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  無名のあまりに不憫な『団員全員に寿司をおごる刑』が執行、及び、終了された次の日、俺はいつものSOS団週末パトロールの集合時間を少しまわったくらいに目覚め、顔を洗って歯を磨き、朝食を取った。
 いつものように簡易なパンを温めただけのトーストとインスタント・コーヒーを啜り、そのトーストにタップリとジャムをぬりたくったパンを美味そうに頬張る妹の顔をぬぐってやるという、それはそれはいつも通りの日常を味わっていた。 っが、俺が腹を満たして上にあがったくらいから非日常がはじまった。

「んっ?」

  俺の携帯がバイブレーションしながら、『ダーリン ダーリン』と着信音をかなでているではないか。 はてっ? こんな朝っぱらから、誰だろう?
 俺はやおらその携帯を手に取ってサブ・ディスプレイを覗き込むと、そこには最近部室での席が俺のとなりに引っ越してきた恩人にして寡黙な少女の名前があった。

「どうした、長門?」

「………………」

  自分から電話してきたのに、俺の問いかけに答えないとはどういう了見かね? まぁ、俺もそれほど急いでいるわけでもないので、この少女が演奏者の無言をしばし聴こうではないか。
 俺的主観を挟みまくりだが、受話器越しの長門はどうやらひどく逡巡しているらしく、数分ほど経ってからやっと一言目を発した。

「なんでもない」

 ――― プツ ツー ツー

 はあっ!!

  俺は、あわてて長門に電話をかけ直した。

「おい! 長門、どうした!?
 俺に用があったから、掛けてきたんじゃないのか?!」

「………………」

  又ぞろ沈黙の化身と化す長門だったが、根気よく待つことによってなんとか俺に電話してきた内容を聞くことが出来た。

「……図書館」

 んっ、なんだって?

「あなたに図書館に、一緒に来てほしいと思った。
 しかし、いまの時間からでは野外で昼食をとらなければいけなく、
 昨日のあなたの出費からかんがえると、それはあまり望まれたものではない。 だから、切った」

  なるほど、俺のサイフの身を按じてのことだったわけか。 だが、こいつのそんな心配は杞憂ってもんだ。

「そんなこと、いちいち気にすんなって。 そんなもんで、俺が目くじらを立てると思ったのか?
 たとえ、誰に迷惑をかけれなくても『俺には迷惑をかけろ』。 いくらでも、な。
 まっ、こんなおまえの趣味や暇潰しに付き合ってやることくらいしか出来んがな。 だから、『頼れ』。

 っで、集合場所とか集合時間とかはどうすんだ?」

「………………」

  またまた長門はだんまりを決め込んで沈黙するんだが、残念ながら嫌がらせにはなりそうにないぜ。 なんたって俺には、おまえとの静かな時間はどこぞに売ってるアロマ・セラピーよりも効果があるからな。
 さっきまでと同じくらい黙りこんでいた長門は、ほんの少しだけホッとした声色を含ませながら今日の俺たちの予定を述べた。

「光陽園駅前公園、10時半に」


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  俺はいままでヒッソリと貯めていた100円ならなんちゃら500円ならなんちゃらと書かれた百均貯金箱を、ハサミで上手いことこじ開けて中から出てきたいろいろな小銭やらを親に両替してもらい、サイフに詰めて自転車にまたがった。
 出るには長門との待ち合わせの時間にまだ早かったが、ノンビリと行くのも良しとした俺は普段週末パトロールへ向かうよりもユックリと自転車を漕いでいたのだが、結局十分ほど前に着いてしまった。
 いつもよりユックリと漕いだはずが、いつもと同じくらいの時間しか掛かっていないってのはどういう原理だ。 アレか? 自覚はしていないが、体がはやく着こうとしていたとか? ハハッ、ソンナバカナ。

「………………」

  公園の中にはいると、マンションまでの距離が目と鼻の先なのに、いまごろ来ている長門がベンチにすわっていた。

「なにやってんだ? まだ、集合時間にははやいだろ?」

  俺の問い掛けに長門がこちらを向くと、「あなたも」と言った。 まあ、確かにそうだが、俺は女の子を待たすほど不躾でも非常識でもあるつもりはないからな。
 とにかく、俺は長門に頼んで自転車をマンションに停めさせてもらうと、俺たちは電車を使って二駅ほどで降りてから、徒歩で図書館まで向かった。
 そのへんに点在している図書館でもよかったのだが、なんとなく俺が初めて長門をつれて行ってやったとこに行きたくて、ついつい俺主導で市立図書館に向かってしまった。 長門もなにも言わず付いて来ているし、これはこれで良いのかも知れない。
 まっ、俺がここを気の向くままに選んだ理由なんて、二度も長門を放置プレイにしたことに対する後ろめたさからだろう。 ってか、それ以外に俺には思い当たる節がない。

「………………」

  図書館をまえにして無言で入っていく長門を、俺はうれしく思いながら見ていた。 勘違いするなよ? こいつがこいつのままで居ることに、安心しているだけだ。
 俺も長門に倣って入って行き、長門がドデカい本棚のあいだにスーッと消えていくのを見届けると、そのへんの棚から取ってきた文庫本を手に持って図書館内に置かれているソファーに腰掛けた。
 それから一時間半ほど、そのいたずらに取っただけの本をさほど真剣に読まずペラペラとめくっていた。 しかし、なんだこの小説は? 死神だと自称する一人称の文章だと思ったら、仕事で一週間かけて死なすのか死なさないのかの調査をするなんて、なんかデジャブを感じるぞ。 デジャブを。

  そして、ある程度本を読むことで腹の虫が鳴って来た俺は、消え去ったあたりの本棚に歩を進めて長門を発見し、昼飯を食いに行かないかと提案すると長門はセンチ単位で首を縦に振った。


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  来る時に降りた駅までもどって来たときは『先に食っときゃよかったか?』とか考えたが、俺も長門もそんな計画的にしなきゃいけないほど急いでるわけじゃない。
 ただ、たまたま長門が図書館に行きたくなり、それにたまたま呼ばれるように付き添った俺とこいつの他愛ない臨時予定なだけしな。 それに…、

「……あなたは?」

  注文し終えて俺を見上げるこいつを見てると、一緒にいることに意味があるだけのように思えてくるんだ。 ああ、そうだよ。 俺の欲目さ。

「んじゃ、俺はベーコンレタストマトバーガーのセットで」

  もちろん、会計はすべて俺持ちだ。 長門が「いい」といってきたが、流石にこんなファーストフード店の飯代くらい奢れる金はある。 しかしまあ、事実、長門が頼んだ量は多いがな…。
 野口英世が俺のサイフから二人くらい撤退する料金を払い終えると、席を長門に取って置いてもらって、俺は品物を受け取ってからテーブルに向かった。 先に座っていた長門が俺のほうへ視線を向け、俺が両手に持っているトレーの片っぽを上にあげて応えると、その視線の先はトレーに乗っかってる長門自身のハンバーガーに向いたままになり俺は苦笑した。 食い気があるのは、こいつの肩書きみたいものでもあるしな。

「うまいか?」

  長門がコクコクとうなずきながら、俺の問い掛けに応える。 別に俺が作ったものでもなく、二人で苦労して作ったものでもないが、パクパクと食い進めていくこいつを見てるとどうにも訊かずには居られなかった。 そんなに美味いかねぇ、ファーストフードってやつは? 否定はしないが、目の前のこいつより美味そうに食えるかは甚だ疑問だ。
 俺は、たまにポテトをとって食いながらハンバーガーをチマチマと食べていた。 たしかに腹の虫が鳴るくらいに腹は減っていたが、なにぶん朝めしを食ったのが遅かったため、食い出すと思いの外はやく満腹感が押し寄せてきて、俺の食事速度は三歳児がお子様ランチを食べ終えるくらいの速度になっていた。 それを見て取ったのか、自分のハンバーガーを食い終えたからなのか知らないが、長門が俺のポテトに視線を注いでいる。

「食うか?」

  俺がそう尋ねると、

「ぜひ」

  といって、長門が俺が食っていたポテトに手をのばした。 俺は唯一のハンバーガーをモソモソと、長門は俺から寄贈されたポテトをモグモグと食っていたんだが、あるとき長門の瞳が違うものを捉えた。
 それはセットで買ったくせに、まったく手を付けていない俺のコーラである。 どう考えても飲み物なしではキツいオーダーだとは思っていたが、もしかしてほしいのか?

「……べつに」

  そういうと、またもや初期俺のポテトに手をかける。 だが、それが長門の強がりなんてのは、妹がお菓子コーナーの前で立ち止まったくらいに俺にはわかる。
 俺は素知らぬ顔で長門のほうへコーラを寄せると、まだ半分ほどしか減っていないベーコンレタスバーガーを食いはじめた。

「いいの?」

  俺の意図を理解したのか、長門がそんなことを訊いてくるがもちろん答えはYesに決まっている。 これでNoといったら、一体なにがしたいのか解からなくなる。

「飲めよ。 気にすんなって。
 べつに、水もらって来りゃいいだけだしな」

  長門にそう言って俺がレジで水をもらいに行こうとしたとき、机に付いていた俺の手の袖口を、シャミセンがえさをねだるぐらいの力で引っ張るのを感じた。

「あなたも飲めばいい」

  そうか、俺も飲めばいいのか。 では、遠慮なく。 って、違う!
 そうじゃない! それじゃ、何のために水をもらいに行くのか、って、それが必要ないと言ってるわけか。

「わたしも、これをすべて飲みたいと思うほどのどが渇いてるわけではない。
 すこしだけ、あなたの飲む分からもらえればいい。 だから、あなたも飲んで」

「………………」

  いやいやいやいやいや、それはマズい。 非常にマズい。 何がマズいかって、道徳とか倫理とか、俺の精神とか。 
 そんなことを考えてる間に、長門はこともなげにコーラを飲み、俺の真ん前にストローがこちらを向くかたちで置いた。 なんなんだ、これはなんの拷問だ?

「………………?」

  俺が長門の使ったストローを凝視しながら生唾を飲み込むのを見て、長門がちいさく首を傾げる。 おまえには首を傾げる程度のことなのかも知れないが、俺には目の前でストリップを始められるくらい頭を抱えたくなる事態なんだ。
 どうする、どうするよ、俺! ここは、長門の厚意に甘えるべきか? いやいや、それじゃ野外に干されている女物の下着を見て、舌なめずりする変態と一緒じゃねえか。 やっぱり、ここはキッパリと断わって置くべきか? だがもし、そこで長門が『わたしだから飲まなかった』と曲解してショックを受けた顔をしたらどうする? おまえは、『そんなことないぞ、長門』と言ってコーラに口を付ける以外の選択肢を選べる自信があるのか? 悪いが、俺には無いぞ?
 っと、たかがコーラを飲むか飲まないかで、えらく深慮しまくっていた俺だったが、そこで天啓が降ってきた。 まあ、これも根本的解決にはなっていないが、いくらかマシであるのも確かだ。


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  レジでもらってきた新しいもう一つのストローを、カップのフタを開けたコーラに差して、あのカップルとかがやっているところを見ると果てしなくウザいアレだ。 だが、俺と長門はソンナ関係ではなく、長門も俺を思い遣っての申し出であり、俺は長門のソノ厚意に甘えたという単純な結果に過ぎない。 コレデ、イイノダ。
 俺はいままで経験したことのない熱を顔に感じながら、長門は何ごともなく平然としたまま、それぞれにポテトとベーコンレタスバーガーとそしてコーラを飲み終えると、また昼からも図書館へ向かうことした。 しかし、なんだってここの冷房の効きは悪いんだ? おかげで冷たいものを飲んでるのに顔が熱いままだったじゃねえか、ったく。

「ふぅ」

  図書館につくと、またもや瞬間的に長門は本棚のあいだに消え去っていき、俺はその後姿を見終えると又ぞろソファーに腰掛け一息ついた。
 しかし、なんだって長門は俺に電話を掛けて来たとき切ったんだろう? 最近の長門には驚かされることが多々あったのは事実だが、あいつが意味なく行動することがないのも理由なくアクションを起こさないのも相変わらずだ。 なら、アレにもそれなりの理由があったのかもな。 今度、聞いてみるとしよう。
 そんなことを思いながら、俺は日ごろのSOS団の雑事でたまった疲れと四日後に死ぬか死なないかの状況にいるってのに何故だか感じている充実感を抱いて、ソファーの心地よさに体をまかせると、知らぬ間に眠りに落ちていった。

 ――― ペラ ペラ

  微睡(まどろ)んでいる俺の耳に、なにかをめくる音がはいってくる。

 ――― ペラ ペラ

 誰か、横に居るのか?

「……起きた?」

  ショボショボする目を擦ってノビを一つすると、俺は疑問形で訊ねて来た声がしたほうへ顔を向ける。 なんだ、長門か。
 すると長門は、端から見れば限りなく無表情なその顔に申し訳なさを一匙(さじ)分入れ混ぜたような顔で俺を上目遣いに見上げてきた。
 だが残念ながら、俺はそんな落ち込み気味の長門を見て、不謹慎にもかわいいとか思ってしまっていた。 知らなかったな、俺がドSだったとは。

「ごめんなさい、起こしてしまって」

 気にすんな、何も思っちゃいない。
 それに、ほら。 俺が寝てる間に閉館時間前くらいになってるから、逆に良かったぐらいさ。
 ありがとよ、長門。

  ドSの俺は、何故だかそれ以上長門を困らせるような真似はせず、閉館時間になるまでただただノンビリと過ごしていた。 もちろん、長門が隣にいたまま。


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  5時になったので、長門とともに図書館の外まで出たとき、俺は眠るほんの前まで考えていた疑問を口にしてみた。

「なあ、長門。
 なんで俺に電話かけて来たとき、おまえはなにも言わずに切ったんだ?」

「………………」

  スッと目線を下げると、たまにチラチラと俺を上目遣いで窺(うかが)ってくるこいつに、またまた俺は顔が熱くなるようなかわいいと思うようなソンナ感じになっていた。 ほんとに知らなかったぞ、ここまでドSだったなんて。

「……聞きたくなかった」

 何を?

「……あなたから『無理』という言葉を…」

「………………」

  俺は、一心に長門の言葉に耳を傾けた。

「本来なら、わたしは午後に、あなたに図書館に付いて来てもらうようお願いをしようと思っていた。
 しかし、何故かそれが出来ず、わたしは朝からあなたに電話を掛けてしまうという誤作動を起こしてしまった。
 そして、あなたが電話に出たとき、わたしは一番可能性の高い状況を直観してしまった。
 それは、断わられるということ。
 昨日、あなたがわたしも含めて涼宮ハルヒ・古泉一樹・朝比奈みくる・無名小次郎の代わりに払った支出で、あなたに外で昼食を取れるような余裕はないはず。
 そう思ったとき、何故だかわからないがわたしはひどく怖くなった。 
 あなたの口から、『無理』と言われることが。 
 しかし、それはわたしの一方的な思いであり、あなたからすればひどく憤りを感じることであったかもしれない。 ……ごめんなさい…」

  ほんとうに申し訳なさそうな顔で謝って来る長門、もちろん俺しか判からんだろうがな。
 そうなんだよ、この宇宙人はいつだってこうなんだ。 なんでも一人で背負い込みやがって、でもそれを発散させる術を知らなくて。 その癖、負けず嫌いと、ある種ハルヒよりも何倍も厄介な性格なんだ。
 だけどな、俺はそんなおまえの、クソ頑張り屋で、クソ一途で、クソ真面目な性格が、

「だから、言っただろ」

  わりと、好きだったりするんだぜ。 長門。

「俺には、『迷惑をかけろ』ってな。
 迷惑のかけれない友達なり、親なり、彼氏なり彼女なりを持ってたって仕方ないだろ?
 俺は『十二分におまえに背中を守ってもらった』、だから今度は『俺にもおまえの背中を支えさせてくれ』ないか。
 俺とおまえの間には、『一般的な友達同士や彼氏彼女の馴れ合いのような関係じゃなく』て、
 『義理・人情』を通す『持ちつ、持たれつ』のような、ぶっとい『絆』で繋がってる関係でいいじゃねえか。 だろっ?」

  普通の状況なら激しく赤面ものの単語を暴発な俺だが、でも俺のこいつに対する気持ちを伝えるにはちと足りないくらいだ。
 その足りない部分は、俺が『表現する方法を気付くなり、解かるなり』したときにまた伝えればいい。 こいつの『何故だかわからない』ことも、俺がこいつに向けている『感情』もな。
 深くうなずいた長門を見て、そんなことを感じながら俺たちは駅までの道を辿った。


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  公園前に着くと俺と長門はマンションまで向かい、エントランス付近まで来ると俺は自転車を取って来て、インターホン近くで長門と向き合った。

「それじゃあな、長門」

  長門は無言のままで居り、どうしたんだろうと思い始めたくらいで、

「ありがとう」

「なに、気にするな。
 俺のほうこそ、この日曜日という休みが
 充実したことで感謝の辞を送りたいくらいだ。
 ありがとうな、長門」

  長門はフルフルと首を振ると、何故だか噛み締めるように感じる口調で俺にこういった。

「……『さよなら』」

「んっ? ああ、また明日な」

  俺はエントランスで立ち続ける長門に、最後まで見送られるかたちで、家までの道を辿った。
 そして、俺は次の日に『その言葉の意味』を知る。 明日を入れての三日間、俺は非常に精神的に萎える体験をするのだった。




   - To  be  continued - 

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