青春十八切符というものをご存知だろうか。
 日本全国のJRの普通列車に乗り放題できてしまうこの切符、こんな名前でありながら
実は年齢制限はなし、代わりに子供割引も無し。1枚で1日有効×5回分の11500円という
有効活用する事ができれば実にお得な旅券である。
 何を急に言い出したのか、なんて思ってる人もいるかもしれないな。
 実は今、俺の手元にはその青春十八切符が握られている。五枚綴りのチケットは残り1枚
だけ残っていて、俺の前と隣、斜め向かいに座っているそれぞれの手の中にあるはずだ。
 揺れる車内で眠気に誘われながらも硬い座席では眠る事もできない。
 古泉、次の目的地まではあとどのくらいなんだ?
「あと、1時間程はかかりそうですね」
 お決まりの営業スマイルにため息で答えつつ、俺は再び車窓からの眺めに視線を戻した。
 もうわかっていそうなもんだが俺達は今、電車で移動中だ。
 一緒に行動しているのは、対面の席でこの状況の何が楽しいのかわからんが微笑を
浮かべる古泉。
 その隣で壁にもたれながらうつらうつらとしている朝比奈さん。
 最後に、俺の隣で読書中の長門。以上、終わり。ああ、あと俺か。
 そう、ハルヒは一緒に来ていないんだ。
 来て貰っても困るからな。
「退屈そうですね」
 まあな。
 かれこれ3時間以上こうして普通列車に乗ってるんだ、飽きない方がどうにかしてる。
「では、何かお話でもしましょうか?」
 そう言ってくれるのは嬉しいが、お前の話は聞き飽きた。
「でしたら……そうですね、貴方と涼宮さんのお話、なんてどうです?」
 俺とハルヒ? 世間話をするにしても当たり障りの無い話題しか話さないお前にしては珍しい
じゃないか。いいぜ、聞かせてもらおう。
 座りなおして聞く体制に入った俺を見て、古泉は口を開く。まあその内容は、どうでもいい
事ばかりだったので割愛し、俺達の現状を説明しようか。


 事の始まりはそう、俺にかかってきた一本の電話からだった。


「お休みの所すみません」
 こいつがそう言い出した場合、高確率で俺は面倒な目に合う。
 だから俺は返事をする前に携帯を切ろうとし、指を電源ボタンに触れさせた所で何とか
思いとどまった。
「もしもし、もしもし?」
 すまん古泉、電波が悪いんだ。なんせ田舎に居るんでな。
「お気になさらないでください。手短に言います、手を貸していただけないでしょうか?」
 ここで何をだ? なんて聞いてしまえば断るに断れなくなるのはわかってる。でもまあ仕方ない、
電話から聞こえる古泉の声は切羽詰ってるようだし聞くだけ聞いてみようか。
 しばらく躊躇って、ついでにため息一つついてから俺はしぶしぶ呟いた。 
 内容による。
 結果、やはり断るに断れなくなっちまったよ。
 

 ハルヒ曰く、それは二ヶ月遅れの五月病である。
 コンピ研の部長氏失踪事件が無事解決した直後、長門はSOS団のHPに不幸にもアクセス
してしまった被害者の対応に追われていた。その殆どは北高の生徒だった為すぐに対処できた
らしい、しかしどんな検索結果で辿り着いたのか知らないが全く関係のなさそうな場所からの
アクセスも僅かながら存在した。
 その内の一つへ向かっていた長門から古泉に電話があったらしい。
「僕も長門さんから聞いた話ですので詳しい事は彼女に、すでに現地近くに居るそうです」
 まあな、俺も長門の頼みだって事なら行かないわけはないさ。田舎で遊ぶのもそろそろ飽きて
きてた所だからな。でもな……もう一度言ってくれ、場所はどこだって?
「岩手県の花巻だそうです」
 ……外国じゃなかっただけよかったのかね、これは。


 そして夏休みも始まって一週間程過ぎた現在、長門と合流したハルヒを除くSOS団のメンバーは
のんびり電車に揺られてるって訳さ。
 どうやら眠ってしまったらしい壁際で揺れる朝比奈さんに視線を向ける。
 俺としては何も朝比奈さんまで巻き込まなくてもいいと思うのだが「本人曰くこれもお仕事ですから」
との事だ。未来人には夏休みなんて物はないのかね? 今度大人の朝比奈さんに会った時にでも聞いてみるか。
「……とまあ、簡単でしたが、僕の視点における涼宮さんと貴方の理想的関係は以上です。ここで
重要なのは貴方と涼宮さんではなく、涼宮さんと貴方の関係だ、という点です」
 ああ、お疲れさん。おもしろかったよ――聞いてなかったけどな。
 ようやく終わりかけたのに再び始まろうとした古泉の話を乾いた拍手で遮りつつ送りつつ、俺はまた
窓の外へと視線を向けた。
 視線の下、窓際に座った長門が読んでいた本を閉じる。それがスイッチだったかのように電車は
減速をはじめ、やがて駅へと滑り込んで行った。


 あ~空気が昨日と同じで美味い! なんて皮肉を言ってもはじまらないな。
 殆ど無人駅と思えるような駅を出た俺達は、長門の先導でさっそく町を歩き始めた。
 ここまで長門からは詳しい説明はなく、ただついてきて欲しいとの一言のみ。
 先頭を進む小柄な同級生の背中を見ながら、俺は小さくため息をつく。それは不満からではなく、
こんな形だが長門が人を頼る事を覚えてきた事が嬉しかったからさ。
 

「あ、キョン君キョン君! これ私知ってます! 学校で習いました!」
 それまでほんわりとついてくるだけだった朝比奈さんが急に興奮しだしたのは、小さな公民館の様な
建物に着いた時の事だった。入り口の壁に書かれた文字を指差して朝比奈さんは大喜びのご様子。
 はいはい、今行きますよ~。
 遅れ気味で歩いていた俺と古泉も足を早めてその建物に近づく。
 ああ、なるほど。朝比奈さんが興奮するのも少しわかるな。
 みんなも知ってると思うぜ? そこには、宮沢賢治記念館と書かれていた。


 誰も居ないのか?
 夏休みだというのに、その建物の中には誰の姿も無かった。入り口には休館中の札は出てなかったと
思うんだが。
「……気をつけて下さい」
 何故か小声で、ついでにやけに近い位置で古泉が囁く。お前いつのまに近寄ってたんだ。
「キョン君これ! 凄いですー! 銀河鉄道の夜の自筆の原本って!」
 凄いですね~。
 楽しそうな朝比奈さんはとりあえずおいといて、だ。
 気をつけろって……何にだ。
「詳しいことはまだわかりません。ですがどうやら、ここはすでに通常の空間では無いようです」
 そうか、頑張ってくれ。俺が気をつけた所でどうにもならない。
「了解です、とにかく僕か長門さんから離れない様にお願いします」
 突き放しておいてなんだが、お前も大変だな。
 足手まといにしかならない俺は、やっぱり来なかった方がお前は楽だったんじゃないのか?
「そう言ってもらえるだけで本望です」
 やけに嬉しそうに微笑み、古泉は周囲の警戒に戻って行った。
 さて、俺はどうすればいいんだろうな?
 建物の中に入ってからというもの、長門はピクリともせず目の前の空間を見つめたままで
固まっているし、朝比奈さんはここへ来た目的などすでに覚えていらっしゃらないらしく熱心に見学中だ。
  

 一般人を自負する俺としては……そうだな、何の役に立たないだろうが古泉に付き合ってやるとするか。


 展示物の前から動きそうにない朝比奈さんを長門に頼み、俺は古泉と一緒に建物の奥へと進んできていた。
「僕と一緒でよかったんですか? 長門さんの所で朝比奈さんと一緒に待っていても良かったんですよ」
 そうだな、俺もそう思う。
 だからといって、お前ばっかりに働かせるってのも何か悪いだろ?
「ですが、正直ありがたく思っています。機関でも任務の関係上、僕は単独行動ばかりだったので、
誰かに一緒に居てもらえると心強いものです」
 そうかい。
 何故か照れ笑いを浮かべる古泉を眺めながら歩いていると、その変化は突然訪れた。
 照明の少ない薄暗かったはずの通路は急に明るくなり、コンクリートだったはずの壁と床は姿を消して変わりに
そこにあったのは……まじかよ、これは。
 足元の床からはごとごとごとごと、俺と古泉が歩いていたはずの通路は今はどう見ても古い列車の中で
乗っている俺たちだけ。しかもどうやらこの列車はどこかへ向かって走りつづけているようだった。
 通路沿いには小さな黄いろの電燈のならんだ車室が並び、その一つの扉が開いている。
「これは……どうやら罠にかかってしまったみたいですね」
 そうだな。で、これはあの扉に入れって事だと俺は思うんだがどう思う?
「ここまで大掛かりな罠を仕掛けておいて危害は加えてこない、現状を見る限りは相手の意図にそって行動した
方が無難だと、僕も思います」
 いや、俺はそこまで深く考えての発言じゃなかったんだがな。でもまあ、何故か知らないが俺はここが危険な
場所だとは思えないんだ。
 驚いた顔で古泉は周りを見回す、そして確かめるように俺に肯いた。
「……そうですね、確かに敵意は感じられません」
 
 
 車室の壁を見てただ立っていてもはじまらない、俺は一つだけあいていた扉の中へと入っていった。
 部屋の中は、座席が二つと二段になった寝台があるだけのこじんまりとした作りだった。ただ、部屋の内装は
凝った内容で車室の中は、青い天鵞絨を張った腰掛けが、まるでがら明きで、向こうの鼠いろのワニスを塗った
壁には、真鍮の大きなぼたんが二つ光っていた。
 なあ古泉、俺は嫌な事を一つ思い出したんだが聞いてくれるか?
「はい。何でしょう」
 頭の中の思い付きをまとめながら狭い部屋の中で俺は落ち着き無く歩き回る。
 俺は今更ながらここが何なのか思い当たってしまった、もしもそれが正解なら全財産を払ってでもこの列車に
乗りたいという人も居るだろうし、頼むからこの列車には乗せないでくれって嘆く人もいるだろう。
 ちなみに俺は後者だ。 
 なあ古泉、この列車はもしかして……銀河鉄道って奴なんじゃないか?
 一瞬目を見開く古泉、そしてすぐに車窓へと近づくとそこには真っ暗な暗闇とところどころ光っては消える輝きが
どこまでもどこまでもどこまでも……やっぱりか!
 逃げるぞ古泉!
「え、どうしてですか? これが銀河鉄道なら機械の体をただで貰える星に」
 違う! お前が言ってるのは別の銀河鉄道だ!
 急いで車室を飛びだした俺はそのまま列車の進行方向をは逆方向へ走り出した。
「待ってください、何故そんなに慌ててるんです?」
 いいか、銀河鉄道には色んな解釈があるんだ。それはただの空想旅行って説もある、他には実際の旅行に
空想要素を加えた物だとかな。
 どんどん最後尾へ向かって車両を走り抜けていくが、中には誰の姿も無かった。それが俺の不安をさらに煽って
いく。
「それが……何かまずいんですか?」
 なあ古泉、部長氏の時の事を覚えているか?



「コンピ研の部長さんですか? ええ覚えています」
 SOS団のシンボルマークを見て、あの人の心の中で恐怖の対象だったカマドウマガが異世界に居た。じゃあ
この列車がもしも、この建物に居た誰かが感じた恐怖の対象だったとしたらどうだ?
「この列車が恐怖の対象?」
 ああ。銀河鉄道のもう一つの解釈、それは死者を送る列車だ。
 古泉、お前の絶句する顔なんてはじめてみたぜ。できれば見たくなかった、やっぱりお前はいつも余裕でいて
くれないとこっちの精神が安定を保てない。
 ついに最終車両に辿り着いてしまった、最後部の扉の窓の先には漆黒の闇があるだけで何一つ見る事はできない。
「下がってください!」
 その言葉に俺は走る速度を落とし、いつのまにか赤く光る弾を掴んでいた古泉に先を譲った。
 勢いよく投げつけられた赤い弾は最後尾の扉をいともたやすく粉砕し、闇の中へと消えていく……。
 出来上がった空間で俺達が見たのは、星ひとつ無くただ真っ黒なだけの空間だった。当然足元にあるはずの
線路も見えない。
「聞こえる?」
 その声は、列車の中に取り付けられたスピーカーから聞こえてきた。誰であろう俺がその声を間違えるはずは
無い。
 長門! ここに居るのか?
「居ない。ついさっきまで貴方と古泉一樹の存在はこの世界から消えていた、貴方は今私とは違う世界に居る」
 それって……ああ、古泉が扉を壊してくれたからか。
「長門さん、どうやら彼と僕は誰かの罠に閉じ込められてしまったみたいなんです。助けてもらう事はできませんか?」
「……今やっている。でも、後数分時間が必要。それまで、その空間で決して恐怖抱いてはいけない」
 恐怖するなって……俺達がか?
「そう」
 はっきり言おう、俺はあの車室を飛び出した時からびびっていて今もそうだ。
 だからずっと迷信や恐怖体験なんかを思い浮かべてしまっていたし、明確にイメージもしてきてしまった。
 ……ずしん。……ずしん。
「……何か、聞こえましたか」
 ああ。
 ……ずしん。……ずしん。……ずしん。
 その音は先頭車両の方から聞こえてきていて、徐々に大きくなってきている。


「えっと、その」
 皆まで言うな、間違いなく恐怖したのは俺の方だ。ついでに言えば何を考えていたのかも思い出せる。
 ……ずしん。…ずしん。ずしん、ずしん。
「参考までに、どんな物を思い浮かべてしまったんですか?」
 額に汗を浮かべつつ、再び赤い弾を作り出した古泉が聞いてくる。
 聞いて笑えばいい、俺は最初あれが大好きだった。でも今はあれが怖い。
 ずしん、ずしん、ずしん。……どっどっどっどっどっどっどっど!
 その足音? はついに走る音へと変わり、連結部の窓の向こうにその姿がぼんやりと見えてきた。
 そいつが何なのか聞きたいんだな。
「ええ」
 俺が怖いのはな、世間的には子供のアイドルなんだが、ネットの中では本当の解釈って奴を夏になるたびに
議論されている架空の生き物。名前は…
 俺達とそいつを塞ぐ最後の扉が叩き壊された瞬間、そいつは自分の名前を叫んだ。
「ドゥオ! ドゥオ! ……ヴォロー!」
 トトロだ。
 巨大な灰色の熊の様でいて、愛らしい瞳。ウサギの様な耳に小動物のような鼻。そうだな、妹が見れば即座に
抱きついているだろうよ。そいつはどこまでもトトロだった。
「こ、これが怖いんですか?」
 ええい笑うな、そして油断するな。
「え?」
 驚いた顔で固まっていた古泉を掴んで後ろへ飛ぶ。一拍後、俺達が居た床にトトロの前足が突き刺さっていた。
「な、なんでトトロが凶暴なんですか? 大人しくて優しい生き物なんじゃ」
 そうだなその意見が普通だ、俺がひねちまってるんだろうよ。
 古泉、簡単に言うぞ。あれが俺の想像の中のトトロならあれは死神だ。
「え、なんです? 死神?」
 そう、職業的な意味じゃなくて本質的な意味でな。そんな解釈をしている奴らも居て、俺はこの列車が銀河鉄道
だったら死神がいるんじゃ? って考えちまったんだ。


 どうやらトトロは、俺達が居るのが最終車両だと気づいたようだ。逃げられる心配がなくなったのか、巨体を揺らして
じりじりと俺達と距離を縮めてきている。
 古泉、こんな時にどうでもいい事だがな。
「なんでしょう?」
 お前、ハルヒの事が好きなのか?
「え?」
 張り詰めていた古泉の顔から緊張が消える。
 悪かったなこんな時に変な事を聞いて。
「……気になります、か?」
 どうだろうな、とりあえずここは沈黙で返しておくとしよう。
「ここから無事に戻れたら、お教えします。約束します」
 笑顔を取り戻した古泉の手から赤い弾は放たれ、弧を描いてトトロへと襲い掛かった。一瞬で到達したその弾は
トトロの腹にめり込んだものの、そのまま何事も無かったかのように消えてしまう。
 やっぱりこいつは死神だ。俺達を見て、トトロは確かに微笑んだ気がした。
 おいおい、絶対絶命かよ?
 どうにもならない現状に逃げ出したい所だが、逃げ道も隠れる場所もありゃしない。
そんな窮地を救ってくれるのはやり……
「後少し」
 突然響いた長門の声に、トトロは驚いて後ろを振り向いた。しかし声の主の姿は見つからず、苛立つように椅子の陰や
壁を叩き出している。
 いいぞ、そのまま俺達の事は忘れていてくれ?
 いくつかの椅子が原型を留めない程に壊された後、トトロは苛立ちをぶつける相手を変える事にしたようだ。
 今度は追い詰めるなんて悠長な動きじゃない、のしのしと巨体を揺らして一気に近寄ってくる。
 
 どうする? ってどうしようもないんじゃないのか?
 反撃の手段も逃げる出口も見つからないまま、俺達はとうとう車両の最後尾まで追い詰められてしまった。
 すぐ後ろの空間からは列車の走る音がやけに大きく聞こえてきて、俺は思わず近くにあった壁を強く掴んだ。
 なあお前、俺達が落ちたらお前の食事はなくなるんだぞ? なんて説得が通じそうな相手にはどう考えても見えない。
「間に合った」
 その言葉が聞こえた時、俺達とトトロとの距離はすでに5メートルもなかった。
 長門! どうすればいいんだ?
 トトロの鼻息が聞こえそうな状態で、息を殺して長門の続く言葉を待つ。
「そこから飛び降りて。今すぐ」
 え、今なんて。
 思わず振り向いた先には、やはりインクを零した様な闇が広がっているだけだった。
「聞こえなかったんですか? ここから長門さんはここから飛び降りる様に言っています」
 俺の手を握り締める古泉、ええい変な笑顔を浮かべるんじゃない。
 とびかかってきたトトロの手から逃れるように俺と古泉は後ろに飛びのき、地面との接点を失った体は
暗闇の中へと吸い込まれていった。


 一瞬で小さくなる電車からもれる光、そして天へと登っていく銀河鉄道。
 ――いつか、俺もあの列車に乗る事になるんだろうか? まあそいつはまだまだ先のはずだ、トトロ恐怖症は
その時までに直しておけばいいよな。


エピローグ 


「あ、お帰りなさい」
 何事も無かった様な顔で俺と古泉が戻った時、笑顔の朝比奈さんは、俺達と別れた場所から一歩も動いておらず、
長門も首の向きを変えただけでやはり立ち位置に変化は無かった。
「中の様子はどうでした? 何か見つかりました?」
 そうですね、ここって意外と怖い所でしたよ。
「え、そ、そうなんですか?」
 ええそりゃもう、しばらくジブリの映画は見れそうにありませんね。
 顔中にクエスチョンマークを浮かべる朝比奈さんを古泉に任せて、俺は長門の元へと歩いていった。


 ありがとうな。
「今回の出来事は私のミス。危険度はもっと低い場所だと考えていた」
 めずらしく落ち込んでいる長門の頭をぽんぽんと撫でてやる。
 気にすんな。それで、もうここは大丈夫なのか?
「大丈夫、行方不明だったこの建物の館長は自宅の自室で目を覚ました所」
 ここでも用事は終わったのだろう、長門は古泉に小さく肯いてみせてそのまま出口へと歩いていく。
 なるほどね。……なあ長門、一つ聞いてもいいか?
「何」
 ここの館長は、何で銀河鉄道が怖かったんだ?
 俺みたいな経緯で変な知識を仕入れてしまったって事なのかね。
 しばらく沈黙した後、静かな口調で長門は呟いた。
「館長が銀河鉄道を恐れた理由は本人にしかわからない。ただ、あの銀河鉄道はこの世界にも実在する」
 ちょうど外に出たところだった俺は思わず空を見上げた。
 ……長門、あんまりびびらせないでくれ?
 そこには夕焼けに染まりかけた空があるだけで、他には何も見えなかった。 

 
 銀河鉄道の夜 トトロ ハルキョンについて語る古泉 終わり

 

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