中学生の時、私は独りだった
高校生になって暫く経った今、私は一人になった

戻らなきゃいけない
いつもの日常に
古泉くんが頷いて
みくるちゃんが驚いて
有希が静かにこっちを見て
キョンが大げさにため息を吐いて

何の変哲もない

SOS団の1ページ

だから私は叫んだ

「こんな世界なんか――――」


春眠暁を覚えようが覚えまいが眠いものは眠い。

あー頭がボーっとする

やかましく鳴り響く目覚ましを止めて、私は目を擦った。

今日は…あれ?月曜日?
日曜日じゃなかっけ?

時計の針は平日にいつも起きる時間を指している。

…まだ寝ぼけてるのかしら

このままだと遅刻してしまう。
私は急いで身支度を整え、腰の当たりまで伸びる髪を黄色いリボンでポニーテールにした。

家を出てしばらく歩くと、5組の朝倉さんと会った。
確かクラスに馴染もうとしなかった私に気遣って積極的に話しかけてくれてた。
私としては鬱陶しかったっていうのが本音なんだけど、何故か少し嬉しかった。
多分素直じゃないのよね、私。

…だけど

よくよく考えたら違うクラスなのよ、朝倉さんって

「あ、おはよう朝倉さん」
「…おはよう」

しかもこんなにおとなしそうに話す朝倉さんがどうやって話しかけてきたのかがどうしても思い出せない。

私の中ではもっと活発で、おでんしか食べないイメージがあったんだけど…
最近会ってない気がしたから…気のせいかしら。

まぁ出会ったものは仕方がないので特に話すわけでもなく二人で学校に向かった。

何が理由でこの学校を選んだのかは覚えてないけど、私は北高に進学した。
特進クラスも無く、勉強にもそんなに熱心でもなさそうな学校をなぜ私が選んだのか、今更ながら理解に苦しむ。

入学してから宇宙人や未来人や超能力者に異世界人を呼び出してみたけど、
そんなものは一向に姿を表さなかった。
今は毎日がくだらない。
両親がうるさいから仕方なく学校に来てるけど、大抵は授業をサボってしまっている。

校門をくぐり、下駄箱で靴を履き替えると朝倉さんがいなくなっていた。

…あの子「またね」ぐらい言えないのかしら?

靴をしまい弁当を忘れた事に気付く。
…あれ?でも私、いつも昼はお弁当食べてたっけ?

そんなことを考えてると誰か話しかけてきた。

「お、涼宮、今来たのか?」

…この声は

「谷口、気安く話しかけないでくれる?
変な噂立てられたらたまったもんじゃないから」
「…やれやれ」

こいつの名前は谷口、入学式終了後に一番に話しかけて来た。
しかも何の因果か何度席替えをしても私の前にこいつがいる。
おかげで根も葉もない噂が飛び交って不快極まりない。

「それにしてもあんた…やれやれなんてそんな年食ったような言葉使ってたっけ?」
「え?あー…たまたまだ、たまたま。ほら、HR始まるぞ」
「…私はいいわ。どうせつまんないし…それに」
「それに?」
「あんたと一緒に教室に入るとまた変な噂が立つから」

そう言って教室と逆方向へ歩き出した。

階段ですれ違った喜緑先輩が可愛らしい声をあげて転げ落ちて行った。

…後ろからまた「やれやれ」と聞こえた気がした。


…暇

私は元文芸部の窓際に座ってボーっとしていた。
いつからか放課後にここに寄るのが日課になっていた気がする。
…それにしても

「私ガスコンロなんか持ってきてたっけ?」

私の視線の先にはガスコンロだけでなく、5人分の湯のみまで置いてある。

「しかもなんでメイド服まで?」

扉の近くには数種類のコスプレ衣装が立てかけてある。
これらは明らかに入学当初には無かったものだ。

…駄目。いつからあったのかまったく思い出せない。

なんか今日は物忘れが多い日ね…

ちょうど昼近くになったので購買でパンを買って部室で食べていたら眠くなってきた。

…どうせ本を読むことしかすることないから寝てしまおうか。
それにしても今日は晴れの予報だったのに、何だかぱっとしない色の空ね…

まぁ愚痴っても仕方がないので寝てしまった。










そして私は夢を見た

私の目から私を覗いて
私は普通に過ごしてた
私が望んだのは違うもの

だけど(…きて…)

どこかで見たことあるような人たちと
部室で過ごす私の顔は(…起きて…)
どことなく嬉しそうだった




「涼宮さん、起きてください」
「…うん?」

誰かに起こされた。
…勝手に部室に入ってきたのかしら?

「…ってうわ!!あんた何!?」

ピンポン玉くらいの大きさの赤い玉が浮いていた…そして

「名乗る程の者でもありません」

話しだした。
…嘘?これってまさか。

「あんたもしかして宇宙人か未来人かもしくは超能力者!?だったら私の友達になりなさい!今すぐ!!!」
「…ふふ、違います…まぁ強いて言うなら異世界人というような存在でしょうか」

それでも十分な存在よ!!

私はもの凄く興奮した。
どうしても出会えなかった存在がここいるのだ。

「実は…今日は涼宮さんにお知らせしたいことがあって来ました。」
「…私に?」
「ええ、突然で申し訳ありませんが、あなたはとある世界の神になる権利が与えられました」
「…何それ?」
「言い方を変えましょうか。望んだものを現実にする力、それを得る権利が与えられました。
既に力の一部が備わっております。色々試してみるのもいいでしょう。」
「凄い力ね!…でも何で私?」
「ふふ…選ばれたからですよ。」

そう言うとそいつは消え始めた。

「ち、ちょっと待ちなさい!これから私は何をすればいいの!?」
「その力が気に入ったら僕を呼んでください。…コツは心の底から強く望むことです」

……………

望んだものを現実にする力…か。
とりあえず忘れた弁当でも出してみようかな…
コツは…強く望むこと…

…あった。

私の弁当箱が机の上に置いてあった。
どっかから降ってきたとかではなく、初めからそこに存在したかのように。

「…凄い」

それから私は色んなことを試した。

時間を止めたり
ワープしてみたり
空を飛んでみたり

宇宙人も未来人も超能力者も
…何の変哲もない一般人のことを忘れてしまうくらい私は夢中になった。

「ご満足いただけましたか?」

いた。
元からそこにいたかのように。

「あなたが無意識の内に呼んだのでしょう」
「私…この力が欲しいわ!この世界は私の力で変えることができる!つまらなかった日常を私の手で変える事ができる!!
そうなのよね!?」
「勿論です。全てがあなたの思うがままです」
「私は…ちっぽけなんかじゃない…」
「えぇ…では移動しましょうか」
「…どこへ?」
「あなたが神となる世界です」

空が黒くなった。
…いや。

「灰色?」

いつの間にか私は屋上にいた。
赤い玉の異世界人はいなくなっていた。
…望んでも出てこない。

とりあえず歩いてみることにした。
人は一人もいなかった。
まるで全てから隔離されたような空間。

…私はここを知っている。
確かに誰かとここに来た。

いてもたってもいられず走り出した。
たどり着いた先は文芸部室…いや

「…SOS団」

そう書かれた紙が貼られていた。

静かに扉を開けると、初めて赤い玉が現れた時と同じままだった…一枚の写真が置かれていること自体は

「…有希」

無口な文芸部員がそこにいた。

「みくるちゃんに古泉くん…」

転んでいるメイドさんとそれを支える副団長がそこにいた。

「…キョン」

笑顔でピースをする私の横で、頭を抱える彼がいた。

私は何を望んだんだろう?
この世界で私は力を手に入れた。
それでもきっと写真の中の私は力を手放すだろう。
もっと大切なものを見つけていたから。

でも私は?

窓の外に青い巨人が現れた。

この世界を思い通りにしたい?

…違う

世の中の不思議を見つけたい?

違う

宇宙人や未来人や超能力者と遊びたい?

違う!!

青い巨人は校舎を壊し始める。

有希とみくるちゃんと古泉とキョンを…
SOS団を…
私の大切な日常を返して欲しい。
神様になんかならなくていい。

―だから

「こんな世界なんか消えちゃえ!」

巨人の動きが止まった。

灰色の空にヒビが入った気がした。


「ガタン!!!」

俺の後ろでハルヒが勢いよく立ち上がった。

「あ、あれ?私…あ!キョン!!」

…うまくいったみたいだな。

「…夢…だったのかしら?」
「何でもいいから座れ…授業中だ」

クラス全員の目が俺たちに注がれていた。
まぁお約束だな。
お、古泉からメールだ。

「どうやら作戦は成功したようです。これで閉鎖空間の発生はほぼ抑えられるでしょう」
「…やっぱり完全というわけにはいかないんだな」
「夢オチだと涼宮さんの意識の浅い場所での認識になってしまいます。信憑性に欠けてしまうとでも言いましょうか。」
「まぁこれで少しずつハルヒが普通の女の子に戻っていけばいいんだがな」
「そうですね…しかし驚きましたよ。あなたがこんなことを提案するなんて」
「俺だってハルヒには普通の生活をしてほしいと思ってるんだよ。…しかし長門の情報操作は凄いんだな」
「中学生の頃からの記憶を殆ど改ざんしてますからね。加えて通常の空間と閉鎖空間の複合化。情報操作の規模の大きさが想像できません。」
「あとで礼を言わないとな。お前もご苦労さん。ハルヒに力のことを教えるために一芝居打ったんだろ?」
「いえ、大したものではないですよ。いつも通りに接しただけです」
「そうか。…そろそろ授業が終わるから、また部室でな」

一通りやりとりした後携帯をしまった。

しかし…今回の件、俺は何もやってない気が…うぉ!
授業が終わるや否やハルヒが抱きついてきた。

「さっき…あんたが…SOS団のみんながいなくなる夢を見たの…」
「…怖かったのか」
「うん…この世界のキョンは…みんなはいなくならないわよね?」

…まぁ俺も騙してたようなもんだからな。

「あぁ、ハルヒが望むまで、ずっとそばにいてやる」
「本当に!?」
「本当だ」
「…えと、じゃあ…今日はずっとこのままでいい?」

…ハルヒが抱きついたままでか

「…やれやれ、今日だけだぞ?」

ハルヒが幸せならそれでいい。
そして少しでも普通に暮らしてもらえばそれでいい。
なんとなくそう思った。




次の日

キョンがハルヒにプロポーズしたという噂が広まっていたのは言うまでもないことだった。

おわり

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