「私と長門さんって、異世界人みたいなものですよね…」

お茶を飲みながら朝比奈みくるが呟く。

「…どうして?」
「私も長門さんも、この世界に帰る場所がない…世界のどこに行ったって迷子みたいなものですから…」
「…だけど私はいつか帰らないといけない。あなたも同じ」
「そうですよね…」




「ごめんなさぁい」

朝比奈さん救出完了の連絡を受けた後、そのまま祭りの中心部に集合になりました。

「全くもう!次から気をつけるのよ!?」
「はい…」
「長門はカレーまんなんかどこで買ったんだ?」
「…あっち」
「あっちって…お、金魚すくいだ」
「本当だ!ね、勝負しましょ!負けた人が罰ゲームとして一位の人の言うこと聞くの!」
「…お前の言うことは怖くて想像できんな」
「何よ!だったら負けなければいいのよ!!」
「あのー…できれば仲良くやりたいなぁなんて…」

…これ何て雛見沢??

「ほら、有希もこっち来てやんなさい!お代はキョン持ちだから!!」
「だから何で俺「遅刻の罰金よ!」
「おや、僕の分も出してくれるのですか?」
「…わかったよ」

金魚すくいなんて久しぶりです。

「機関の人達と祭りに行ったりはしないのか?」
「北高に入るまでは毎日のように訓練をしてましたからね」
「…お前も結構苦労してるんだな」
「ほらキョン!さっさとお金出しなさい!」
「…あなたほどではないですよ」
「…ニヤニヤするな」

ほらよ、という声とともに彼から網を渡されました。
…モナカじゃないんですね?

「そういや最近は見かけないな」
「ふぇ?これで金魚をすくうんですか?」
「…朝比奈さんの未来ではどうなってんだろうな」
「案外金魚じゃなくなってるかもしれませんね」
「例えば?」
「…ひよことか?」
「…無いな」
「…無いですよね」
「…水に入れることになるんだろ?」
「…ひよこをですよね?」
「…無理だろ」
「…無理ですね」

ひよこじゃなければ何がいいんでしょうかね…

「やった!また取れたわ!!」
「涼宮さん凄いですねぇ」

おぉ、涼宮さんのお椀の中にはすでに3匹の金魚が入っています。
朝比奈さんも1匹取れたようですね。

それでは僕も…





ビリッ!!!




や、実際濡れてるのでそんな事は無いのだが、網の破れる音がした。

「お前…水面と平行に網入れたら破けるに決まってるだろ」
「古泉くんの記録は0匹ね!」
「…もうビリ確定じゃないのか?」

いや、まだあなたが0匹の可能性が…

「悪いな。何でも人並みに成し遂げるのが俺の長所だと自負しているんでね」

2匹も…
な、長門さんは!?

「お嬢ちゃん…それ以上は勘弁してくれ」
「………」

…屋台の人に土下座させるほど取ってました。
お椀二つ分に金魚がみっちり入っています。

「やるじゃない有希!」
「いや…取りすぎだろ」

結局

一位が長門さんでビリが僕になりました…

「…あなたの罰ゲームは今度決める」

…そうですか。

「ね、みんな浴衣着てるんだしこのまま花火しない?」
「それいいですねぇ」
「……」
「どうしました?」
「何か嫌な感じがする」
「キョン!花火買ってきなさい!!」
「…ほらな」
「僕も少し出しますよ。三人は先に公園に行っててください」
「わかったわ!」

プールにお祭り、さらには花火。
夏の定番を前にして僕はとても浮かれていました。
楽しかったんです。

だから気にもならなかったんでしょうね。

長門さんが少し退屈そうにしてたことなんて。

「おい、古泉行くなら早く行こうぜ」
「はい、わかりました」

違和感すら感じなかったんだ。




「これでいいんじゃないですか?」
「ハルヒがそんなちゃっちいので満足するとは思えんな」
「あんまり凄いのだと近所迷惑になりませんか?」
「…長門に助けてもらうか…なんか最近長門に頼りっぱなしで申し訳ないな」
「…最近?」
「ん?…最近でもないか…合宿が始まるより前か?」
「おそらくそうでしょう」

…妙に会話がかみ合わない気が

「げ、最近の花火ってこんなに高いのもあるのか?」
「でもこれなら涼宮さんも満足するんじゃないですか?」
「んー…割り勘なら買ってもいいぞ」
「決まりですね」

会計を彼に任せコンビニの外に出ようとする。

…みんなに飲み物でも買っていきましょうか。
えっと…コーラ5本でいいかな?

彼と一緒に外へでると、祭りの後の熱気というか夏の夜特有の蒸し暑さがあった。

コーラ買って正解ですね。









「遅いわよ!蒸し暑くて死にそうだったんだから!!」
「…これでも急いだつもりなんだが」
「すみません。飲み物を買ってきたのでこれで涼んでください」
「さすが古泉くん!私が副団長に任命しただけあるわ!平団員にも見習ってほしいわね!!」
「いえ、何となく買っただけですよ」

本当に何となくでした。
そのまま公園に戻ると彼が飲み物を買いに行かされる気がして。

「はい、朝比奈さん、長門さん」
「あ、ありがとうございます」
「……」
「あ、長門さん」
「…何?」
「結構音のなる花火を買ったので、周りに迷惑にならないようにできないでしょうか?」
「…既に防音シールドを展開している。この公園外には何の音も届くことはない」
「そうでしたか。ありがとうございます」
「…いい」
「じゃあみんな!花火始めるわよ!!」
「朝比奈さんそっちに火をつけてもダメですよ」
「こっちのヒラヒラにつけるんですか?」
「わー!綺麗じゃない!!」
「ちょ!長門さん!!こっちにロケット花火飛ばさないでください!!」
「…古泉くんの全力疾走なんて始めて見ました」

はぁはぁ…疲れた。

ロケット花火を避けていたらみんなと離れてしまいました…

ベンチに座って少し休むことにした。
コーラ…みんなの所に置きっぱなしですね。

遠くで綺麗な花火が上がった。
涼宮さん達の楽しそうな声が聞こえる。

「夏ですね…」
「…夏」

…いやいるなら言って下さい長門さん。
なんでまだロケット花火持ってるんですか?

「…楽しい」
「…さすがに少し疲れました」
「…そう」

そこで悲しそうにされても…
ってかまた追いかけ回すために来たんですか?

「…これ」

あ、コーラ…

「ありがとうございます」
「…いい」

そう言うと長門さんは僕の隣に静かに座った。

「戻らなくていいんですか?」
「…あなたは?」
「僕は少し休んでから行きます」
「…なら私も」
「そうですか…」

しかし…長門さんの浴衣姿は…綺麗だな。
いや、涼宮さんと朝比奈さんが綺麗じゃないというわけじゃなくて…

「…まな板のような体にあっていると?」
「違います!人の心を読まないでください!!」
「…考え直してみる?」
「だから違いますって!ロケット花火は勘弁してください!」

ただ物静かな感じにあっているなぁ…って。

「………」
「………」

…沈黙。
特に気まずかった訳でもないんですけど…

一定周期でコーラを口にする長門さんを眺めていると、長門さんは静かに、そして淡々と話し始めた。

「…元々私は感情というものは所持していなかった」
「…観測する者には必要ないと?」
「…そう。しかし最近あなた達と行動するにつれて様々なエラーが発生するようになった」
「…感情ですか」
「…このエラーを感情と言っていいのかはわからない…だがいくら本を読んでも理解出来ないことをあなた達は教えてくれた。 もっと色んなことを知りたいとも思った…だけど…怖かった…あなた達と一緒にいるととても楽しい…それに嬉しくなることもある…だけど…やるべきことを終えたら私は…」

そう言って長門さんは話すのを止めた。

…僕にだって長門さんが言おうとしたことはわかる…全てが終わったら長門さんは…いなくなってしまう。

「…だから私はあの時涙を流した…これが感情であるのなら私は感情が存在する理由がわからない。こんなにも辛いなら消えてしまえばいい」
「…だけど」
「………」
「…辛いだけじゃないんですよね?」
「………」
「楽しさや嬉しさもあったんですよね?」
「…コクン」
「いいことじゃないですか。怖かったら誰かにすがればいいんです。辛かったら思い切り泣けばいいんです」
「…あなたは…楽しい?」
「何も楽しいことばかりではないですがね。無駄にネガティブ思考な人よりかは得をしてるんじゃないかと思ってますよ」
「…私は…」
「一人の女の子なんですから。あんまり我慢しないでください」
「………」
「それに、あなたがどこかに行くことなど涼宮さんが許してくれるわけないじゃないですか」
「…ごめんなさい」
「いいんですよ。苦しかったら助け合えばいいんです。僕でよければいつでも相談に乗ります」
「…ありがとう」

その言葉を聞くと、僕はコーラを飲み干した。

「さて、行きましょうか」
「…コクン」




「お、古泉に長門。どこ行ってたんだ?」
「いえ、汗をかいたので向こうで涼んでいました」
「もう線香花火しか残ってないわよ?」
「大丈夫です。線香花火が好きなので」
「あらそう?まぁ最後だしのんびりやりましょう。私としてはもっと派手な花火が好きなんだけどね」
「…まだ騒ぐ気か」
「はい、長門さんの分ですよ」
「…まだこれも残ってる」
「お、ロケット花火か。線香花火やる前に片付けとこうぜ」

そうして火を付けられた花火は高く高く飛んでいった。
そのまま見えなくなってしまっても、長門さんはずっと空を見ていた。

つづく

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