姿があった。
 それはこちらに近づくにつれて徐々に数を増やし大きくなっていく。
「朝比奈さん、援護をお願いします」
「は、はい!」
 古泉の玉と朝比奈さんの矢が鳥に向かって飛んでいく、それは次々と命中していくが
「……これは間に合いませんね」
 敵の数が増える方が多くて、近づかれる前には倒しきれそうに無い。
「キョン! そっちは任せたからね!」
 ハルヒも多対一では余裕はないようだ。
 とは言っても俺は盾しか持ってないんだが……。
 矢と玉の雨の中を切り抜けてきた鳥が、まっすぐこっちに突っ込んでくる。
 ええい! やるしかない!
 俺は朝比奈さんめがけて急降下してきた鳥の進路に立ちふさがり、盾を身構えて鳥の突撃を防いだ。
 ……ごんという鈍い音が響き、鳥はあっさり地面に落ちる。
「キョン君大丈夫ですか?!」
 思っていたような衝撃も無く、怪我もない。凄いなこの盾、これにも長門が何かしてくれたのかもしれない。
 大丈夫ですよ。
 残りの鳥は古泉の活躍で撃墜され、ハルヒも最後の一匹に止めを刺した所だった。
 残ったのは地面に倒れたまま動かない鳥が一羽、さてどうしたものかと思っているとここまでじっとしていた長門が歩いてくる。
 何も言わないまま長門が鳥に触れると、鳥は跡形も無く消えていった。
「有希凄いじゃない! 今のなになに?」
「特殊能力」
「え~いいなぁ! 私も有希や古泉君みたいに何かすっごい能力とか使えないのかな?」
 さっそく適当な名前を叫びながらレイピアを振っているハルヒはおいといて、だ。
 長門にとって敵は所詮データに過ぎないから消去することもできるわけか。「ゲームの中という大義名分」がある以上、長門は
いつも以上に無敵の存在かもしれない。
 その後は何事も無く、俺達は南東の町に辿り着いた。

「ここは英雄の街さ」
 入り口に立つ人が不自然な笑顔で話しかけてくる。
 試しに何度か話しかけてみたけど同じ返答しか来なかった。やっぱりゲームの中に居る人は決められた事しか話せないみたいだ。
 実写でゲームはやるもんじゃないって言ってた小学生がいたが、その通りだぜ。
 ……あれ、そういえばあのシルクハットの人は普通に話せてたよな?
 もしかしてあの人はゲームの進行役というか案内係とかなのかもしれない。
「別れて情報収集するわよ、10分後にあの街の真ん中の像の前に集合!」
 言い終えたハルヒは返事も待たずに走りだしていく。
 この世界がハルヒのストレス解消の為に作られたのなら、大成功だと言わざるを得ない。
「では、僕達も行きましょう」
 俺達はそれぞれ街の人に聞き込みをはじめた。
 せっかく別行動にしたのだが、10分どころか5分もしないうちに情報収集は終わってしまった。街はとても小さな作りで、最初の街
同様に街の人も殆ど居なかったからだ。
「集まった情報をまとめると……この街の英雄の像を元の姿に戻せば塔に入れるようになるって事みたいですね」
 その為には剣と盾と鎧を集めなければならない、多分3人の王様ってのが情報を持ってるか装備を持ってるんだろう。
 やっぱり古典的な普通のRPGみたいだな。
「じゃあ別れて集めに行きましょう、くじ引きできそうな物……って何かない?」
 またくじ引きか。流石にゲームの世界で爪楊枝は無いぞ。あるかもしれないが。
 あ、そうだ。
 これでいいか?
 そう言って俺が取り出したのはプレオープンのチケットだ、これなら人数分あるしいいかもしれない。


 ハルヒがチケットに印を入れて順番に引いた結果。
 俺と長門。
 ハルヒと朝比奈さん。
 古泉は一人。
 という3つのパーティーが出来上がった。
 何故かハルヒは不満そうな顔をしているが、文句があるなら最初からくじ引きじゃなくて、自分で決めればいいだろうに。
 いつもなら団長命令とか言ってなんでも自分の好きに決めるんだ、何故くじ引きにこだわるんだ?
「……まあいいわ、じゃああたしとみくるちゃんは剣の王様から剣を奪ってくるから」
 確かに盾と鎧はハルヒってイメージじゃないな。
 物語の展開上そうなるなら仕方ないが、一応は交渉する方向でいけよ? お尋ね者にはなりたくない。
 無駄になるであろう忠告をハルヒはさっそく聞き流している。
「それでは、僕は盾の王様に会いに行きますね」
 古泉は一人なので、街から近い盾の王様に決まった。
 残った俺と長門は鎧の王様。
 集合場所をこの像の前に決めて、俺達はそれぞれの目的地へ向けて移動をはじめた。


「よくいらっしゃいました。2階へ行って王様の悩みを聞いてあげてください」
 俺と長門は鎧の王様の城に辿り着くと、妙に愛想のいい兵隊に迎えられてさっそく王様に会うことになった。
 ちなみに街から城まで3分とかかっていない、どうやらここは小さな世界みたいだな。
 あなたが王様ですか?
 2階には人目でそれとわかる豪華な鎧を着た人が椅子に座っていた。
「そうだ俗に言う恋煩いだ」
 ……会話が噛み合わないのは俺のせいなのか?
 え……えっと恋煩いですか。大変ですね。
「うむ。南の村の娘でな。どうしてもうんと言ってくれんのだ‥‥」
 ここは俺達がなんとかしますとか言うしかないよな?
 俺は視線で長門に訴えてみたが、予想通りなんの反応もなかった。まあ、適当に話しても多分なんとかなるんだろう。
 わかりました、とりあえず話を聞いてきます。
「望みの物をとらせよう」
 ……最後まで話が噛み合わないまま、俺達は南の村とやらに向かうことになったようだ。


 そういえばさっきから敵が出ないけど、お前がなんとかしてくれてるのか?
 気になっていたことを、城からのんびりと南の村に向かいながら長門に聞いてみた。最初に敵が出てから一度も戦闘が
ないってのは、ゲームバランスとしておかしい。
「エンカウント率は0にしてある、イベント以外の戦闘は回避」
 なるほど、時間をかけない為にはそれしかないか。アイテムでドーピング済みだし、多分なんとかなるかな。
 川をいくつか越えると小さな集落が見えてきた。どうやらあれが南の村らしい。
 ――いままでが順調過ぎたのかもしれない。
 俺達が辿り着いた時、南の村はスライムのようなモンスターでいっぱいだった。
 これは……村がモンスターに襲われてるって事だよな。
 モンスターを全滅させてくれってイベントなんだろうか。俺は盾を持つ手に力を込めた。盾でどうするってわけでもないが。
「違う」
 長門は何も警戒しないままスライムの一匹に近づいて行った。
 お、おい大丈夫なのかよ?仕方なく俺も盾を構えながらついて行く。
 長門がスライムの目の前に立つと
「奥に居るのが村一番の美人だよ」
 どこから話しているのか分からないが、スライムは友好的に教えてくれた。
 ……これ、もしかして村人なのか?
 どうみてもモンスターにしか見えないが、多分そうなんだろう。村中にうごめくスライムの群れは、しばらく夢に出そうな光景だ。
 朝比奈さんがここに来なくてよかったよ……ほんと。
 ――色々あきらめつつ村の奥に行くと、一匹だけ一箇所で止まったまま動かないスライムが居た。
 もしかして、これ、じゃなくてこの液体が……その
 あ、貴女が村1番の美人さんですか?
 俺はどの部分に話しかけて良いのかわからないので、スライム全体に向かって話しかけてみた。スライムは俺の言葉に
うごめいている。
「うなずいてる」
 長門、こいつの動きの意味がわかるのか?
 長門は当たり前とでも言うようにうなずいた。
 ……もしかして、もしかしてだぞ?
 宇宙人である長門から見たら、俺達人間もこのスライムもそんなに変わらない物なのか?
 その事について詳しく聞いてみたいのを我慢しつつ。俺は村一番の美人らしい物体との会話を続ける事にした。
 あの、私的な事を聞いてすみません。俺達、王様に頼まれてきたんですが。どうして王様のプロポーズを断るんですか?
「盗賊に脅されているんです。嫁にならないと村を焼き払うって。村を犠牲にはできません」
 どこに発声器官があるのか謎だが、悲しそうな声でスライムは喋っている。
 ……声だけ聞けば綺麗な声だとは思う。もしかして、王様は目が見えないとか……まさかね。
 村で盗賊の居場所を聞いた俺達は、さっそく盗賊が居るという洞窟に向かった。
 そういえば他の3人は大丈夫だろうか?
 ゲームはそんなに問題ないだろうけど、ハルヒが無茶をして朝比奈さんを困らせてなければいいんだが。


 洞窟の中は日が差さず、薄暗いのに何故か遠くまで見渡せた。この辺はゲームならではなんだろうけどありがたい。
 朝比奈さんみたいなタイプなら、こんな場所だと怖がってしがみついて来そうな場所だ。
 長門は特に表情も変えないまま俺の後ろをついてくるだけだった。
 まあ、いつもの事だよな……だがまあ物は試しともいうし階段をいくつか下りたところで一応、男として言ってみる事にした。
 長門。
 俺に呼ばれて長門が俺に視線を向ける。
 怖かったら手を掴んでもいいんだぞ?
 長門の返答はなかった。
 そのまましばらく待ってみたが、やはり返事はなかった。
 すまん、俺が悪かった。
 とりあえず謝って、俺はまた洞窟を歩き始めた。
 再び俺の後ろを歩き始めた長門が、俺の服の端を掴んでいるのに気づいたのはしばらく後の事だった。

「誰が入っていいと言った!」
 洞窟の一番奥に入ると、突然そんな声が聞こえてきた。
 お、ボスキャラかな?
 俺は盾を構えてさらに奥へと進む。声の主は、巨大な蛙みたいな何かだった。
 えっと、村一番のスラ……美人さんから手を引いてくれませんか?
 どう見ても説得には応じない感じだが、対話と圧力で交渉してみる。
「やろう、ふざけるな!」
 そうだよな、盾しか持ってない高校生なんか怖くもなんともないよな。現実の世界で居れば別の意味で怖いんだろうが。
 大蛙はいきりたってこちらに向かって来た!やっぱり見た目の戦力がなければ、たとえ潜在戦力があっても圧力にはならない
という日本の外交問題が意図せず露見されたわけだ……と適当に難しそうな言葉を並べてみる。
 長門、頼めるか?
 俺の言葉に長門は小さくうなずく。
 俺は盾を構えて、まっすぐ突っ込んできた蛙の突進を受け止めた。やっぱりそうだ、なんでかはわからないがこの盾は衝撃を
完璧に消してくれるらしい。
 頭から突っ込んできた蛙を盾であっさり押しとどめると、すかさず長門が横から蛙に手を触れる。
 じゅっ! と焦げる音がして長門の手から煙が上がる。それと同時に蛙は跡形も無く消えていった。
 な、長門大丈夫か?!
 長門の手は、蛙に触れた部分が真っ赤に腫れあがっている。
「カウンター型の能力」
 いや、俺はそんな事を聞いてるんじゃなくてだな?
 もうここには用はないはずだ。俺は長門を抱えあげて急いで洞窟の外に向かった。


 汗だくになりながらもなんとか外に出た俺は、洞窟の近くにあった川のそばに長門を下ろした。
 完全に息が上がってしまって、言葉にならない。
 俺は長門に川を指差して、自分の呼吸が落ち着くのを待った。人間、必死になれば何でもできるもんだな……。
 大きく深呼吸しながら草むらに仰向けに寝転んでいると、長門が川から戻ってきた。
 俺のすぐそばに座って手を差し出してくる。
「水」
 両手で水をすくってきたらしく、手の隙間から雫が落ちている。
 あ、ありがとう。
 人の掌から直接水を飲むっていうのは、なんというか気恥ずかしいが今は疲れていて気にならない。
 上半身を起こして長門の掌に顔を近づけると。
 あれ?
 長門の手は、綺麗な白い肌に戻っていた。とりあえず水を飲んでからにしよう。
 ……人の手から水を飲むのは以外に高難易度だった、機会があれば試して欲しい。
 ありがとう、長門。
 喉は潤ったが、まだ体は動いてくれそうにないな。とりあえずお礼を言って、俺はまた草むらに寝転んだ。涼しい風が
通り抜けていく。
 このまま昼寝でもしたい所だが……そうもいかないよな。
 長門、手は大丈夫か?
「平気」
 洞窟で見た時はどうみても平気には見えなかったのだが、今はいつもの透けるような白い肌に戻っている。
 考えてみれば、だ
 全身を貫かれた時も、制服を含めてあっさり治して見せた長門には火傷なんてものは怪我のうちに入らないのではないだろうか?
 ……もしかして、俺よけいな事したか?
 俺の顔を見ながら長門は顔を横に振った。
 その顔はなんとなく嬉しそうに見えた……気がしないでもない。


「ありがとう」
 鎧の王様の城に戻ってみると、そこにはすでに村一番の美人スライムが来ていた。
 ゲームの世界とはいえ、スライムが好きな人が王様で国民はいいんだろうか?まあいいか。
 いえ、どういたしまして。
「うむ。何が望みじゃ?」
 相変わらず会話が成立しない……その辺は諦めるとして、とりあえずゲームを終わらせないとな。
 王様は英雄の像が着ていた鎧をお持ちだとか?
「そうか。わかった!!」
 何がわかったんだ?王様は俺と長門の目の前で突然鎧を脱ぎ始めていく。
 次々と鎧を外していき、ついには下着姿になった王様を見ても長門は表情一つ変えなかった。
 長門の前で堂々と鎧を脱ぐ王様も、ある意味すごいが。

 キングのよろい を てにいれた。

 ……まあいいか。


「あ、戻ってきましたよ!」
 俺と長門が南東の町に戻ると、そこにはすでにみんな揃っていた。
「お疲れ様です」
 古泉の手には大きな盾が
「遅かったわね」
 ハルヒの手には身長と変わらない程の長さの立派な剣が――なんで片手で持てるんだ?
「キョン君、重そうですね」
 俺の背中には、王様の着ていた鎧の入った木箱が重く圧し掛かっている……本当に中世の人はこんなのを着てたのか? 
本当は飾ってただけなんじゃないかと俺は思うんだが?
 やっと荷物を降ろせた俺はそのまま地面に座りこむ。
「さあ、さっそくこの像に全部装備させるわよ!」
 が、ハルヒの号令でさっそく像に鎧が着せられる事になった。
 休ませてくれ……なんて聞くわけないよな。はいはい。
 十数分後、ようやく鎧を着せ終えた俺はハルヒに見えないようにと少し離れた場所に座った。
 後は剣と盾だから俺が休んでいてもすぐに終わるだろう。
「お疲れ様でした。キョン君の方はどんなストーリーだったんですか?」
 力仕事なので朝比奈さんも休憩中だ。
 なんというか、人の趣味ってのはわからないって感じでしたよ。
 全部話してたらきりが無いので、俺は率直な感想を伝える。
「今度詳しく教えてくださいね、私と涼宮さんも大変だったんですよ」
 朝比奈さんの笑顔で癒されていると。
「完成!」
 ハルヒが像の上にまたがって剣を持たせたところだった。
 ……そんな所に登ると色々下から見えるんだが。
 と、注意したいが注意すればしたで怒るのは分かっているので見てない振りをしておくことにしよう。
 ハルヒの声を待っていたかの様なタイミングで、立派な姿に戻った像の前に光り輝く黒い水晶が現れた。
 おお、これがクリアアイテムって奴か?
 呆然と水晶を見つめていると、地面が揺れだし俺達はそれぞれ武器を取って身構える。
 そうだよな、普通はボスが居るもんだよな……。
「3つのアイテムを集める奴がまた出たか!」
 突然その場に現れたのは、巨大な亀の化け物だった!
「あ!もしかしてこの亀が玄武ですか?」
 嬉しそうに朝比奈さんが手を打つ。
「そういえば、玄武って魔物が像の中に塔の鍵を隠したってどこかで聞いたわね」
「ボスキャラ、でしょうね」
 ハルヒと俺が前に立ち、朝比奈さんと古泉は後ろに長門は少し離れた場所で隙を窺っている。
 じりじりと距離を詰める俺達に向かって大きく吼え、玄武が俺に向かって突進して来た! 一番弱そうに見えたのか? 正解だ。
 だが悪いな、こっちにはチートアイテムがあるのさ!
 人間の数倍はある玄武の突進は、俺の盾の前にまるで停止ボタンを押されたかの様にあっさりと阻まれた。
 停止して隙だらけになった玄武に一斉に攻撃が降り注ぐ、ハルヒのレイピアは易々と玄武の甲羅を引き裂き、朝比奈さんの弓と
古泉の光球が玄武の勢いを止める。
 俺の出番は終わりだな。
 他にする事もない俺は長門に玄武が向かわないように、視界をふさぐように周りを逃げ回っていた。
 俺にできることと言えば後は応援くらいだが、俺に応援されて喜ぶ奴もいないだろうし大人しくしている事にしよう。
 その間もハルヒ達の攻撃は雨の様に続き、ついに玄武は動かなくなった。
「思い知った?これがSOS団の実力よ!」
「お見事です」
 正しくはドーピングの力だろうがな。
 空に向かってレイピアを突き上げながら、高らかにハルヒが勝鬨を上げている。
 心底楽しそうなハルヒを見ると、このゲームが誰の意思で作られたのかは別として涼宮のストレス解消にはかなり役立ったような
気がする。
 でもそろそろ終わりにしてもいいよな?
 俺は長門に向かってうなずいて見せた。長門が玄武に近寄り体に触れると、その巨体がゆっくりと消えていく……。
「これで勝ったと思うなよ!」
 最後に悪役らしい捨て台詞を残して、玄武は消え去った。
「ふん、けっこう面白かったから2が出たら遊んであげるわ」
 ハルヒは黒い水晶を掴んで不敵な笑みを浮かべた。
 製作者さんよ、できれば次回作は一人プレイにしてくれないか?


 最初の街に戻った俺達は、さっそく中央にある巨大な塔の前にやってきた。
「おや、それはクリスタルですね」
 やはり案内係なのだろうな。塔の前には、シルクハットの男性が待っていた。
「これクリスタルっていうの?このあたしが玄武を倒して手に入れたのよ」
 嬉しそうにハルヒは答える。
 倒したのは俺以外のみんなで、止めを刺したのは長門なんだけどな。
「それは凄い! それは貴重品なだけではなく、この塔の鍵でもあるんですよ」
 やっぱりこの人だけは普通に会話できるみたいだな。
 優しい笑顔を浮かべているシルクハットの人は、物静かな感じのする年齢のよく分からない人だ。
「情報通りね、じゃあさっそくいくわよ!」
「どきどきしてきました~」
 クリスタルを手に、塔に向かってハルヒが歩き出すと爆発音と共に塔の扉がゆっくりと開いていく。
 みんなで塔の中へと入っていくと、中には塔の上に続く螺旋状の階段が伸びていた。
 これでクリアだと思うと、単調な階段を登る時間もなんとなく楽しかったりしてくる。
「やれやれ、これでクリアですね」
 古泉が嬉しそうに息をつく。
 こいつはこいつでずっと気を張っていたのかもしれないな。
「面白かったです~、キョン君ってこ~ゆ~ゲームをいっぱいやってるんですか?」
 ここがゲームの世界だと最後まで朝比奈さんは信じているようだな。ここまで信じているのなら、本当の事は話さないでいいかも
しれない。
 いえ、俺もこの手のゲームははじめてです。
「そうなんですか~」
 結構楽しかったようで、朝比奈さんは名残惜しそうだ。
「……」
 長門は何も言わないが、満足そうな顔に見える。
 色々あったが俺も楽しかったし、これはこれでSOS団の思い出の1ページになったと言えるだろう。
 塔の扉を次々と開けていき、その先にあったものは……。


 ――青い海、白い雲、そよぐヤシの木。
 波の音と潮風の匂いがするそこはどうみてもゲームセンターではなく、これでゲームクリアだと思っていた俺達は、しばらくの間
その場で固まっていた。

 

 涼宮ハルヒの欲望 Ⅰ ~終わり~
 

 涼宮ハルヒの欲望 Ⅱ

 

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最終更新:2009年07月18日 10:09