俺はSOS団に入ることになった。最初は頭が何故か拒絶していたが、
次第にそれは薄れ、今では懐かしささえ覚えている。
この不思議な感覚を俺は頭の中で何に例えようと考えにふけっていると。
俺の袖を引っ張る小柄な女の子がいた。

 

「有希」

 

この小さいおかっぱ娘はいきなり自分の名前を言い始めた。
なんだ?っと顔を顰めると、

 

「あなたは以前私の事を有希と呼んでいた」

 

あぁ、成る程そういう事ですか長門さん。
いやまて、ということはこれからそう呼ばなくてはいけないのか?

 

「そう」

 

長門はぼそっと答えコクリと頷いた。
無表情な表情から何故か俺には伝わるものを感じていた。

 

「ちょっと有希!」

 

おっと、ここでハルヒさんがなにやらご不満な様子で、
長門に食ってかかっていた。

 

「キョンはあんたの事長門っていってたでしょ?嘘はだめよ」

 

別に名前ぐらいいいんじゃないか?というと。

「ダメ!」と物凄い剣幕で怒るハルヒ。
すいません、と口に出してしまった。

 

「ちょっとくらい」

 

と長門が言ってたのは気のせいにしておこう。
火に油を注がないでくれ、長門。
そんな様子を見ていた、古泉、朝比奈みくる両名は穏やかな表情で笑っていた。
しかし、こういうのも悪くないな。

 

 それから俺達は一度、喫茶店に向かい再度爪楊枝でくじ引きをし、班を別けた。
今度は長門と二人で行動することになった。
勿論ここでも支払いは古泉に任せた。
悪いな、というと。本当はあなたの役目なんですが、と肩を竦めていた。
どうやら俺のここでの立ち位置は相当低いらしい。

 

「有希、デートじゃないんだからね!解った!?」

 

表にでると、眉をきゅるりと吊り上げたハルヒが長門に向かって叫んでた。
俺は長門のほうに視線を落すと、「解った」と㎜単位で頷いている長門がいた。

 

「キョンも!解ってるわよね!」

 

なんでこいつは嬉しそうに怒るのかな。
新しい生き物を見つけたみたいで楽しいが。
俺はへいへいと答えると、
肩をキリマンジェロの如く突き上げながらハルヒは歩き去っていった。
古泉はやれやれといった感じでこちらを見ていたが、気のせいにしておこう。
朝比奈さんは「まってくださぁーい」とおぼつかない足で、
ハルヒを追いかけていった。彼女はきっとドジっ娘の素質があるだろうと思った矢先、
「オォ…イチチチ」と転んでぶつけたと思われる膝小僧をさすっている朝比奈さんがいた。
本当にドジだった。俺思わず苦笑い。

 

「さて、どこに行きたい?」

 

と長門に聴くと、「図書館」と即答してきたので図書館に連れて行くことにした。
そこに向かう途中長門が、

 

「情報操作は得意」

 

よく解らないことを言い出した。

 

「私の勝ち」

 

といって心なしか機嫌が良さそうに見えたのは気のせいだろうね。

 

 

 しばらく歩き、図書館に着くと長門が本棚に向かって小走りで走っていった。
こら、図書館で走っちゃいけません。といった俺の声が聞こえたのか、
ぴたりと立ち止まったかと思いきや、また小走りで走っていった。
やれやれ。

俺は適当にライトノベルを取り、席について読み始めた。
しかし、なんだろうね活字を読んでいると眠くなるのは。
俺は睡魔に負けて眠りについた。

 随分寝てしまったのか、外がオレンジ色に染まっている。
長門は?っと思い辺りを見渡すと、俺のとなりにちょこんと座っていた。
長門は、分厚いハードカバーを読んでいた。
タイトルは頭が痛くなりそうな代物だ。
長門に「面白いのか、それ」と聞くとこちらを見上げ、

 

「ユニーク」

 

と答え、また視線を本に戻した。俺にはあなたがユニークに見えます。
ふぅ、と一息つくと携帯が鳴り始めた。
俺はびっくりして「おぅ!」などと、叫んでいたのは恥ずかしい。
携帯を見るとハルヒから着信だった。

 

「ちょっとキョン!?今何処にいるの!?」

 

と少し心配そうな声を出しているハルヒに「図書館」と答えると、

 

「図書館でなにしてんの?解った有希ね。ていうか、
はやく戻ってきなさいよ!何時まで待たせる気!」

 

耳を劈くような叫び声に、思わず携帯を耳から遠ざける。
近くにあった時計をみると、待ち合わせの時間を過ぎている。

すまん。と一言言って電話を切り、長門に行くぞっというと、

 

「いいとこ」

 

と駄々をこねる長門の本を借りてやり、急いで集合場所に戻った。

 

「遅い!罰金!」

 

と嬉しそうに怒っているハルヒがいた。
俺は気付いた、いつも感じていた違和感はこれだったのかと。
胸の痞えが取れた俺は心なしかすっきりしていた。

 

「はいはい」

 

と答えると、ハルヒが俺の手を引いて、「行くわよ!」と、
嬉しそうに笑い喫茶店に連れて行かれた。
喫茶店に着くとそれぞれの定位置があるみたいで、
俺はハルヒの隣に座った。
ハルヒのほうを見るとなぜかソワソワしている。
少しは、落ち着け。
それぞれ今日あったことを報告するとハルヒが、

「あんた探す気ないでしょ」

と頬を膨らませて怒っていた。
ばれたちゃ仕方がない。
ここでの支払いは俺が奢ることになった。
そんな俺の姿を見て古泉が、

 

「やはり、あなたは様になりますね」

 

などとほざいていたが、それは嫌味として受け取っていいのか。

 

「滅相もない。久しぶりの事で歓喜を持て余してしまっているもので」

 

と顔がニヤニヤしていたのは気のせいじゃない。
ええぃ、腹が立つ。

 

 喫茶店を出ると三者三様の挨拶で別れを告げた。
何で三人かって?それがね。
何故か、ハルヒさんがこっちを見上げて「一緒に帰りましょう」と言っていたからである。

 

「そういえば俺、ハルヒの家知らないんだが」

 

というと、ハルヒは少し考えた後に、少し照れた表情を浮かべ、

 

「あ、あたしも女の子なんだし。お、送ってくれないかなって」

 

あぁそうかい、解ったよ。
俺は優しく微笑んでいたのかな。
ハルヒは嬉しそうに笑っていた。
俺は自転車の荷台にハルヒを乗せ、ハルヒの家に向かった。
ハルヒ曰く、「こっから一駅くらいだからすぐよ」だそうだ。

 

 後ろに乗っているハルヒは、俺の背中に顔を埋めて黙り込んでいた。
そっとしておいてやろうと俺も一緒に黙り込む。
ハルヒの「ここ」という言葉で、俺は自転車を止めた。
俺は玄関の側まで送ると、じゃあなといい自転車にまたがった。

 

「ねぇキョン」

 

ハルヒが俯きながら囁いてきた。

 

「なんだ?」

 

俺が聞き返すと、不安そうな表情を浮かべながら見上げてきた。

 

「もう、いなくならないよね」

 

俺はハルヒの頭を撫でながら、あぁ。と答えた。
そうするとハルヒは100Wの笑顔で、「また明日!」と家の中に駆け込んでいった。
まったく忙しい奴だ。

 

 俺は今日あったことを思い出しつつ、
久しぶりの充実感を味わいながら自転車を漕いでいた。
空もすっかり暗くなり、俺はすこし急いだ。
家の近くまでくると、俺の前に急に人影が出てきた。
急いでハンドルを切ってブレーキをかける。

 

「いきなり出てくるな!危ないだろ!」

 

と少し荒い声をあげた先を見ると。
そこには俺と同じくらいの年頃の女の子が立っていた。

 

「お久しぶりですね、キョンさん」

 

というと、その娘はニコりと作った笑顔を浮かべていた。
お久しぶりといわれても、まったく知らない人なんですが。
どうしたらいいんでしょう。
俺が顔を顰めているとそいつは、

 

「覚えてないのも当たり前ですよね、だって私が記憶を消させたんですから」

 

俺はその一言に愕然とした。

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最終更新:2008年06月04日 01:39