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…美しいことを忘れないように
 
…私に何ができるのだろうか
 
…物語がひとつ終わりを伝える
 
…どんな始まりを望むのだろうか
 


 
静かでした。
周りの子供達が走り回る音。
愉快な音楽を奏でる乗り物。
 
だけど僕と長門さんだけはベンチに座って黙り込んでいた。
 
「…処分されるってどういうことですか?」
 
どれくらい沈黙していたのだろうか。
空が朱くなった頃長門さんにきいてみました。
 
「…さっきも話した通り情報統合思念体の目的は涼宮ハルヒ及びその周りの人間を観察対象として自立進化の可能性を探すこと」
 
相変わらず淡々とした口調で述べる。
 
「…涼宮ハルヒが今回夏休みをループさせていることをあなたに教えたため、その可能性が芽生える機会を潰してしまったと判断された。
よってこのまま解決へと向かうなら、私は情報統合思念体の目的を妨害したとみなされ消去されてしまう」
 
…馬鹿げた話です…
 
「…僕に何か出来ることはありますか?」
「………」
 
そのまま黙る長門さん。
 
「…そうですか」
 
「肯定」の動作は無しか…
 
「…あなたが気にすることでは無い。私の判断ミス」
「そうは言ってもですね…」
「…いい。それに私はとても楽しかった。今までの9532回のシークエンスが退屈だったわけではない。しかし、あなたと一緒に過ごした夏は違った」
「………」
「…最後にあれに乗りたい」
 
…観覧車。
日も落ちて来たからか、人は少なくなり、並んでる人はまばらだった。
 
長門さんには何も声をかけられなかった。
お互い黙っていた。
 
観覧車に乗ってる間も、遊園地をでるときも沈黙が続いた。
 
最後に長門さんのマンションへの分かれ道へと着いたとき
 
「…ありがとう」
 
ポツリと長門さんが呟いた。
無表情でそう言う彼女を見送ってからもしばらくそこに立ち尽くした。
携帯電話が鳴っているのにも気がつかなかった。
 


 
…結局何も出来ませんでしたね。
 
日付は変わって8月31日です。
昨日?疲れきって寝てましたよ。
まぁ閉鎖空間の発生は無かったようなので安心しました。
 
昨日やる予定だった天体観測は涼宮さんの「ある事情」により延期となり、今日になりました。
 
昨日の電話でそのことを伝えられました。
 
…正直この日をどうやって過ごせばいいのかわかりません。
 
家にいてもすることが無いので待ち合わせの時間より1時間早く集合場所に行ってみた。
 
ちなみに機関の方では最後までこの異常に気づかなかったようだ。
 
待ち合わせ場所には…やっぱり長門さんがいた。
 
「…相変わらず早いですね」
「…あなたも」
「いえ、特にすることが無かったもので」
「…そう」
「…また喫茶店に行きますか?」
「…そうする」
 
残りの三人に連絡していつかの喫茶店に入る。
 
「…結局またループするんですよね」
「………」
「…何も出来なくてすみませんでした」
「…いい」
 
そう言って長門さんはメニューに目を落とす。
 
「好きなもの頼んでいいですよ。僕が払います」
「…それは駄目」
 
…へ?
 
「…今日は私が支払いをする。この夏のお礼をしたい」
「いやいや、そうは言っても女性に支払いをさせるわけには…」
「…それに、この財布も使ってみたい」
 
長門さんが取り出したのは…夏祭りで僕が渡したがま口財布。
 
持っててくれたんですか。
 
「…大切にすると言ったはず」
「…そうでしたね…じゃあ今日はお言葉に甘えさせてもらいます」
 
頼んだのはイチゴパフェとサンドイッチ。
さすがにパフェは特大サイズではありませんでした。
 
しばらくすると涼宮さんと朝比奈さんがやってきた。
 
「二人とも早いわね!あの雑用係にも見習わせたいものだわ!」
「で、でもキョンくん遅刻はしてないですよ?」
「団長であるこのあたしより一秒でも遅れた時点で遅刻になるのよ!集合時間には間に合ったなんて甘いこと言わせないわ!」
 
朝比奈さんが苦笑いしている横で長門さんが黙々とパフェを食べている。
 
「さて、キョンのやつに何奢ってもらおうかしら。みくるちゃんも好きなの頼みなさい!あ、有希と古泉くんの分もキョンに払わせ「駄目。私が払う」
「へ?でも…」
「…気持ちはありがたい…しかし、今回の私と古泉一樹の代金は私が払うことにしてある」モグモグ
 
ピシャリと言い切る長門さん。
…でも喋りながら話すのは如何なものかと。
 
「すみません。そういうことなので今回はお二人が奢ってもらって下さい」
「まぁ有希と古泉くんがそう言うならいいけど…」

そんなことより今までのシークエンスで彼はいくら払ってるんでしょうか?
 
「…知りたい?」モグモグ
「飲み込んでから話してください。ってか人の心を読まないように」
「…ゴクン…そう」
 
涼宮さんと朝比奈さんの前に注文した料理が運ばれてきた。
涼宮さんと朝比奈さんも美味しそうにパフェを頬張っている。
 
「あ、キョンが来ましたよ?」
「遅い!罰金!!」
 
ふと窓の外を見ると、夕日が沈んで夜になろうとしていた。
 
本来なら次の日の朝には学校が始まってるはずなんですがね。
 
「…お前なに眉をひそめてニヤついてるんだ?」
「いえ、考え事をですね…」
「…またハルヒ絡みか?」
 
そう聞かれて長門さんの方を見る。
…何で僕のサンドイッチ食べてるんですか?
 
「…気のせい」モグモグ
「まぁいいですけどね…」
「おい、古泉」
「すみません、明日話します」
「…そうか」
 
…「明日」が来れば良いのですが。
 


 
「へぇ!綺麗じゃない!!」
 
場所は変わって長門さんのマンションの屋上です。
雲一つ無い空に幾百もの星が並んでいる。
 
あ、因みに道具は機関の方から借りてきました。
 
「おい古泉、望遠鏡使ってもいいか?」
「えぇ、いいですよ」
「ちょっとキョン!団長を差し置いて使うなんてどういうつもり!?」
「…先に使いたいならそう言えばいいだろう。ほら」
 
そんなやりとりをしている二人を見ていると朝比奈さんが近付いてきた。
 
「あの…古泉くん。ちょっといいですか?」
 
…まぁ大体予想はつくが…
 
「まだ未来との連絡はとれませんか?」
「…はい」
 
やっぱりか…
 
「そうですね…少し思い当たることもあるので明日まで待ってもらえますか?」
「本当ですか!?…古泉くんは凄いです…私なんか何もできなくて…」
 
…心が痛い。
正直に話したい…この夏がループしてること…でも
 
「あれ?長門さんがどうかしましたか?」
「へ?いえいえ、考えごとをしていただけです」
 
無意識に長門さんを見ていたようだ。
 
「そうですか…ふぁ…」
 
と、小さくあくびをする朝比奈さん。
 
「すみません。実は昨日心配で眠れなくて…少し座って星を眺めてますね」
 
そう言い残して隅のフェンスにもたれかかった。
 
…僕も座りましょうか。
 
屋上の真ん中では涼宮さんと彼が望遠鏡を使って空を眺めてる。
火星や月の模様を見ているようだ。
 
長門さんは…あれ?
 
「…ここにいる」
「うわっ!!いきなり横に現れないでくださいよ…」
 
僕の真横に立ってました。
 
「…そこ…いい?」
「え?そこって?」
 
長門さんは僕の足を指差して…って
 
「ちょっと!長門さん!それは色々まずいですって!!」
 
長門さんがいきなり胡座をかいてる僕の上に座ってきました!
体温が伝わってきたり髪の香りが漂ってきたりして…
 
「…大丈夫」
「…もう何でもいいですよ…」
 
まだかなりドキドキしますが…
 
長門さんの肌は星の光に照らされてとても美しくて…って何を考えてるんだ僕は。
 
「…星…綺麗ですね」
「………」
 
そうやって静かに星を眺めていると、一筋の流れ星が通った。
 
「知ってますか?流れ星に願いを送るとその願い事が叶うと言われてるんですよ」
「…本当?」
「まぁ迷信ですがね。それに、流れ星がくるタイミングなんかそうわかるものでも無いですしね」
「…1分36秒」
「…え?」
「…次の流れ星が来るまでの時間」
「…そんなのわかるんですか?」
「…今までのシークエンスにおいて起こり得たことは全て記憶してある…あと15秒」
 
早いですよ!
願い事願い事…
 
「あっ!また流れ星!!」
「おぉ、今日はよく流れるなぁ」
 
離れた所で二人が話してる。
朝比奈さんは…眠ってしまったようだ。
 
「願い事できましたか?」
「…できた」
「何て祈ったんですか?」
「…秘密…あなたは?」
 
僕ですか?
 
『長門さんにとって辛い事が起きませんように』
 
「…僕も内緒です」
「…そう」
 
それからしばらくして涼宮さんは朝比奈さんにもたれかかって寝てしまいました。
そういえば彼の姿が…ってか今の僕の長門さんの姿を見られるのは色々と恥ずかしいような…
 
「…その心配はない」
 
また情報操作でもしたんですか?
 
「…違う。彼は31秒前にこの空間から消滅した」
 

 
「…そうですか」
 
私の後ろで古泉一樹がそう言った。
これが何を意味するか彼にもわかっているようだ。
 
「…約束しましょう」
「…何を?」
「次の夏のことです…まぁ覚えていたらになるんですが」
 
そう言って彼は苦笑する。
 
「また色んな所に行ってみましょう。図書館でもいいし、また遊園地でもいいし。長門さんの行きたい所ならどこへでも」
「…今度こそハンバーガー200個を」
「さり気なく増やしても駄目です」
 
あと何回夏休みをループするのかは見当もつかない…だけど
 
「…ありがとう」
 
古泉一樹のこの提案は嬉しかった。
 
「…この財布もたくさん使う」
「…そうですねって…泣いてるんですか?」
 
また…か。
 
「…辛い」
「………」
「…違う…嬉しい?」
「…いいんですよ。それで…嬉しい時も泣いていいんです」
 
…涼宮ハルヒのこの空間からの消滅を確認。
 
「…また会える?」
「当たり前です」
 
そう言って彼は頭を撫でてくれる。
もう涙が止まらない。
 
「恐らくすぐには無理でしょうが…必ず思い出して戻ってきます」
 
…そんなケースは今までになかった…でも…今なら信じられる気がする。
 
「…約束」
「えぇ、約束です」
 
…朝比奈みくるのこの空間からの消滅を確認。
 
「………」
「………」
 
互いに沈黙する。
だけどまだ涙は流れている。
 
掌にこぼれた一粒を見る。
恐らくこの夏で私が得た感情が詰まっているのだろう。
 
…どうせこのままお別れなら。
 
「…古泉一樹」
「…どうしました?」
 
私の思いが伝わるように。
 
「な、長門さん?顔が近い気が…」
「…いい」
 
今、万感の思いをこめて。
 
「………」
「………」
 
この夏最初で最後の口付けを交わした。
 
…古泉一樹のこの空間からの消滅を確認。
 
9534回目の8月17日への時間の逆行を確認。
 
…きっといつか会えるはず。
 
『またあなたと夏を過ごせますように』
 
…そう願ったから。
 

 

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