長門は最近様子がおかしい。気がつくと俺の方を見ていたり、ぼーっとしていることも多いのだ。……俺が何かしたか?
「何もしていない。ただ気になる」
気になるというのも婉曲的な物言いだ。よくわからないが、別にいやじゃないぜ。
「そう」
一体何なんだ。

目が覚めると、長門と二人きりだった。確か部室に来て、それから……ハルヒも朝比奈さんも、古泉――は別にいいけど――も、とにかく長門以外が全員来れないと連絡をうけて、パソコンやって……寝たんだ。
起きたら夜八時だった。もう帰らなきゃいけない。
「長門、俺もう帰るわ。じゃあな」
立ち上がりかけた刹那、長門は俺のワイシャツの袖をつかんだ。
「……?」
「……待って」
「……何だ?」
「……私は――」
「私情は挟んだらダメだよねー」

朝倉が立っていた。何でここに――
「再構成されたの」
「……何のためにだ? まさかまた俺を――」
「長門有希を消すため」
長門を消すだって……?何のために?
「あら、知らないの? キミ、鈍感だね」
「何がだ?」
「長門有希はあなたに好意を抱いている。それも、彼女自身が気づかぬうちに」
長門が俺に好意を……つまり好きってことか?
「そういうことにな――」

長門はいつの間にか、朝倉の喉元に指を突きつけていた。
「さっすが、素早いわね」
「残念だけどあなたに私は殺せない」
「どっかで聞いた台詞ね」
音がした。目の前が真っ白になった。また音がした。そして長門が――倒れていた。

「やっぱりこの『体』、使えるわね」
「……っ」
「さて、用事は済んだわ。キョン君……だったわね。そばにいてあげたら?」
パリッという乾いた音とともに、朝倉は姿を消していた。
「長門!!」
「……へい……き」
「平気なわけないだろ……!」
「……もう私は長くない」
なっ…何言ってるんだ?
「……あなたが……気になっていた……」
「長門! もういい!」
俺は長門を強く抱いた。華奢な体。宇宙人。消滅――
いろいろな言葉が頭に浮かんでは消えた。悲しかった。悲しかった。
「あなたが気になる……この感情……」
「それは……」
愛しい。長門が愛しくて仕方なかった。今更気づいた俺を誰かしかってくれ。

俺は長門が好きだ。
「これが『愛しい』……」
長門は俺の胸に抱かれながらそう呟いた。
「『愛しい』『切ない』……おかしい、さっきから涙が止まらない」
「おかしくなんか……ないさ……」
おかしくなんかない。だって俺も泣いてんだ。
長門の体はだんだんと軽くなっていっているようだった。それは、長門の消滅を意味していたのだ。
「消えてしまう前に言いたい。私はあなたが……好き」
「……俺もだ長門……」
長門は今まで見せたことのない笑顔を俺に向けた。可愛くて、愛しくて、涙はあふれた。
「それはよかった」
「待てよ長門……これからもっと沢山……二人でさぁ……」
「……ごめんなさい……」
長門と小さなキスをした。涙は止まらなかった。
「もうそろそろ」
「まてよ! なあ……!」
「……」
また笑顔。
「長門おおおっ!!!」
長門は砂になって――消えた。「さようなら」そう言われなかったのが唯一の救いだった。


長門のいない部室。風の声。紙とインクの匂い。ページをめくる音。
長門のいない、文芸部の部室。

|