これもまたトラウマのその後の話です

「適当に具を煮込んでカレールーをぶち込むだけじゃないのか?」
「そんな感じでしょうね」
「とりあえず玉ねぎを炒めるか。古泉、他の野菜を切っといてくれ。」
「わかりました。」
 
台所の外からはハルヒと朝比奈さんが楽しそうに喋ってるのが聞こえる。
長門はあの漫画でも読んでいるのだろう。
俺と古泉?
台所でカレー作ってるんだよ。
――――――――――――――
 
午後の授業中はずっと悩んだ。
 
『如何にして晩飯をカレーに変化させるか』
 
こんなくだらないことをテーマに一時間悩むことが出来た俺を誉めてあげたい。
何故こんなことで悩んでいるのかというと、
 
「今日の晩飯はカレーだった気がするのだが…食べにくるか?」
 
色んな不幸が重なって屍みたいになった長門を元気づけるためにこう言ったからだ。
 
本当は今日の晩飯ハヤシライスなのに…
 
あ、みなみ○も買わねぇと!
金足りるかな…持ち合わせは3000円か。ギリギリ足りるな。
 
とりあえず晩飯だ。
正直に話すという方法もあったが…あんな顔した長門は出来れば二度と見たくない。
 
しかし他に良い解決策が見当たるわけもなく悪戯に時間が過ぎていった。
 
「私は寄るところがあるから先に部室行ってて!!」
 
HRが終わるや否やそう叫んで風のように去っていくハルヒを見送る。
またきっとろくでもないことを考えているのだろう。
こっちはただでさえ大変だというのに…
まぁ俺のせいか。ハルヒは何も悪くない。
 
「キョン、今日も部活か?」
 
鞄に荷物を詰めていると谷口が話しかけてきた。
相変わらずチャックも全開だ。
しかも今度は鞄のチャックまで開いている。
何かに取り憑かれてるんじゃないだろうか?
今はこんな奴にかまっている暇はない。
完全に他人のふりを決めこんでいる国木田に別れを告げ、部室に向かった。
 
「コンコン」
 
部室に入る前に軽くノックする。いつものことだ。
朝比奈さんの着替えに出くわさないために部室の中に入る時はノックするように勝手に自分で義務づけただけだが。
っていうか頼むから鍵をかけることを覚えてください朝比奈さん。
俺以外の来客が来たらどうするんですか。
 
そんなことを考えながら朝比奈さんの返事が返ってくるのを待っていたが、
 
…………返事がない。
 
「誰もいないのか」
 
珍しいこともあったもんだ。
しかし、これでゆっくり考えごとも…
 
「おや、あなたが先でしたか。」
 
できそうにないな。
ニヤケ面が部室に入って来やがった。
こいつは古泉一樹。超能力者だそうだ。
この世界ではガチホモとかそっち系のアレでは無いらしいので安心して欲しい。
 
「…何か失礼なモノローグが流れてませんか?」
「気のせいだろ。ところで古泉」
 
長門もハルヒもいないことだし、こいつに晩飯のことでも相談してみるか。
 
「というわけなんだが…」
 
頼むからニヤニヤするな。
気持ち悪い。この保坂が。
 
「失礼しました。しかし長門さんにもそんな一面があるんですね。」
「あぁ。正直驚いたが喜ばしいことだろう。」
「そうですね。どんどん周りの環境にも溶け込んでいければ良いんですが…ところで夕飯の件ですが、やはり正直に話すのがよろしいかと。」
「やはりそうなるか…しかし結局長門が落ち込んでしまうんじゃないのか?」
「おや、嘘をつく方がよろしいというのですか?あなたが長門さんを思いやって言ってしまったとはいえ。」
「わかったよ。了解した。だが長門がブツブツ呟きだしたら止めてくれよ?」
「えぇ。構いませんよ。…しかしそんなに怖いんですか?」
「あぁ。口で説明するよりみた方が早いと思うが…確か…目が死んだ魚のものみたいに虚ろになって
…で口が半開きになってブツブツ呟き始めるんだ…お、そうそうそんな感じだ古泉。後少しだけ口元をニヤケさせれば完成だ。」
 
古泉は顔マネがうまいんだな。おぉ器用に汗までだしてやがる。
 
「流石に笑うのは無理みたいですね…」
 
年中ニヤケ面の男がなにを言う。
そこまできたなら最後までやってみろ。
 
「いえ…物理的に無理なわけではないんですが…」
 
そう言って俺の後ろを指差した。
ん?なんかあるのか?
 
…結論から言おう。
 
絶句した。
 
死んだ魚の目をしてニヤケた口元を半開きにさせ
 
「私はカレーを食べることができない私はカレーを(以下略」
 
と延々に呟き続ける宇宙人がいたからだ。
 
「………」
 
三人分の沈黙。まぁ長門はブツブツ呟いているのだが。
相変わらず怖い。
古泉も震えてるみたいだ。歯がカチカチ鳴ってやがる。
長門の顔は俺の方を向いてるみたいだが焦点があってねぇな。
すかさず古泉とアイコンタクトを計る。
 
(なんとかしろ古泉!!)
(無理です!いくらなんでもこれは無理です!!)
(さっき約束しただろ!?)
(何のことだかさっぱり解りません!)
(勢いで誤魔化そうとするな!)
(そもそもあなたが悪いんでしょう!!)
(な゛!…確かにそれはそうだが…しかし約束は約束だろう!!もし破るならみな○け全巻買ってもらうぞ!)
(望むところです!あの長門さんをなだめることより10倍マシです!)
(…ん?……確かにそうだ!いかん、墓穴を掘ったか…!)
(さぁさっさとこの状況を何とかしてください!)
(くっ…)
 
この間約8.3秒。長門は相変わらずブツブツ呟いてるが…
 
「よ、よう長門。」
 
話を切り出さないとこの状況は打破できないからな…
 
「……」
 
長門が呟くのを止めてジーっとこっちを見る。
口元もいつもの様に戻ったみたいだ。
少し安心したよ。
 
しかし…
 
足が震えてるのは長門の目がまだ死んでるからだろう。
 
「なに」
 
だから1オクターブ低い声で返事をするなと言っただろ。
本当に怖いから勘弁してくれ。
 
助けを求めようと古泉の方を振り向くが
 
…いねぇ
 
逃げやがったあの野郎!
糞超能力者の分際でトンズラとはいい度胸してやがる!
…いつか森さんにチクってやろう。
 
とりあえず会話を続けなくては…
 
「い、いつから部室にいたんだ?」
「…『こいつは古泉一樹。超能力者だそうだ。
この世界ではガチホモとかそっち系のアレでは無いらしいので安心して欲しい。』…のあたりから。」
「全部まるっとお見通しじゃねぇか!ってかなんで俺の心の奥底の禁則事項まで覗いちゃってんだよ!!」
「大丈夫。あなたと古泉一樹が8.364秒見つめ合っていたのにも理由があるのは知っている。」
「そこも意識あったの「というかやはりあなたはそんな失礼なこと考えていたんですね!!」
 
うぉ!古泉がロッカーを蹴破って出てきやがった!
そんなところに隠れていたのか!
 
「怖いからに決まってるでしょう!
大体なんなんですか!?僕が出現するとどこのSSもガチホモ、テトドン、ふんもっふばっかりじゃないですか!?」
「落ち着け古泉!これ以上話をややこしくするな!」
「大丈夫。このSSの作者にはホモネタを書くほどの技量はない。したがってこの世界のあなたは健全な男子。安心して。」
「技量があったらガチホモになってたというんですか!?」
「長門!話をややこしくするなと言っただろ!」
 
もういやだ。お家帰りたい。なにこの修羅場。
今や血走った目の超能力者と死んだ目をした宇宙人が『ガチホモとはいかにあるべきか』について真剣に語り合ってる。
ここまで話を大きくしてまとめることなんてできるのかこの作者は。
 
俺が知る限りこの状況を一時的に中断させることができるカードは一つしか無い
それは…
 
「遅れてごっめーん!!」
 
笑顔で部室の扉を蹴り開けて登場したSOS団団長涼宮ハルヒもとい
 
…リスクたっぷりのジョーカーであった。
 
…マズいな。
確かにハルヒならこの状況をうまくまとめ上げることができるかもしれん。
 
しかし
 
十中八九俺に被害が降り注ぐだろう。
下手したら古泉にも火の粉がかかりかねん。俺は一向に気にしないが。
興奮気味の古泉にもそれくらいは解るようだ。
少しだけ真剣な顔持ちになっている。
 
どうする?考えろ。
嫌ってくらいハルヒに振り回された俺なら解るはずだ。
正直に話す?勿論NOだ。
やばい、長門がブツブツ呟き始めた。
 
「ゆ、有希?」
 
さすがにハルヒも焦るよな。
さぁ、解答御披露目の時間がきたようだ。
どんな質問でもどんとこい!
古泉が期待してこちらに視線を向ける。
ベテランの生き様を見せてやろうじゃないか。
 
「あんたたち、ここで一体何をしてた「天体観測だ。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
そう
 
俺が出した答えは「保留」だ。
いつも反論する前にハルヒに糾弾されるからな。
とりあえず訳の分からないことを言っとけばこいつも黙るだろう。
少しは考えるってことをしろってんだ。
さぁ悩めハルヒよ。そして反論する前に言いくるめられる立場の気持ちを思い知れ!
 
しかし
 
 
 
 
何だろうねこの空気は。
 
せっかく俺が先制攻撃のチャンスを得たというのに古泉は呆れた顔でため息を吐くし、
長門にいたっては蔑んだ目で
「このバカ野郎。」
なんて呟いている。
ハルヒは…………記憶喪失にでもなった人間を本気で心配するような目で俺を見てるな。
 
…哀れみの類のそれが入っているのは気のせいだろう。
 
っていうか俺はそんなに変なことを言ったのか?
マズい。俺が悩み始めそうだ。
…もしやこれもハルヒの策略か?
俺は既にハルヒの手のひらで遊ばれてたとでもいうのか?
 
「あ、あのー…キョンくん?」
 
おぉ朝比奈さんいらしてたんですか。
ハルヒに隠れて見えませんでしたよ。
 
「夜じゃないから星は見えないと思うんですが…」
 
…しまった。
そう言えばまだ夜になっていない。
しかもなんということだ。
よりによって今世紀最大の天然キャラである朝比奈さんにつっこまれるとは。
 
「…そういう訳じゃないんですが…」
「仕方がない。春はバカに拍車をかける。」
 
そんな会話が聞こえるのは気のせいだろう。
 
「はぁ…バカはほっときましょう。古泉くん、有希。何があったか説明してくれる?」
 
何か扱い酷くないか?俺。
気がついたらハルヒの手によって椅子に縛りつけられた挙げ句口にガムテープ張られたんだが。
…これなんてSMプレイ?
 
「…彼が私の気持ちを弄んだ。」
 
…長門…あながち間違ってはいないが言い方を変えてくれ。
そんな薄汚い輝きをした目でこっちを見るな。
おい、そこの超能力者、
おまえもその手があったかとでも言うような顔はやめろ。
 
「そうなの?古泉くん?」
「えぇ、残念ながら。
しかも彼は何とかしてその事実を誤魔化せないかと考えていたようで…」
 
古泉ぃぃぃ!
おまえはいつからそんな人間になったんだ!
確かにその通りだが物凄い誤解を招くから言い方を変えろ!
っていうかいつの間に手を組んだんだおまえ等は!
 
朝比奈さん誤解です。
そんな軽蔑するような目で俺を見ないでください。
 
横を見ると笑顔でブチ切れてるハルヒがズンズンこっちに歩いてくる。
 
泣きたくなってきた…
 
…あれ?もう泣いてたみたいだ…
 
「さぁ、キョン~。言い訳するなら今のうちよ~。」
 
まずガムテープをとれ!
次に縄を解け!
そして後ろの古泉を殴らせろ!!
っていうか古泉?さっきから携帯鳴ってないか?
 
…お、電話に出たな。
 
「ヒソヒソ(いえ、ちょっと面白いことになってるので…えぇ、中々無いですよこんな修羅場は…はい…では。)」
 
聞こえてるぞ古泉ぃぃぃ!
 
ニヤニヤしてお手上げのポーズをしている古泉の後ろで朝比奈さんと長門がこっちを見てヒソヒソ話してる。

もうどうでも良くなってきた。
 
拝啓
今まで俺を養ってくれた両親及び毎日俺の安眠を妨げてくれた妹へ。
唐突ですが俺はもう永くは生きられないようです。
どこから持ってきたのか知らないけど、
SOS団団長が道路標識を振りかざしてきます。
おそらくスタンド使いの吸血鬼のことでも知ったのでしょう。
 
最期にやっておきたかったことと言えば、
 
古泉の顔を…殴りたかった。
 
…人に殺される時ってどうすりゃいいんだろう?
全てを悟ったように目を瞑ればいいのか?
 
さようなら現世。
俺はゆっくりと目を閉じ「待って下さい涼宮さ~ん!!」
…朝比奈さん?
 
「何よみくるちゃん。話ならキョンを死刑にしてから聞くわ!」
「いや、あの、誤解です!キョンくんは涼宮さんが想像したようなドロドロした事には巻き込まれてません!!」
「…え?それ本当?」
「何でもかくかくじかじか私の出番も増やして下さいまるまるしかくだったみたいです…」
 
やっぱり朝比奈さんは天使だ。
可愛らしく
 
「大丈夫ですか?」
 
と気遣いながら縄を解いてくれる。
大丈夫です。あなた…ついでにハルヒの出番が少ないのは、
キャラを動かしにくいからとかそういうわけではありませんよ。
本当ですよ。…多分。
 
「有希、本当なの?」
「事実。しかし情報の伝達の際に齟齬が発生してしまった。迂闊。」
 
本当かよ…
あ、朝比奈さんありがとうございます。
やっと体が楽になった。
 
「変な目でみてしまってごめんなさい。」
「いえいえ、何にしろ俺が悪いようなものなので。」
 
自力でガムテープを剥がしてそう言う。
ん?そういや古泉はどこだ?
 
「古泉くんなら急用が出来たとかで出て行きましたよ。
なんでも本を買わなくちゃいけないとか。」
 
逃げたか…まぁ本のことを忘れてなかっただけいいか。
 
「長門」
「なに?」
「なんか…ごめんな。その場しのぎで心配なんかして。」
「構わない。カレーが食べられないのは辛いけど…気持ちは嬉しかった。感謝する。」
 
長門の目はいつもの無機質な目に戻ってた。
 
「だけどなんか釈然としないわね…」
 
げ、まだ何かあるのかハルヒ?
 
「そうだ!せっかくだから今日の活動は有希の家でカレーパーティーにでもしましょう!
勿論材料費を出すのもカレーを作るのもキョンがやるのよ!」
 
全部俺かよ…仕方ないか。
結局俺の財布は空になる運命なんだな。
 
途中で待ち伏せでもしてたのか、み○みけの入っている紙袋を持った古泉と合流し、
そのままスーパーへと向かった。

 



「じゃあキョン!カレーの食材をちゃっちゃと買ってきてね!」

スーパーに着いたら直ぐにハルヒが朝比奈さんを引っ張って適当に物色しにいった。
古泉はのんびり見て回ってるみたいだな。

「とりあえず何が必要なんだろうな…長門」

カゴを持って立ちつくすわけにもいかないので聞いてみた。

「なに」
「野菜はどの位あるんだ?」
「………干からびたニンジンの先が3本。ジャガイモの芽がひとかけら。」
「…肉は?」
「……………肉類はここ一週間口にしていない………」
「……………米は??」
「……………………」
「…すまん。泣くな。」
「…コク」

仕方ない。
カレーに必要なものは一式買うか。
オーソドックスに野菜は玉ねぎとニンジンとジャガイモを買ってと…
米重っ!これは古泉担当にしよう。

そうだ

「なぁ、小麦粉を炒めたりとかよくわからんからカレールーを使ってもいいか?」
「構わない。バーモントカレーからこくまろカレー、
果てには私自身がスパイスを組み合わせて制作したオリジナルのカレールーまで幅広く用意している。」
「…そこは完全装備なんだな。」

…まさかカレールーをかじったりしてないよな?

「カレーとはルーとご飯、更に選び抜かれた具が一体となって初めて成立するもの。
ルーだけ食べるのはカレーに対する冒涜。」

…それもそうだな。

残りの食材は肉だ。
カレーのメインともいえる食材だからな。しっかり選ばないと。
玉ねぎが全てだとかほざいてる作者は黙らせておいたぞ。

しかし迷う…

一言で「肉」と言っても色んな種類がある。
牛肉や豚肉や鶏肉。少し冒険して羊肉もいいかもしれない。
まぁ長門に聞いてやったほうがいいな。

「長門、メインの具は何がいい?」

本当に久しぶりに見るのだろう。
目をキラキラさせて肉を吟味する長門はなんだか心を和ませるものがあるな。

やがてひとつのパックを持ってトテトテと戻ってきた。

「…これ。」
「よし、じゃあ会計に行くか。」

長門が持ってきたのは鶏肉だ。
チキンカレーか。旨そうだな。
やばい。涎が溢れでて「キョン!肉買うならこれにしなさい!!

…あのなぁ。長門の為に作るんだから長門の好きなもの食べさせてやれよ。

「それはそうだけど…久しぶりのカレーなんだからいいものにしたいじゃない!」

そうはいってもなぁ…

…ん?長門、どうした?
いつのまにか袖を引っ張られていたみたいだ。

「私は別に構わない。」
「お前がそれでいいなら問題ないが…」

仕方ないか。

「んで、ハルヒ。どんな肉だ?」
「これよ!!!」

…………「最高級松坂牛100g1780円」か………

「元のコーナーに返してこい。」
「なんでよ!」
「高すぎるだろ。俺の手持ちで足りる金額じゃねえぞ。
それにステーキ用の肉じゃねえか。」
「焼けば同じよ!!」
「長門はちゃんとしたカレー用の肉で食いたいだろ?…………って長門?」

…長門の視線が松坂牛に釘付けになってやがる。
まてまて長門。本当に食べたいなら買ってやりたいところだが、
俺の手持ちは相当少ないんだ。
さすがにこれだけは勘弁してくれ。

「………」

そんな目で見られてもなぁ…

「…わかった。」

理解してくれたらしい。
助かった。

「朝比奈さんと古泉はどこだ?」
「そういや古泉くん見ないわね。
みくるちゃんは…あ、いたいた。」

キョロキョロ辺りを見回してるな。
…手にプリンを持ってるのが気になるが…

「あ、涼宮さん。急にいなくなってビックリしましたよ~。」
「ゴメンゴメン。是非ともキョンに勧めたい肉があってさぁ。」
「まぁ却下したんですけどね。
ちなみにそのプリンは何ですか?」
「え?カレーに乗せると美味しいかなって。」
「却下です。」

トボトボプリンを戻しにいく朝比奈さんの背中はどこか淋しそうだったな…
デザートに食べるって言うなら許可したんですけどね。

「おや、もう買い物はすませたんですか?」
「のわっ!!いつの間にそこにいたんだ。」

朝比奈さんを見送る俺たちの後ろに古泉が立っていた。

「ついさっきです。探しましたよ。
是非とも入れてほしい食材があったものでして。」

俺と長門とハルヒで顔を合わせる。
流れ的にロクなものじゃなさそうだ。

「…一応言ってみろ。」
「フルーチェで「「「却下。」」」

…カレーって人によっては色んなこだわりがあるんだな…

うだうだしながら買い物を済ませて長門の住むマンションに向かう。

相変わらず机がひとつだけ置かれてるだけの部屋に買ってきた食材を置く。

「じゃあキョンはさっさとカレーの製作に取りかかりなさい!!」

へいへい。
とりあえず米を炊くか。

「手伝いますよ。」

おぉ古泉。助かる。

「何せ作り方が曖昧にしかわかんからな。」
「僕も似たようなものですよ。」

ここで冒頭のシーンに戻るわけだ。

ハルヒは部室にくる前にやってたことを朝比奈さんに話しているのだろう。
時折「ひぇ!?」などという悲鳴が聞こえてくるということは朝比奈さん絡みか。
あんまり朝比奈さんに迷惑をかけるんじゃないぞ。
長門はさっき俺が渡したみな○けを読んでいるみたいだな。
ちなみに本を持っている知り合いがいないとバレたので、
本はそのまま長門にあげることにした。
まぁ日頃の感謝の気持ちということで。
そういや今日の○の2はどこにやったんだ?

「…そういや古泉。」
「はい、何でしょうか?」
「一応聞いとくがフルーチェは隠し味に使うと美味くなるのか?」
「隠すつもりはありません。
出来たてのカレーの上に豪快にかけるのがよろし「わかった。もういい。」
「…そうですか。」

カレーって本当に色んな食べ方があるな。
作者の弟はタバスコをたっぷりかけるようだが全く理解できん。

「そろそろ具も煮詰まってきたようですね。
カレールーは何を使用するんですか?」

そういや長門が沢山用意してるみたいだが…

「おーい長門。カレールーはどれ使えばいいんだ?」
「こっち。」

本から顔を上げた長門はそういうと玄関の方に消えていった。
あれ?台所に無いのか?
玄関から出て行くみたいだ。

…これって。
隣の人の家じゃないのか?

「…そう。」
「そうって…勝手に入っていいのか?」
「安心して。情報操作は得意。」
「そういうことじゃなくてだなぁ…」

そこまで言って口を閉じた。
玄関を開けると

「…どこだよここ?」

明らかに長門の住んでる部屋とは明らかに別物の部屋が出現した。
四畳半程の部屋をぐるりと棚で囲ってある。
部屋の中心には小さな机がポツンと置いてあるな。

「ここは私専用のカレー研究室。
向かって右側の棚には各国から輸入したスパイス、
正面の棚は各有名メーカーが販売している市販のカレールー、
そして左の棚は私が調合して作ったカレールーと調合用具一式。
…ルーはどれでも好きなものを選んでいい。」
「…………………あぁ、そうか。」

圧倒された。
長門がここまでカレーに熱意を持ってるとは思わなかったぞ。
机の上に置いてあるノートを見ると、
訳の分からん略式でスパイスの比率、市販のルーの組み合わせ、熟れるまでの時間、ルーにあう具、味、日持ち具合、etc…
目が痛くなるくらいびっしりと書かれている。
しかも1日も欠かさずやっているみたいだ。

「どのくらい研究し続けてたんだ?」
「生み出されてから三年間、私はずっとそうやって過ごしてきた。」

凄いなおい。

「…ん?」

パラパラとめくっていく内にあることに気付いた

「なぁ、この日を境に現れなくなってる研究員Aって誰だ?
この基本的に危ない組み合わせの時に味見役になってる奴。」
「………」
「…長門?」
「朝倉涼子。」
「…そうか。」
「…そう。」

何か気まずいな。
プライベートでは仲良かったのか…

「…なぁ、長門の作ったルーを食べてみたいんだが、オススメのものはどれだ?
あんまり辛くないやつで頼む。」

長門は少し考えたあと、左の棚を指差して

「上から3段目、右から7番目の箱の中にあるBと書かれた袋の中。」
「…これか。」
「そこの箱にあるものは極力辛さを抑えたルー。
そのBのルーは辛さが足りない分をスパイスの強い香りで補っている。
また、滑らかさも鶏肉と相性がいい。」
「そうなのか。」

説明する長門の顔は無表情だがとても生き生きとして見えるな。
……ん?

「長門。」
「何?」
「このNってやつかじられてないか?」
「………………………ネズミ。」
「いや…この歯形って人の「ネズミ。」
「………」
「………」
「…あの「ネズミ。」
「…長門。」
「………」
「泣くな。悪かったから。」
「…コク」

何はともあれ長門から貰ったルーを使えば完成だ。
なお、あの部屋は俺と長門の秘密にするらしい。
古泉には適当言って誤魔化しといたぞ。

「やっとできたな。
古泉そっちの皿運んでくれ。」
「わかりました。」

しかし料理って大変なんだな。
毎日飯を作ってくれるお袋に感謝しないと。

「遅い!!」
「文句言うなら食うな。一生懸命作ったんだぞ。
ほら、スプーン配ってくれ。」
「キョンくんと古泉くんの手料理ですかぁ~。」
「いえ、僕は殆ど何もしていませんよ。」
「あなたと古泉一樹の調理姿は私達が写真にとっておいた。」
「…いつの間に撮ったんだ?」

「秘密。」

まぁいいか。
長門も楽しんでるみたいだしな。

「ほらキョン!ボーっとしてないでそこに座りなさい!」
「へいへい。」
「それじゃあ食べましょうか。」
「「「「「いただきます。」」」」」

…何か自分の作った料理を食べてもらうのって緊張するな。

「うん!キョンにしては中々やるじゃない!」
「うん、とても美味しいですよ。」

あぁ良かった。
朝比奈さんだけでなくハルヒにまで誉めてもらえるとは思わなかったな。

古泉の感想?悪いが心の底から興味が無いな。

「おかわり。」

…いや早すぎるだろ長門。
ハルヒも朝比奈さんも古泉も2、3口しか食べてないのに何なんだそのスピードは。
俺にいたってはまだ1口も食べてないんだぞ。

「おかわり。」

わかったよ。そのかわりもう少し味わって食べてくれ。

「問題ない。とても美味しい。」
「…そーかい。」

結局長門は3杯おかわりした。
というかカレールーが無くなってしまった。
まぁ盛り方が俺達の10倍くらい豪快だったしな。

「ごちそーさまー。
片付けくらいは私達もやりましょう。
キョン食器洗うから持ってきて。私達は調理用具を洗ってるから。
古泉くんは生ゴミまとめといて。」
「了解しました。」
「あぁ、わかった。
長門は休んでていいぞ。」
「…私も手伝う。」

そう言って自分の食器を持って立ち上がる。

「じゃあお願いするよ。」
「…コク」
「楽しかったか?」
「凄く。」

それだけ言ってもらえれば救われるよ。
困ったらいつでも言っていいんだぞ?

「…感謝する。」
「それにしても宇宙人も食料不足になるんだなぁ、
てっきり不思議パワーかなんかで大量生産できるものだと…長門?」

…口を半開きにして硬直してやがる。

「…許可が降りた。」
「へ?何の?」
「くぁqwすぇdrftgyふじこlp;@」

おい!いきなり高速で呪文を唱えるな!
ハルヒに見られたらどうする気…

「……これは。」
「迂闊。私としたことがこんなことにも気がつかなかった。」

そう言う長門が持つ皿の上には、
さっきまで長門が食べていた倍は存在するカレーが乗っていた。

「…長門。」
「モグモグ…何?」
「食べたりなかったのか?」
「モグモグ…ゴクン…そう。」

…やれやれ、だ。

「キョン!早く食器を運びなさい!」

お、いかんいかん。

「ほら早くそのカレーをどうにかしろ。
ハルヒに見つかると厄介だ。」
「了解した…6秒待って。」

ん?また不思議パワーで片付けるのか?

………3口で食べきりやがった。
しかも口の周りにカレーつけまくってやがる。

「ごちそうさま。」
「……はぁ。」

呆れながらもどこか嬉しそうに長門の口を拭くキョンが、ある日古泉に裏切られたのを思い出すのはまた別のお話。

その技の名は」に続く。

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