「廃墟探索よ!」
ハルヒがまた何かを思いついたらしい。
「あまりにもベタすぎて考慮から漏れてたけど、基本あってこその応用よね。」
どうせどっかのサイト見るまで思いもつかなかったんだろ。
「もうひとつ報告。今年の夏合宿はたった今、軍艦島に決定しました。その肩慣らしの意味でも
今週の不思議探索はMホテル跡にします。」
勝手に決めるな。
「軍艦島もMホテル跡も有名ですからね。不思議なんてとっくに荒らされて無くなってませんか?」
「古泉くんも甘いわね。そういう所にこそ見逃されたお宝が眠ってるわけじゃない。」
「でも怖くありませんかぁ?」
「大丈夫よ。有名ということで安全性は確保されているわ。」
さっきから矛盾だらけで無茶苦茶なことをいってないか?
「有希ー、軍艦島と言えばあんたの苗字って…」
「戦艦長門。八八艦隊計画の第一号艦として生まれた。当時世界最大の41cm主砲を2連装4砲塔の計8門を搭載。
第二次世界大戦を生き抜き原爆実験にて沈没。ちなみに軍艦島は長門ではなく土佐が名前の由来。」
一気に言うとまた読書に戻る。最近日本史で八八艦隊やワシントン条約の時代に入ってから少々長門は不機嫌だった。
クラスやコンピ研の連中に何度も戦艦長門で話を振られてるらしい。
確かに長門とお近づきになる為の数少ない話題として授業の内容を挙げるのはわからんでもないが、
いや、女の子との話題に戦艦はどうなんだ?
とにかく、こうもワンパターンだと嫌気もさすだろうよ。
「そう、まぁ親戚みたいなもんじゃない。そう言えばMホテルのMって」
ハルヒはさらに長門が不機嫌になりそうな話題に進もうとするから急いで話を逸らす。
「って山登りか?用意とかどうすんだ?今度は鶴屋山と違って本格的な山だぞ。」
「その打ち合わせを今からやんのよ。」


結局普通のハイキングを少々重装備にした内容で話はまとまり、その日は解散となった。
古泉の機関がこれからMホテルとその周辺を見回ってくれるらしい。やれやれ、ご苦労な仕事だな。 


その日、ロープウェイでM山に到着、無事ホテル跡を探索し、
特に不思議なものは見つかるわけもなく探索は終了した。
廃墟横で朝比奈さんのお手製弁当を、これまた朝比奈さんから頂くお茶とともにいただくこの至福のひと時。
「この独特な雰囲気がいいのよねぇ。もののあわれって感じが。」
その点については俺も同意する。今までそこにあった人間の営みが朽ち果て自然に還っていくこの感じ。
ボキャブラリーが少ないからこれ以上言えん。
長門流にいうと、うまく俺の気持ちは言語化できず情報伝達に齟齬が発生する。
まぁなんとも言えん満足感は次のハルヒの言葉で終了となった。
「んじゃー帰りましょう。時間もまだあるし歩いてふもとまで降りるわよ。」
なんですと!? 


都会に近いとはいえ、立派な山である。登山道というより獣道を下って小一時間、
さすがのハルヒも焦り顔になっていた。
「確かこの辺に川があるはずなんだけど……ねぇキョン、ここどこだろ?」
…迷ったのか。ハルヒの手にはどこかのサイトからプリントアウトした地図。これじゃダメだろ。
「だ、だってふもとまでそんなに距離ないはずよ。」
「涼宮さん、もしかしてわたしたち遭難しちゃったんですか~?!」
「そそそんなことないじゃない、ねぇ古泉くん。」
「道に迷っただけじゃ遭難とは言いませんが、道じゃないとところで迷ってますから…。」
「我々は遭難した。」
「ふぇぇぇ!」
「ちょっと有希!縁起でもないこと言わないでよ!」
「でも事実。」
グゥの音も出ないハルヒを見るのは貴重だ。俺は古泉を脇に呼んで確認する。
「おい、本当に遭難か?」
「僕たちの立場で言えば遭難で間違いないでしょう。」
「機関は俺たちの位置を把握しているのか?」
「僕たちがここにいることは把握しているはずです。ただ、『遭難している』とは思ってないと思います。」
つまり?
「機関は近道してるとか冒険ごっこでもしてるように考えていると思いますよ。」 

「取りあえず後10分はこのまま行くわ。それでもわからなかったら警察に電話して救助してもらいましょう。」
だがハルヒの宣言から5分もたたないうちに「それ」が見つかった。
「ひぃぃぃ!?!!!?」
突然朝比奈さんが木立の中を指さして叫ぶとそのまま倒れそうになった。
すぐ脇にいた古泉が朝比奈さんを支える。そして古泉に抱きつく朝比奈さん。

正直に言う、この瞬間古泉がうらやましいと同時に殺意が湧いていた。
仕方ないだろ、この時はまだ現状を把握してなかったんだからな。
まぁこの後、空前絶後の出来事により羨望も殺意も霧散したわけだが。
「……っっっ!!!」
長門が、あの長門だぞ、俺の腕にしがみつきながらへなへなと腰砕けになっていたのだ。
「おい長門!何が……」
足元で固まっている長門の震える指が示す方向をみると 


首つりの腐乱死体がぶら下がっていた。 


詳しい描写は避ける。思い出したくもない。
そこをあえて言うなら、顔は緑黒、眼の部分は暗い。ところどころ白いのは骨か。
ボロボロのTシャツらしき服の下に見える胴体は肋骨から下が落ちていて……もういいだろう。
朝比奈さんはとっくに気絶していて長門は「有機生命体の死体の自然分解が……」とぶつぶつ言っている。
固まっている俺と古泉を溶かしたのはハルヒの鋭い声だった。
「キョン!古泉くん!2人を助けて!あたしは警察に連絡する!」
いち早く現状を把握したハルヒが動き始めていた。
あとで聞くと
「みくるちゃんはともかく有希までおかしくなってたでしょ。キョンも古泉くんも呆然としてるし、
ここは団長たるあたしがしっかりしなきゃと思っただけよ。……正直気絶するタイミングを失ったんだけどね。」
珍しく謙遜していたが、いや、今回のハルヒは偉かった。お前のおかげで俺たちもすぐ行動が取れるようになった。
確かにここでハルヒまで倒れたら本格的に機関の世話になるところだった。
閉鎖空間や混乱して変なモノを産み出されたらもう目も当てられない。
とにかく助かったぞ、ハルヒ。 


警察の到着、簡単な聞き取りが終わると次は詳しい状況の説明のため警察署に向かうことになった。
めんどくさいことこの上ないが、事情が事情だ。素直に従うことにする。
古泉の手回しでそんなに拘束されることはないそうだ。 

警察の用意したふもとのバンまで俺は長門をおんぶしながら獣道を歩く。
「有機生命体の死体自体は今までも目撃したことはあったが、人類の死体は初めてみた。……」
「道路の横で死んでいる小動物は腐敗が進む前に行政によって回収され……」
「書籍やコンピューターネットワーク上から腐敗死体の情報は得ていたが実際に目撃したときの……」
俺の耳元で長門は早口でしゃべりまくっていた。もう1年分の発言量を超えたんじゃないか?
よっぽど生の体験はショックだったんだろう。まあ俺もかなりのショックではあったが。
「カマドウマや朝倉の時は全く動揺してなかったじゃないか。今日はどうした?」
「今は一部の機能を停止させている。そのなかに心理ダメージ軽減用フィルタが含まれている。
わたしたちの構成自体は人間がベース。本能として死を忌避する機能があり、
それが過剰に反応した結果が今の私と思われる。」
「冷静な判断ができるくらいには回復したと思っていいんだな?」
「まだ。とにかく何かをしゃべっていないとまた恐怖がぶり返す。」 

歩き始めたころはまだ震えていたが、今は落ち着いてきて普通に背負われている。
七夕のあの日、朝比奈さんを背負った時に感じたあの2つの物体の感触こそないが、
女の子らしい柔らかさは背中全体に感じられる。ほらそこ!俺を変態扱いするな!
かよわい女の子が弱っているんだ。それによく考えてみろ、俺は妹をよく背負っているぞ。
しかし妹と大して変わらない重さだぞ、長門。ちゃんと食ってるか?…食ってるよなぁ? 

「そう言えば『スタンド・バイ・ミー』って映画があったな。」
「原作はスティーヴン・キング。小説の一章が映画化された。原題はTHE BODY、つまり死体。」
あまりにも多弁な長門。だんだんかわいそうになってきた。少しなぐさめねば。
「まあ怖かったのはよくわかるぞ。俺もちびりかけたし。」
「わたしは少し漏………」
長門が口を滑らすとはいよいよ天変地異の始まりか?
いまどんな顔をしているのだろうか。真後ろなので残念ながら確認できない。
気まずい沈黙は30秒ほどで破られた。
「あなたは女性に恥ずかしい思いをさせた。責任を取る必要がある。
罰として今日、精神的に不安定なわたしが安心して眠りにつくまで横にいること。
その間はずっと手を握っていることを希望する。
そして明日の朝までわたしの横にいることによって睡眠中の精神的安定を保証すること。」
あぁ、わかったわかった。ちょっと騒ぎが大きくなりすぎて外泊は難しいかもしれないが
何とか親を説得してみよう。説得に失敗したら情報操作でも何でもしてくれ。
この色々とかわいい宇宙人製アンドロイドが普通の人間になるためだったら何でも協力するさ。
20メートル先くらいでハルヒが目を三角にしてバンの横で待ってる。
にらむんじゃない、いちゃいちゃしてるわけじゃないぞ。
さぁ、ちゃっちゃと用事を済ませようじゃないか。

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