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 今日も団長さんは不機嫌だった。
「あーもー! 何で何も面白い事が起きないのよ? みんな出し惜しみしてるんじゃない?」
 やれやれ……なあハルヒ、不思議な出来事はありませんかーなんて聞いて、はい! あります! なんて言う奴が居ると思うか?
 それにこんな県立高校の一角で謎の宇宙人が密かに暗躍してるとか、それに対抗する組織が確実に勢力を拡大してるとか
そんな事があるわけが「それは事実。それはいいとしてまた貴方に頼みたい事がある」
 ……長門、俺のモノローグに平然と突っ込みを入れるのは勘弁して欲しいんだが。

 


 簡単でおいしい!おかずレシピ「キョンの夕食」 3食目 「鏡」

 


「申し訳ない。事は一刻を争う」

 

「え、有希何かあったの?」

 

コクコク「これを」

 

「! これは」

 

 長門、お前まさか……。

 

「昼食に、昨日貴方に作ってもらったカレーを持ってきた。食べ終わった後、何度洗っても匂いが取れない」

 

 なるほどね、まあ結論から言おう。諦めろ。そもそもカレーは弁当には向かない。

 

「ちょっとキョン! あんた無口キャラの有希が設定崩壊を覚悟の上で話しかけてきたのにその態度はなんなのよ!」

 

「援護痛み入る」

 

 設定だったのか。まあいい、ともかくこの弁当箱から完全にカレー臭を取る事と弁当にカレーを持ち込む事は諦めろ。

 

「弁当箱に関しては破棄しても構わない。でも、昼食にカレーが食べられない事は生命に関わる」

 

 お前のか。

 

「貴方の」

 

 何で俺なんだよ!?

 

「キョン、女の子が命に関わるとまで言ってるんだから一肌脱ぐのが男でしょうが! 有希、あたしは貴方の味方だからね」

 

 関わってるのは俺の命らしいんだがな。

 

「ありがとう、ところで料理の経験は」

 

「鍋に色々入れた事しかないわ!」

 

「ノーセンキュー」

 

 やれやれ……。長門、じゃあ昼飯にカレーを持ち込めるようにすればいいんだな?

 

「!」

 

 超新星の様な輝きで俺を見る長門がそこに居た。まあ、そんな光を裸眼で受けたら失明するが。 

 

「それで、どうすれば?」

 

 ちょっと準備が要る、帰りに色々買ってくるから……そうだな、またお前の家に行っていいか?

 

コクコク

 

「ちょっとキョン、またってあんた……」

 

「……今日”も”泊まって行く?」

 

「なんですってー!」

 

 勘違いするな、変な所を強調するな、リアクションキャラの苦悩がわかったかハルヒ、そもそも長門の家に泊まった事はない。

 

「ある」

 

 あったっけ。

 

「朝比奈みくると一緒に、連泊にも程がある」

 

 ああ、そうだったな。

 

「な……。じゃあ私も泊まるわ!」

 

 無駄な所で対抗意識を持つな。

 


 

 そんな訳で帰り道にある駅近くのダイソーにやってきたのだ……。

 

「で、ここで何を買うの?」

 

 これだ。

 

「サランラップとレンジOKの冷凍容器?」

 

 冷凍容器は5つもあればいい、サランラップは横幅の短いのでいいぞ。それと、メーカーは気にしなくていい。

 

「メモメモ」

 

「ははーん。キョン、あんたの考えがわかったわ!」

 

 言ってみろ、正解なら俺はここで帰る。

 

「不正解だったらここの支払いはよろしく」

 

 さらりと言い切ったな、長門。

 

「簡単よ! この冷凍容器の内側にサランラップを張り詰めてからカレーを入れるんでしょ?」

 

 半分正解。ここの払いは長門と割り勘だな。

 

「がーん!」

 

「てれってれって~」

 


 

「おかえりなさい! あ、あれ? なんでキョン君と涼宮さんがここに?」

 

 おじゃまするよ。

 

「おじゃましま~す」

 

「え、え? あたしが居るのはスルー?」

 

「ねえキョン、そろそろ正解を教えなさいよ」

 

 へいへい。いいか、カレーは3日も煮込むと美味しいと言うが、湿度にもよるが4日過ぎると駄目になる事が多い。

 

「これがいわゆる3日ルール。メモメモ」

 

 違うぞ?それで、だ。カレーを作る上でジレンマなのが、大量に煮込んだ方が美味しくできるという事と、毎日カレーはきついって事だ。

 

「そんなの、食べたい時にカレー屋さんに行けばいいじゃない」

 

 ほほう、じゃあこれをちょっと味見してみろ。

 

「……これは!」

 

 あれ? 長門、これってあれから煮込んだりしたか?

 

「今日一日、水を足しながら煮込んでおいた」

 

「長門さんの命令で私がね。せっかく皆勤賞狙ってたのに……」

 

 どうりで玉葱に味が染みているはずだ。ハルヒ、この味をカレー専門店で食べようと思ったらいくらなら払える?

 

「1200円」

 

 凄い具体的。

 

「だって玉葱がとろっとろでルーが凄くまろやかでこんなに美味しいカレーなんて小学校以来よ!」

 

 ぶっちゃけるとそれが結論だ。大量に作ると味に深みが出来る、でもそれを専門店でやっちまうと衛生上の理由で難しい。

 

「なんというカレー哲学」

 

「キョン君って……もしかして、涼宮さんが呼び出したカレーの世界の住人だとか」

 

「え? あたしが何? あ、朝倉さんが何でここに? いつから?」

 

「……負けないもん」

 

「なんというカレーの王子様」

 

 テレビ知識なだけだ、でもまあ実体験も混ざってる。大量に作りたい、でも保存は難しい。それを解決するのが

 

「時間凍結」

 

 カレーでそこまでするな。つまり正解は冷凍保存だ。使うのはこの冷凍容器、まず容器にハルヒが言ったようにラップを貼る。

 

「ほらほらそこはあってたでしょ! 褒めて褒めて!」

 

 はいはい偉い偉い。デレ比が多いハルヒってのはこの作者にしては珍しいな。

 

「へへー//」

 

「……いいなあ」

 

「長門さんには私が居るでしょ?」

 

「ノーサンキュー」

 

「のー!」

 

 ラップを張った容器にカレーを入れて、そのまま冷凍する、これで保存が出来るし持ち運びが楽になる。それだけじゃない、

これを解凍すれば長時間煮込んだ時に近い味になるんだ。

 

「な、ねn(r」

 

 レンジの解凍は過熱は普通の加熱とは原理が違うからな。詳しいことは理系の人に聞いてくれ。

 

「ねえキョン、全部冷凍しちゃうの?」

 

 長門、今日の夕飯はどうするんだ?

 

「カレー」

 

 明日は。

 

「言わずもがな――カレー」

 

 そうかい、じゃあ素材を買い足してみるか? 玉葱だけじゃ寂しいだろ。

 

「貴方が神か」

 

 そいつはハルヒだ。

 

「え? え? 褒め言葉?」

 

 ちょっと買い物に行って来るよ。

 

「私も行く」

 

「あたしも行く!」

 

「あの長門さん、あたしも行っていいかな?」

 

「許可できない。貴方はカレーを煮込む作業に戻るべき」

 

「のー!」

 


 

 ただいま。

 

「あ、おかえりなさーい」

 

 じゃあはじめるか、今回足す材料はこれだ。

 

「カレーの王道、ジャガイモ」

 

 そうだ。

 

「ねえキョン、何でジャガイモを選ぶ時に古いのを選んでいたの?」

 

 よく見てたな。ジャガイモは古いと皮が厚くなるんだ。まあ見てろ。

 

「録画の用意」

 

 REC まずはジャガイモに一周切り目を入れる、深さは5ミリくらいだな。長門、カメラが近い。

 

「ミステイク」

 

「有希。後で今のデータ、コピーして頂戴」

 

「お断りします」

 

「有希ー!」

 

 で、切れ目を入れたジャガイモをラップで包んでレンジに入れる。大きさと古さによって加熱時間が

結構違うんだが、まあ5分でいいだろう。

 

「これだけで柔らかくなるの?」 

 

 いーや、ならない。今のうちに冷水をボウルに……ボウルが無いんだったな。冷凍容器でいいか。

 

チーン

 

 あれ、何か早すぎないか?

 

「レンジの周囲の空間だけ時間の流れを」

 

 やりすぎだ。さて、この熱々のジャガイモを冷水の中に入れると。

 

「わかった熱膨張!」

 

 残念、逆だ。冷水で冷やされたジャガイモは縮み、皮が簡単に――剥き剥き――取れる。新じゃがだとこうは

いかないから多めに買っておいて常温で保存するのをお勧めする。まあ、包丁やピーラーで皮を剥けるならこの
工程は不要なんだが。

 

「感動した」

 

 ここで感動するな。これを全部のジャガイモで繰り返したら、4つ切りにしてレンジに入れる。

 

「よつ……ぎり?」

 

 結果的に4等分になってれば切り方は自由だ。レンジの皿が大きければ薄く切ると早いぞ。でも食べる時の
事を考えて切るように。加熱時間は少なめに、硬かったら繰り返せばいい。

 

チーン。

 

 ん、こんなもんか。箸がある程度入れば完成だ。夕飯は何時にする?

 

「今すぐでも構わない」

 

 そうかい、じゃあ昨日のルーを足してジャガイモも入れて……と。ハルヒ、お前もここでご馳走になっていくのか?

 

「食べたい食べたい食べたい!」

 

 長門。

 

「構わない」

 

 朝倉も食べていくのか?

 

「食べたいです!」

 

「しょうがない」

 

「うう……涼宮さんの時より冷たい言い方」

 

「愛情表現」

 

「え? え? 今なんて?」

 

 抱き合ってる宇宙人は放っておいていいよな。ハルヒ、テーブルを拭いておいてくれ。

 

「はーい」

 

 長門、ご飯の温めを頼む。

 

「了解した。朝倉涼子、動けないからこの腕を離して欲しい」

 

「いやー//」

 

 ジャガイモに味をしみこませる時間は無いから、ルーはとろめにしておくか。

 

「できたわよー」

 

「温めも完了」

 

 あいよ。……よし、3人前のカレーの完成だ。

 

「「「え? 3人分?」」」

 

 ああ、俺は帰る。昨日は居なかったが今日は妹が家に居るんでな。カレーは冷えてから冷凍してくれ。
本当に弁当にするのなら、温めは学食のレンジを使えばいい。カレーに使った食器は早めに洗わないと
色も匂いも取れなくなる。

 

「なんという主夫の鏡」

 

 こんな形でお題を消化するのはどうかと思うぞ。それと、俺は未婚だから主夫じゃない。じゃあまたな。

 

「またねー」

 

「おやすみ」

 

「おやすみなさい」

 


 簡単でおいしい!おかずレシピ「キョンの夕食」 3食目 「鏡」 おわり

 

 4食目

 

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