阪中「ぐすんぐすん」
ハルヒ「どうしたのよ阪中? 朝から泣きながら登校するなんて」
阪中「あ、涼宮さん」

 

阪中「実は、夕べからうちのルソーがいなくなっちゃって」
ハルヒ「ルソーがいなくなった? それって、家から出て行っちゃったってこと?」
阪中「そうなのね。家の中はくまなく探したし、近所も探し回ったけど見つからないのね。きっと迷子になってどこか遠くへ行ってしまったのね……」

 

阪中「しくしくしく」


ハルヒ「ルソーが行方不明に……これは事件のにおいがするわね」

 

ハルヒ「ちょっとキョン!」
キョン「ん、どうした? 俺は今忙しいんだ。急ぎでなけりゃ、後にしてくれ」
ハルヒ「緊急事態よ! さっき阪中が泣きながら申し立ててきたんだけど、昨夜からルソーが行方不明になっているらしいのよ!」
キョン「ほほう、そうかい。まあ、若い男にはよくあることさ。きっと首に縄をかけられていては手にすることのできないフリーダムに憧れて自らつらく厳しくも自由に満ちた野良の道を踏み出したんだろうぜ」

 

キョン「はいリーチ! 追っかけリーチ!」
谷口「かーっ! ここで追っかけかよ!? こちとら安牌ねえってのによぅ!」
国木田「トイトイ確定だ、なんて言ってはしゃいでるからだよ」

 

ハルヒ「アホンダラぁぁぁ! この非常時に三人麻雀なんてやってる場合か!」

 

ハルヒ「そぉいっ!」 バン
キョン「ぎゃあああぁぁぁ! お、おお、俺の面チン5面待ちがこっぱみじんこ……!」
谷口「涼宮GJ!」

 

ハルヒ「面チンもチンチンもあるか! ほら、さっさと行くわよ! SOS団は仲間のピンチを見捨てない! あの愛らしい瞳のルソーとシュークリームのためにも!」
キョン「いてててて! ひっぱるなって、おい! どうせ引っ張るなら手とか耳とかにしろよ! なんてわざわざ尻の肉をつかんでいてててて!!」

 


 <<2時間後>>

 

 

ハルヒ「いないわね」
古泉「なんの手がかりも無しですからね。さすがに驚くほど遠方までは移動しないと思うのですが、そうは言っても、こう捜索範囲が広くては」
長門「ただいま」
ハルヒ「おかえり有希。そっちはどうだった? 目撃情報とかあった?」
長門「成果はない。目撃情報も入手できなかった」
ハルヒ「そう。参ったわね」

 

キョン「なあハルヒ。もうそろそろ学校に戻らないか? ルソーが心配なのは分かるし阪中家のシューを食べたい気持ちもよく分かるが、学校をサボったって家に連絡されたくはないだろう」
ハルヒ「……無念だわ。せめて今日が休日だったら時間を気にせず捜査を続けられるのに」

 

ハルヒ「そうだわ。ちょうどいいからここの神社でお願いしていきましょう」
キョン「なんか小さくてさびれた神社だな。こんなところでお祈りしたからって、ご利益があるとは思えないぜ」
古泉「まあまあ。良いじゃありませんか。こういうのは気持ちの問題ですよ」

ハルヒ「ここは 『藤原さま』 っていう神様を祀った神社なんだって。昔誰かから聞いたがあるわ。なんでも、食べ物を供えてお願いすれば、供え物のレベルに応じた願いを聞いてくれるんですって」
キョン「小学生の間にだけ流れる七不思議みたいな俗説だな」
ハルヒ「食い意地の張った神さまだなって当時は思ったものだけど、藁をもつかみたい今はなんでもいいわ」

 

ハルヒ「藤原さま。藤原さま。たまたまカバンに入ってたドッグフードをお供えしますので、阪中家のルソーを探し出してちょうだい」
キョン「なんでたまたまドッグフードがカバンに入ってるんだよ」
ハルヒ「ぶつくさ言ってないで、あんたも何か出しなさいよ」
キョン「しゃあないな。じゃあ、たまたまカバンに入ってたシャミセン用のキャットフードを供えることにするか」
古泉「じゃあ僕は金魚のエサを」
長門「私はメガネを置いておく」

 

ハルヒ「さて、と」

 

ハルヒ「期待はしてないけど、神頼みしたらなんだか気が楽になったわ」
キョン「じゃあ学校に帰ろうぜ。続きはまた放課後にでもやればいい」
古泉「そうですね。早く戻らないと、家へ連絡されかねませんから」

 


~~~~~

 


藤原「ふん」

 

藤原「ひさしぶりに過去へやってきたと思ったら、面倒なことを頼まれたものだ」

 

藤原「まあいい。退屈しのぎにはちょうどいいお遊びだ偶然にも同名だったこの社の神のふりをしてみるのも一興だ」


みくる「……あの、それは別にいいんですが……なんで私がここへ連れてこられたんですか?」
藤原「なんでって。決まっているじゃないか」

 

藤原「僕はこの時代へきて日も浅い。誰かに道案内でもしてもらわなければ、うかうか散策もできないんだ」
みくる「つまり私は、あなたの道案内のために呼ばれたんですか?」
藤原「そういうことだ。同行させるなら、禁則事項にひっかかることもなく会話をできる者が望ましいからな」
みくる「ルソーさんを探すのは私も賛成ですが、なにも学校の授業中にしなくても」
藤原「そんなことは僕の知ったことではない」
みくる「そんなぁ。平凡に暮らして波風たてない日々を送っていくつもりだったのに。学校をサボったりしたら、それも台無しになっちゃいますよぅ」
藤原「ふん。本来なら朝比奈みくるの事情など知ったことではないのだが、僕も鬼ではない。そこのところは心得ている。対策は完璧だ。心配することは何もない」
みくる「対策って?」
藤原「文芸部室に置いてあったカエルの着ぐるみを朝比奈みくるの席に座らせてきた。あれはあんたの物なんだろう? なら大丈夫だ。朝比奈みくるが学校を抜け出しているなんて気づかれることはない」
みくる「バレるに決まってるじゃないですか!」

 


~~~~~

 


鶴屋「どうしたんだい、みくる? 突然カエルの着ぐるみなんて着て。SOS団の新しい遊び?」
カエル「いえ。ちがいます。こういう作戦なんです」
鶴屋「ん? 本当にどうしたんだい? いつもと声がちがくない? 風邪でもひいたのかい?」
カエル「いえいえ。いつも通りですよ。私は前からこういう声だったじゃありませんか」
鶴屋「う~ん、着ぐるみの内側に声がこもって別人みたいに聞こえるのかな?」
カエル「そうです。その通りなのです。だから心配は無用ですよ」
鶴屋「……そっか。うん。それならいいんだけどねっ!」

 

カエル(やりました。誰も私が橘京子であると気づいていません。ここにいるのは朝比奈みくる本人であると信じているようです)

 

カエル(この偽装術があれば、たとえ機関相手でも遜色なく渡り合えるでしょうね)

 

カエル(ふふふ。容易いですわ。所詮は普通の高校生。丸め込むなんて造作もないことです!)

 

鶴屋「あ、みくる。私ちょっとおなか減っちゃったな~。食堂でパンと牛乳買ってきておくれよ」
カエル「え? わ、わたしがですか?」
鶴屋「そだよ。どしたの? みくるはクラスの買出し係さんっしょ? いつも休み時間中には食堂まで全力疾走して日々タイムを縮めようと努力してんじゃん」
カエル「え、あ、は……そそ、そうでしたね。あはは、うっかりしてました」

 

財前「みくる~、こないだ貸してた5千円、今日返してくれる約束だったよね」
カエル「え!? ごご、ごせんえん……」


榎本「みくる~、私肩こっちゃったな~」

カエル「え……ひ……は………」

 

財前「いっひっひ。困ってる困ってる」
鶴屋「ふふん♪」

 


~~~~~

 


藤原「もさもさしているが、噛めば噛むほど味があってうまい。この時代にはこんな奥深い味わいをした菓子があったのか」
みくる「あの……それ、ドッグフード……」
藤原「これはドックフードという菓子か。変わった名前だな。直訳すると、犬の被り物。面白い。実に僕好みの食べ物だ」
みくる「いえ、フードはフードでも、そっちのフードじゃなくてですね……」

 

みくる「もういいや。面倒くさいし」
藤原「この舌を楽しませる風味。エレガント。実にジューシーだ」

 

藤原「うらやましいか? ん? うらやましかろう。はっはっは。分けてやらんぞ。欲しかったら自分で買ってくるんだな」
みくる「いえ、けっこうです」

藤原「さて。間食をじっくり堪能したところで、そろそろ暇つぶしに出かけるか。確か、探すものはルソーとかいう犬だったな」
みくる「そうです。阪中さんっていう子の飼い犬で、とてもかわいらしいんですよ」
藤原「そうか。かわいらしいのか。道に迷って行方不明とは、ルソーも心細い思いをしていることだろう。早く助けて飼い主のもとに返し、安心させてやらないとな」
みくる「あれ? てっきり 『犬っころごとき、甘やかさず野生のまま力強く生きさせてやった方が良いのだ』 とでも言うと思ったのですが。藤原さんは意外に犬好きだったりするんですか?」
藤原「意外? ふん。意外でもなんでもない。そう言われることこそが僕にとっては意外なことだな」

 

藤原「犬でも猫でも魚でも、命あるものはすべからく尊いのだ。あんたはそんなことも分からないのか?」
みくる「いえ、そういうわけじゃないのですが……」
藤原「僕は人間以外の生き物は大好きだ。大いなる自然の循環の輪の中であるがままに生き、そして死んでいく。これは非常に貴いあり方だ」

 

藤原「その点、人間はダメだ。腐っている。うんこするし」

 

藤原「やつらは例外なく汚物だ。地球の面汚しだ。地獄へ堕ちるべきだ。金も貸してくれないようなやつらは皆クズの集まりだ」


みくる「……そうですか」

 

みくる「ところで、藤原さんはどうやってルソーさんを探すんですか? 私も1年以上ここに住んでいますが、さすがにまだ町全体の地理を知っているわけじゃないですので、細かい道は案内しきれませんよ」
藤原「あてどもなく探し物をするなど愚の骨頂。僕くらいエレガントでスマートな男となると、全て計算づくで効率よく行動するものなのだ」
みくる「どうしたんですか、とつぜんズボンのポケットをまさぐったりして」

藤原「ふっふっふ。これを見よ! ばばーん!」
みくる「きゃっ! ななな、なんですか突然! そんな卑猥なオブジェはさっさとしまってくださぁい!」

 

みくる「いやん!」


藤原「愚か者! 誤解するな粗忽物め! 言っておくが、これはチンチンの模型じゃないぞ! 未来の世界の科学アイテムなのだ!」
みくる「だだだ誰もそんなこと言ってませんよ……いいから隠してくださいよぅ。わいせつ物陳列罪で補導されちゃいますよ」
藤原「これはオッキ1号という精密機械だ。失せ物などがあった時、これに指令を与えるだけでその探したい物の座標を割り出し、それがどこにあるのかを教えてくれるという便利な機械なんだ」
みくる「なんでわざわざそんな形に造形してるんですか……とても直視できませんよ」
藤原「ええい、僕らの未来世界のハイセンスを愚弄するつもりか。このフォルムは、あれだよ。機能美ってやつだよ」
みくる「百歩ゆずってそれが機能美だとしても、なんで毛まで生えてるんですか」
藤原「……それは、あれだよ……あれ……ほら、その……い、いいんだよ、これはこれで! 耳掻きの先にだって綿がついているだろう! あれと同じ機能なんだよ!」

 

藤原「ふん。こんなとろい女にはつきあっていられん。これだから3次元は。それでは、早速捜査を始めるぞ」

 

藤原「オッキ1号、起動!」
オッキ『オッキしました』
藤原「探し物だ」
オッキ『了解しました。捜査対象の情報を入力ください』
藤原「阪中家の飼い犬のルソーだ」


みくる「え!? それだけ!?」
藤原「何を言ってるんだ、お前は? それ以外にどう説明しろと言うのだ?」
みくる「いや、だって。どう考えても曖昧すぎるじゃないですか。もっとこう、犬種とか、大きさとか、そういうものをですね
オッキ『特定しました』
みくる「早ッ! もう見つけたんですか!?」
藤原「ふふ。我々の未来世界の技術をなめてもらっては困る」
みくる「すごい技術……まさか藤原さんサイドの未来世界にこんなすごい技術があったなんて!」

オッキ『おっきおっき』
みくる「これでデザインさえまともなら最高なのに……」

 

藤原「さあ朝比奈みくる。僕をオッキ1号の指し示す場所へ案内するんだ」
オッキ『おっきおおきいおおきいおっき』
藤原「ふはははは!」

 

みくる「……なんでだろう……目からお茶が……」

 


~~~~~

 


鶴屋「みくる~、お弁当のから揚げちょうだいよ~」
財前「嫌とは言わないよね?」
カエル「……はい……」

 

榎本「ねえみくる、昨日の宿題やった? やってたら見せてよ」
鶴屋「みくる、お茶おかわり~」


カエル「……ひっく……ひっく……」

 

カエル「………はい……」

 


~~~~~

 


オッキ『びんびん! びんびん! マジでびんびんきてる!』
藤原「反応が強くなってきた。この付近で間違いないようだ」
みくる「ここは。ええと、確かキョンくんの中学時代のお友達が通っているっていう……」

 

中河「キミは確か、キョンや長門さんと一緒にいた……誰でしたっけ」
みくる「あ、あ、お久しぶりです。中河さん、でしたよね。私は朝比奈みくるです」

 

みくる「実はこのへんに、お友達のペットの犬がいると聞いて探しに来たんですけど、中河さんはこの辺りでウェストハイランドホワイトテリアを見かけませんでしたか?」
中河「ああ、見たよ。昨日の夕方に商店街の脇でうろうろしてたところを保護したんだ。野良にしちゃ身奇麗だったから、誰かの飼い犬かなと思って」
みくる「本当ですか!? よかった、見つけられて。その犬、ルソーっていうんですけど、お友達の飼い犬なんです。ありがとうございます。お世話してくれてて」

 

藤原「その男から離れろ朝比奈みくる!」
みくる「え? え?」
藤原「これを見ろ!」

オッキ『おっきおっきおっき!』


藤原「激しくオッキしている!」


みくる「それが一体どうしたんですか。さっきからずっとオッキは反応してるじゃないですか」

 

みくる「って、だんだんオッキ1号に普通に接し始めてる私……」
藤原「ちがうんだ、朝比奈みくる。これはオッキ1号ではない」
みくる「じゃあなんなんですか?」
藤原「オッキ2号だ」
みくる「同じじゃないですか」
藤原「違う。オッキ1号は失せ物を探索するためのメカだが、2号はまったく別のものを探知するメカなのだ」
みくる「一体なにを探知するっていうんですか?」
藤原「邪気だ」
みくる「え?」

 

 

中河「ふふふ。そうか。あのウェストハイランドホワイトテリアはルソーといって、朝比奈さんの知り合いの飼い犬だったのか」

 

中河「わざわざこんなところまで探しに来たのに、それも無駄足に終わってしまうようだな。残念だが、あなたがたには手ぶらで帰路についてもらう」
藤原「激しくオッキしているぞ! 離れろ、朝比奈みくる!」
みくる「ななな、なんなんですか、いったい!?」

 

中河「過去に一度は愛の道を目指しながらも途半ばで苦渋をなめた俺だったが! 今まさに俺は新たな希望の光をみつけることができたのだ!」

 

中河「ルソー! 俺は昨日、ルソーに出会って思い知ったのだ! そしてはっきりと自覚したのだ!」

 

中河「俺の中に流れる、父性本能の血潮ってやつをな!」

 

藤原「聞いたか朝比奈みくる。これがこいつのオッキの正体だ」
みくる「ななな、何がですかぁぁぁ!?」
藤原「こいつはな、商店街で拾ったウェストハイランドホワイトテリアを見て、犬にも穴はあるんだな、と気づいてしまった邪道野郎なんだよッ!」
中河「いや、そこまでは言ってない」

 

中河「だがキミたちにルソーの身柄を返却する気がないというのは事実。認めざるを得ないことだ」
みくる「なんで……なんでですか、中河さん!?」


中河「知ってしまったからさ。誰かに頼られる、好かれることの喜びってやつをな!」

 

中河「ルソーは誰かが守ってやらなければ生きていけないか弱い存在だ」

 

中河「つぶらな瞳が、俺に訴えかけたんだ。『僕を守って』 と」

 

中河「誰かに頼られる! 愛されること! 自分という存在を肯定してもらえること! これに勝る快楽はない!」

 

中河「だから俺は誓った! 俺はルソーを育てると! 愛し愛され、そうして幸せな途を進んでいこうと!」


みくる「中河さん……誰かに愛されたいという気持ちは分かりますが、それは間違った方法だと思いますよ」
中河「間違ってなどいない! ルソーとの出会いは俺の運命だったのだ! あいつを立派なドッグファイターに育ててやることこそが、天より与えられた俺の使命だったのだ! 俺はそれに、その天啓に気づいたのだ!」

 

中河「そう! 愛こそが我が人生!」

 

 

藤原「愚かな人間だ。実に滑稽だ」
中河「なにッ!?」
藤原「ルソーの気持ちを考えず、自らに都合の良い解釈のみで他人の存在を理解しようとする」

 

藤原「なんて自分勝手で強欲な男だ。まるでエロ本の中の巫女服少女にイタヅラする暴行犯のような身勝手さ、薄汚さ、そして低脳さ」

 

藤原「その俗物的すぎる愚鈍さには、僕もオッキ2号もオッキ全開を禁じえない」


中河「お、おのれ! なんだかよく分からないが、俺を馬鹿にするつもりか!?」
藤原「そう聞こえたかい? そうかそうか。どうやらキミは、俺が思っていたほど無能というわけでもないようだな。少なくとも、皮肉を解する脳みそくらいは持ち合わせているようだからな」
中河「ゆ、ゆるせん! 断じてゆるせん!」
藤原「ふふふ。許せないならば、どうする? かかってくるか? え?」

中河「くらえ! 必殺、アメフトパーンチ!」
藤原「ふん! 馬鹿め、そんなテレフォンパンチにあたるグズなどこの世の中には存在しない!」

 

 ばき

 

藤原「げっふうううううう!」
みくる「あたった!?」

 

藤原「や、やるじゃねえか……あ、あんなスピーディーなパンチ、未だかつて見たことねえ。さてはお前、ボクサーだな」
みくる「テレフォンパンチとか言っといて今さらそれですか!? カッコわるッ!」

藤原「だがな、中河とやら。この程度で俺を負かせたと思ったなら、それはとんだ思い違いだぜ。俺の闘志はまだ死んじゃいない。むしろ、逆に燃えたぎってきたくらいさ」
みくる「藤原さん、がんばれー!」


中河「ほう。俺のパンチをくらってまだやる気で立ち上がるとは。馬鹿なやつだ」

 

中河「なら、次は手加減しない。本気でいかせてもらう。アメフトで養われたこの強靭な肩から繰り出す、驚異的な威力を誇るショルダータックルでお前の闘志の炎を消し去ってやる」


藤原「よし。もういい時間だし、そろそろ帰るとするか朝比奈みくる」
みくる「え!? ちょ、もうですか!? これからが本番だったんじゃないんですか!?」
藤原「まあ、なんていうか、そのつもりだったんだけどね。ほら、こんな時間になっちゃったしさ。電車に乗り遅れたら面倒じゃん?」
みくる「電車なんて気にしてる場合じゃないでしょう。ルソーさんの身柄をかけたこの大事な時に。電車を逃したらタクシー代くらい出してあげますから!」
藤原「いや、だってほら。ガソリン代がどんどん上がってもうすぐ180円に達しようって時期だろ? 悪いって。タクシー代おごってもらうなんて。俺のプライドが許さない」
みくる「いいですから! 気にしなくていいですから! 必要経費ということでうちの上司に掛け合いますから! 藤原さんはお金のことなんて気にせず戦ってください!」


藤原「俺さ、ずっと黙ってたんだけど、この際だから言わせてもらうわ。実は俺、車ダメなんだ。自分が運転するぶんにはいいけど、他人の運転する車って、なんか違和感あるじゃん?」

 

藤原「それにタクシーとか、あの独特の雰囲気がダメなんだよな。においって言うか。すげぇ落ち着かないんだよね」

 

藤原「それに運転手さんとの相性とかもあるだろ? 俺って人間嫌いな方じゃん? おしゃべりな運転手さんのタクシーに乗ったりしたらもうね。地獄。分かる?」

 

藤原「高い金払ってまでそんな思いしたくないだろ? まあ、払うのは俺じゃなくて朝比奈みくるなわけだけど」


みくる「つまり何ですか。中河さんと戦うのが怖いってことですか?」
藤原「ばっ、ちげえよ! そこんところ勘違いするなよ! 僕は喧嘩が嫌だから帰るとか言ってるんじゃないんだよ。そこんところ履き違えるなよ。思い違いしそうな感じだけど、そこは僕の意図していないところだから」
みくる「じゃあなんなんですか。戦ってくださいよ」
藤原「だから、さ……そこは、ホラ……フィーリングで感じ取ってもらうべき点というか、さ……」

 

みくる「ふっじわら! ふっじわら!」
中河「おらおらどうした、こいよ!」
オッキ『おっき! おっき!』
ルソー「くーんくーん」

 

藤原(やべえよ。滅茶苦茶つええよ、この中河ってやつ。なんかおなか痛くなってきたし)

 

藤原(パネエ。マジでパネエ。くんじゃなかったぜ、チクショー。ドッグフード買って帰りてぇ……)

 


 つづく


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