海のドタバタ騒ぎから二日後、俺と朝倉は市街に買い物に行くことになっている。
俺はいつもの待ち合わせの駅前まで、乗り慣れた愛車で颯爽とペダルを漕ぎ始めた。
本日は快晴なり、じとっとした湿気も感じることなく心地よい微風が俺の肌に触れる。
だが、人間とは不思議なもので運動量に見合った消費をする為に、
体内に蓄積された熱量を抑えるために、身体に蓄えられた水分で冷却する。
そう、頑張りすぎた俺は汗だくになっているというワケで。

 

 それもそのはず、今日に限って妹は友達のミヨキチの家に泊まりにいっていたからである。
睡眠という3大欲求をこれほどないというくらいに堪能していた俺を起こしたのは、
けたたましく鳴る携帯だった。
睡眠を強制的に立たれた不快感と、まだ寝たい。という欲望に駆られながら、
携帯を開き着信の相手を確かめた、そこには。

 

『朝倉涼子』

 

俺は一瞬その名前を見て固まり、恐る恐る時計を確認した。
俺は信じられない光景を眼にした、約束の時間を過ぎていたのだ。
欲望という言葉が消え去り、俺の頭は一瞬で覚醒した。

 

『おはよう』
「すまない涼子、寝坊しちまった」
『そんなことだと思った、はやく着てね待ってるから』
「あぁ、すぐ行く!」

 

電話をしながら着替えるという、荒業を難なくこなせるようになった俺は、
顔を洗う暇もなく家を飛び出した。あっ鍵かけなきゃ。

 

 今の回想で解ったように、俺は彼女を待たせてしまってるというわけだ。
理由は寝坊。最悪ですねごめんなさい。
自転車で猛スピードで駆け抜けた俺はいつもの場所に自転車を止め、
待ち合わせの場所まで走った。

 

「悪るぃ!あさ…」

 

と俺が声を失った原因はこれだ。

 

「遅い!罰金!」

 

何故か其処にはハルヒがいた、正確には朝倉とSOS団が其処にいた。

 

「なんでお前がいる」
「ふふっ~ん」

 

得意気な顔をしながら片眉を吊り上げたハルヒは、

 

「昨日有希から電話があったのよ、あんたとデートするって」

 

何だって?俺は長門のほうに視線をやると珍しい事に淡いうす黄緑色のワンピースに
白いサンダルという私服を着ている宇宙製アンドロイドの表情は、
相変わらず無表情で、

 

「約束した」

 

コクリと頷く長門。嘘をつくんじゃありません!

 

「………」

 

そこで黙られると非常に困るんだが、
困惑の表情を浮かべた俺の目の前にハルヒの顔がいきなり沸いて出た。

 

「まったくあんたは朝倉がいるのに有希にまで手を出すつもり!」

 

大量に唾を撒き散らしながら叫んできた、やめろ顔にかかってる。

 

「違う、朝倉と約束していたんだ。長門を誘ってはいないって」

 

俺は必死に手を振り、身の潔癖を証明しようとしたが俺に追い討ちを掛けたのは朝倉だ。

 

「キョン君最低」

 

今日始めてその姿をまじまじと見たのがこの瞬間とは、なんとも言い難い気持ちになる。
朝倉は白のキャミソールに七分丈のジーンズを着ていた。なんとも絵になるお姿か。
いやいや、今はそんな事いってる状況ではない。
更に、朝比奈さんが、

「キョン君ずるい~」

一体なにがずるいんでしょう、朝比奈さん?
仕方がない、ここは古泉に助け舟を渡すとしよう。
俺が古泉にアイコンタクトを送ると、帰ってきたのはニヤケ面だった。
後で覚えてやがれ。

 

 なんとか誤解を解く事が出来た俺は、はぁ…と溜息を着きながら。
いつもの喫茶店のこれまたいつもの席に座っていたのである。
朝倉が「ごめん」と手を合わせて謝ってくれたのが心の救いだ。

 

「ところでキョン、あんた今日なにするつもりだったのよ」

 

声の方に目をやると不機嫌な面をしペリカンみたいに口を尖らせたハルヒ。

 

「いや、買い物に行く予定だったんだが」
「そ、つまんなそうだからパス。それじゃ、今日も皆で不思議探索をするわよ!」

 

つまらなそうだからパスって、俺の夏休みをどう過ごそうと俺の勝手だろ。

 

「ちょっと待て、その皆っていうのは俺と朝倉も含まれているのか?」
「当たり前じゃない!それともなに、私達と一緒じゃ困るって訳!?」

 

きゅるりと両眉を吊り上げまた唾を撒き散らすハルヒ、そろそろ落ち着かないか?

 

「私は構わないわよ」

 

朝倉が柔らかい笑顔を浮かべていた、まぁいいか、言って訊く奴でもないしなハルヒは。

 

「じゃぁ決まりね!」

 

と嬉しそうな顔をして、いつものように爪楊枝の先を塗り始めた。
ということは、班分けをするって事だから今日は3組に別れるわけだ。
ハルヒが握った爪楊枝を全員に引かせ始めた。勿論俺は最後だった。
班分けが決まったところで、喫茶店から出ることになった。
勿論俺の奢りだ。朝も早々、身も心も重くなるのに反して財布だけは軽くなったぜ。

 

 班分けの結果、俺古泉、長門朝比奈さん、ハルヒ朝倉。
という明らかに狙ったかのような珍しい組み合わせになっていた。

 

「なにも見つけなかったら死刑だかんね!」

 

ハルヒは俺に向かって指差した。え?俺だけ?
ふんっと鼻を鳴らし、足早に去っていくハルヒの後ろを朝倉はこっちに向かって手を振っていた。
ふと気が付くと長門がこっちを見上げ、

「鈍感」

といっていたのは気のせいだろう。
朝比奈さんに至っては、長門が苦手なのかそわそわと落ち着きがない。
そんな朝比奈さんを無視して長門が歩き始めていった。
なにかいってやれよ、長門。

 

「やぁ、どうも」

 

ニヤケ古泉再来。挨拶とは今さらだな。

 

「すいません、あなたの挙動が面白くて」

 

殴ってやろうと思ったね、というか何が悲しくて俺は彼女とデートの約束をした日に、
男と二人で過ごさねばならんのか、誰かここに来て教えてくれ。

 

「僕は嫌ではありませんよ?嬉しいくらいです、あなたとこうやってゆっくり話せる時間も
減りましたからね」
「そうかい」
「それより朝倉さんの様子が以前にも比べ大分変わられたようですが」
「まぁな、あいつも大分人間らしくなったもんだ」
「それより驚きですね、あなたが彼女と付き合うとは。
てっきり僕は涼宮さんのことが好きだと思っていたんですが」

 

それはない、断じてない。世界が終わりを迎えようともそれは無いといえる。

 

「世界の終わりですか、そういえば本当に終わりそうになりましたね。
まさか涼宮さんにあなたが彼女と付き合っている事を暴露してしまった訳ですから。
考えられる事態ではあったのですが、まさかあそこまでとは」

 

肩を竦め両手を広げる古泉は腹が立つことに様になる。
それより段々近付いてくるのは気のせいか?気持ち悪いからやめてくれ。

 

 そう古泉がいったように、世界は一度無くなるかもしれないとい事態に陥った。
まぁ誰がやったかなんてのは解ると思う、そんな馬鹿げたことができるのは一人。
唯我独尊、傍若無人、猪突猛進のSOS団団長様だ。
あの時の話は余りしたくはないんだが…、察してくれ。

 

「では、僕が貴方の記憶に刻み込んであげましょう。
そうですね、今になってあなたも理解していると思いますが、
涼宮さんは…」
「解った解った、ちゃんと思い出すからよ」
「これは世界の為でもあるのです、自覚してください。
でなければあなたが僕のニキビ治療薬になってくれるとでも?」

 

やめろ、顔が近い。

 

 

はぁ…やれやれ。まさかあれを思い出すことになるとは。

 


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