• エピローグ その後の話


その後のことを少しだけ語ることにする。世界改変事件以来、特に変わったこともなく、初詣に行ったり、豆まきをしたり、宝探しをしたりと、古泉一樹の言葉を借りれば『健全な高校生らしい日常』を送っている。
変わったといえば、あれ以来、彼のわたしに対する態度に少し変化があったと思う。ちなみに、雪山の事件以来、涼宮ハルヒも時折わたしを心配そうな目で見ることがある。なぜだろう。あのとき倒れたことで病弱だと思われたからだろうか。
一方、変わらないのは喜緑江美里で、世界改変前に生徒会長とお付き合いをしていると語っていたが、そのような事実はなかった。それどころか、いわゆる趣味というものがないらしく、わたしが本を読むように、情報統合思念体からの指令以外で人間的な行動をすることはせず、淡々と任務を遂行している。ただ、彼女の心の内がブラックボックスであることは間違いなく、情報統合思念体の指令をうっとうしいと感じることがあるのかどうかは、定かではないが。

そうそう、もう一つ報告がある。彼ともう一度、図書館に行くことになりそうだ。
というのは昨日、彼から電話が入りSOS団恒例不思議探索で、彼とわたしが一緒になるようにしてほしいと言われた。
どんな服を着ていくべきか迷ったが、いつも制服なのに急に私服でいけば涼宮ハルヒに変に勘ぐられそうなので、やはり制服で行くことにした。もし、過去のわたしと同期化する機会があれば、第1回不思議探索から制服ではなく私服で参加するようにと言うことにしよう。

◇◇◇◇

そういうわけで、不思議探索当日、わたしと彼は一緒に行動することになった。行き先はやはり図書館だった。以前、わたしが「また図書館に」とメッセージを送ったことを覚えていてくれたのか、世界改変のときわたしが図書館の話をしたからなのかはわからないが、いずれにしろわたしは彼と図書館に行くことを待ち望んでいたし、彼も心なしか嬉しそうにみえた。
駅前広場から図書館までの道のりを2人並んで歩く。いつも通る道だが、こうして彼と歩くと、辺りの景色も違って見えてくる。春に初めて図書館に行ったときのことが懐かしい。あのときはしばらくこの近辺を宛もなく歩き、それから、彼が図書館に行くことを提案したんだっけ。歩いているときに、特に会話はないが、改変した世界の文芸部と違い、この沈黙に焦りは感じない。沈黙が続いても、それが心地よいと思える関係は貴重だと思う。

彼と並んで本を読むのは、初めて図書館に来たとき以来で、改変された世界でも彼と一緒に本を読むことは実現しなかった。図書館に着き、さて何の本を読むべきかと思った矢先、カウンターのすぐ横にあるソファーに朝比奈みくるの異時間同位体が座っているのが目に入った。
「キョンくん。……あ。と、長門さん……」
朝比奈みくるは口の前に手を当てて小さな声で言った。朝比奈みくるがここにいることは偶然ではなく必然であることは考えるまでもなく、わたしは思わずため息をついた。なんでも未来からの重要な指令があるらしく、彼は朝比奈みくるとどこかへ行ってしまい、わたしは1人残された。帰ってきたら、何考えてるの? と怒鳴ってやりたいと思ったが、そんなことはわたしにはできそうもない。一度固定化してしまったことは、そう簡単に変えられないものである。
まあ、彼らしいと言えば彼らしいか……
わたしは苦笑に近い笑みを浮かべ、本棚に向かった。
ここでいう笑みという言葉が比喩表現でないということはわたしだけの秘密なのだが。

~おわり~


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