「覚えてないのも当たり前ですよね、だって私が記憶をけさせたんですから」

 

 俺はこの一言に、愕然とした。なんだって?
内から込み上げる怒りという衝動を抑えつつ問いただすことにした。

 

「何故、俺が記憶を消されなくてはならないんだ?」

 

なんとか抑えたものの、表情までは抑えれなかったかもしれん。
少しの沈黙が、俺を不愉快にさせる。自然に拳に力がはいってしまっていた。
俺の目の前の少女は不適な笑みを浮かべ、

 

「あなたは、涼宮ハルヒの鍵であり、佐々木さんの鍵でもあるからです」

 

俺は自分の耳を疑った、佐々木?なんで佐々木が?
それに鍵だって?なんの事かさっぱりだが、古泉もそんなことを言っていたような気がする。
少女は続けて、

 

「私は佐々木さんの友達、いや。佐々木さんとの契約者とでもいったほうがいいでしょう」

 

契約?なんのことか解らないが、どうやらこいつは佐々木と少なからず縁がある者らしい。

 

「あなたはね、私の計画とは違う動きをされてもらっては困るのですよ」

 

さてね、俺がなにしようがお前には関係ないし、指図されるのはごめんだね。
俺は皮肉を込めて言ったつもりだが、少女は気にすることなく続けた。

 

「あなたが佐々木さんを裏切るような事をするからいけないのです。
あなたは佐々木さんだけを見ていればよかった。そうしたら、世界は幸せになれたのに。
涼宮ハルヒにあの能力を持たせていればいずれは世界は滅んでしまう。
彼女は感情を露にしすぎですし、なによりコントロールできていませんから」

 

と饒舌に語りはじめるそいつを俺は黙ってみていた。
それもそうだ、ここ数日で俺の周りが目まぐるしく変化しているからだ。
これで混乱しないほうが普通ではない。

 

「佐々木さんはいいました、あなたを手に入れられるなら。
他はなにもいらないと、だから私は彼女にあなたを与える計画を企てたってところです。
それでも、私一人じゃ出来ないことなので彼女に協力していただきました。」

 

少女が指を指した方向に目をやった、しかし最初はそこに何が在るか解らなかった。
目を凝らしてみると、確かにそれはいた。俺はこいつを知っている。
だが記憶に靄がかかり、鮮明に思い出すことは不可能だった。
俺が呆気に取られた表情を浮かべていたのか、少女はクスッと笑った。

 

「あなたの側に未来人の子が一人いますよね。実は私の側にも一人います。
彼が言うには涼宮ハルヒが能力を持ち続けるのは規定事項だ。というんですよ。
でも、それが事実であれば私達はただの脇役でしかなくなっちゃいますよね。
私はね、未来は与えられるものじゃなく造るものだと思っているんです。
これは私達の組織の創意でもあるんですが。
そう、与えられなかったが為にそれを欲するのは至極当然の事だと思うんですよ。
それに、彼ら未来人は過去を固定する為だけに暗躍するんですよ。
可笑しいですよね、未来から来てるならその未来が確立されているはずのに、
だから私達の考えでは、「過去」つまり現在に当たるのですが、
実にあやふやなものなのじゃないでしょうか。あなたもそうだったはずです。
なにも告げられずにただ言われたままに動いて未来を確立させられていた。
とはいっても、今のあなたは覚えていないでしょうけど」

 

俺は自分の知識以上の事を言われ、更に混乱しはじめていた。
それに、頭も割れそうに痛み出してきた。くそ、なんだってんだ。
少女は笑顔を殺し、俺の側に歩みよってきた。

 

「だから、私は未来を変えたいと思うんですよ。だからそれにはあなたが必要なんです」

 

というと、少女は足を翻し背を向けた。遠くに佇む得体の知れないものになにか話しかけているようだが。
ここで逃げ出せばよかったものの、強張る体と痛む頭の所為で俺は身動きできなかった。
少女はこちらを振り返り話を続けた。

 

「あなたを助けにくる人は誰もいません。彼女に結界を張って頂いているので、
長門さんも気付いていないはずです」

 

長門だって?俺は痛む頭を支えながら少女に問いかけた。

 

「あら、今のあなたは聞いていないんですか?まぁいいでしょう、教えてあげます。
彼女は対ヒューマノイドインターフェイス、情報統合思念体が派遣したアンドロイドです。
アンドロイドといっても、体を構築しているものは私達と一緒らしいんですが。」

 

なんですか、そのなんたら思念体っていうのは。くそっ訳がわからなくなってきた。
俺が困惑の表情を浮かべると、少女の顔付が変わった。

 

「そろそろ始めましょう。これからあなたにはただの人形になって頂きます。勿論、
これから喋ることも出来なくなると思います。本当はすぐ死んで頂きたいんですが、
そうするとかなりの確立で情報爆発が起こる可能性があるので、
無駄な事は私達は望んでいないのです。情報爆発のタイミングが必要なんですよ。
だから、あなたにはそれまで生きた屍になって頂きます。」

 

はは、何を言い始めるんでしょうこの人は。
と笑っている場合ではない、はやくここから逃げないと。

 

「無駄ですよ、周防さんお願いします」

 

少女がソレの名前を読んだその瞬間、一瞬で俺の目の前にきたソレは無機質な表情をしていた。
その曇ったガラスみたいな瞳に俺が映りこんでいた。
あぁ、俺は今恐怖に駆られているんだ。それは絶望でもあった。
ソレの手が俺の頭を掴み、何かを高速でつぶやき始めた。
その瞬間俺の頭の中が掻き乱されるような激痛が走った。

 

「やめ、やめろ…うがぁが…」

 

俺は声を張り上げることすら不可能になっていた。
さっきまであんなに幸せな時間を過ごしていたのに、脳裏に浮かんだ映像が全て消えていく。
だんだんと意識が薄れ、俺は気を失った。

 

 どれくらい眠っていたんだろう、ピッピッっという電子音で気が付いた。
俺の目の前には真っ白い天井があった。ここはどこなんだ。
少し考えにふけっていると、唐突にそれは訪れた。

 

 俺は、誰だ。

 

言い知れぬ恐怖と、絶望が俺を襲った。

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最終更新:2008年06月05日 00:26