「なあ」
 「何?」
 「長門は?」
 「さあ」
 

 

 
 何かを呟けば、誰かが言葉を返してくれる。昔の誰かが言っていた事だ。
 俺が先人たちの格言の類のなかで、一番初めにああ、そうかもな。と納得をさせられたものでもある。残念なことに、それが著書の一説であったか、はたまた和歌川柳俳句その他であったか、そしてその言葉を世に知らしめた人物が一体誰であったか。などという、細かい情報はすべて失念してしまったが。
 

 

 
 「お前、クラス委員の仕事とか無いのか」
 「ないのよね、それが」
 

 

 
 窓際の席に腰をかけ、パソコンの画面を見つめたまま頬杖をついている女は、俺の問いかけに対し、なんとも言い表せない脱力感を孕んだ声で、平然と否定の旨を示してくださった。
 しかし。今は一体何月だ。
 答えは一月。先日、冬休みが明けたばかりである。
 何しろ俺は、クラス委員などという大それたポジションとは、今も昔も到底縁のない男ではあるが、そんな俺の浅い知識で考える限り、学期が明けたばかりの数週間ほどというのは、クラス委員という役職にとって、一年のうちでもっとも忙しい時期に入ると思うのだが。
 

 

 
 「別にそうでもないのよ、生徒会じゃあるまいし」
 

 

 
 クラス委員様は暢気な口調でのたまいながら、傍らで冷め始めていたティーカップを取り上げ、半分ほどになっていたその中身を呑みほし、小さく息をついた。
 俺がこの部室を訪れた瞬間から、この女の体重を受け止め続けていたパイプ椅子が、わずかに軋みを上げる。

 窓から差し込む冷たい光が、朝倉印のティーカップの淵を、ほんの少しだけ輝かせていた。
 

 

 

 
 冬である。

 

 

 

 

 

 

 つづく


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