この話はペルソナ4とのクロスになります。ご注意してください。


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─ プロローグ ─


それはハルヒの提案で、SOS団一同で市営プールに出かけたある夏休みの出来事だった。
俺はプールの中ではしゃぐ朝比奈さんの水着姿で眼の保養をするふりをしながら、視界の片隅でハルヒの水着姿もチェックするという高等プレイを楽しんでいた。
いやあ、夏というのは良いもんだ。
さんざん泳ぎまくって、さすがに疲れた俺たちが、ビーチパラソルの影の中で休んでいると、


「ねえ、マヨナカテレビって知ってる?」
「なにそれ」


隣のビーチパラソルの傍で休んでいる、女子高生とおぼしき女の子の会話が、なんとなく耳に入ってきた。


「雨の降っている午前零時にテレビを見ると、自分の”運命の相手”が映るんだって」
「へーえ、そんな話あるんだ」


なんだ、くだらないトンデモ系のオカルト話か。女の子ってこういう話題が好きだねえ。
「ほんと、くだらないわ」
と、突然、俺の横で寝転がっていたハルヒが、起き上がりながら噂話について感想を述べる。
「あたしねえ、一時期オカルト研に入っていた事あるから、そういう話何度か聞いた事あるのよ」
そういえば、お前は北高の全部の部活を試してみたんだったな。
「ほんとくだらない。ひとつたりともマトモな話なんかなかったわ。あんな事を信じちゃう人の気が知れないわね」
お前ならそう言いそうだぜ。


しかし、運命の相手ねえ…。
そんなのがホイホイ解れば、苦労はしないっての。
「何?キョン、もしかして今の話に興味があるわけ?」
いや、別にそういうわけじゃないが…。
「ふうん?なら、試してみましょうか。雨の降ってる午前零時だっけ?」
お前、さっきそんなのくだらないって自分で言ってただろ。
「団長として、団員に教育してあげようって言うのよ。簡単に霊感商法やオカルト詐欺に引っかかるような、ダメ人間にならないよう、実地訓練で教えてあげた方がよさそうだから」
とか何とか言って、実はお前の方が気になってるんじゃないか?その”運命の相手”とやらに。


俺はカンカンと太陽が照りつける夏の空を見上げた。
雲ひとつ無い快晴。天気予報じゃ、当分は雨が降らないことになっている。


「それで、この話には続きがあってね…」
「えー?、なになに?」


女子高生の話はまだ続いていたようだが、興味を失った俺はもうその先を聞いてはいなかった。
どうでもいい、たわいもない世間話さ。
このときの俺は、その程度にしか考えていなかった。



マヨナカテレビ



あれから何日かたったある日の夜。
熱帯夜に寝苦しかった俺は夜に目が覚めてしまった。
窓の外は珍しく雨。湿度が上昇し、かえって寝苦しい状況だ。


喉の渇きを覚えた俺は、部屋を出て冷蔵庫へと向かう。
一杯のよく冷えた麦茶を飲んで、なんとなく壁にかけられている時計を見上げた。
午後11時55分。
そういえば、あのマヨナカテレビとかいう話は、午前零時の雨の夜だっけ。
丁度、その時間に差し掛かるところじゃないか。
俺は居間へと移動し、電源の切れているテレビの画面を見つめた。
何も起こらない。当然だな。


くるりと身体を反転させ、自室に戻ろうとしたその時だった。


テレビ画面に砂の嵐のような物が唐突に映し出された。
なんだこれ、俺はテレビのボタンには全く手を触れてないぞ。
恐る恐るテレビに近づき、砂の嵐を凝視する。
ザーっというノイズ音と、酷く不鮮明な画像の奥に、人影が映っているのが見えた。


誰だ?
シルエットからして女性?
頭にリボン…それと、黄色の…カチューシャ。


始まった時と同様に、画面は唐突にプツンと切れた。
しばらく待ってみたが、それ以後は何も映らなかった。


何なのだ今のは…テレビの故障か?それとも俺が寝ぼけていただけなのか。
ハルヒにSOS団に引き込まれてから、もうだいぶ経つ。この程度の非日常的な出来事ぐらいでいまさら驚きはしない。
が…多少猟奇的な出来事ではあるな。
まあ明日、長門にでも聞いてみたらいいだろ。それでこの世の不思議の大半は解決する。


廊下を進んで自分の部屋へ向かう。
ドアを開けて中に入ると、着信音をオフにしてある携帯が、机の上で激しく振動しているのが見えた。
こんな時間に電話をかけてくる奴というのは、大体察しがつく。
画面表示を見て俺の予想通りの相手だと確認すると、通話ボタンを押して携帯を耳に当てた。
もしもし?
「早く出なさいよ!まったく、いつまで待たせるの!…で、何が見えた?」
深夜の突然の電話だと言うのに何の挨拶も無く、いきなり罵声と共に本題に切り込んでくる。
これがハルヒ流の電話術だ。なぜだか解らんのだが、俺にだけはこういう態度で電話してくるらしい。
「主語をハッキリさせてから会話してくれ、何について見えたと聞いているんだ」
「マヨナカテレビよ。この前プールで話してたでしょ?」
やはりそれか…。
「ああ、確かにそれなら…」
「やっぱり、あんたにも見えたのね!で、何が見えたのよ!」
事ここに至って、ようやく俺の頭は寝ぼけ状態から覚め始めていた。
ふと、あの時の女子高生の会話が頭に浮かぶ。
映っているのは”運命の相手”。
「…。」
「どうしたの?」
いや、テレビ画面はずーっと砂の嵐のままだった。誰も映ったりなどしなかったぜ。
「…本当?」
ああ、本当だとも。
「そう…。そう、なんだ…」


ハルヒは電話の向こうで酷く落胆しているようだった。


それで、お前は何か見えたのか?
「へっ?…あたしは…べ、別に誰も映らなかったわよ」
それが本当なら何で電話してきたんだよ、お前は。
「うーん。じゃあ、もういい。切るね、電話。おやすみ、キョン」


「おやすみ」なんて声をかけてくるなんて、ずいぶんとしおらしい。


悪く思わないでくれよハルヒ。
お前にはこの世界はいたって平穏で、不思議など存在しないのだと、思ってもらわねばならんのだ。
さっきの嘘も、そういう観点からでたものさ…きっと、な。


俺は携帯を机に置くと、ベットへと戻る事にした。
せっかくの夏休みだ。明日は昼までのんびり寝てやろう。


…が、俺のその願いは簡単に打ち破られた。


朝っぱらから再び携帯が振動し、机の上で激しく自己主張する音を立て始めた。
俺は名残惜しいベットから這い出ると、携帯を取って画面を見る。
古泉からだった。
「もしもし、なんだよ朝から」
「早朝に申し訳ありません。緊急事態が発生したものですから」
何が起きたんだ、一体。
「涼宮さんが、行方不明になりました。目下、機関の総力を挙げて捜索中ですが、足取りすら掴めておりません」
なんだと?


◇ ◇ ◇ ◇


俺は飛び起きて、できるだけ急いで準備を整えると、古泉の指定した集合場所へと直行した。
古泉と長門の二人はもう到着しており、朝比奈さんもやや遅れて到着した。


行方不明というのはどういうことだ。
「涼宮さんの消息がわからなくなったのです。機関がそれを掴んだのは今朝からで、涼宮さんの家から彼女の痕跡が完全に消えた、そういう状態です」
消えただと?
「昨夜、涼宮さんが自宅に帰られたところまでは把握しています。その後、外出した形跡は全く無いのですが、涼宮さんの姿は自宅から忽然と消えました」
ハルヒを尾行して監視しているのかと、いろいろ文句を言いたくなるが、今はよしておこう。
長門、ハルヒの居場所は解らないのか?
「涼宮ハルヒの現在位置は、完全に不明」
長門は黒目がちな瞳を俺にまっすぐ向けたまま、
「統合思念体も涼宮ハルヒの現在位置をロストしている。恐らく、この時間平面上に涼宮ハルヒは存在していない」
長門ですら場所が解らないのかよ…。
朝比奈さん、この事態について何か未来から情報はありませんか?
「ごめんなさい。わたしからは何も情報はありません。この事態について何も聞かされてなかったし、未来にアクセスしても禁則事項としか回答がこなくて…」
本当に申し訳なさそうに朝比奈さんはそう言った。


なんだよこれ、打つ手全く無しなのか?
「いえ、まだそういうわけではありません。あなたに質問します、昨日の涼宮さんに、何か変わった所はありませんでしたか?」
ある、ひとつだけ。
俺はマヨナカテレビの噂話について全員に話をした。
「マヨナカテレビ、ですか…」
この噂話について、3人とも初めて聞く話のようだった。
俺は昨夜遅くハルヒから電話があった事と、何も映らなかったとハルヒに回答した事についても話をした。
「なるほど。つまり、すくなくとも今日の午前零時すぎまでは、涼宮さんはこの世界に存在した事になります。そのマヨナカテレビとやらが、今回の失踪に関するキーワードになりそうですね」
手がかりはそれしか無いようだ。もう一度、マヨナカテレビを見ることはできないだろうか?
マヨナカテレビは雨の日の午前零時にしか見れない事になっている。
「次に午前零時にこの地域に雨が降るのは、18日後と予測される」
そいつはいくらなんでも遅すぎるぜ。長門、無理を承知で頼むが雨を降らせてくれないか。
「了解した、今回は非常事態」
「そのマヨナカテレビを見ることができるのは、あなたの家の居間だけなのでしょうか?」
わからんな。ハルヒも自宅で見たようなそぶりだったが…。
「ならば、とりあえずは各自が自宅のテレビを見るということで」
そうしよう。
…ところで長門の部屋ってテレビが置いてあったっけ?
「問題ない」
長門は黒曜石の様な瞳を光らせながら。
「これから購入する」


◇ ◇ ◇ ◇


こういうときの時間の進み方というのは、実にノロマでもどかしい物だ。
俺はやきもきしながら夜を向かえ、午前零時少し前になってから静かに居間へと移動した。
親とか妹とかを起こすと面倒な事になりそうだからな。


時計の針が動き、午前零時を指す。外ではしとしとと雨が降っている。
やがて昨日と同じ様にボタンも押していないのにテレビが映り、砂の嵐が表示されたあと…


「白馬の王子様」
妙にロココ調の甘ったるい文字が画面に大写しになった。
「ああ、ここは本当に憂鬱で退屈で溜息が出そうな世界、毎日が窮屈でつまらないわ…」
ナレーションと共に登場したのは、明らかにハルヒだ。但し服装がまるで中世ヨーロッパかファンタジーの世界に出てきそうな、王女様が着る様なドレス。
よく見ると、周りの景色もこれまた中世ヨーロッパかファンタジーの世界に出てきそうな、お城の一室といった様子である。
「このつまらない日常から、あたしを救ってくれる白馬の王子様、早く現れないかしら、あたし、いつまでも待ってます…」
まるで祈りを捧げるかのように、ひざまずき、手を組んで、どこか遠い眼をしているハルヒの横顔がアップになり…、
やがて画面がフェードアウトして、映像はそこで途切れた。


昨日と違ってえらく鮮明な映像だったが…
なんなのだ、このつまらなそうな三流バラエティー番組のような映像は。
手に持っていた携帯が振動した。着信は古泉からだった。
「古泉です。マヨナカテレビはご覧になりましたか?」
見たよ。必死に待っていたのだが、脱力するような内容だったな。
「…どうやら同じ内容のようですね。映っていたのは涼宮さんのようでしたが」
だな、間違いなくハルヒだ。妙に乙女チックな感じだったが…あいつはテレビの中で何をやっているんだ。


ハルヒの奴、急にテレビ番組でも作りたくなったのかね。
あまりにもつまらない番組を見てしまい、それならあたしが作るわ!とか、なんとか。映画撮影の時の様にさ。
「その可能性も否定しませんが、それでも楽観視はできません。マヨナカテレビの噂について、機関の方でも調査を行ったのですが、あの話には続きがあるようです」
続き?
「続きというか、亜種のような話なのですが…。テレビに映った人が運命の相手ではない場合、あのテレビを見た人はいつの間にか居なくなってしまい、霧の濃い夜に死体となってアンテナに吊るされる、という物です」
なんだと?
そんな話、俺は聞いてないぞ。
「この手の噂話というのは、人から人に伝わるたびに尾ひれや背びれが付いてどんどん話のバリエーションが増えていく物なのです。時には思いも寄らぬ話に変化したりするのですよ。伝言ゲームの要領ですね」
今回、ハルヒは失踪してしまっている。それじゃ今回の話というのは…。
「もちろん、新聞を見れば解りますが、アンテナに引っかかった死体が発見されるような事件は、まだ1回も起きた事はありません。ですが、涼宮さんがこの話を本気にした場合…」
ああ、あいつの情報改変能力とやらが発揮された可能性があるわけだな。桜を咲かせたりとか鳩を変化させたりとかした、例の能力。
「ご明察です」
くそ、自分の能力で自分が死んでりゃ世話ないぞ、ハルヒよ。


つづく


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