クロトス星域会戦記(後半)


 はじめて両軍の索敵艦艇が接触したのは、銀河系中央部の不安定地帯である。
 帝国軍の中でも優秀な参謀として、地方反乱鎮圧などで実績を積んでいた朝倉大将は、このような不安定地帯で戦闘を行うことに対して、大公殿下に意見具申を行った。

 

 「この付近は、未知のブラックホールや白色矮星などが多数存在します。情報を集めたあと行動を開始しましょう。」

 

 この意見に、早急に戦果を上げ皇位継承者としての地位を確立しようと望む大公とその取り巻きである提督たちは非難の声をあげた。

 

 「勇将と名高い朝倉参謀の言葉とも思えんな。民間徴用船を先行させ、情報収集及び索敵を行いながら、主力を前進させる。それでよいではないか?」

 

 「それでは、民間人に無駄な犠牲者がでます。」

 

 「平民どもが大公殿下のために血を流すのです。大公殿下即位のあかつきには名誉の戦死として、報いてさしあげればよいのです。」

 

 朝倉参謀は、この言葉を聞いて、犠牲になるであろう民間船舶の乗員の運命とそれを軽視する帝国内の風潮に危機感を感じていた。
 この戦いというよりも、今後の帝国の運命に暗澹たる思いを抱かずにはいられなかったからである。
 結果として、三千隻あまりの民間船を犠牲にして、帝国軍はSOS同盟軍の位置を把握することができた。
 この損害を多いと考えるか、少ないと考えるか・・・犠牲となった十五万人にも及ぶ民間人の声は記録に残っていない。

 


 「やっと来たわね!全軍突撃!」
 

 帝国軍が不安定宙域の中の安全な回廊部を抜けてきたのを確認したハルヒ提督はそう発言したが、その命令は、通信オペレーターに命じて回線をOFFさせていたキョン参謀長の機転により、全軍に通達されることはなかった。
 

 「まてまて、ハルヒ。回廊部出口で迎え撃つのも手だが、こちらにも相当の損害がでる。ここは、長門が計画してくれた作戦に基づいて行動すべきだと思うが?」
 

 「なによ、キョンは有希の判断の方が正しいと思うわけ?」
 

 「長門の意見に聞くべきものがあっただけだ。情報では、おそらく敵の先頭は民間徴用船だ。これを虐殺したとして、お前は戦果として胸を張れるか?それに、こちらはその武装商船群と戦ってその損害を受けた後、後から続く帝国軍主力と戦うんだぞ?それに朝比奈さんの補給艦隊も合流していない。」
 

 「そうね。あたしとしても英雄って呼ばれるならともかく虐殺者って呼ばれるのはできれば避けたいわね。じゃ、計画通りにクロトス星域へ移動!戦闘開始はディナーの後ね♪」
 

 涼宮艦隊はその全兵力をクロトス星域へと移動し、それを察知した帝国艦隊も続くことになった。

 

 

 

 「・・・ここはまるで異空間ね。」

 

 朝倉参謀は、クロトス星域に味方艦隊が集結したことを確認し、周囲の情報を収集した後、つぶやいた。

 クロトス星域は銀河中央部の星域らしく、付近にブラックホールが複数存在し、そのため多数の宇宙潮流とでも呼ぶべき小惑星群の流れが存在していた。しかも、その中には金属を多量に含有する小惑星もあり、レーダーなどの探知システムがほとんど使えない環境であった。
 朝倉参謀としては、全軍をむやみに散開させることなく、周囲の情報を把握し、敵の本隊の位置を把握した後、全力で叩き潰す。という、帝国軍の常道とも呼べる作戦を展開する予定を立てていた。

 

 帝国軍の索敵隊をSOS同盟小艦隊が潰すという小戦闘の繰り返しの中で発生したお互いの戦闘艦隊同士の初対決は、帝国側に勝利の凱歌が上がった。谷口准将の指揮する約一千隻の小艦隊が、帝国軍の索敵隊をつい深追いしてしまった結果、朝倉参謀のつくった縦深陣へと誘い込まれ、全体の五割を失う大損害を出してしまったのである。
 幸いにして、長門、鶴屋、国木田の3艦隊がすばやく救援し、全滅は避けられた。
 

 「なにやってんのよ!このナンパ魔!敵までナンパしようとでもしたの!?」
 

 「すまん・・・」
 

 「まあなんだ、ハルヒ。敵の力量を把握する威力偵察と考えて、谷口を許そうぜ。とにかく、帝国軍にも相当のやつがいるというわけだ。注意しないといけないな。」
 

 「そうね。でも、全力で当たって来なくてよかったわよ。あいつらの本隊まで動いていたら、おそらくあたしたちの負けだったわね。」
 

 「この宙域は帝国軍にははじめて足を踏み入れるミラーハウスみたいなものだが、俺たちには遊びなれた裏山だからな。不安なんだろ、敵さんもさ。」
 

 不安ゆえに索敵完了まで動き出さないだろうという二人の予想は、まったく違ったかたちで裏切られることになった。

 

 


 朝倉参謀は、大公殿下からの新たな命令をみて、呆然となった。

 

 「敵は少数にして畏怖するに足らず。何をもって逡巡の理由となすや、各艦隊は直ちに攻勢に出るべし。
   皇帝陛下の敵を殲滅し、帝国の辺境を平定するのだ!戦果をあげたものは地位も爵位も思いのままだ!」
 

 この命令の結果、大公直卒艦隊を除く五提督の三万隻及び民間船団のうちの武装船一万隻あまりの艦隊は散開し、各自で敵を見つけ殲滅するという無茶な命令に従うことになった。

 


 「なっ、帝国軍が動いただと?」

 

 「そんなはずはないわよ!帝国軍の索敵妨害は順調だったはずよね、有希?」

 

 あまりにも常識外な帝国軍の動きを直接司令部にやってきた長門少将から聞いたキョン参謀長及びハルヒ提督はそう声をあげた。

 

 「そう・・・帝国軍が把握しているこの宙域の情報はおおよそ5%。散開するには危険。」

 

 「わからん・・・」

 

 「どういうことかしら・・・」

 

 二人は考え込んでしまい、しばらくの間、SOS同盟司令部内が静寂に包まれることになった。

 


 「計画通りわたしが敵の後方をかく乱する。」

 

 沈黙を破ったのは、意外なことに長門少将であった。

 

 「今は危険すぎないか?」

 

 「無茶しちゃだめよ、有希。」

 

 二人の不安の声に対して、長門少将は昔から変わらない平坦な口調で、

 

 「大丈夫、許可を。」

 

 といった。
 その様子に、決死の覚悟とかそういうものとは無縁な長門少将の性格よく知っているキョン参謀長は、

 

 「よし、長門、やっちまえ。それでいいだろ、ハルヒ?」

 

 といい、

 

 「まあ、キョンがそれでいいなら・・・」

 

 ハルヒ提督も許可し、長門少将は指揮下の三千隻余りの艦艇を率いて出発していった。

 

 


 かたや、帝国軍の提督たちに降りかかっていたのは災難以外のなにものでもなかった。
 散開した提督たちはお互いの情報交換・連絡・補給がほとんど不可能になってしまい、ある提督に至っては、

 

 「いったい敵はどこにいるんだ?」

 

 と情報オペレーターにたずねる始末となった。
 それより深刻だったのは、その答えの方であったが・・・
 情報オペレーターは、

 

 「それよりも、本艦隊がどこにいるのか、各艦艇はすべて追従できているのか、この2点を把握することの方が現在急務であると思われます。」

 

 と答え、その提督を絶句させることになった。

 

 


 キョン参謀長とハルヒ提督の困惑は、長門艦隊を送り出した後も解消されることはなかった。とりあえず、各艦隊に対してヒットアンドウェイによるかく乱作戦を実施するなど戦術レベルでは適切に対応していたが、敵の戦略があまりに常道から外れていたため、大きなアクションを起こせなかったのである。

 

 

 その二人の困惑を解消する出来事は、意外な人物からもたらされた。
 戦術対応に疲れたキョン参謀長が部屋でくつろぎながら、対策を検討していたとき、通信オペレーターとして乗り込んでいた妹がはさみを借りに来たのである。
 

 「キョンくん、はさみ貸して~」
 

 「お前の部屋にも備え付けのがあったはずだぞ?」
 

 「えっとね~。壊れちゃった。」
 

 「はあ?」
 

 「通信機のネジがゆるんでいるところがあってね。それをはさみで回そうとしたら、折れたの。」
 

 「・・・・・・」
 

 このとき、キョン参謀長の頭に閃いたのは、地球時代から伝わる古い言葉だった。
 そして、キョン参謀長は部屋を飛び出し、同じく軽い休憩を取っているはずのハルヒ提督の個室へと向かった。

 


 「おい、ハルヒ!」
 

 と扉を開けたキョン参謀長に、枕が投げつけられたわけだが、これは着替え中に飛び込んだ方が悪いというべきだろう。

 「ノックぐらいしなさい!いくら・・・」
 

 「それどころじゃない。帝国軍の意図がわかった。」

 

 「・・・そうなの?」
 

 「そうだ、一言で言うぞ。やつらは・・・というかやつらの指揮官は馬鹿だ。」
 

 「へっ?」
 

 ハルヒ提督にして、めずらしい間の抜けた声であった。しかし、しばらくして・・・
 

 「・・・賛成ね。」
 

 と短い同意の意思を表明したのであった。
 二人の結論は、それまで二人が危惧していたどの条件よりありえそうにないものであったが、しかし、論理的帰結としては最も適合していたのである。

 

 


 「結論から言うわ。これから、有希の艦隊を含む全艦隊は敵本隊を攻撃するわよ!」

 

 ハルヒ提督は総旗艦アルナスルに出撃中の長門提督を除く艦隊指揮官たちを呼び集め、宣言した。

 

 「あのぅ・・・涼宮さん、それはあぶなくないですか?」

 

 「そうだぜ、もし敵の罠だったら、全滅するぜ?」

 

 と朝比奈少将、谷口准将の2名が全員を代表するように不安の声をあげた。

 

 「大丈夫よ!あたしにまっかせない。」

 

 「まあ、詳しく説明するとだな。分散した敵艦隊は互いの連絡がまともに取れていないと考えるのが妥当だ。
したがって、敵本隊は孤立している。これは殲滅のチャンスと考えるべきなんだ。お前らはそう思わないか?」

 

 ハルヒ提督の説明の無い自信まんまん発言をいつものようにキョン参謀長が補足する。

 

 「そう考えることもできますが、やはり危険ではないでしょうか?」

 

 「そうだよ。敵の罠だったら、反転包囲されて全滅だよ。」

 

 古泉少将、国木田准将の二人が常識的な不安を口にする。

 

 「そうね。反転包囲されたら、殲滅されましょう。その程度の危険を恐れちゃ勝てないのよ。」

 

 ハルヒ提督は断言し、

 

 「了解っさ。長門っちへの連絡は谷口くんにまかせるにょろ。めがっさ重要な任務にょろ。」

 

 「ナンパ魔の谷口には最適ね。かならず、有希に連絡をつけてよね。」

 

 すでに作戦を了解した口調の鶴屋准将の発言でSOS同盟の計画は決定されたのであった。

 

 


 帝国軍C艦隊が壊滅したのは、あまりに不幸な誤謬と偶然の産物であった。
 このとき、長門提督は自分の艦隊を6つに分割し、通信によってそれぞれに指示を与えて、天才的な指揮で帝国軍を翻弄していた。
 通常、長距離通信はこの宇宙時代の戦闘では使われない。敵に傍受されるからである。
しかし、長門提督は、あらかじめコンピューター内に実に数千通りの行動パターンを入力しており、そのパターン番号のみを伝達していたのである。
 結果、帝国軍は傍受した情報を活用する術が無かったのだ。
 そのような状態で混乱したC提督は長門提督の艦隊を味方と、D提督の艦隊を敵と誤認する過ちを犯し、D提督艦隊を攻撃するため、長門艦隊に無防備な側面を晒した。
 この機会を逃すことなく、右後方から長門提督は攻撃を命じた。

 

 「αは1852パターン、βは2253パターン、本艦隊はこのまま攻撃・・・」
 

 その声は静かであったが、この一撃でC艦隊は25%を一瞬で失った。慌てたC提督は反転を命じようとして、
いまだ敵と誤認していたD艦隊に後方を晒す危険を恐れ、再反転の後、左に逃れようと試みた。
 そして、秩序を失い大損害を出しつつなんとか逃れようとしているところで、不幸にも谷口艦隊に接触。
C提督は旗艦ごと蒸発することとなったのである。
 D提督が気づき救援にはせ参じたときには、C艦隊は旗艦を含む80%を失っていた。

 

 


 「この無能参謀が!」
 

 C提督戦死の報を受け取った大公は、衆人環視のなかで、朝倉参謀をののしり、参謀の階級章を引きちぎったのである。
 屈辱に手を振るわせる朝倉参謀に大公は追い討ちをかけた。
 

 「朝倉くん、君は君の大切な民間船団の指揮でも執っていればいいのだ。出て行きたまえ。」
 

 そう言い放ち、朝倉参謀を総旗艦から追い出した。この事実を知ったとき、ハルヒ提督はこのとき勝利が決まったのよ。といったものである。

 

 

 

 同盟の罠は着実に帝国軍を締め付けはじめていた。

 

 

 本隊の周囲に敵艦隊が集中しはじめていることに大公が気づいた時、彼は最後にして最悪の選択をおこなってしまった。

 ごく普通に長距離通信を発し、総旗艦の位置、本隊の孤立の事実、各艦隊の動きと補給の不備そのすべてを同盟側に明らかにしてしまい、同盟に自己の有利を帝国に不利を確認させてしまったのである。

 さらに、朝倉参謀が慎重に行おうとした兵力集中を拙速に行った結果、脱落艦を続出させてしまったのだ。

 

 

 「全艦突撃!敵の指揮官を地獄の業火で焼き尽くすのよ!」

 

 ハルヒ提督の激とともに、同盟軍の爆発的大攻勢がはじまった。

 

 「エネルギー艦からの補給は完了しましたか~。」

 

 「はい、朝比奈提督!」
 

 朝比奈艦隊は補給艦隊という位置づけであったが、攻撃力が低いわけではなかった。

 むしろ、無防備なエネルギー補給艦の随伴とエネルギー充填時間が必須な長距離ビーム艦を多数装備していたため、絶妙なタイミングで使用すればSOS同盟最大の攻撃力を発揮できる存在だった。

 そして、その時が来たのである。

 

 「では全ビーム艦総攻撃です~、みくるビーム発射!」
 

 一千隻を超える長距離ビームのそれは、ビーム光線というより光の奔流、いやむしろ光の壁であった。
 

 攻撃の警報が鳴り響くなか帝国軍艦艇は回避するすべを失い、右往左往の挙句互いにぶつかり、光の壁の直撃により蒸発していった。この瞬間にE提督は戦死したと言われている。

 

 帝国軍は、よろめくように古泉艦隊の方へ流れていった。
 古泉艦隊は突撃すべきタイミングだった。そして、彼は突撃した。
 

 「第一命令!突撃!第二命令!突撃です!第三命令!全艦ただ突撃あるのみです!」
 

 SOS団内でも温厚で慎重として知られていた彼が、猛将として歴史に名を留めているのは、この単純かつ強烈な命令によってである。
 強烈な一撃に晒された帝国軍では、D提督がこのとき行方不明となったと記録されている。

 

 


 この段階までに帝国軍主力艦隊は、提督三名他を失い、指揮系統がほぼ完全に麻痺してしまったのである。これ以降の戦いは実質虐殺に等しい状態となった。
 朝倉参謀・・・この時点では民間船団指揮官が独自の命令を発したのはこの瞬間であった。

 

 「民間船団の皆さん、戦術コンピューターのZ命令に基づき行動してください。これが最後の命令です。」

 

 その結果、民間船団はくもの子を散らすように散開しはじめた。

 

 「なにをしているのだね、朝倉くん。」

 

 民間船団の不可思議な動きに気づいた大公は朝倉大将の艦に総旗艦を寄せて通信を送り詰問した。

 

 「民間船団に降伏許可を出したのよ。」

 

 朝倉大将は笑顔でそう答えた。

 

  「なんだと?」

 

 大公は敗北を続けて青ざめていた顔をさらに蒼白にした。

 

  「このままでは全滅確実でしょう?わたしの指揮下で犬死は出せないから、降伏させたのよ。」

 

 「すぐに取り消せ!従わなければ君を軍法会議で死刑に。」

 

  怒り狂う大公に対して、朝倉大将は至って冷静であった。むしろ、冷酷であったというべきだろうか。

 

 「うん、それ無理。だって、殿下はここで名誉の戦死を遂げられますから。」

 

  「・・・なんだと!」

 

 「無能な指揮官の下で死んでいった部下たちにヴァルハラで謝ってくださいね♪」

 

  つぎの瞬間、巻き込まれないだけの距離を取っていた朝倉大将の艦及び周辺に集まっていた彼女の子飼いの部下たちの艦から集中攻撃を受け、総旗艦は爆砕された。

 

 大公の最後の言葉はどの記録にも載っていない・・・

 

 

 

 『大公殿下は名誉の戦死を遂げられました。帝国軍参謀朝倉涼子の名において、全艦艇に戦闘行為の終結を命じます。わたしたちの帝国本土への帰還は絶望的。ここはわたしの指示に従ってください。同盟軍司令官、通信回線を開き、降伏交渉に応じてくれることを希望します。』

 

 クロトス星域の会戦はこの段階で事実上集結した。帝国艦隊のうち、A、B両提督の直率艦隊は抵抗をつづけたが、長門艦隊と鶴屋艦隊によって撃滅された。
 ごく一部は脱出を試みたが、帰還できたのは千にも満たない数であった。

 

 

 「あんたが朝倉?」
 

 涼宮ハルヒの声には普段の横柄な態度に勝利の余裕がさらに加味されていた。朝倉涼子の裏切り行為も気にいらなかったのかもしれない。
 

 「はじめまして、涼宮提督。帝国軍参謀 朝倉涼子です。」
 

 そんなハルヒ提督の態度を気にする様子もなく朝倉涼子は少しやつれた声で答えた。
 

 「堅苦しい言い方は無し無し。あたしたち同年代みたいだし、もうちょっと気軽に話しましょう。」
 

 「変わった人なのね。」
 

 朝倉涼子の顔に普段の笑顔が戻っていた。 
 

 「それで帝国軍は全軍捕虜ってことでいいのかしら?」
 

 当然のごとく、ハルヒは宣言したが、朝倉の答えは彼女の予想とは違っていた。
 

 「本来そうなのよね。でも、それ無理。」
 

 「ふーん、抵抗するの?」
 

 意外そうにハルヒがいうと、
 

 「違うわよ。わたしたち軍人は捕虜でいいわ。でも、民間船団の人たちは言葉通り民間人なのよ。捕虜じゃなくて亡命者として扱って欲しいの。本当なら帰国を希望したいところだけど、おそらく、帰国したら収容所送りだから。」
 

 と朝倉参謀は依頼してきたのである。
 

 「最終決定件は多丸議長にあるから、完全に約束はできないけど、あんたの主張には一理あるわね。あたしの職にかけて約束するわ。」
 

 涼宮ハルヒのその答えに朝倉涼子はほっとした表情になり、最後に付け加えた。
 

 「ありがとう、涼宮さん。」

 

 

 

 ・・・帝国軍参謀 朝倉涼子大将が自害したのは、SOS同盟首都星ケイロンへの到着直前のことであった。

 

 

 

 かくして、クロトス星域の会戦は、銀河帝国の敗北をもって終了した。
 これは、銀河帝国とSOS同盟の長い抗争劇の始まりではあったが、ある人物にとっては最初で最後の艦隊戦となった。

 

 「あたしの役割は終わり。帰国したら退役するわ。」
 

 と涼宮ハルヒが宣言したのである。
 

 「はあ?」
 

 「なんでですか?どうして?これからどうしたら?」
 

 「・・・意外。」
 

 SOS団5人で集まって勝利を祝っているときに、行われたその宣言に、普段から笑顔で表情の読めない古泉を除く3人はそれぞれの反応を示した。
 

 「だって、この勝利で大将でしょう。退役後には元帥くらいにはしてくれるはずよ。」
 

 「まあ、それは確実だろうな。」
 

 ハルヒの発言にキョンは同意する。
 

 「それに朝倉の話だと帝国は外征艦隊のほとんどを失ったって。だったら、数年から十数年は攻めてこないはずよ。だから引退。」
 

 「ずいぶんと唐突だな。」
 

 「馬鹿キョン。あたしの夫なんだから、妻の気持ちくらいわかりなさいよ。」
 

 ハルヒ提督は珍しく顔を真っ赤にしていた。アルコールの影響ではないだろう。
 

 「なるほど、涼宮さんはそろそろ・・・むぐっ」
 

 アルコールの影響でじょう舌になっているらしい古泉の口を長門有希が塞いだ。
 

 「まっ、面倒ごと古泉くんたちに任せるってことで後よろしく~。」
 

 そう誤魔化して、勝利の立役者は夫の腕を掴みながら、私室へとひっぱって行った。
 

 


 亡命者の扱い(涼宮提督は帝国貴族を除く希望者全員を亡命者として扱うことを命じた)、捕虜からの情報収集、損害集計などの雑務は、すべて古泉、長門、朝比奈の3少将へと委ねられたわけであるが、彼らは特に不満を述べるでもなく、適切にこなした。
 

 この会戦から数ヵ月後、涼宮ハルヒは双子を出産、育児に専念する日々を送る。

 

 キョン参謀長は、ハルヒ元帥の後任の宇宙艦隊司令長官となり、最終的には統合作戦本部長を務めあげ、SOS同盟初の夫婦元帥となった。
 彼の名は最高評議会議長となった元国防委員長と古泉国防委員長、朝比奈後方作戦本部長らと共に同盟黄金時代を築きあげた立役者の一人として歴史に燦然と輝いている。
 長門有希はキョンの元で、艦隊総参謀長、情報部長を務め、キョンの仕事を陰ながらサポートし続け、同盟最高の参謀として、そして新しい戦術システムの開発者として、SOS同盟では知らないもののいない存在となった。

 現在に至るまで、彼女の確立した戦術システムは士官学校の必須科目とさえいわれている。
 
 涼宮ハルヒの子供たちが活躍するのは、後の世の話であり、この物語はここで筆をおくとしよう。

 

 

 ある歴史家志望の青年の記録より


|