ウィース! 谷口です。
地球をコーンの上にのせて、アイスクリームとして食べられるぐらいに冷え切った朝だった。
いっそのこと、むしろ率先して食べちまいたい。
俺はアイスが好きだ! いや、好きというより愛している!
アイスなら一日三個食える! 
一年続けられる自信がある! 
一年で千個以上は食える!
おっと、話は少し逸れたが今は冬だ。
一ヶ月前の文化祭から主だった出会いもないまま、十二月も半分を過ぎてこのままだと約一週間後のクリスマスイブも一人で過ごすことになりそうだ。
(一応、言っておくが文化祭でのナンパ失敗はこの学校の立地条件が悪さが原因だからな)
七割は空白のまま出した期末テストも本日で終了。
テストが終わって気持ち良く、ハイキングコースを下り終わったところで俺の運命が動き始めた…
 
その出会いは光陽園学院の前で起こった。
光陽園も試験だったのか校門から黒ブレザーの女どもが溢れんばかりに出てきた。
普段ならこんな進学校のインテリな女どもには目もくれないがこの日は一人の女に目に止まった。
その女は塀に寄りかかり、キョロキョロと周りを見ていた。
この寒い中、何をしてるんだと思いながら顔をよく見るとAランクの美少女だった。
顔を見た瞬間、俺は察したこの子は出会いを求めているんだと。そして、その相手は俺しかいないと。
寒さに身を震わせている彼女に俺はそっとやさしい言葉を掛けた。 
「あの、寒くないですか。良ければ暖かいお茶でもどうっスか?」
「えっ」
急に話し掛けられて驚いた彼女は俺を見るなり、少し恥ずかしそうに顔を逸らした。
「この近くにいい店あるんですよ、どうですか?」
「あっ、あの……チャックが……開いてますよ」
自分の股間を確認するとチャックが全開に開いていた。
「いつから開いてたんだ? あれか学校出る前に用を足した時か! まさかチャック全開でここまで歩いてきたのかよ」
慌てふためく俺を見て、彼女はにっこりと微笑んだ。
「ふふ、面白い人」
何はともあれ、ここはチャンスだ!
「ええよく言われます。ちなみに俺、谷口って言います」
「……谷口」
彼女は俺の名前を聞いて、考え始めた。
「どうかしました?」
「ううん、何でもない……いいわ、お店に行きましょう?」
「マジっすか? やった!」
俺は両腕を天に突き上げて、喜びを表した。
「そういえば、まだ名前を聞いてなかったっスね」
「私は森、森園生」
 
 

その後、俺達は駅前のロータリーに面した喫茶店へと移動した。
彼女はアールグレイを、俺はコーヒーを注文した。
格好つける為にコーヒーをブラックで飲んだことについては後で後悔することになった。
何でも園生さんは光陽園の一年で最近、転校してきたそうだ。
試験の直前だったこともあり、まだクラスに馴染めていないんだと。
そこで俺は園生さんにこの町に引っ越した記念に案内しましょうかと提案した。
彼女から二十四日の終業式の後なら構わないという回答が返ってきた。
再び両腕を天に突き上げて喜びを表したかったが店内なので自重した。
この日は二十四日の待ち合わせ場所と時間を決めて解散した。
家路の途中で何度か自分のほっぺたをつねって夢でないことを確認した。
 
 
昨日の夢のような出来事の為か今日の俺は寒さを全く感じない。
まるで俺の周りだけは南半球のように常夏だ!
軽やかなステップで坂道を登っていると目の前を背中を丸めたクラスメイトが歩いている。
「よっ、キョン」
「よう、谷口」
キョンに二十四日の予定を聞いたら、あいつは涼宮率いるSOS団の面々と鍋大会だと。
そんなもてないクラスメイトに俺は自慢気にその日のスケジュール帳は赤いハートマークで刻まれていると言ってやった。
まー、Aランクの園生さんを無難と言ったのは俺の見栄かな。
あー、クリスマスイブよ早く来い!
 
 

「森さん、お待たせしました」
「古泉、定時報告をお願い」
「はい、特に目立った動きはなく、SOS団の活動として二十四日の終業式後に部室でクリスマスパーティを行う予定です」
「クリスマスパーティ」
「何でも鍋を行うそうですよ」
「二十四日というのが気になるわね」
「本当に実行されるのでしょうか? 例の未来人とTFEIの言っていることは」
「そうね、未来人が言うには12月中に北高で強力な時空震が観測される」
「TFEIの話では12月内に北高と光陽園学院で情報の改竄が行われる」
「TFEIも未来人も断片的なことしか話さないから何が起こるか全く検討がつかないわ」
「相変わらず、機関は後手後手に回っていますね」
「その為に私が光陽園に潜入して調査してるんじゃないの」
「森さん、一つ質問ですが何で教諭として潜入しなかったんですか?」
「しょうがないでしょ、教師の空きがなかったんだから」
「でも、森さんの年齢で高一とは」
「古泉、余計なことは言わない方が身のためよ」
「……はい」
「それにまだまだ十六才で通用するみたいよ、今日だってデートの約束をしたしね」
「デートですか! 一体どなたとですか?」
「あんた谷口君って知ってるでしょう」
「ああ、彼と同じクラスの」
「その谷口君とよ」
「ええ! どこで知り合ったんですか?」
「ふふ、秘密。ちなみにデートの日はクリスマスイブだから宜しくね」
「ちょっと、森さん」
 

 

園生さんとの約束をした翌日から俺はこの町を散策した。
この市内でお洒落なデートスポットなんぞ皆無かと思われたが、いや探せばあるもので国木田やクラスの女どもに聞いた分も合わせれば、結構あるもんだ。
その場所を一つ一つを巡り、選考をした。
まずは図書館などの市内の施設などを紹介して、手頃な値段だが感じのいいイタリアンレストランで晩飯を頂く。
その後はこの町の夜景を見渡せる場所で俺は彼女にクリスマスプレゼントを渡す。
クリスマスプレゼントがまた悩みどころだった。
最初は道に迷わないように方位磁石を考えたが国木田に話したところ「街中で方位磁石を使う女子高生を見たことある」と言われた、確かに見かけないので無難に腕時計にした。
俺が散策に汗を流している間にキョンが階段からこけて、病院に入院というニュースが飛び込んできた。
ドジな奴だなと最初は思ったんだが三日経っても意識が戻らないので心配になり、国木田と相談して翌日に見舞いに行くことにした。
見舞いに行くと何のことはない、ケロッとした顔で起きてやがった。
何でも昨日意識が戻ったんだと全く心配かけさせやがって、退院の準備でドタバタしていたので少し世間話をして退散した。
そして決戦の日が訪れた。
 
 
決戦の日は雲ひとつない快晴であった。
終業式を終えた俺は浮かれ気分で自宅に戻り、私服に着替えて待ち合わせ場所の北口駅の南側の改札出口を目指した。
 
北口駅に着いたの待ち合わせ時間の一時間前の三時だった。
おっと、俺としたことが浮かれ過ぎて早く着きすぎちまったようだ。
さすがに園生さんはまだいないな。まーいいさ、デートプランを確認しながらゆっくり待つさ。
 
だが不思議なことに待ち合わせ時間を過ぎても園生さんは現れなかった。
 

最初は服選びに戸惑っているのかと思ったが三十分過ぎてもこないのでおかしいと思った。
連絡を取ろうにも俺は彼女の携帯番号もメアドも知らない。
約束をすっぽかされたのではという不安を押し込みながら、園生さんを待った。
 
一時間半を過ぎた頃には逆にここに来る途中で事故にあったのではないかと心配になった。
 
待ち合わせの二時間後の六時にもなると辺りもすっかり暗くなった。
さすがに昼間は快晴で寒さも気にならなったが夜にもなると冷え込む、さらに三時間も待っていると体の芯から凍えるようだ。
 
時計の針が七時を指そうとしている、七時からイタリアンレストランでディナーの予約をしてたっけ、このまま一人で食べてもむなしいだけだな。
せめて園生さんが病気で寝込んでなければいいなと思いながら、帰ろうと歩き始めた時に後ろから声が聞こえた。
「遅れてごめんなさい」
振り向くと黒く大人びたコートを羽織った園生さんが肩で息をしながら立っていた。
「どうしたんすか?」
「急な用事が入っちゃって、寒い中に待たせちゃって本当にごめんなさい」
喜びのあまり涙が零れ落ちそうになった。
「全然気にしてないっスよ。そうだイタリアンレストランを予約してたんですよ、どうですか?」
「いいわ、行きましょう」
「じゃ、急ぎましょうか」
俺は彼女の手を取り、走り出した。
 
 

「遅れてごめん、それじゃ定時報告をお願い」
「はい、クリスマスパーティは主だったこともなく終了しました。その席で年末に鶴屋さんの山荘でミステリーツアーを行うことが決定しました」
「鶴屋家の山荘ね。OK、スケジュールは調整しておくわ」
「お願いします。例の時空震と情報の改竄の件はどうなりました」
「調べた結果、彼が寝込んでいる十八日から二十一日の間にどうやら起こっていたみたいね」
「やっぱりそうでしたか。彼の口振りからもその様なことが伺えましたしね」
「せっかく光陽園に潜入したっていうのに」
「今回の機関は全く蚊帳の外でしたね。おや?どうしたんですかその腕時計は」
「谷口君からのプレゼントよ」
「行かれたんですか? 調査で多忙だったんじゃないですか」
「もう光陽園には潜入しなくてもいいから行かなくても良かったんだけど。彼って、いつまでも待ち続けてそうじゃない? 案の定行ったら、三時間も待っていたわ」
「そのファンシーな時計だと森さんのお持ちの洋服には合わせにくいんじゃないですか」
「いいのよ、今回の潜入でプライベートでも女子高生っぽいファッションと取り入れようと思うの」
「そうですか……」
「あら、古泉。ヤキモチでも焼いてるの?」
「違いますよ」
「時計のお礼にもう一回ぐらいデートしてもいいかな」
「ええっ!」
「何、情けない声を出しているのよ。そうだ、せっかくのクリスマスイブだし、待機中のみんなも誘って飲みに行きましょうよ」
「え、閉鎖空間が発生したらどうするんですか?」
「大丈夫よ、クリスマスの夜にお姫様も悪夢は見ないわよ」
「……分かりました、お付き合いしましょう」
「じゃ、行きましょうか」
 

 

年が明けて、三学期が始まってから園生さんと連絡が取れなくなった。
ショックに打ちひしがれている俺の横で悪友のキョンと国木田が何やら話し始めた。
「谷口、どうしたんだ」
「何でも例の光陽園の子と連絡がつかなくなったみたいだよ」
「何、もうか?」
「瀬能さんの友達の光陽園の子にその子のことを聞いたら、十二月の頭に転校してきたと思ったら、もう終業式の前に転校しちゃったってさ」
「じゃ、二週間ぐらいでまた転校したのか?」
「そうみたい、なんか出会いからして不自然だったしね」
「そうか、それはご愁傷様だな」
ふん、なんとでも言えばいいさ、俺にはまた彼女と再会する予感がする。
それまで男を磨いてやるぜ!
 
 
つづく?
 

 


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