翌朝、俺は差し込む日差しにおはようと挨拶して爽快に目覚めると手許にある時計を引き寄せた。
「……………」
俺の愛車に爆速エンジンでも付いていない限り確実に間に合わないことを認識すると、俺は背伸びをして優雅にベッドから起き上がると妹たちがいるであろう下におりた。
「母さん、俺の小遣いの前借りを申請する」
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颯爽とチャリに跨って、いつもの駅前に着くと俺は駐輪所に自転車を留め集合場所へ向かった。
「おそい!! 罰金!!」
片眉をヒクつかせながら仁王立ちするハルヒに、俺は何ごとも無く「おはよう」と言って、他の団員たちにも挨拶して行った。
「っていうか、あのボケ白髪はいつくんのよ!
入ってそうそうに遅刻とは、えらくかましてくれるじゃない!!
あんたとあいつの4:6ぐらいで、高級料理店に行ってやろうかしらね!!」
まぁそういうわけで、読者の皆さん。 残念ながら俺は一番最後ではないということだ、ご期待に沿えず申し訳ない。 んまぁ、あいつは学校にも余裕を持って遅刻するくらいだから、十中八九こうなると俺には察しがついていたがな。
集合時間に五分遅れの俺の、そのまた十分遅れで奴は来た。 そいつはまるで十年前からこうするのが当たり前だったように、悪びれる様子など気ほども出さず片手を上げて言った。
「おぉ、主等は早いのう」
お前は、沖縄人か。
「はぁ~っ、主は分かって居らぬなぁ~。
沖縄人なら、儂の遅さプラス十五分は当たり前じゃぞ。
或奴等が相手で在れば、此の場に儂は一番に着いて居ったじゃろうな」
「でも、実際には一番遅いわよね♪」
サンサンと降り注ぐ太陽を背景に、ギラギラと目を光らせたハルヒが楽しそうに言った。 なんだろう、大魔神の再来を感じさせる笑みだぞ。
「今日のお昼は、何かフレンチが食べたい気がするのよね~。
だから、あんたたち。 あ・り・が・ね、ぜ・ん・ぶ・出・せ♪」
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幸なのか不幸なのか、今朝念のために母親から催促した来月分の金が財布に中でデンと居座っている。
しかし、この悪魔にお前が見付かってはいけないんだ。 だから樋口一葉よ、野口英世の後ろにピッタリと隠れていてくれ。
「あんた、なに全力で千円札つかんでんのよ。
そんなことしても、二枚が一枚になったりしないわよ」
無駄だとわかりながらも努力している俺を評価してくれ。 お前という魔王から樋口一葉というお姫さまを墨守するための、唯一の手だったんだよ。
俺は高校二年生でありながら一ヶ月の小遣いが5000円という質素な生活で乗り切っているというのに、毎週毎週俺の金で欲しいもんたらふく食いやがって…。
「千円札が二枚と、五千円札が一枚の計7000円ね。
んで、無名。 あんたは、どうなのよ」
何も言わずやおら無名がポケットから取り出したサイフをハルヒはぶんどって、中身をホイホイあさりだした。
「なによ、これ。 千円札が三枚しかないじゃない!
こんなんじゃなにも食べれな……、ってこんなところにファスナーがあるじゃないの。
あんたも人が悪いわねぇ~、どうせこっち側におっきいお札を隠し持って………」
無名のかくれお札スポットを見つけたハルヒは、検察官のように覗き込むと………ヨダレを垂らした。
「うんうん、これだけあれば六人でステーキを頼みに行っても大丈夫ね!!
んじゃ、朝と昼でキョンの全額を喫茶店で使い切って、
夕方は無名のサイフを空にして、おすし屋さんで旨いものを食べまくりましょう!!」
無名はどうなのか知らないが、少なくとも俺の顔を蒼然とせしめるだけの効力を今ハルヒが口走った言葉は持っていた。
おいおいおいおいおい、おいッ!! 喫茶店で、7000円!? どこのリッチな、ファンキーガールだ! しかも、お前は一円もだしてねぇ!!
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そんなやり取りの後、ハルヒを先頭に仰々しくいつもの駅前喫茶店に入ると、俺のサイフの中身を約半分にするオーダーが告げられ俺は読んで字のごとく意気消沈していた。
「それにしても、どうしましょ?
六人ってことは、やっぱり3:3にわかれるべきよねぇ…」
となりの朝比奈さんを隔てた向こう側で、ハルヒがそんなことを言っているのが聞こえた。 こいつの正面に座っている古泉が、『それでよろしいのでは?』的なことを口走ろうとしているのを第六感で悟った俺は、『そうはさすまじき』と言わんばかりにハルヒにある案を主張してみた。
「なぁ、ハルヒ。 やっぱり午前中は広範囲を探してみたほうがいいと、俺は思うんだ。
警察の捜査然り、探偵の調査然りだ。 先ずは広く浅くものごとをみて、その後それらを基に深く掘り下げて行くってのが奴等の鉄則だ。
やはり不思議を掴まえるには、ルパンやホームズのように広い下調べが必要なんだ。
ってことで、午前中は二人で東西南北のどれか三つかを回って、午後からは三人で疑わしく思われる二つを探すことを俺は強く、スッゲエ強く! 何が何でも強く奨める!!」
あとらへん(関西弁…か?は、俺の命に係わるので激しく熱弁してしまったが、致し方ないだろう。 これほど熱弁するポイントは、いまだ嘗て無い…というよりか、歴代をかるく更新している。
俺の暑苦しいさに若干ヒキ気味のハルヒととなりの朝比奈さんだったが、あろうことかハルヒは俺の意見を揶揄しまったくの反故にしようとした。 そして、それに同調した古泉を俺は殺したいと思った。
「バカね、あんた。 そういう枠にはまった考え方が、あたしは一番嫌いなのよ。
大道芸じゃあるまいし、アホのひとつ覚えじゃだめなのよ。 もっとこう、奇を衒った発想をね」
「さすがは、涼宮さんです」
死ねぇぇえええ、古泉ぃぃぃいいいーーーーー!!!!!
俺の心の叫びは決して声に出ることなく、頭の中や胸の中でなんどもなんどもやまびこのようにこだましていた。 そういうわけで、俺は最終的な奥の手を使うことになってしまった。
万が一古泉にこれを言ったらもし続いたときの俺の人生がバラ族になってしまう可能性大であり、なによりリスクが大き過ぎる。 主に、俺への。 そして、朝比奈さんに言ったらばまたまたあのハルヒ特製世界改変が起きるかも知れず、朝比奈さん(大)から釘を刺されているので断腸の思いで却下せねばなるまい。
ということで、消去法で残ってしまったのがハルヒというわけだ…。 無名相手になら、「新入りへの説明は、SOS団・雑用係がするもんだろ」とかいって二人のペアになれただろうが、如何せん長門と無名という組み合わせが既定事項だ。 長門には…、何故だろう言える気がしない。 『言わない』のか、『言えない』のかはっきりしないが、俺にも羞恥心というものがある。 恥ずかしいという気持ちだって、もちろんあるさ。
しかしまぁ…………俺の命のためだ、已むを得ん……。 背に腹は代えられんし……。
「違うんだ、ハルヒ。 俺は午前中はお前と二人っきりで、探索したいと思っていたんだ。
それで、『あわよくば…』という淡い予想を抱いていたんだが、どうやら砂上の楼閣のように崩れ去ってしまったらしい。
いや、残念だ。 非常に、残念だ」
俺は歯が抜けるのでなく砕けてしまいそうなほどのクサいセリフを述べ、無名や正面に座る長門に目を遣った。 無名は『思っても居らぬ癖に…』という、幾分蔑んだ色を含んだ目で俺を見てきた。 仕方ないだろう、お前のためなんだから!
だが、もう一人は違った。
俺が視線を左に向けると…、俺が判かる程度に。 俺が判る程度に、もの悲しそうな表情で俺とハルヒを見遣っていた。
何故だ? 長門…?
違う、俺はおまえにそんな顔をして欲しくはない! おまえを笑わせることはあっても、おまえがそんな表情になるようなことを俺はしたくない!!
「わたしも彼に同意する。
彼の意見を取り入れるなら、
各自おのおのが好きなようにペアになればいい。
だから、
わたしは、無名 小次郎をパートナーに選ぶ」
何故だろう、今の長門の言葉に、俺はこいつの表情を見た時以上に胸のなにがズキリと痛んだ。
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真っ赤な顔をしたハルヒや、長門の言葉に目を丸くする古泉と朝比奈さんはお互い顔を見合わせ苦笑していた。
「べっ、べつにあたしはあんたとなんかなりたくないけど…。
まっ、まあ、団長として団員があたしの背中について来たいって言うんならしょうがないわね。
いいわ、午前中は二人のペアで行動しましょう!」
「朝比奈さん、余り者の僕なんかでもよろしいでしょうか?」
「そんなことないですよ、こちらこそよろしくお願いします」
ある種の社交辞令的なアレっぽく、お互いに了解を取り合っていた古泉と朝比奈さんだったが今の俺にはどうでもいい。 たとえるなら、軽くジャブで牽制していたはずなのに、知らぬ間にカウンターフックでマットに沈められていたような気分だ。 そんな俺を見て、無名が口の端だけを上げるニヒルな笑いを浮かべていた。
その時俺は、こいつは『死神』なんかじゃなくて『悪魔』だと思った。 その笑いが虚無的なソレではなく、地雷を踏んだ哀れな負傷者を『バカめ』の一言で足蹴にするような嘲笑う笑みに見えたからだ。
だがまあ、いつまでもショックを受けているわけにも行かず、俺は五人を残して先に会計を済ませ、外に出た。
ハルヒたちも外に出てくると昼の集合時間を十二時と決めて、俺たちは三方向にわかれてそれぞれ当てのない不思議探索に乗り出した。 そして、俺たちは十二時に集まった。
というふうに、バッサリと割愛したいところだが、そんなことをすると読者の皆さんにフルボッコにされるのを覚悟しなければならないので、俺的ダイジェスト板でお送りしよう。
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「なんか、あそこの露店が怪しいわね。
キョン、あそこでアイス買って来なさい」
なんでだよ。
「あのアイスを食べると、あたまの閃きが増しそうなのよ!」
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「キョン、この香水をあたしに献上しなさい」
断わる。
行き成り、服屋に寄る意味がわからんし、
香水を買えという脈絡がまったく理解できん。
「わかってないわね。
この香水をつけることによって、謎があたしに寄ってくるのよ!」
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「キョン、あっちにある屋台でクレープ買って来なさい」
何故だ。
「まったく、あきれるわ。
あたしがお腹すいたからに、決まってるじゃない」
てんめぇぇええーーー!!
思いっ切り、私事じゃねえかぁーー!!
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- To be continued -