皆さんは冬という季節は好きだろうか?

俺は特別好きという訳でもないのだが、夏に比べれば着込めば暖かいから。というくだらない理由なだけで好んではいる。
夏は暑くてもさすがに脱ぐのには限度はあるし、唸るような暑さに耐えなければいけないの比べれば、俺は憂鬱にならないで済むという訳だ。
俺を除いて全てが変わってしまった12月18日。あの日を乗り越えた俺は、今まで嫌々参加していたようなものなのだが。それなりに楽しんでいた訳で、今更というかなんというか。俺にも守りたいものが出来たと言うわけだ。特殊な力を持っている訳でもなく、ただの凡人な俺にも出来る事はある。
だが、そんな俺の気持も知らずに我がSOS団の団長様ときたら、 

「あんたは雑用なんだから当たり前でしょ」 

などとあんまりな理屈で、俺の気持ちを踏みにじる。だか、こんな事でくじける俺ではないのだ。

慣れというのは恐ろしいもので、高校入学早々に、電波で素っ頓狂な事を言うハルヒに、あれよこれよといつのまにかハルヒ時空へと引きずり込まれ、宇宙人未来人、超能力者に邂逅を果たすに至った。
それからというものの、傍若無人唯我独尊猪突猛進の凉宮ハルヒによる無理難題を押し付けられ、嫌々仕方なく付き合っていた俺だが、今となっては良い思い出だ。それに高2になってからも色々と懸案事項が尽きる事もなく、佐々木、橘京子、藤原、後なんだっけ?そうそう、周防九曜だ。
あいつらの参入もあり、何やらけったいな出来事に巻き込まれつつも。なんとか大事に至る前に長門と共に分裂した世界を修復した俺達であったが。

正直、俺もそろそろ疲れというのが見え隠れしている訳で。などと色々過去を思い返しながら、少し薄暗く空を覆う雲を見上げながら俺は今珍しい奴と一緒に下校をしている。何故このような事になっているかというと、そうだな説明しよう。別にいいって?まぁそういうな。

 

 俺は放課後いつものように自然と足が向かう文芸部室にいる、そしてこれまたいつものように自分の指定席に着き長机を向かい合う形で、古泉とボードゲームに興じている。 

「新年も近い事ですし、久々に初心に戻りませんか?」 

という古泉の提案により、一番最初に持ち込まれたオセロをやっている訳だが。まぁ、いつもの指定席なのだが。オセロの勝敗は既に俺が3勝してい。
いつまで立っても腕が上がらない古泉は、 

「いえ、勝負事は勝ち負けが全てではありません。それに至る過程が大事なのですよ」 

いつも負けている奴が何を言う。古泉は肩を竦め両の手を上げ、 

「これは手厳しいですね」
今では馴染みのその仕草も気にならなくなっていた、最初はやけに様になるから気に食わなかったが。 

「お茶のお代わりお持ちしましたー」

「いつもすいません朝比奈さん」 

俺の言葉に朝比奈さんは柔らかく微笑み、 

「気にしないで、好きでやってる事ですから」 

少し照れた表情を浮かべ、お茶を俺啜るを見つめている。

 「美味しいですよ」 

と彼女を見上げ一言言うと、朝比奈さんは嬉しそうに笑い古泉、長門の順でお茶を配っていく。

「あなたの番ですよ」

 すっかり忘れていた古泉の方に向き直り、俺は盤面を見た。三つほど角を制している俺の陣営に死角はないのだ。この一手でほぼ勝敗が決まるだろう。 

「おやおや、やはりというかあなたには勝てませんね」
「少しは上達しないのか」
「えぇ、自分なりに上達はしているつもりなのですが、どうやらあなたには読み負けてしまうようです」

相変わらず笑顔を無料配布している古泉とのオセロを堪能した後、身を持て余した俺は窓辺に行き外を眺める。

木は葉を落とし、下校する生徒はコートを羽織り、あぁ冬なんだなぁと染々思い、冷えきった文芸部室でも、朝比奈さんの煎れたお茶で身も心も暖まるのを感じていた。俺は相変わらず窓際の定位置に鎮座し、分厚いハードカバーを読みふける宇宙人に視線を送る。

俺は何かあれば長門に頼っていた、という事もあるがそれだけこの対有機生命体なんちゃらの宇宙人に依存していたのかもしれない。
それが長門に負担を掛け、長門の言うエラーを引き起こしたきっかけの1つだろう。他にも要因はあるはずだが、自ら語ろう等とはしない長門に聞くのも野暮だろう。自分が出来る限り、こいつの事を支えてやればいいさ。 少々しんみりとした気分になってきたので気分転換に外に出ようとする。

 「遅くなってごっめーん!」

 扉を蹴破り、ハルヒがいつものように部室に入ってきた。危うく扉に当たりそうだったんだが。

 「あんたなにそんなとこに突っ立ってんのよ」

 片眉を吊り上げ、腰に手を添えこちらを覗き込んでくるハルヒに、

 「別に、ただ気分転換してこようと思ってな」
「駄目よ」

 いきなり却下ですか?しかし何故だ、別にここにいてもいつものように、特になにもせずに過ごすだけだろうが。

 「今日はこれからミーティングするの、勿論あんたも参加しなきゃ駄目よ」

 笑いながら怒鳴り俺に指を指すハルヒを見て、俺はいつものように深い溜息をつき、いつもの定型句を口にするのであった。

 「やれやれ。それで今度は何だ?お前が考える事だ、どうせくだ…」
「皆~聞いて聞いて!」

 俺の言葉を遮り、自分の指定席までずかずかと歩いていくハルヒ。おいおい、都合の悪い事は聞かないのは相変わらずか。

 「ちょっとバカキョン。あんたも聞きなさい。はい、注目!」

 まったく、何だかね。俺は肩を落し、壁に寄りかかりハルヒの方に視線を送る。
古泉がこちらを見て何かアイコンタクトをしてくるが、知ったこっちゃない。

「もうすぐクリスマスでしょ?それでね、皆で又鍋パーティーでもしようと思って。ね?いい考えでしょ?」

 机をバンと叩くと同時に喋り始めた。一応聞いておいてやろう。

 「それで、日程は決まってるのか?」

 俺の言葉に鼻でフフンと笑い、不敵な笑みを浮かべながら、

 「勿論、24日に決まってるじゃない。クリスマスだものそれ以外考えられないわ。ところで皆予定とか決まっちゃってる人はいない?」

 ハルヒが古泉の方に視線を送ると、いつもと変わらない笑顔を貼り付けたまま、

 「寂しい事にその辺りの予定は何も無くてどうしようかと思ってた所ですよ」

 嘘をつけ、用事があってもすぐにキャンセルするだろうが。ハルヒは古泉の言葉に頷き、朝比奈さんの方を見る。

 「みくるちゃんは?」

 ハルヒの目の前にお茶を出そうとした瞬間だったから、身体をビクッと上下に揺らし、ハルヒの方を恐る恐る見る朝比奈さんは、

 「えっと…あたしはちょっと…」
「それ、キャンセルしといてね」
「ふぇ~」

 涙目になる朝比奈さん。いや、ハルヒそれはあんまりだろう。諦めたかのように、肩を落し席に着く朝比奈さん。大丈夫ですか?

 「有希は…無いわよね」
「無い」

 そのやり取りもなんだろう。もう少し考える振りでもしたらどうだ?長門よ。最後に、というかいつも最後なのだが。
一応確認してやるかという面持ちでこちらを見るハルヒ。何だよその目は。

 「一応聞くけど、キョン。あんた予定は?どうせ暇でしょうけど」
「どうせとは一言余計だろ。しかし残念な事に、俺も無いな」
「あっそう。じゃ、決まりね!」

 嬉しそうに笑うハルヒを見ていると、まぁいいかという気分になるのは何故だろう。初めて会った頃に比べればこいつも変わったな。

 「用事は済んだろ?じゃ、俺は散歩してくる」

 俺はそのまま扉を開け外に部室を後にした。ハルヒが後ろで何か叫んでいたが気にしない。

 

 さて、何処に行くか。部室から出たものの行く宛てもなく出たものだからな。
取り敢えず、外に向かう事にした。階段を降り、渡り廊下の手前に差し掛かると、急に前に出てきた人物にぶつかった。派手に尻餅を着くその人物に手を差し伸べ、 

「すまない。大丈夫か?」

というと床に座り込む少女は、

「えぇ…私こそ…その、ごめんなさい」

 と差し出した俺の手を掴んで来たので彼女の身体を引き起こし、謝罪をする。その人物に見覚えがあった俺は、

 「えっと…確か…」
「おっ同じクラスの成崎です…」

 顔を赤らめ顔を俯かせる彼女の顔をまじまじと見た。少し緩いウェーブが掛かったツインテールに、眼鏡っ娘。

確か、阪中とよく一緒に喋っているのを見かけた気がする。

「あぁ…そうだったな。すまない。あまり話さないものだから」
「いぇ…その私もキョン君とはお話する機会なかったし」

どうやら、俺の知らない所でも情けないあだ名で通っているのか俺は。複雑な心境が顔に表れていたのか、成崎は神妙な面持ちで、

 「駄目でしたか…?」

 何がですか?

 「その…あだ名で呼ぶの…。皆キョン君って言ってるから…」

 今にも泣きそうな表情で俯く彼女に、

 「いやっ別に構わないさ、慣れてるし」
「本当?良かった」

 こちらを見上げ優しく微笑む彼女を見て、少し安心する。

 「それじゃ、またな」
「あっ…うん」

 俺は成崎に別れを告げ、外に出る。彼女が少し残念そうな顔をしていたのは気のせいか?気のせいだろうな。
食堂の野外テーブルまで足を運び、自販機の珈琲を買い椅子に腰を降ろす。さすがに外は寒いか、俺はコートを羽織らずに出てきた為身震いしていた。珈琲を飲み終わったら戻るか。

 俺が部室に戻ると、不機嫌な顔をしたハルヒが俺に向かってずかずかと歩いてきた。俺はネクタイを掴まれ締め上げられる、猪突猛進とはこの事か。

 「ちょっとキョン!人の話を最後まで聞かないで出ていくなんてどういうつもり!?」
「ん?あれで終わりじゃなかったのか?」
「違うに決まってるでしょ!あんたの所為でせっかく盛り上がってたのに台無しだわ」

そうかい、そりゃ悪かったな。とりあえず、ネクタイを離してくれ。話はそれからだ。ハルヒは「フンッ」と鼻を鳴らしネクタイから手を離した後、

 「もういいわ、今日はこれで部活は終わり。帰りましょう」

 といいハルヒが鞄を掴み部室から出て行ったのを見送ると、残った三人がこちらを見ている。

 「あなたらしいというか、少しは考えて動いてみてはどうです?」

 困った笑顔という中々器用な表情でこちらを見てくる古泉、長門は絶対零度の瞳でこちらを見て、

 「鈍感」

 その一言だけ言うと本を閉じ、鞄を手に取り部室から出て行く。

「まったくその通りです」

朝比奈さんまでもそんな冷たい目で見なくてもいいじゃないですか。何故俺がこのような仕打ちにあっているのか理解出来ずにいると、

「あなたは彼女の気持ちをまだ解っておられないのですか?いや、解っているのに解らない振りをしているだけなのでしょうが」

何だって?彼女の気持ちって何だよ。一体何の事だ?

「まったく仕方ない人ですね、あなたは。おっと失礼」

そういうと、携帯を手に取り何かを話始める古泉。

「すいません、急なバイトが入ってしまったのでお先に失礼します」

と古泉はそれだけ言い残し、部室から足早に去っていった。

「私、着替えますから。キョン君は先に帰っててください」

俺はその言葉に軽くショックを受け、とぼとぼと部室を後にした。なんだろうね、本当に。渡り廊下を抜け、下駄箱から革靴を取り出し、上履きを代わりに詰め込む。昇降口から出ようとした俺は甲高い声に呼び止められた。

「キョン君今帰り?」
「何だ、成崎か、そうだがお前も今帰りか?」
「うん、良かったら一緒に帰らない?」
「構わんが」

 

 はい、回想終わり。成り行きで一緒になったとはいえ、そういえば、普段話さない奴と一緒に帰るのは初めてだな。
一緒に帰る事にした俺達は、最近のドラマの話とかクラスの阪中、国木田、谷口等の話題で盛り上がった。描写するほど大した内容でもないので割愛させて頂く。温厚で物静かなイメージが強かった成崎は意外にもよく笑う明るい子だった。
さて、これが波乱の始まりだとはこの時の俺には知る由もなかった訳だが。

 

 


|