ウィース! 谷口です。
季節は二月の中旬となり、俺の高一ライフも残り一ヶ月強となった。
本日は四連休の三日目で明日はいよいよバレンタインデーを迎えることになる。
園生さんと連絡がつかなくなってから一ヶ月が経ち、俺はある行動を起こすことにした。
 
 
北口駅の南側の広場で待つ、俺とクラスメイトの榊・後藤・豊原
広場の時計は九時十分を過ぎていた。
何食わぬ顔でトボトボと歩いてきた国木田を一喝した。
「遅い、罰金だ」
「いかにも九時前からいたように言わないでよ。さっき僕が自転車と停めてるのを見て、走って広場に入って行ったでしょう」
こいつよく見てるな。
「そうだよ谷口、俺らは三十分前からここで待たされてたんだぞ」
「ええい榊、俺の耳元でいい声で囁くな! 気持ちが悪い」
「とりあえず、寒いからどこかの店に入ろうよ」
この豊原の意見を採用して、俺達は南側の繁華街の中にある少し古めの喫茶店へと足を運んだ。
 
この古めの喫茶店の中にはマスターと客として老夫婦が一組のみしかいなかった。
俺達は奥の席を陣取って、マスターに注文を告げた。
「で、今日なんで俺達を召集したんだ」
「まー後藤よ、焦るな。注文した物がきたら話してやるよ」
そうは言ったが店にはマスターが一人しかいない為か十五分経っても注文した物はこなかった。
みんな、俺と同じコーヒーを頼めよ! なんで全員が全員別の物を注文するんだよ。
「あのー、やっぱり発表してもいいかな?」
国木田は呆れ顔で一言呟いた。
「いいよ」
俺は咳払いを一つして立ち上がった。
 
『ここにTOT団を設立する』
 
俺の背後にマスターがおり、マスターは俺が急に立ち上がったことにびっくりして、トレイ内に飲み物を溢したようだ。
「すいません、拭いてきます」
そう言い残して、マスターはカウンターへと戻った。急に大きい声を出した為か老夫婦がびっくりした顔でこちらを見ている。
「早く座れよ、恥ずかしいな」
国木田に言われて、名残惜しい気持ちのまま席に付いた。
「で、TOT団って何の略なんだ」
「だから榊、俺の耳元でいい声で囁くなよ!」
俺はまた咳払いを一つして高らかに宣言した。
 
『TOT団とは、町内をおおきく沸かせる谷口の団だ!』
 
国木田は再び呆れ顔で一言呟いた。
「それキョンや涼宮さんがやっているSOS団のパクリでしょ?」
俺は「何を言っているんだ、たまたまだよ」と弁明している横で後藤がこう言った。
「全く、五分で振られた女のことをまだ気にしてるのかよ」
何を言う後藤、俺は涼宮とは付き合ったなんぞないぞ。
「隠さなくてもいいよ、東中の出身者の間では有名の話だよ」
そんなのはただの噂だぞ! 豊原!
「まさか、まだ未練があるとはね」
何度も言わせるな榊、俺の耳元でいい声で囁くなよ! 気色悪い!
俺が誤解を解こうとしている必死になっている間にマスターが飲み物を運んできてくれた。
全くマスターGJだぜ!
 
俺はまた格好つける為にコーヒーをブラックで飲んだことについては再び後悔することとなった。
「で、その『町内をおおきく沸かせる谷口の団』っていうのはどういう方法で町内を沸かせるの?」
既に疲れきった面の国木田がホットレモンティーに口をつけながら、言葉を発した。
「おお、本日の活動内容は園生さんの捜索だ!」
俺が告げると国木田はビックリ顔になり、他の3人にはクエスチョンマークが頭から伸びていた。
「園生さんが転校したこと忘れたの?」
「慌てるな国木田、さすがの俺でも園生さんが転校したことは覚えているさ。だが予感がする」
「予感?」
「そう、明日のバレンタインデーの為に園生さんはこの町に舞い戻ってくる」
「……」
国木田は呆れ顔を通り越して、気の毒そうな顔で俺の顔を見ている。
「何でバレンタインデーは明日なのに今日この町を訪れるんだい?」
「いいことに気づいたな豊原、うち等の学校は明日は中学生の受験だが他の学校はそうとは限らないだろ、だから前日の日曜日に訪れるんだよ」
「なるほど」
「なるほどじゃないよ、全く」
国木田がブツブツと呟いている。
「さー、今から組み分けだ」
俺はテーブルから爪楊枝を五本、手に取った。
「組み分けって?」
「おう、二組に分かれての捜索だ」
国木田が三度目の呆れ顔で俺を見た。
「園生さんの顔って、谷口しか知らないのに二組に分かれたら意味がないよ」
確かに国木田の言っていることは最もなことだ。
「もしかして、こんなに人いらなかったんじゃねぇ」
後藤の言葉がこの場を凍りつかせた。
 
数分、沈黙が流れた後に後藤が口を開いた。
「折角集まったんだからカラオケにでもいかねぇ?」
「いいね」
賛同する豊原。
「歌なら自信があるよ」
自信満々のグリークラブの榊。
「谷口、僕も捜索よりカラオケの方がいいと思うよ」
「じゃ、決まり! そうだ、葉山達も誘うぜ」
後藤は携帯電話と取り出して、電話を掛け始めた。
盛り上がる四人とちょっと待ってくれよと思う俺。
  
三十分後にクラスメイトの葉山が高遠と由良を伴って俺達のグループと合流した。
八人はカラオケBOXへと足を進めた。
 
カラオケBOXに入って一時間程経過した時に俺達は四組のカップルに分かれていた。
まずは一組目、榊と高遠
「榊君って、歌うまいのね」
「日頃の部活の成果かな」
 
次は豊原と由良
「最近、由良さんのサックスいい感じだよ」
「ありがとう、豊原君のクラリネットもなかなかよ」
 
そして三組目は後藤と葉山
「明日はどうする?」
「あたし、遊園地に行きたいな」
 
そして、俺と……国木田
俺らは無言でジュースをストローで吸っている。
すでに誰も曲を入れておらず、マイクも手に取っていない。
「谷口、なんか僕ら場違いみたいだね」
「そうだな」
「帰ろうか」
俺と国木田は金を置いて、外へと出た。
 
 
俺は自転車を押す国木田と町をぶらついていた。
時計を見るとまだ十一時前、昼飯まで時間があるので、国木田と別れた後に一人で園生さんの捜索でもしょうかと考えた。
おっと、その前に気になることを国木田に聞いた。
「国木田さぁ、後藤と葉山ってなんであんなに仲がいいんだ?」
「あの二人、付き合ってるみたいだよ」
「なんだと!」
俺は国木田の言葉に驚愕した。
「あれ、知らなかったの? ちなみに豊原と由良さんも吹奏楽部でいい感じみたいだよ」
「なんですと!」
「谷口も転校した子のことは忘れてさ、身近な人にでも声を掛けたら?」
国木田の言葉に愕然とした。
Aランクばかりを狙わずに身近なBランクやCランクにアタックでもしょうかなと思った時にそれは起こった。
俺の横を黒塗りのタクシーがもうスピードで通り過ぎて行った。
その黒塗りのタクシーに後部座席に園生さんがいた。
「あ、園生さんだ!」
「え、どこ?」
「今、通り過ぎて行ったタクシーの中にいた」
「見間違いじゃないの?」
「絶対に園生さんだだよ! すまん、自転車借りるぞ!」
俺は国木田が押していた自転車を奪って、一目散に漕いだ。
「必ず返してよ」
 
 
俺は猛スピードのタクシーを必死に追い掛けた。
タクシーは交通ルールを完全に無視したスピードで森林公園を越えて、山へ向かっている。
俺もほぼ息継ぎなく、自転車を漕いだ。
こんなに猛スピードで事故に遭わなかったことは奇跡としか言いようがなかった。
滅茶苦茶な速度で走るタクシーは舗装されていない山道に入っても速度は変わらなかった。
さすがに人力ではここが限界らしく、崖を超えたところで俺は力尽きた。
倒れながら俺は国木田の言葉を思い出した。
確かに国木田の言ったとおり、見間違いかもしれないな。
自分の動体視力には自信があるがあの猛スピードだと見間違いもありえるな。
 
俺は寝込んだ体を起き上がらせて、時計を見ると十二時を過ぎていた。
腹も減ったし、家に帰ろう。
しかし、随分と山奥にまで来ちまったな。
俺が寝込んでいた場所は草木がおおい茂っていて、真昼間だっていうのに薄暗い。
おいおい、何か出てきそうだな。
俺がこの場所から退散しょうと歩き出したところで目の前の茂みが大きな音を立てて揺れた。
俺は熊でも出たと思って、その場に死んだふりをした。
心の中で念仏と唱えている俺の耳に飛び込んできたのは熊のうめき声ではなく、女の声だった。
「あれ、未来からの使者さんはどこに行っちゃったの?」
顔を上げてみるとそこにはツインテールをした俺と同年齢の女が立っていた。
「みんなともはぐれちゃったし、あー、どうしょうかな」
ツインテールの女は寝ている俺に気がついた。
「あんた、何しているの?」
俺はズボンを手で払いながら、立ち上がりこう言ってやった。
「天気が良かったんで森林浴をしていた」
死んだふりって言うのが恥ずかしかったんで森林浴と嘘をついた。
「本当なの? この寒い中で」
「おうよ」
「まーいいわ、そこの自転車あんたのでしょ? あたしを駅まで送ってよ」
この女は何を言ってやがる、園生さんに会いたい一心でここまで来たがここから二人乗りで北口駅を目指したら、一体何時になるんだよ。
「ね、お願い」
ツインテールは俺の手を握った。
顔は見るとAランクのようだ、俺にはAランクの頼みを断ることはできなかった。
 
しかし、このツインテールは文句しか言わねぇ。
こんな山道を降れば、揺れるだろうが!
それをやれ静かに漕げだの、速度が遅いだの、喉が渇いただの、全くうるさい。
 
山道が終わったところに自動販売機があったので俺は自転車を停めて、ツインテール用にホットミルクティーを、俺用にポカリを買った。
「ほら、飲めよ」
ツインテールにホットミルクティーの缶を渡した。
「ここからは道が舗装されてるからあんまり揺れねえと思うぞ」
「ありがとう、えーと」
「俺は谷口だ」
「……谷口」
俺が名前を告げるとツインテールは考え始めた。園生さんの時もそうだが谷口って珍しい苗字じゃないよな?
俺はポカリを飲み干して、立ち上がった。
「そうじゃ、行こうか」
「うん」
 
自転車を漕ぎ出してからツインテールはやたら俺のことを聞きたがる。
主には俺の現在の交遊録についてを聞いてきやがる。俺は国木田とキョンのことを話してやった。
女を荷台に乗せて話すのも悪い気はしないな。
俺は園生さんのことを一旦忘れて、このゆったりとした時間を楽しんだ。
 
太陽が西に傾いた時に俺らはやっと北口駅に到着した。
到着した頃にツインテールと別れるのが……ほんの少しだけ名残惜しくなった。
「確かに送ったぞ」
「ありがとう、あ! そうだ」
「どうした?」
ツインテールは自分のポケットに手を突っ込んだ。
「いいから、口を開けてよ」
俺が素直に口を開けているとツインテールは俺の口に何かを入れた。
口に入れられたものは一瞬ほろ苦かったがすぐに甘さが口内を占拠した。
「一日早いけど、バレンタインのチョコよ」
「……おう、ありがとう」
「あんた、もてなさそうだからうれしいでしょ」
「ほっとけよ!」
ツインテールは意地の悪そうな笑顔を浮かべて、駅へと小走りで向かった。
「おい、せめて名前くらい教えろよ」
ツインテールは立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
「あたしは橘京子」
やわらかい西日が彼女の可愛らしさを三割に増しにさせた。
その笑顔はまるで純真無垢な天使のようだ。
今の俺の心境をどこかの漫画の登場人物がよく言う台詞に喩えると、
シェイクスピア曰く、大変な労働の疲れも美女の笑顔一つで全てが吹き飛ぶ。
おっと本当にシェイクスピアが本当に言ったかどうかは無用な詮索だからな!
「じゃ、またね」
見惚れている俺を尻目に京子ちゃんは無邪気に駅へと消えていった。
 
 
俺はまるで白昼夢を見たかのように心ここにあらず状態で自転車を国木田の家まで返しにいった。
「どうだった? 園生さんは見つかったかい」
「いや、園生さんには会えなかったが天使にあった」
「天使?」
「おう、その天使はツインテールをしていたよ」
「ツインテールの天使って珍しいね、僕の天使のイメージはロングヘヤーだよ」
「また天使に会えるかな」
「うん、頑張れば会えるんじゃない」
「そうか、だったら頑張るよ」
「じゃ、明後日学校でね」
「おう」
そう言い、国木田家を後にした。
明日は二月十四日か、学校が休みの分チョコがもらえるのは十五日の方が確立が高いか
俺の腹の虫を盛大に音を鳴らした。
そういや、まだ昼飯食ってなかった。とりあえず、家に帰るか。
 
 
本日は二月十五日。
まー、戦況を報告すると十四日と十五日の両日共に俺はチョコを頂けなかった。
結局、今年のバレンタインは京子ちゃんの一個のみか……
園生さんと京子ちゃんに再び会えるのかと考えるとメランコリーになる。
授業も終わり、家に帰ってTOT団の次回の活動でも考えようかと席を立った時に国木田が飛び込んできた。
「谷口、今から中庭で二年の朝比奈さんの手作りチョコ争奪アミダクジ大会が開催されるって」
「何! 本当か? 国木田急ぐぞ」
俺は廊下を駆け抜けて、中庭を目指した。
 
 
つづく?
 


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