キーンコーンカーンコーン

ふぅ──やっと授業が終わった。
朝から何も喋って無い私をよそに、教師というのはベラベラと喋る。
あたしはそんな教師を退屈な相手の対象だとしか見ていなかった。
───この時までは。

私は起立、礼。が終わったその直後にキョンの席のイスを引っ張った。
普段のキョンならあたしの机に頭をぶつけるぐらいの仕草はするはずだった。
…するはずだった、はずだった…。
なんで?どうしてそうも、いつもと…違うの?

私がイスを引っ張った直後、キョンは席から立ち、どこかへ行ってしまった。
他の生徒を見る限り、ぐるりと輪になるようにグループを作っており
──まるで私だけが孤立してるかのように見えた。いや、客観的に見ればそう…なのだ。



古泉「おやおや、ここはキョン君いじめスレですか。私の肉棒が唸りますね。」




そして孤立した今、あの時の退屈は私に話しかけてきた。
『もう、転校しちゃったら?』『何のために居るの?』『友達・・・・ダレ?」

いや…なんで?あのうっさいバカがいないだけでなんで…?
私は黒板を見つめなおすと、まだ書き写して無い部分をノートにとった。
──いや、孤独なのが怖くて取る「フリ」をしていた。

それを察したかの様に、男子グループの内の一人が黒板を消しに行く。

──ああ、いいわよ。もう、そことってあるしね……

無意味に自分の両手を見つめると、涙が少しずつ沸いてきた。
『あたし…なにやってんの?別に悲しくない。こんなの中学の時と同じ。』

なのにこんなに悲しいのは──キョンという話し相手が──遠ざかってしまったから?
…ああ、もうバカ!一生懸命書いたノートが涙でくしゃくしゃ!
ホントに取り直さなきゃ…ダメじゃない…黒板……消えてるのに…




古泉「ハハッ、よくあることです。」




──宮さんですよね?涼宮さん。

上から聞こえる声に私はハッと顔を上げる。
そこには女子グループの内の1人
いかにもやんちゃそうな女子生徒が私の名前を呼んでいた。

ハルヒ「な、なによ?」

このクラスには男子グループがあれば女子グループもある。
──その女子グループのうちの1人が話しかけてくるなんて。
…相当面白いネタでも持ってきたのかしら?

私は自分の顔から少量ながらにも涙が溢れている事も気にせず
その女子生徒を眺め返した。

女子生徒「これ、ハンカチ…」

──えっ?

…そうだ、あたしだって普通の女子生徒だ。

急にあたしの中の何かがサッパリと冷めたように抜けていく。

そういえば、言ってたな。キョン。

「お前は自己中すぎる。」 「付き合いきれん。」 「またそれかぁ・・・」

  だけど…

『普通にしてれば可愛い』って──




古泉「なんか臭いぞ」




私はキョンの言葉を頭に描き返すと
ふとハンカチを差し出している女子生徒の方を見ると。ようやく自分でも悟った。
──私だって普通の女子高生…じゃない。

身を持って本当の退屈を知ったからだろうか、目の前にあるソレはとても輝いて見えた。
私の一番望んでいないもの、平凡。それが、今ばかりは輝いて見えた。

私は涙顔を見られた恥ずかしさもあってか、少し強気な顔になる。
──話かけるなら、もっと早くにきなさいよ!
恐らく心はそう叫んでいた。

そして不本意ながらも、その平凡というなの橋に足をかけようとする。

ハルヒ「あ、ありがと。いやー最近涙腺ゆるんじゃってねぇ。
     もしかして風邪かな?いや、これは花粉症かぁー!」


クラス全員が、一帯となったかのように静まり返る。

そして、ハンカチを差し出した女子生徒の声だけが冷たくこだまする。

───ないね。やっぱり。




古泉「ハハッ、あとがこわそーだっと。」




静まりかえったと同時、いや、その後を追うように
ハンカチを持ってきた女子生徒が声を漏らす。

───ツマンナイ。


その声がクラスに響き渡ると、一つの女子グループから苦笑が聞こえた。

…ああ、そういうことか。一人を囮にして私を観察しにきたんだ…。

……いい魅せ物でしょ?でも、アンタもタダの人間なのよ。
あたしを楽しませる事の出来ないニンゲン。
だから?あたしがアナタを楽しませてみろと?
…ふざけんじゃないわよ!

急にあたしの中にあった怒りが爆発する。
それは反射的に行動にも現れ、ハンカチを差し出した女子生徒の手をパン!となぎ払う。

クラスには険悪なムードが立ち込める。
あたし…退屈……ははっ、あの教師と同じ……退屈。

『──転校って意外と悪くないんだぞ。ハルヒ。』

……キョンの声だった。




古泉「続きを読むにはふんもっふ!ふんもっふ!」




キョンがクラスへ帰ってくると、先ほどの雰囲気が嘘のように、皆明るくなっていた。

谷口「よう、キョン!どこ行ってたんだよ!」

国木田「やっぱりキョンがいないとダメだねぇ。」

なに…この…偽善者共……!

あたしの精神はもう限界だった。
なんで…キョン……コイツだけ…!

あたしはキョンに嫉妬していた。
団長のあたしがダメでなんでコイツだけ…!

しかしそんな事も、よくよく考えてみれば納得せざるをえなかった。

───そっか、キョンは違うんだよね。あたしと。

この瞬間、どこかに壁ができたような気がする。
SOS団という薄い仕切り、そんなもの見掛け倒しにすぎなかった。
一方私に設けられたのはクラスという大きな壁。全員が団結して造った壁。

──面白いじゃないのよ!逆にやりがいがでる!

…こんな壁……あたし一人で…

気づけないわけが無い、あたし一人、強がってるんだ。
この空間で、一人だけで…



古泉「ハハッ、これが本当の閉鎖空間ですか?」


教師「えー本日を持ちまして、涼宮ハルヒさんは転校することになりました。」

…どいつもこいつもニヤケ面。
教師がいなかったら拳の1発や2発かましてるところよ。

──そんな学校生活も、もう終わり。
唯一出来た思い出が楽しくなかったのが心残りかな?

教師の岡部がサラリと奇麗事を並べると、生徒の間からは拍手の音が聞こえた。
どうせ、万歳の拍手だろう。あたしを惜しむ者なんて一人もいない。
あたしの前の席にいるキョンが遠く見える。
…キョンは、どういう意味で拍手してるんだろう…?

だけどもう、どっちでもいい、アンタともサヨナラよ。
……少しだけ楽しかった。ありがとうね。
あたしはもう次の生活を思い描いていた。次こそ普通に生きれますように…。
そんな精神状態の中、ある音があたしの耳を刺激する。

ガラッ!


キョン「どうしたんだハルヒ、お前らしくないぞ。」

──えっ?

……キョン?




古泉「見て下さい、この体。機関のお偉い方さんからも好評なんですよ。」




──嘘。キョンはあたしの席の前で拍手を送っている。
ただ、転校しようとしているあたしを、無関心な表情で…。

長門「…精神を攻撃する情報思念体。解ってしまえば、怖くない。」

突然現れた長門が教師である岡部に飛び掛る。
──そんな光景に驚いている暇もなく、キョンがあたしの手を引っ張る。

キョン「いくぞ、こっちだ!」

その時のキョンの手は暖かかった。間違いない。本物だ。

あたしはふと顔に笑みを戻すと、そのまま倒れてしまった。


キョン「───おーい、ハルヒぃー。」

ん……ん?

気づけばあたしはキョンに抱きかかえられていた。

──夢?だったの?

キョン「お前相当悪い夢見てたんだな、ソファーから落ちるなんて普通はありえんぞ。」

普通の部室。普通の光景。普通の…キョン……。

ハルヒ「あ……あっ、そう!
   あたしたまにはだってこーいう事あるわよ!」

──嬉しかった。夢でよかった。
そう思うと同時に、また眠気が誘ってくる。

ハルヒ「あたし、もっかい…寝る。
    キョンも……。」

あたしは喉まで出かけた言葉を噛み殺した。
だけど、あの、手を引っ張ってくれた時のキョンは本当に頼もしかった。
──そのうち、副団長も考えてやらなくはないわ。団長があたしでよかったわね、キョン。

古泉「さてさて…涼宮さんはまた眠ってしまいましたが…。」

長門「いい。……彼女に何らかの支障を出さない事、これが私達の役目。」

キョン「しっかしまぁ、やっぱり頼りになるよな、長門は。」

長門「………」

───ハルヒ、お前は戦った。自分の精神に負けず、がんばった。
だから今は眠っていろ、SOS団の団長が倒れるなんて団員の俺達には、願ってもいない事だからな…。

……お前が閉鎖空間にいる間、いろんな計画立ててたんだぞ。
お前が起きたら、どれから実行してやろう……っとと、それを決めるのは団長のお前だったな。はははは……。


                                  Fin


これを読んでくれた古泉萌えの皆さんありがとう

古泉「次週もマッガーレ!」



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