手遅れだった。色々と。
「長門!?」
「大丈夫。情報統合思念体との連結が途切れているだけ」
どこら辺が大丈夫なのか小一時間問い詰めたいが、長門だから許そう。かわいいとは正義なのだ!なんて親馬鹿やってる場合じゃねえ。長門は団活時の四割り増しの無表情をしてちょこんと座席に座っていたが、俺の長門センサーはいつ倒れてもおかしくない状況だと大音量で警報を鳴らしている。これじゃあまるで雪山の再来だ。すぐにでもヒューマノイド・インターフェイス用の病院に担ぎ込みたいが、あいにくと住所が分からん。
「連結が途切れてるって、この空間のせいなのか?」
「そう。涼宮ハルヒの発生させた異空間は情報統合思念体からのいかなる干渉も一切受け付けない。原因は不明。情報統合思念体は自らの統制下にない空間が広がることに危機感を抱いている。よって主流派を含む大多数の派閥はあなたに事件解決の望みを託すことを決定した」
ヘリのメインローターの出す音にかろうじて対抗できる音量で長門は言葉をつむぐ。大いなる宇宙の意思をもってしてもドナルドランドの城壁は破れないのか。はっはー。責任重大だね、俺。猛烈に逃げ出したくなるが、ここは住宅地上空約十メートル。さすがに責任を放棄してあの世へ逃げるのは気が引けるな。
「わたしもこのインターフェイスの体力が続く限り支援する。頑張って」
やれやれ。儚い顔をしてそう言われると、身体中の虚勢をかき集めてでも俺に任せておけって宣言したくなっちまうじゃないか。やるっきゃないのかね、まったく。
ところで、ここで一つの懸念がある。このヘリコプターの中には俺の他にパイロット二名、古泉、森さん、新川さんの機関トリオ、そして長門以外にもう一人乗客がいるのだ。失礼ですが、なぜあなたが乗っているんですか、朝比奈さん?
「ふぇっ?わたしですか?」
ドナルドにF-15だかF/A-18だかが放ったミサイルが命中して爆発四散する光景をかわいらしいお口を半開きにして眺めていた朝比奈さんが、意外そうな声を上げて振り向いた。ゆっくり時間をかけて俺の言葉の意味を飲み込んだ朝比奈さんは、少しばかり誇らしげにボリュームのありすぎる胸を張って答えた。
「それはもう、SOS団の団員であり、時間の歪みの監視係であるわたしが、涼宮さんのピンチに何もしないわけにはいかないじゃないですかぁ」
毎日のように朝比奈さんをいじくり回しているどこぞのアホに聞かせてやりたいお言葉である。ただ、正直なところそれは気持ちだけに留めておいて、行動に移しては欲しくないのである。戦地へ赴く兵士の心境である俺にとっては、朝比奈さんは前線へ共に出るよりは、後方で精神的支援をしてくれた方がありがたいのだがな。
声帯から先には出さなかったが、俺の考えていることを大方察知したらしく、朝比奈さんは慌てて懐から何かを取り出した。
「ほらほら、今回は特別に武器の携行まで許可されたんですよ。この細胞分解銃でドナルドさまをマックシェイクにしてやるのでしゅ」
すみません。その御手にお持ちのスペシャルらしい武器は、市販のドライヤーにしか見えませ・・・・・・ん?マックシェイク?
「ふっ!ふっ!ふふぅっ!ドナルドは嬉しくなると、ついやっちゃうんだぁ!」
「未来がドナルドに侵食された。下がって」
狭いヘリの中でどうやって下がるんですか、長門さん?などとつっこむ余裕は無かった。ハリウッド映画のCG技術の高さには前々から驚いていたが、やはり実物にはかなわないことを身をもって教えられちまった。朝比奈さんのふっくらまるいお顔がいびつになると、髪はトマトケチャップのような赤に、唇の赤も周囲に広がり、すけるような色白の肌はペンキを塗りたくったようなわざとらしい白へ。可憐な未来人は世にも奇妙なピエロへと変身を遂げた。この間たったの三秒。いかん、チビっちまった。
とてつもなく恐ろしいものを片鱗どころか丸ごと味わった俺は指先をピクリとも動かすことが出来ない。機関のメンバーでさえ石化呪文をかけられたかのように微動だにしない。パイロットが操縦ミスをしないことを祈る。
そして、まただ。また、俺の方を向いて笑いやがった。言い知れぬ恐怖に俺の心臓をつかまれ、とっさに目をつむった。ドナルドよ、そんなに俺が好きなのか?俺なんかよりも古泉の方がずっとお前の趣味に合うと思うんだが。
「もぉりもりっ!!」
長門の唱える超早口呪文よりも、森さんと新川さんが銃を発砲する音よりも早く、ドナルド・朝比奈は意味不明な雄叫びが聞こえた。今度こそ終わりだ。さらば、俺の人生。もしくは尻穴バージン。もっと長く付き合いたかったよ。特に後者は一生離別したくなかったぜ。
俺は不本意ながらも覚悟を決めた。だが、感じたのは鋭い痛みでもなく不快な血の臭いでもなく、耳をふさぎたくなるような金属音と不燃ごみを燃やす時の嫌な臭いだった。
ゆっくり目を開けると、そこには右手を長門に噛み付かれて封じられているドナルドがいた。左手は謎の黄色い物体を撃ち出しているが、機関の三人が飛びついて上を向かせているさすがに元が朝比奈さんだと銃を撃つのはまずいと判断したようだ。
「ふぁきらめへはらめ」
嫁入り前の女の子が人に噛み付きながらしゃべっちゃいけません。はしたない・・・・・・じゃないな。恥じるべきは何も出来ないでビビッてた俺の方だな。
「いえいえ、あなたにはこれからあなたにしか出来ない仕事をしてもらいますからね。こんなことで手を煩わせるわけにはいきませんので。マッガーレ!」
俺の方を向きそうになったドナルドの左手を捻じ曲げて上を向かせながら古泉が言う。古泉、うるせーよ。ちょっとジーンときちまったじゃねえか。 こうなったら意地でもあの電波少女を正気に戻して、熱血スポ根アニメの最終話みたく地平線から昇ってくる朝日を拝まないといかんな。もちろん、SOS団全員そろってだ。
「生体機能抑制型ナノマシンを注入した。これで朝比奈みくるは涼宮ハルヒを救うまで動かないはず」
散々暴れていたドナルドがついにひざを付いてホッとしたのもつかの間、今度はやばそうな警報が鳴り響いてヘリが機首がお辞儀をしたように下を向いて落下し始めた。つくづく、展開に飽きない夜だ。
「第一エンジン停止!第二エンジンも出力低下!高度が保てない。スーパー61墜落する!」
パイロットが叫び声を上げた後ろで「ブラックホークダウン!ブラックホークダウン!」という叫びも聞こえた気がしたようなしないような。ここはソマリアか?
「まずいですね。天井の上にエンジンがあることを失念していました」
天井はドナルドの攻撃によって見るも無残に穴だらけにされていて、そこから黒い煙が噴き出している。おいおい、黄色い物体の正体はフライドポテトかよ。某乱暴な方は弓矢でヘリを落としていたが、最近のヘリは食い物ごときで落とせるほどひ弱になったのか?
「いやあ、あなたの尻を守るのに必死だったのでゲフッ!」
古泉てめえ。俺の感動を返しやがれ。
「すみませんでした」
森さんに銃尻で殴られた古泉は素直に頭を下げた。いや、森さん。正確にはあなたと新川さんも同罪だと思うんですが。それ以前に、墜落寸前のヘリの中で漫才まがいのことをやっている俺ってかなり逝っちまってるな。これもハルヒの電波を受信しちまったせいか。
「本日はエスパーエアライン、スーパー61便をご利用いただきまことにありがとうございます。残念ながら当機はエンジントラブルのため不時着を敢行いたします。当機にはエアバックが装備されていませんので、手近なものにつかまって衝撃に備えてください」
さすが機関クオリティ。パイロットも肝が太いな。そう考えたところで俺の意識はブラックアウトした。



「お目覚めですか?」
目を開けると十センチ先に古泉の顔があった。息が鼻の頭に当たって実に気持ち悪い。
「最悪の目覚めだ。何よりもお前が生き残っていることが不快だ」
「きつい挨拶ですね。しかし、我々がこうして生きて軽口を叩き合っているのは長門さんのおかげですよ」
古泉が顔を向けた方向には・・・・・・なんてこった。ドナルド・朝比奈さんと仲良く床に寝ているヒューマノイド・インターフェースがいるではないか。長門!しっかりしろ!
「ヘリコプターの落下速度の情報操作で処理能力を使い果たした。これ以上の支援は無理。ごめんなさい」
血の気が引いて真っ白になった顔で、それでも長門は俺に謝った。己の力が及ばないことを。長門のせいじゃないのに。ええいくそっ、長門が謝ることないだろ。悪いのはあの暴走女と狂気の道化師だ。
「今回の暴走は彼女の意志とは関係ない。だから、彼女を悪く言ってはだめ。早く助けてあげて。それに彼女の願望を具現化する能力を使えば今夜の出来事をなかったことにすることも可能。SOS団のためにも、お願い」
くっ、すまない。長門。元に戻ったら図書館でもどこでも好きな所に連れて行ってやるからな。長門はミリ単位でゆっくりとうなずき、身体に残る生命力を全てつぎ込むようにして最後の言葉をつぶやいて、目を閉じた。
「また、マクドナルドに」
一番美味しいところを持っていきやがって。ドナルド・マクドナルド。俺は貴様を絶対に許さねえ。心の中で燃え上がる紅蓮の炎を感じながら、隣に立っている超能力者に尋ねた。
「古泉。ここは・・・」
どこだ、は喉から出てこなかった。ついでに炎も一瞬で消えちまった。俺は無傷で不時着したヘリがドナルドどもに包囲されていることに気づいちまったんだ。百や二百じゃすまねえ。千人以上の同じ姿をした化け物に囲まれているという、ある意味壮観ともいえる光景だった。例えるならグランドキャニオンあたりが妥当だな。すまん、俺自身も何を言いたいのかさっぱり分からん。
「ここは北高のグラウンドですよ。我々は無事に目的地に到着することができました。喜ばしいことなのですが、同時に人生最大のピンチを迎えているといっても良いでしょう。なにせ弾の数よりも敵の数が多そうですから」
さしもの古泉も引きつった顔をしながら答えた。両手で握っている銃も心なしか震えているように見える。俺はどうなっているかって?聞くな。でかい方は漏らしていないと思うが。
「ハハハハハ」
「ヒャハハハ」
ドナルドどもの笑い声が鼓膜を乱打する。やめてくれ。これじゃあ、普通に襲われた方がまだましだ。気が狂うのが早いか、それとも洗脳されるのが先か。そんな競争真っ平ごめんだ。
「ハハハハハ」
「ヒャハハハ」
しかし、なぜかドナルドは俺たちに襲い掛かろうとしない。何かを待っているかのようにひたすら笑っているだけだった。いい加減、銃を構える森さんたちも辛くなってきただろうと思ったとき、そいつは現れた。
「キョン?キョンなの!?」
救世主か、それとも破滅の使者か。ドナルドの群れをかき分けてハルヒが走ってきた。良かった。朝比奈さんみたいにドナルドに変化していない。むしろ、マクドナルドの女性店員用制服がかわいいぜっ!・・・・・・俺はこんなときに何を考えているんだ。
「ほら、主演男優の出番ですよ」
古泉以下機関の皆さまに押されるがままにヘリの外に出てハルヒと向かい合う。正直に告白しよう。ハルヒを説得して正気に戻す方法なんていっさら思い浮かばなかったね。ショック療法として頭を目いっぱい叩く以外はな。ショック療法は最後の手段として取っておくことにして、とりあえず会話を試みてみた。
「よっ、よう、ハルヒ。あー、元気か?」
「元気!すっごく元気よ!ドナルド様のおかげでね!!」
ああ、ハルヒよ。お前はなんて濁った目をしてるんだ。漫画等で狂った描写として目が濁って描かれることがあるが、まさか本物にお目にかかれるとは思ってもみなかったぜ。俺のある種の嬉しくもない感動に関係なく、ハルヒの開閉装置が故障した口からは猛毒の電波が発信されまくっていた。
「ドナルド様はね、プラトンに師事してイデア界を知覚することによってフライドポテトの箱舟を作り道に迷ってたモーセ一行を助け出してマックシェイク律法を与えられそれをキリストに教えることでキリスト教の影の支配者になってウパニシャット哲学とピクルスを生み出し輪廻からの解脱を果たしてムハンマドのラクダに孔子と一緒に乗ってヒマラヤの奥深くまで行きそこで瞑想をしてハンバーガー四個分の悟りを開くことによってマクドナルド教の教祖となったのよ!」
こいつは逝っちゃってるね。脳みその隅々までケチャップ漬けにされちまってやがる。この症状ではブラックジャックもさじを投げそうだ。俺もさじを投げて500キロくらい離れた場所に行きたいが、残念ながらハルヒに腕をつかまれちまって逃げることすらできない。
「さあ、あたしについてきなさい。キョンも最上至極宇宙第一のビックマックを食べればドナルド様、教祖様のすばらしさが心に刻み込まれるはずよ!」
よし決めた。俺は昔から力の出し惜しみが嫌いだったんだ。アニメの戦闘シーンで主人公が最強の技をなかなか使わないと、そのつど心の中で悪態をついてた性質でね。最終兵器を使うタイミングは今しかないと見た。
「ハルヒ、少しの間だけ唇を借りるぞ」
「ちょっと。ドナルド様は・・・んっ!?」
うへっ、こいつの口の中チーズバーガーの味がする。このチーズの味の割合の多さからかんがみてダブルチーズバーガーだな・・・・・・いかん、俺もドナルドに洗脳されかかっているようだ。ついでに視界の端に般若のような形相をした古泉が見えたような見えなかったような。でも、もうそんなこと関係ねえ。これでクソったれな世界ともおさらばだぜ。ほら、目を覚ませばそこは俺の部屋。フロイト先生が墓からよみがえって腹を抱えて笑っている・・・
「何すんのよ、こんのエロキョン!!」
「あべしっ!?」
ハルヒのグーパンチによって左頬をしたたかに殴打された俺は、待ち焦がれた自室のベッドの上ではなく埃っぽいグラウンドの上に倒れ伏した。俺に馬乗りになってさらに殴りかかろうとするハルヒを、森さんたちが慌てて羽交い絞めにしてなんとか引っぺがした。やれやれ。同じ手は二度は通じないか。無念、ガクッ。
「大丈夫ですか?」
心なしか嬉しそうな微笑をたたえた超能力者が近づいてきて地面と密着している俺の顔を覗き込んだ。うるさい。声をかけてる暇があったら超能力らしく力を使って俺の痛みを和らげてやがれ。
「前にもお話したとおり僕の超能力は閉鎖空間限定、しかも攻撃専用なのであなたのご要望にはお答えできませんよ。ですが、この世の全ての苦痛を癒すことのできる熱いキスなら・・・」
「さて、ドナルド地獄から脱出する方法を考えようか」
「スルーとはひどいですね」
変態超能力者を振り切るために軽いノリで言ってしまったが、はて、どうしたものか。最終兵器はハルヒを正気に戻したもののそれ以外は変わらないという、なんとも中途半端な効果しかなかった。こうなったらハルヒの頭を記憶がなくなるまでタコ殴りにするしか、ってありゃ?さっきまであれほどいたドナルドが一人もいないじゃねえか。ハルヒが正気になったから消えちまったのか?
黄色い道化師どもの姿を探してきょろきょろしていると、羽交い絞めからハルヒが駆け寄ってきた。すわ、殴られる!と思って反射的に身を引いてしまったが、俺にぶつかってきたのはコンクリート並みの強度を持つ拳ではなく、予想外の言葉だった。
「キョン!ごめんなさいっ!」
しばし呆然とした。あの傲慢なことで右に出るものはいない涼宮ハルヒが頭を下げて謝っていた。一生のうちそうそう見られない姿だと判断した俺は、すかさず脳内カメラのシャッターを切って厳重に保存した。
「キョンはSOS団の調査が始まったことに恐れをなしたマクドナルドが、急遽発動した人類ハンバーガー計画によって囚われの身になってしまったあたしを助けるためにみんなと一緒に活躍していたのね。あたし、洗脳解除の方法がワクチンの口移しだなんて知らなくて。本当にごめん」
森さん。あんたらいったい何を吹き込んだんですか?ドナルドの洗脳の影響が残っているらしいハルヒは、どうやら頭の中がお花畑になっているようだ。電波を出すのは携帯までにしてくれ。ハルヒを落ち着かせるために声をかけようと口を開いた瞬間、世界で最も聞きたくない声を何の構えもなくダイレクトに聞いてしまった。
「こんにちばんはぁ!」
反射的に声のした背後を振り返ると、今夜何度目になるだろうか?世にもおぞましい光景がそこに広がっていた。ドナルドを中心に。
「これかっ?これかっ?これかこれかこれかぁっ!?」
校舎の屋上に集結した千人規模のドナルドどもは、謎の掛け声と共に融合を繰り返して一体の巨大なドナルドになろうとしていた。はっはー。ここまできたら笑うしかねえ。
「我々超能力者の涼宮さんの状態を確認する能力によって分かった良いニュースと悪いニュースがあります。どちらを先に報告しましょうか?」
真っ青な顔をして、それでもゲイ人根性なのか微笑んでいる古泉が嫌な選択問題を出してきた。悪い方を先に頼む。悪いニュースを後にしたら良いニュースとの落差による衝撃で、立ち直れなくなるか心臓発作を起こしそうだ。
「いいでしょう。まずは悪いニュースからです。どうやら涼宮さんの願望を実現する能力によって急激に強大化したドナルドは、そのコントロールを完全に離れて独立して存在できるようになってしまったようです。つまり、涼宮さんが正気に戻ってもドナルドは消滅しなくなったというということです。こうなったら涼宮さんが全力で今夜の出来事は夢だと願わない限り消滅しないでしょうね。しかも、願望をかなえる能力を吸収して存在のさらなる強化を行っているように思えます。ドナルドの願望がかなったとき、地球はハンバーガーになりかねません」
じゃあ、あの馬鹿みたいにでかいドナルドは何なんだ?
「異空間内に展開した部隊から入った情報によると、涼宮さんが正気に戻ったのと同時刻に交戦中のドナルドが消失したそうです。よって、あそこの巨大ドナルドはドナルドの全てだと思われます」
わけが分からんが、SOS団唯一の文芸部員長門有希女史ならこう表現するだろうな。ドナルド・マクドナルドは自律進化を遂げた、と。
ドナルドが一体になることで重量が一点に集中しすぎたのか、校舎にひびが入ったかと思うとあっという間に崩壊してしまった。飛んできた破片の一つが俺の頬を切り裂いて擦過傷を作る。これは夢なんだと信じたい淡い願望が流れ出る血によって打ち砕かれる。
「次は良いニュースです。涼宮さんが正気に戻ったので異空間の膨張が停止しました。それと、自衛隊とアメリカ海軍がドナルドに対して総攻撃をかけると機関本部から無線連絡がありました。どれだけダメージを与えられるかは不明ですが、危険ですので早いとこドナルドから離れた方がよろしいかと」
「驚いた?ドナルドは君のことが大好きなんだよ」
ドナルドは俺たちのほうを向いて地の底から響き渡るような声をだした、いや、もはや怪獣のうなり声に近いな。我ながら情けない話だが、怖くて足が言うこと聞かねえ。今のドナルドと比べたら、ナイフを持った朝倉なんか水たまりで泳ぐミジンコだぜ。
蛇ににらまれた蛙みたいに恐怖で一歩も動けない俺たちに向かってドナルドが足を踏み出そうとした、その時、歴史が動いたかは知らないが空気を切り裂く音がして、その一瞬後にドナルドの身体に炎の花が咲いた。
「アーロッ!」
またまたドナルドは謎の叫び声を上げるが、そんなことお構いなしに爆発は続き、上空を飛び回っていた戦闘機も一斉にミサイルを放つ。俺たちが立っているところまで熱い空気が届き、皮膚をしたたかに焼く。
「巡航ミサイルと空対艦ミサイルです!早く安全な場所まで退避しましょう!」
んなこたあ分かってるよ!訓練を受けてるお前と一般市民を一緒にするんじゃねえ。やっとのことで地面から足を引っぺがすと、ドナルドに向けて元気良く罵詈雑言を発射するハルヒの腕をつかんだところで違和感に気づいた。
ドナルドは次々に命中するミサイルをものともせず、余裕とも取れる笑みさえ浮かべていやがった。そして、両手を胸の前でクロスさせて右肩に左手のひら、左肩に右手のひらを置いて、何やら呪文のようなものを唱え始めた。
「ラン・・・」
!!俺の全本能が警告した。こいつは絶対にやばい!理性もその意見に全面的に賛成だった。なんならお年玉と小遣い一年分をかけてもいいくらいだ。理性と本能に従った俺は、反射的にハルヒを抱えて地に伏せた。ハルヒの胸がぷにゅーんとなったがこんな状況じゃ喜べねえ畜生!
ハルヒにボカボカ頭を殴られてどうにかなりそうだが、ドナルドの方は呪文の次の段階に入ったらしく、胸の前で両手を合わせた。
「離せあほ!やっぱりエロキョンじゃない!あたしの謝意を返せっ!」
「ラン・・・」
ハルヒの願望をかなえる能力が働いたのか、俺たちの目の前にキングサイズの豪華なベッドが出現した。こんなときに何を考えてやがるんだ?出すならせめて核シェルターくらい出しやがれ。ふかふかでやわなベッドよりまだ使える。
とにかく、無いよりはましだとぎゃーぎゃーわめくハルヒを引きずって古泉と一緒にベッドの後ろに隠れた刹那、耳をつんざく狂気の雄叫びが地を震るわせた。
「ルウウウウウウウウウウウウッ!!」
ランランルーって何なんだぁ!?ドナルドが何かを召還するかのように両手を天高く掲げると、強烈な衝撃がキングサイズベッドを襲い、地が波打ち、空が真昼間のごとく光って俺の網膜を焼いた。某特務大佐よろしく「目があ~目があ~」とやりたいところだが、そんなジョークをかます余裕はどのポケットを探してもねえ。
チカチカする目をかろうじて開けると、ちょうど倒壊をまぬがれていた校舎が文字通り全てはじけ飛んだところだった。ついでに逃げ遅れた森さんと新川さんが吹っ飛ばされてヘリに衝突、そのまま二人と一機は仲良く駅の方向へ消えていった。ああ、助けることのできなかった非力な俺を許してください。必ずやハルヒをけしかけて仇をとってみせます。
ドナルドの雄叫びが静まる頃には、数分前まで我らが母校北高が存在していた敷地はハルヒのチートパワーで生き残ったベッドを除いて一面更地になっていた。さらば我が学び舎、か。ストレスの象徴が消えて嬉しいというか、一抹の寂寥を覚えるというか。いやはやこの気持ちは何だろうね。岡部あたりに聞いたら答えを教えてくれるだろうか。
「ははは。航空部隊は全滅。第七艦隊もドナルドの力でハッピーセットにされてしまったようです」
古泉が無線機らしきものを片手に持ちながら乾いた笑い声を出した。ハッピーセット?
「ええ。空母キティーホークがハンバーガーに、揚陸指揮艦ブルー・リッジがおまけの玩具、イージス艦カウペンスがフライドポテト、シャイローがコカコーラ、カーティス・ウェルバーが・・・」
「それ以上は言わんでいい」
古泉の口調がだんだん危なくなってきたので適当なところでやめさせる。さすがの変態力者古泉もドナルドの攻撃に耐えられず神経回路が焼き切れちまったか。だがしかし、平々凡々人である俺の灰色の脳細胞はむしろ活発に働いていた。
昔から胆の太さが自慢だったが、どうやら短期間の内に脳の許容範囲を超えた衝撃と恐怖を受け続けたせいで、大切な部分のネジがどこか遠くへ旅立ってしまったようだ。ニューロンが全部パーン!しちまったのかもな。まあ、とりあえずそのことは置いておいて、今はニトロを投入されたエンジン並みのフルパワーで運転中の脳みそから導き出された結論を実践するのみ。すなわち、日常的な攻撃が効かなければ、非日常的な攻撃あるのみ、ってことだ。
「ハルヒ!」
仕事を成し遂げたようなある種の満足感に満ちた顔をしているドナルドと対照的に、腰を抜かして顎が外れちまったみたいに口を開いているハルヒを呼ぶ。呆けてる暇は無いんだぞ。さあ、お前の持っている普段はいらない子のとんでも神様パワーが必要なんだ。
「何よっ!?」
目に涙をためて恐怖を打ち払うようにしてハルヒが怒鳴り返してきた。ランランルーの衝撃が激しかったようだが、あえて無視する。
「特撮でかませ犬の軍隊がぼこぼこにされた後に出てくるのは何だ?」
「はあ!?こんなときにあんたは・・・」
「いいから、早く答えてくれ!」 
俺の気迫に押されたのか、ハルヒはわけが分からないって顔をしつつも顎に手をやり思案を巡らし始めた。
「特撮でかませ犬の後?んー・・・・・・CM?」
「IAIのラビ。このラビはですね、今までも何度かご紹介させていただいたことがありましたが、今日はデジタルカメラをセットにしてなんと129,800円なんです!130,000を切りました!」
ハルヒの背後に怪しい臭いがぷんぷんする通信販売のスタジオとおっさんたちが現れ、最新機種らしいパソコンの紹介を始めた。まったく、惚れ惚れするような能力だ。
ふう。焦るな、焦るなよ俺。答えを教えてはだめなんだ。ハルヒが自分で気づくように誘導してやらんと。吹き出た汗で気持ち悪くなった手を握りなおして頭を振る。
「違う違う。もっと基本的なところに戻るんだ」
さあ、虹色のお花畑、じゃなくて虹色の脳細胞をフル回転させるんだ。お前の大好物だろう?この手の話は。
ハルヒはまた悩み始めたが、それほど長くはなかった。ハルヒは風呂に入って物理の法則を発見したときのアルキメデスのような顔をして、にやりと唇を曲げてから高らかに勝利宣言を行った。
「答えは正義の味方ね!」
残念ながらハルヒの宣言を最後まで聞くことはできなかった。俺たちの前に出現した巨人の着地音に遮られてしまったからだ。吹き荒れる砂煙の先に見えたのは光り輝くハルヒの妄想の産物。正確には・・・・・・あー、どう表現すればよいのだろう。神人と某マクドナルドのライバルファーストフードチェーンのマスコットを合わせた姿、ということにしておこう。意味が分からない?分からないやつはフライドチキンを買いに行け。店頭で似たようなやつの縮小版が出迎えてくれるはずだ。とにかくこいつをカーネルマンと仮称しよう。
「やあ、おはよう」
馬鹿丁寧にハルヒが答えを出すまで手を出さなかったドナルドは、またしても馬鹿丁寧にカーネルマンに挨拶した。ここは化け物の余裕だからこそなのか。
「お話しようよ」
「サンダースッ!」
互いに人間には理解できない宣戦布告をしてファイティングポーズをとるドナルドとカーネルマン。彼らは決して相容れることの無い存在。どちらか一方が滅びるまで戦い続ける、張り詰めた空気がそう教えてくれた。ヘーゲルの弁証法的に言えばテーゼとアンチテーゼみたいな関係か。ジンテーゼに止揚することはないだろうがな。
二人の間を一陣の風が吹き抜ける。俺もハルヒも古泉でさえも微動だにしない。固唾を呑んで決戦の始まりを待っている。たとえ踏み潰される危険性が高いことが分かっていてもだ。決してビビッて身体が動かないわけではない。そんな体験、一生に何度もあってたまるか。
「ランランルー!」
「チキン光線!」
ドナルドに一瞬遅れて正義の味方が力を解放する。目を覆いたくなるような閃光、油臭い衝撃波が俺たちを包む。いかん、吐き気がしてきた。
「フライドォッ!?」
「きゃあっ」
「ぬおっ」
呪文が一文字多い。ただそれだけ、あるいはその致命的な差が勝負を一瞬で決定付けた。
激しい力と力のぶつかり合いに負けたカーネルマンが俺たちの頭上を飛び越えて、毎日俺が汗水たらして上ってくる道を掘り返しながら山のふもとの住宅地に突っ込んだ。なんてこった。カーネルマンがやられちまった。
「ドナルドは涼宮さんの願望を実現する能力を吸収しました。いえ、現在でも吸収し続けています。あなたの言うカーネルマンが敗北したということは、既にドナルドの力の方が強くなっている可能性が高いのです」
復活した古泉が俺の耳にそっと情報を届けてくれた。疑問に答えてくれて嬉しいよ、そのにやけた面を殴りたくなるくらいな。
「そんな、正義の味方がやられるなんて!」
ハルヒが口を手で押さえて悲痛な叫びが隣から漏れる。俺だって叫びたいよ。しかし、そんなことをしている暇は無い。考えないと。九回裏ツーアウト十点差で逆転できる起死回生の策を考えないと。諦めたらそこで試合は終了だって偉い人も言ってたからな!
「カーネルクリスピー!」
「マックナゲット!ふっふぅっ!」
苦しそうにもがくカーネルマンが骨無しチキンで弾幕を張るが、質はともかく物量で勝るドナルドの弾幕に押されっぱなしだ。勝てると踏んだのか、ドナルドは飛び上がって空中で一回転、ライダーキックさながらの版権的に怪しいキックをカーネルマンに叩き込んだ。
くそっくそっくそっ!どうすりゃいいんだ!?もう一度、ハルヒをおだてて放射能をばら撒く怪獣でも出すか?狂気の道化師ドナルドの力が暴走特急ハルヒ号のそれを上回っている限り何を出しても無理そうだ。証明終わり、畜生!・・・・・・ん?何だ、古泉?良い案があるなら・・・!?
古泉のいつになく真剣なアイコンタクトは俺の心に直接呼びかけているようだった。そのおぞましい提案が手に取るように伝わってきたぜ。超能力者の力ここに極まるって感じだ。
「古泉よ。どうしてもそれをやらなきゃいかんのか?」
「僕も本心を言えばやりたくはありません。正々堂々とアタックしたいですから。それでも、生かドナルドかを選ばなくてはなりません。迷ってる暇はありませんよ」
「俺だって生き残るためにはそれなりの恥を晒してもいいと思ってる。だがな、世の中にはどうしても譲れないことが・・・」
ふと、ここに至る過程で身を犠牲にして進めと言ってくれた長門の、あの儚げでいて最後まで心強かった顔が浮かんだ。それだけじゃない、何をしに来たかよく分からなかった朝比奈さん。俺たちを全力で守ってくれた森さんに新川さん、ヘリのパイロット、その他機関の構成員。市民を守るために出動して散っていった名も無き自衛隊員、米軍の兵士たち。わけも分からないままドナルドに襲われて洗脳された人。これから襲われるかもしれない俺の家族、友人、世界中の人々。俺がここで提案を蹴ったら彼らはどうなるのだろうか。答えは明白だ。これはやつを止めるラストチャンスらしいからな。
攻撃を受けてふらふらになっても、呪文が一文字多いだけで圧倒的に不利な状況に陥っても、老骨に鞭打って戦い続けるカーネルマンの姿をバックに、俺の心は速乾性の接着剤のように固まっていった。
「心の中でけりをつけたようですね」
ああ、まったく忌々しいことだよ。世界のために我が身をささげる、なんて安っぽい道徳家の思想に屈するなんてな。
「あなたって人は、どこまでもツンデレですね。そのうち流行が終わってしまいますよ?」
「黙ってろ。嫌なことをとっとと済まして家に帰るぞ!」
馬鹿な掛け合いをやって時間を無駄にしている場合じゃないな。結末をじらすのはテレビ番組だけでいい。俺は口の減らない変態の腕をつかんで戦場、すぐそこでカーネルマンに喉も枯れんばかりに声援を送っている一人の少女の前に向かった。
「な、なあ、ハルヒ。話があるんだが聞いてくれないか?」
「今度は何よっ!?あたしは応援で忙しいのよ!」
目を三角形にして怒鳴るハルヒと正対する。息を吸って呼吸を整える。ある意味ドナルドに襲われるよりも次の言葉を搾り出す方が怖い。ほら、決心もとい諦めはついたんだろ。早く言え!言うんだ!
「おっ、おっ、俺、古泉と・・・・・・その、付き合ってるんだ!」
お母様、お父様、最愛の妹よ。汚れてしまった俺を許してください。ですが、これは仕方がないことなんです。世界を救うためなんです。ドナルドの魔の手から美しき地球を救うためなんです!どうかそこらへんの事情をご理解ください。お願いします。古泉、てめえはやりたくないとかほざいたくせにニコニコしてるんじゃねえ。森さんに報告してシバいてもらうぞ。
ドナルドとカーネルマンは戦っていた。古泉は嬉しそうだった。俺はショックを受けていた。しかし、この場で最も衝撃を受けていたのは、なんと我らが団長様だった。顔から表情がポロポロ落ちていく音が聞こえそうだ。
「は、はは。う、うそ・・・・・・よ。うそに決まってるわ。こんな非常時にうそをつくなんて、キョンもなかなかやるわね」
「団の規則を破ってしまい申し訳ありません。されど、恋愛とは二人の前に立ちはだかる障害が高くなればなるほど燃え上がるものなのです」
「こっ、古泉くん!?」
ろれつが回らなくなっている舌を必死に動かして俺の言葉を否定しようとするが、そこにすかさず古泉がフォローを入れてハルヒの努力をくじく。あれ?何でだろう。ハルヒの悲痛な声が心にグサッと刺さる。急に罪悪感がこみ上げてくる。
「あ・・・・・・ありえない。だって、だって、キョンはあたしのこと見てくれないけど・・・・・・ぐすっ、いっつもみくるちゃんや有希のことばかり見てるから、異性に興味があるのは明白・・・・・・」
「涼宮さん、現実を受け入れてください。僕とキョンたんは相思相愛の仲なのです。何人たりとも僕たちの愛の邪魔をすることはできないのです!さあ、そのことを証明するために誓いのキッスを!」
迫り来る古泉を全力で足を踏みつけて撃退する。ドナルドに掘られてしまえ。あの巨大ドナルドの方にな。っと、それよりも、この予想外の事態は何だ?俺の予想では、ハルヒは俺の一世一代の大うそを聞いてドン引きするか大笑いして
「ああ、キョンと古泉くんが付き合うなんてありえないわ。そうか、さっきからありえないことばかり起きると思ったら、これは全部夢なのね」という流れになって世界は改変され一件落着、のはずだったのに。ハルヒは下唇をかみ締めて今にも泣きそうな顔をしている。涙腺は決壊してしまっているのか、目じりにうっすらと塩水まで浮かべているではないか。これは一体どういういことだ?
古泉にアイコンタクトで説明を求めようとしたら「はあ、さすがはフラグクラッシャー。絶滅危惧種並みの鈍感男です。まっ、そこが魅力とも言えるんですけどね。ハートマーク」と返された。このクソアホ、後で絶対に殺す。森さんやドナルドには任せず俺の手で地獄に叩き落してやる。首を洗って待ってやがれ。
「嫌よ。嫌だよ、こんなの。女ならまだしも、男である古泉くんとくっつくなんて認めないわ。認めるもんですか!」
もはや悪霊に取り付かれているかのようにうつろにしゃべり、目の焦点も合っていないハルヒがうっすらと光り始めた。どうやら作戦は成功したようだな。ランランルーを上回る衝撃を受けたハルヒの心に深い傷跡を残そうとしているが。
「そう・・・・・・これは夢。夢に違いないわ・・・・・・」
ハルヒから発せられた光は夜空へ舞い上がり、世界を包む本流となろうとしていた。はたから見れば美しい光景なんだろうが、俺にはどうもそう捉えることはできなかった。これはハルヒの悲しみによって動いてる力ではないかと感じられてならない。
「涼宮さんの力が再びドナルドを凌駕したようです。これで、終わりですね」
古泉が自分の身体にまとわり付く光を眺めながら、ホッとしたようなため息をつく。ハルヒはすでに直視できないほどの輝きを放っているが、俺は大声を上げて泣いている姿が見えた気がした。すまん、ハルヒ。なんだか分からないが、申し訳ないことをした。世界がまともに戻ったら、またわがままに振り回されてやるよ。マクドナルドに行くのだけはお断りするがな。
「アルァーッ!?」
「It’s finger lickn’ good!」
ドナルドとカーネルマンのそれぞれ意外そうな叫びと、何かを守り通した安堵の叫びを遠くで聞きながら、俺は意識を手放し無重力の世界に身を投げた。



「戻った・・・・・・か」
視界に広がるのは掃除の行き届いてない部屋。天井の隅っこに蜘蛛の巣がはってる。更地になった学校ではない。ドナルドもいない。変態もいない。そして、俺は生きている。」
ここで深呼吸を一回。うん、生きているってすばらしいが、空気よどんでいる。窓を開けないとな。
眠い目をこすりつつ、窓際まで行って部屋と外界を隔てているガラスを横にスライドさせる。涼しい風が部屋の中に入って来る。実に気持ちいい。
「マイルームよ、私は帰ってきた!」
身体の奥底からの衝動に駆られ、つい叫んでしまう。近所迷惑?知ったことか。今夜は近所迷惑どころか世界中をお騒がせした事件を解決したんだ。これくらいの開放感は味わっても許されるだろう。法律が許さなくても俺が許す。
思う存分生きる喜びを開放した後、ベッドのところに戻って落ちていた携帯を拾う。古泉、長門、朝比奈さん、見知らぬ名の外人からメールが一件づつ。最後のは迷惑メールか。
メールの中身は三者三様だったが、結論は皆同じ。要約すると、ハルヒの願望を実現する能力によって今晩のドナルド騒動は無かったことにされた。まさに典型的な夢オチ。自然に身体が踊りだしちゃうくらいハッピーエンドだ。迷惑メールに返信してもいいくらいだ。
「まったく、やれやれだぜ」
ため息をついて窓の外を眺める。まだ日は昇っていない。そういや世界を元に戻した暁には、SOS団全員で朝日を見るんだっけ。時計は三時を少し回った頃だと示している。今から電話をかけまくってどこか見晴らしのいい場所に集まれば、ぎりぎり日の出には間に合うな。どうせ三人は起きてるようだし。よし、思い立つが吉日だ。
一番最初に電話をするのは・・・・・・もちろん我らが団長様に決まってるよな。アドレス帳のサ行からあいつの電話番号を探し出して発信ボタンを押す。ハルヒに電話するのがこんなにウキウキするのは初めてのことなんじゃないか?俺もたった一晩でずいぶん変わっちまったな。それに見合う経験はしたが。時間が惜しい。早くつながれ!
一、二、三、四コール目で相手が出た。

 


「もしもし、ドナルドです」

 

 

 


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