※ キ「ええっと、作者は、この物語に出てくる『理論』を、あらかじめ『曲解している』と明言したいんだそうだ」
   長「……その曲解したいものとは、わたしの『幻想ホラー』の『小説』のこと…」
   キ「なんでも、俺がハルヒに話した『引越し』の話と、長門の小説を読んで『ネタになる』とのアイデアが浮かんだらしい」
   無「まっ、そのネタはきっちり儂が『悪用』して遣るから愉しみに為(し)とれ」
   キ「………………」
   長「………………」
   キ「ま、まあ、それじゃ、始めようか。 長門、頼む」
   長「……はじまり、はじまり…」


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  今、儂は光の「ひ」も差し込ま無い、否、差し込む筈の無い場所に立って居る。 其の場所とは、暗い暗い部屋で在り、且つ誰かの内面が映し出された様な創造された空間じゃ。
 そして儂は、此の空間を造り上げた創造主を携えて、真ん中辺りに置いて在る黒い長方形の箱まで近付く。 すると、其の箱の上に座って居った若造は、儂を静止する様に立ちはだかった。

「退け」

  儂の言葉に、立ちはだかった男は首を振る。

「発表会は、まだ始まっていませんので」

「構うか、余り儂を怒らせるな。 力尽くに成るぞ」

  其の時、儂の後ろの方から白い布を被った人間が云った。

「それは、だめですよ。 時間はまだなんですから」

  其の少女は、ゆっくりと儂の横を通り過ぎると目の前の男の隣へ並んだ。 儂は眼の部分を刳り貫いた布切れが通った方と、逆に立ち続けて居る娘に声を掛ける。

「儂が或の身の程知らず供を相手して居る間に、主は『主の全ての始まり』と成った場所へ帰れ」

「………………」

  其の娘は、儂に視線を向ける事無く、唯じっと目の前の棺桶を見詰めて居た。 儂は準備運動がてらに、間接を鳴らしたり筋肉を伸ばして居ると、

「どうしても、やるというのですね」
「それなら、手加減はしませんよ」

  急に声色を変えて低い声で云った二人に、儂は大層笑って返して遣った。

「無論。 儂の邪魔をする者は、全て敵じゃ」


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「くっ!」

「ふふっ、どうしたんですか? まだまだ、行きますよ?」
「あたしもそんな能力あったらよかったんですが、肉弾戦しかできませんからね」

  流石に、二人同時に相手とはちとキツいな。 一方が、遠距離から変な赤いエネルギー・ボールを投げて来るわ、もう一方は肉弾戦と云い乍ら、思いっ切り武器を使って来るわで困るわい。 其れにしても、此の少女が此処まで動けると成ると、未来の武器とは格段に身体能力を上げるのかも知れぬな?
 長門嬢が見て居た或の棺桶から何とか二人を引き離せたのは引き離せたが、不甲斐無く中々の好戦を演じてしまって居る自身を儂は酷く叱咤して居った。 大きな事を云った癖に、実行出来て居ない自分を。

「如何した、さっさと入らぬか!」

  其の棺を見たなり、地蔵の様に固まって居る長門嬢に儂は罵声の声を上げた。

「今更に成って、怖気付いたのか!? 矢張り、『消える』のは怖かったのか!!」

「………………」

  尚も、動こうと為ない長門嬢。 否、動ける筈が無い。 何故なら、或奴はそんな事を『望んで居ない』のじゃからな。
 儂は、或の長門嬢の小説を読んで、気付いた。 何をか、其れは或奴の『始まり』と『途中』と『終わり』を書いて居ると云う事にな。
 初め、長門嬢は『情報統合思念体と云う全体』であった。 そして、幽霊の少女も又(また)『全体』であり、『全体』で在るが故に『判別の出来ない幽霊』で在った。 恐らく、幽霊の少女は喜緑江美里はじゃと、儂は睨んで居る。
 そして、『全体』で在った長門嬢は、『名前』を持つ事に因り『固有』を手に入れた。 それは、帰属していた『全体』からの脱却で在り、『個人』・『固体』と成った事の証明。 『全体』の長門嬢が、『個人』の長門嬢に成った証。

 頓(やが)て、長門嬢は『物質』と成ったが故に、引き付けられ『光と闇と矛盾と常識』の存在と交わった。 其の存在、今の世界には極々有り触れて居る存在では無いか? 然う、『人間』じゃ。 『人間』は、『光』も『闇』も『矛盾』も『常識』も持ち合わせて居る、だからこそ『人間』なのじゃ。 時には『光』を、時には『闇』を。
 そして、長門嬢は其れ等の存在と交わり、一つの『願望』を持った。 其れは、『人間に成る』と云う物。 『私にその機能はない』? 当たり前じゃ、長門嬢は『人間』では『無い』のじゃから。 じゃが、『そうしてもよいかもしれない』と思う事が、『仮に許されるなら、私はそうするだろう』と思う事が、何よりの『一歩』で在る事に違いは無いの。

 然うして居ると、長門嬢は一人の男と布を被った少女と出会う。 棺桶に座って居る男は「発表会はまだ始まっていません」と、布を被った少女は「まだ、時間はあります」と云った。 だが、逆を取れば『発表会も時間の問題』と云う事。 しかし、其れの一体何が不味いのか? 其の答えは、『有限』じゃ。
 長門嬢は云って居る、『私の居場所は棺桶の中だった』とな。 『私はそこから出て、再びそこに戻るために『帰ってきた』』。 此れは、本当に此奴の望みなのか?
 『そこから出てきた』とは『全体の意識』からの脱却、なら、『そこに戻る』と云う事は『個人』の放棄。 しかし、長門嬢は『人間』と云う『固体』で在りたいと望んで居る。
 ならば、長門嬢が『恐れて居る』事とは、発表する物を『思い出す』と云う事。 『思い出す』が故に、『入れる』。 『入れる』が故に、『消え去る』。 とても簡単な、理屈じゃ。

「主に渡した紙に、書いて在ったじゃろ?!
 『主は『答え』を見付けろ。 しかし、『答え』が見付けられ
 無かった時は、主が『棺桶』に入る事でキョンと云う者を救おう』とな!
 キョンと云う者を救いたくば、然う為ろ!!」

  儂の言葉に長門嬢は、動かない。 と思って居たら、一歩、また一歩棺桶へと近付いて行くでは無いか。

「なっ!!」

  驚いた儂は、咄嗟に歩いて行く長門嬢を凝視してしまった。 其のちょっと為た隙の間に、少女が手に持って居た小太刀で儂の左目を深く切り裂いた。

「おやおや、よそ見とは余裕ですね」
「よそ見してると、あぶないですよ?」

 くっ……!

  血が溢れる左目を押さえ乍ら、此の二人を睨み付けると儂は長門嬢の方へ駆け出した。

「逃がしませんよ」

  男の方が、儂と長門嬢の直線状に立ちふさがった。

「退けぇぇええい!!」

  儂は男の頬を全身全霊を込めて殴り飛ばすと、遅れて来た女は遠心力を付けて遠くへ投げ飛ばした。 儂は、棺桶の本手前まで寄って居た長門嬢に近寄ると、顔を覗き込む様に為て怒鳴った。

「如何いう、積もりじゃ!!
 主は、本当に『消え去る』積もりなのか!!
 折角、主は『一人と云う存在』に成れたのに、其れを………」

  儂は、目に映った光景に酷く驚いて二の句が継げ無く成ってしまった。 長門嬢が、泣いて居る。
 其れは、子供が駄々を捏ねて不貞腐れた様な泣き方では無く、唯々堪え様と為ていた感情が抑え切れず溢れてしまった様な泣き方じゃった。
 長門嬢は、へなへなと崩れる様にして其の場にへたり込むと、

「………………ない…」

「何じゃって?」

「……はいりたくない…」

  儂は、其の言葉に微笑すると、長門嬢の隣に屈(かが)み込んだ。

「其れは何故じゃ?」

「……まだ、一緒に居たい…」

「誰と?」

「………………彼と…」

「キョンと云う者か?」

「………………」

  ゆっくりと、其れでいて、深く頷くと、自身に失望した様に俯いてしまった。 なんじゃ、主は折角『答え』を手に為たのに、何をしょげて居る。

「『答え』は、簡潔に云わぬと正解には出来んな」

「………………えっ…」

  驚いた顔が儂の顔を覗き込んで来たが、儂は何も云わ無い。
 何も云わ無いが故に、何かを読み取ったらしい長門嬢はこくりと頷いて、そして、

「わたしは、入れない。 『まだ、彼を守って行きたいから』。
 わたしは、入りたくない。 『まだ、彼と共に居たいから』。 それが、わたしの『答え』」

  確信を得た顔付きに、儂は笑って斯う云って遣った。

「如何でも良いが、さっさと此処を出ぬか?
 儂はこんな所、一刻も早く出て行きたいんじゃがなぁ」




   - To  be  continued - 


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