自分の部屋に入るなり、俺は驚愕した。
髪を拭く手は止まり、口は開きっ放しになる。
全ての行動を停止した俺は目の前の光景をどこか夢のような心境で見ていた。
シャミセンがにゃあにゃあと青いバランスボールのようなものにまるで語りかけるように鳴いている。
俺の頭の中に走馬灯のように記憶が甦ってきた。
どこでもドア、タケコプター、四次元ポケット、ネズミ嫌いの耳なしネコ型ロボット。
思い出したように俺は口を開いた。
「お前、名前は?」
バランスボールは俺に視線を移して、化け物のような歯のない口をかぱっと開いた。
「僕ドラえもんです」
はるか昔、小学生のころの聞き慣れたダミ声。
そう、俺の目の前にはドラえもんがいた。
俺の部屋になぜドラえもんがいるかって?
それは俺が聞きたい。
だが心当たりはある。そりゃこんなことやる奴なんて一人しかいないだろう。
涼宮ハルヒ。
そのはた迷惑なやつが今日発した一言が原因としか考えられない。
俺は今日の出来事を思い出していった。
…………。
……。

 
 
じめじめとした空気がまとわりつき、シャミセンがしきりに顔を拭うようになって、俺は四季に数えられない不遇の季節の到来を知った。
まあ俺自身、梅雨は嫌いだから同情する気もないのだが。
その日も部室の扇風機だけではどうにもならない湿気の中でうだっていた。
朝比奈さんがついでくれた水出しのお茶が唯一の清涼さを醸し出してくれる。
こんなときに古泉とボードゲームをやる気なんて起こるはずもなく、間近に迫ったテスト勉強をやることにした。
しかし、始めてみると我ながら情けないことにものの十分もしない内に飽きてきた。
流石にみんなが見ている手前すぐにペンを置くわけにもいかない。
そんな訳で俺は勉強してる体裁を装って落書きを始める。
「それなんの絵描き歌でしたっけ?」
一人で詰めチェスをしていた古泉が手を止めて尋ねてきた。
なんだ。声出してたのか、俺。
ええ、と古泉が微苦笑を浮かべて肯定する。
バレては仕方がないので、
「ドラえもんのだよ。ほら、昔やってただろ」
「そう言えばそんなものもありましたね。ちょっと、見せて下さいよ」
古泉がそう言って俺のプリントをのぞき込もうとしたとき、唯一ここにいなかったやつが現れた。
「古泉君、勉強教えてやってるの?」
入るなりハルヒはそう言ってずかずかと近寄り、古泉がなんと言おうか逡巡している内に俺のプリントを強奪する。
「なにこれ。落書きばっかりじゃない。それにこの歪んだ風船に竹串さしたようなのはなんなの?」
お前はドラえもんを知らんのか。
「これがドラえもんだったら、世の中にある丸いものは全てドラえもんだわ」
ハルヒは見てなさいとばかりに、ホワイトボードにさらさらと書き出した。
「お上手ですね」
古泉がハルヒ作の絵におべんちゃらを言う。
たしかに俺のドラム缶を何十回か殴打して毛を生やしたような落書きとは比べるのも憚られる出来栄えだ。
「こんな落書き、ドラえもんに対する冒涜だわ」
意外にもハルヒは怒った風に言った。
お前ドラえもん好きなのか。
「そうよ。昔はよく見てたわ」
たしかに、ハルヒ的にはいいかも知れん。不思議道具が山程あるしな。
「どっかにいないかしらね。ドラえもんみたいな未来から来たロボット」
未来枠は朝比奈さんだけで十分だ。藤原とかいう陰険野郎も、そんなロボットもいらん。
「もしかしたらいるかも知れませんよ」
と、古泉がハルヒをたきつけた。
いらんことを言うな。ほら、朝比奈さんが青い顔してるじゃねえか。
そんな思いを込めて、古泉の足を踏み付ける。
「絶対いるわよ。タイムマシーンの故障かなんかで」
ハルヒはそう言って遠くを見るような目でホワイトボードを見つめた。
 
バタバタと階段を登る音が聞こえて、俺は回想から現在時間へと戻った。
十中八九、妹だ。
「えっと、とりあえず姿を隠せ。急げ。話は後だ」
ドラえもんはやにわにポケットに手を突っ込んで、灰色のボールを半分に斬ったようなやつを取り出して無理矢理かぶった。
「シャミー」
妹がそう言いながらドアを開けたのと、ドラえもんの姿が忽然と消えたのがほぼ同時だった。
俺はほっと胸をなで下ろす。
「キョン君、タオル。お母さんが持ってきなさいって」
「ああ。分かった」
半乾きの髪を拭いてタオルを妹に手渡す。
妹はそのタオルでシャミセンを捕らえると部屋を出ていった。
足音が十分に遠ざかってから、
「おい。もう出てきていいぞ」
そう言うと再びドラえもんの姿が現れた。
ええっと、この道具はなんて名前だったかな。
「石ころ帽子~」
一々フシをつけて言わんでもいい。たしか存在感をなくすとかそんな道具だったはずだ。
ということは、
「やっぱり、本物なのか?」
ドラえもんは不思議そうに首を捻るというか身体を傾けた。
ますます本物じみた動作だ。
つうかお前はアニメのキャラクターのはずだろ。
「そんな訳ないだろ」
たしかに今はZ軸を持っているが……よく分からんが、なんでこんなとこに来たんだよ。
 
「タイムマシーンに乗って未来へ行ってたら、時空震に巻き込まれたんだ」
タイムマシーンまであるのか。どこだ?
そう言うと、ドラえもんは俺の机の引き出しを示した。
引き出しを引くと数メートルほど下に、畳一畳ほどの板切れが浮かんでいる。
俺の部屋まで異空間にしてんじゃねえよ。自分の部屋くらい普通の空間でゆっくりさせろ。
「だったらコレに乗って帰ればいいだろ。それとも故障か?」
そうだとしたら頼りになりそうな人物を一名いや、二名ほど知っている。
「さっきまでメンテナンスしたけど故障じゃない」
と、ドラえもんは首もないのに頭を左右へ振って、
「この時空トンネルの時空座標自体が明らかに異なるんだ。」
全くもって意味が分からん。
ここでぐだぐだと話を聞いても理解できる気もないので、俺はこんなときこそ頼りになりそうな人物の元に行くことにした。
そして、俺の目の前にはドラえもんがいる。これを利用しないのはマッチがあるのにわざわざ棒と板切れで火を起こすようなものだ。
「どこでもドアを出してくれ。未来人のところに案内してやるから」
「どこでもドア~」
俺の知る限りの物理法則を全て無視して、ポケットから赤色のドアが出現した。
たしか行きたい所を思い浮かべるんだよな。
俺は目を閉じて朝比奈さんの可憐な顔を頭に浮かべながら、ドアを開いた。
 
「ひぇ!?」
どうやら成功したらしい。まあ、そりゃ驚くだろうな。
そう思いながら目を開くと、
「キョ、キョン君? 出てって! 見ちゃだめえ」
湯船につかって豊満なバディを隠すように手で隠したすっ裸の朝比奈さんがそこに居られた。
こんな古典を忘れていたとはな。
俺は回れ右で自室へと戻った。
朝比奈さんは風呂から上がったら電話してくるだろうからしばし待つことにする。
待つほどもなく、俺の携帯に着信があった。
『キョン君、あ、あれはどういうことなんですか?』
「今から会って説明します。もう大丈夫ですか?」
『ふぇ? ええ』
俺は電話を持ったまま、再び赤色のドアを開けた。
『「ひぇ!」』
目の前と電話から朝比奈さんの声が聞こえる。
今度は浴室ではなく、ファンシーな少女趣味を体現したような部屋で、湯上りの朝比奈はウィニフレッドと名乗る黄色いクマのパジャマに着替えておいでだった。
俺は終話ボタンを押して電話を切ると、ドラえもんを前に促した。
「キョン君。なんで禁則事項を……それにそれはなんなんですか」
禁則事項とはどこでもドアのことだろう。
朝比奈さんはキテレツな生き物を前にして今にも泣き出しそうだ。
なんて説明すべきだろうか。
「ええっと、こいつは未来からきたロボットです。それがやりました」
俺はさり気なく自己弁護も入れた。
「未来? ロボット? その雪ダルマがですか?」
「雪ダルマじゃない! 僕は二十二世紀から来たネコ型ロボット、ドラえもんだ」
怒鳴るなよ。ほら朝比奈さんがびっくりしてるじゃねえか。
「二十二世紀……それはほんとうですか?」
「ほんとうだとも」
「あり得ません。二十二世紀にはまだ、人工知能を有したロボットが航時機を使った記録も禁則事項を行なった記録もないんですから」
「そんな訳あるか!」
議論が平行線を辿りそうなので、俺は仲裁に入った。
こういうときには下手に片方を弁護するのではなく、証拠を提示するに限る。
「朝比奈さん、ちょっと俺の部屋に来てくれませんか」
可愛い顔でドラえもんと睨めっこをしていた朝比奈さんはえっ、という表情をしたが、
「……分かりました。着替えますから、出てて下さい」
外に出る訳じゃありませんから、そのままで大丈夫だと思いますよ。
「それで行くんですか?」
不安げに赤色のドアを指差す。
「大丈夫ですから、ついてきて下さい」
俺はそう言って、自室を思い浮かべてドアを開けた。
その向こうには俺の少しばかり散らかった部屋が広がる。
少しは片付けとけばよかったな。
「ふぇ、なんで禁則事項が禁則事項するの? 禁則事項なのに……」
黒人ラッパー並に禁則事項が入っているが、放送禁止用語みたいなものだろうか。
俺は異空間と化した机の引き出しを指し示して、
「あの中を覗いて下さい」
朝比奈さんは恐る恐る机の中を覗く。
そう言えば朝比奈さんが俺の部屋に来たのは初めてじゃなかろうか。それもパジャマ姿で。
引き出しの異空間は早急にどうにかすべきだが、これはこのままでいいな。
「うそっ! なんでこんな空間が?」
引き出しの中からエコーのかかった朝比奈さんの声が漏れる。
そんなにやばい空間なんだろうか。
朝比奈さんがげっそりとした顔で頭を上げた。
「……これはTPDDじゃないです」
それもそのはず。これはタイムマシーンだ。あんな気分の悪くなるタイムスリップはしない。
「どうしてこんな……もしかして」
朝比奈さんはそう言うと、自分の部屋に駆け戻った。
「交信要請! 交信要請! ふぇえ、お願いだから誰か出て」
朝比奈さんの部屋から必死にどこかと交信を試みる声が聞こえる。
お相手は朝比奈さんの所属する未来人の組合かなんかだろう。
「どうしたの?」
とドラえもん。
それはこっちが聞きたい。
しばらくして、吹けば倒れるんじゃないかと思えるほど弱りきった朝比奈さんが、泣きながら戻ってきた。
「……ふぇ……ぐすっ」
「朝比奈さん、どうしたんですか?」
「キョン君……あたしの未来……がなくなっちゃいました」
どういうことだ。未来がなくなった?
朝比奈さんはうえーんと号泣し始めた。
 
ともかく、夜半に知らぬ間に連れ込んだ女の子が号泣していたんでは両親に勘違いをされかねん。
俺は朝比奈さんを引っ張ってファンシーな部屋へと戻った。
「未来がなくなったってどういうことですか?」
号泣する朝比奈さんをベッドに座らせて尋ねた。
しかし、返答の代わりにはひぐっだの、ふぇだのいう泣き声しか帰ってこない。
「翻訳コンニャクだそうか?」
うるさい、黙れ。俺はお前の道具をチョイスする才能には一切の信用を置いてない。
五分ほどそうしている内に朝比奈さんはやっと顔を上げた。
泣きはらした目が真っ赤に充血している。
「……キョン君……あたしのこと面倒みてくれますか」
俺はもちろんです、と即答してから、
「一体、どうなったんですか?」
「……あたしの存在する時間が書き替えられたんです」
つまり、朝比奈さんの未来が消えたんですか?
そう言うと朝比奈さんはふぇーんと再び泣き出した。
肯定の意味だ。
「ひぐっ……ふぇ……すぅ……すぅ」
しばらくすると寝息が混じりだして朝比奈さんは静かになった。
泣き疲れたんだろうか。
その予想は、がちゃりと開いた朝比奈さんの部屋にあるドアから出てきた人物によってあっさりと覆された。
 
「やっぱり、こうなっちゃいましたか」
布団に頭を突っ込んで寝息を立てる朝比奈さんをさらに豊かにした感じの朝比奈さん(大)が、呟くように言った。
この人はいつも唐突に現れて、謎の発言を残していく。
そうなる前にいくつか尋ねねばならん。
俺は挨拶も抜きに、
「こいつはアニメのキャラクターじゃないんですか?」
「この次元ではそうかも知れないけど、わたし達の次元とは源流のまったくことなる別の次元ではたしかに存在するの」
朝比奈さんはそう言ってドラえもんの頭をなでた。

よく分からんが、そういうことなのだろう。
しかし、
「未来が消えたってどういうことなんですか?」
「このドラえもん君の存在が未来を変えちゃったの」
「僕?」
ドラえもんが驚いたように顔を上げる。
「そうあなたの技術は巡り巡ってTPDDではなく時空トンネルという形で航時機を開発させるの」
だったらあなたはなんで存在するんですか。
「未来は一つじゃないの。沢山の平面時間が連なって、それは微妙なズレをもって広がるのよ。それを正しい方向に導くのが私たちの役目。でも、本来ならこんな大きなズレはあり得ないんだけどね」
だけど、もう未来は変わってしまったんじゃ。
「いいえ。まだ確定はしてないわ」
俺はえっ、と目を上げた。
朝比奈さん(大)の懇願するような顔が間近に迫る。
 
「わたし達の未来もこのドラえもん君が元いた場所に帰れるかも、みんなあなたを含めたSOS団のメンバーにかかっているの」
俺達にかかってるってどうすればいいんですか?
「わたしには言えない。だから、みんなで考えて」
ふざけるなと口まででかかった言葉が、朝比奈さん(大)によって塞がれた。
神経が断裂したかのように俺の身体が硬直する。
朝比奈さん(大)はやたら柔らかい唇を俺から離すと、
「これは前報酬よ。ついでにわたしの裸を見たこともね」
冗談のように言った朝比奈さん(大)だが、目だけは真剣だった。
「ちゃんと未来が正しい方向に戻ったときは、そこのわたしからお礼を貰ってね。あっ、でもわたしのことは内緒にしておいて下さい。じゃあ」
そう言って、朝比奈さん(大)は部屋から出ていった。
俺は白昼夢でも見たような気分でそれを見送ったが、やけに生々しい感触が残った唇が夢ではないことを証明している。
ふとドラえもんを見やると眼球の黒目にあたる部分がピンク色のハートに変わっていた。
リアリティにかけるやつだなと溜め息が出ると共に、やらねばならんことがぼんやりと見えてきた。
「ドラえもん、聞いたか?」
「うん、納得した。通りでタイムマシーンが使えないはずだ」
その目をゆっくりと黒目に戻して、
「僕に協力できることならなんでもやるよ」
と力強く言った。
 
朝比奈さん(大)の言葉を信じるならば、未来は俺たちにかかっているらしい。
何をすればいいのかも見当もつかないが、まずは足りないメンバーを集めねばならんな。
俺は赤色の扉のノブに手をかけて、ニヤけた野郎の面を思い浮かべた。
「うわっ」
がちゃりと開いた扉の向こうでそんな声が聞こえた。
よう古ず……お前もかよ。
湯煙の中、全裸で驚愕の表情を浮かべる古泉の姿がそこにあった。
サービスにも糞にもならんな。
「……これはどういうことですか?」
いいから前を隠せ。
「これは失敬しました」
と言って古泉は湯船に身体を沈めた。
「できるだけ早く用意してくれ。理由はあとで話す」
見たくもない光景に背を向け、朝比奈さんの部屋に戻る。
余程急いだのかものの数分で、服を着た古泉がやってきた。
「これはなんですか? 僕は夢でも見てるんでしょうか」
その視線は当然の如く、どこでもドアと鎮座するドラえもんに向けられる。
「長門も連れてきてからまとめて話す」
納得しかねるといった表情を浮かべる古泉を無視して、俺は無表情の長門の顔を思い出した。
 
今度は慎重にドアを開くと湯煙は流れて来なかった。
その代わりに開いた隙間からにゅるりと白蛇のような腕が伸びてきて、俺の胸倉を掴んだ。
俺は恐るべき力でドアの向こうへ引きずり込まれて、床へと叩きつけられた。
「おい、長門。俺だ」
無表情で胸倉を掴む長門の手が呆気なく離される。
思い切り床に投げられた痛みが遅れたようにやってきてしばしの悶絶を味わった。
そんな俺に長門が無表情になにか高速で呟くと下手したら骨にヒビくらい入ってそうな痛みが引いていく。
便利な能力だなまったく。
「いきなり空間の凝縮が始まり別の空間と相似したので敵対行動が行われるかと推測した」
制服姿の長門は、そう呟いた。
俺の推測により言い換えるならば、「いきなりワープしてきたから敵かと思って攻撃した。ごめんなさい」だろう。
最後のは推測でもなんでもないが。
これで団長以外のメンバーが揃った。
 
「…………っと言う訳なんだ」
俺は慎重に言葉を選びながら語り終えた。
言いつけ通り朝比奈さんには朝比奈さん(大)のことは内緒にして、俺の推測ということにした。
「たしかに……そうみたいですね」
と朝比奈さんも納得したようだ。
「ですが、一つ不明な点があります。なぜ、彼はここに来てしまったんでしょう」
彼とはつまり、長門から貰ったどら焼きを頬張るドラえもんのことだ。
「涼宮ハルヒの書いた絵が原因と思われる」
ずっと黙って話しを聞いていた長門が口を開いた。
絵ってのは、今日ハルヒが書いた落書きのことか?
「そう」
「どういうことですか?」
「涼宮ハルヒが書いた絵が空間力場を変質させ、それが時空的な波長と近似していたために、時空的な歪みが生じ、その波が異時空空間を広がり異時空空間にも歪みが生まれた」
なんのこっちゃ。
「つまり、涼宮さんの書いた絵がバタフライ効果のように働いたということですか?」
バタフライ効果ってのはなんだ?
「ブラジルで蝶が羽ばたけばテキサスで竜巻が起こるか、というカオス理論からきた言葉です」
ふーんと聞いていると、
「あの時点で分かっていれば防げたこと。迂闊」
風が吹けばネズミが増えるなんて思いつく奴なんかいないだろ。
「しかし、流石涼宮さんといった所ですね。理由はともかく結果的に実現させてしまうんですから」
と、古泉がここに唯一いない団長の名前を出した。
ハルヒがいたら話しがややこしくなるから呼ばなかったんだが。
はてさて、どうしたもんかね。
「ここは一つタイムマシーンを見て見ませんか? なにか掴めるかも知れませんよ」
タイムトラベル願望のある古泉がそう提案した。
こいつはただ見たいだけかも知らんが、たしかに闇雲にここで考えるよりもいいかも知れんな。
 
そういうことで、ハルヒを除くSOS団団員は俺の部屋に行った。
いやはや、ほんとにどこでもドアは便利だ。
「そうですね。一家に一台欲しい所です。で、問題のタイムマシーンはどこにあるんですか?」
と急かす古泉に、机の引き出してやると、
「これがタイムマシーンですか」
不思議空間に頭を突っ込んで楽しそうな声をあげた。
なんでこいつはここまで緊張感がないんだ。このまま後ろから突き落してやろうかな。
と考えている内に、ふと思いついた。
「長門、この空間をどうにかしてドラえもん戻せないか?」
「できなくはない」
おお。じゃ、やってくれ。
「ただ、この空間を異時空空間に戻す際に莫大なエネルギーが放出される」
「どのくらいでしょう?」
と、不思議空間から俺に突き落とされることなく生還した古泉が尋ねた。
「宇宙の初期化が行われるレベル」
「ビッグバンですか?」
「そう」
ビッグバンって宇宙レベルかよ。
そんな物騒な案は即刻破棄するとして、どうすればいいんだろう。
朝比奈さん(大)の言葉を思い出す。『未来はSOS団にかかっている』か。
そんなたいそうなことを言われても、SOS団とは“世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団”だしな。
目的は強いて言えば…………。
ああ、なるほど。こういうことか。
 
未来から来てるし、それに結局その未来も異次元らしいし、ロボットだし、不思議道具もあほみたいに持ってるし。
たしかにこいつなら適任だ。
俺はハルヒがいつか言った言葉を思い出した。
 
『宇宙人や未来人、超能力者を探し出して、一緒に遊ぶことよ』
 
ハルヒは隣りでいつも遊んでいるやつらこそが宇宙人や未来人、超能力だということを知らない。
ここは一つ、我らが団員の夢を叶えてやらねばならんようだ。
文字通り夢は夢として。
俺はそれが少しばかり面倒だが、正直にいうと胸が踊った。
断言できる。こんなチャンスはもう二度とこない。
 
これがまさかあんなことになろうとは、それこそ夢にも思わなかった。
 

 


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