あれ以来ちょっと涼宮さんの様子がおかしい。何だが妙にキョンの方を気にしてるっていうか…あと僕にも結構話しかけてくるようになった。
とは言っても仲良くしてもらうのなら嬉しいんだけど、すっごい喧嘩腰なんだよね…。ひょっとして敵視されてる?僕。
鶴屋さんはどう思う?

「ふむーっ」
はははっ、おかしな顔で考えるんだな鶴屋さんて。
「わかった!」
は、早いね…最初から分かっていたんじゃない?
「ハルにゃんは複雑なよーで単純だからねぇっ。簡単っさ」
アイスティーをごくりと飲んで言う鶴屋さん。鶴屋さんは単純なようで複雑だよね。なんて事は言えないけど。

「それより国木田くん、仲良くしてくれるのが嬉しいってのはちょっと聞き捨てならないねぇ」

…ほらね?

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    喫茶店を出て、段々暖かくなってきた並木道を歩くのがお決まりのコースになっている。
手を繋いでるんだけど、僕は鶴屋さんの長い髪がさらさら揺れるのを見るのが好きだから一歩後ろを歩くんだ。
絵的には引っ張られてる感じでちょっと格好悪いけどね。

やがて、川沿いに置かれたベンチにすとんと二人して座る。
さっき、わかったって言ったよね?どういう事?
「そんなにハルにゃんにどう思われてるか気になるのかいっ?」

…ち、違うよ。僕が好きなのは…あっ!

真面目顔の僕を鶴屋さんがニコニコ見つめていた。
「にゃははっ♪」
むむっう、つっつかないでよ…もう。
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「ハルにゃんは身近なあたしたちが付き合い出したせいでキョンくんをすっごく意識してると見たねっ」

ん~そうかなぁ。涼宮さんがキョンを気にしてるのは前からだと思うけど。
「何て言うのかなぁっ、気にし具合が増したっていうかさぁ、多分あの子キョンくんとあたしと国木田くんみたいな関係になりたいんじゃないかなっ」
付き合うって事?
「ラブラブになるって事っさ♪」

うぐ…ずるいなぁ。僕が鶴屋さんを照れさせる時は僕もドキドキなのに、何てことない表情でこういう事言うんだもん。
何も言い返せないよ。

「ふふん♪だから、きっとハルにゃんが国木田くんにやたら話しかけてくるのはキョンくんの事をいろいろと聞き出そうとしてるんじゃないかなっ。
あたしはそう推理したよっ」
う~んなるほど。そう言われるとそうかもしれない気がしてきた。でもなぁ…それにしちゃああの態度は-
「そうじゃないほうがいいって?そんなにハルにゃんに好かれたいのかなぁっ?」
……

今度は僕が鶴屋さんの頬をつついてやった。

「じょうでゃんじょうでゃん、ムニュニュ、そこでだねっ、ちょっと耳貸してっ…」

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    うぅーん…どうしようかなぁ。
昨日からずっと考えてる。せっかくの日曜なのに。まぁ、元々塾だったし休みじゃないようなものだからいいか。

『さりげなくハルにゃんにキョンくん情報をリークしてあげるっさ♪』
耳元で鶴屋さんが楽しげに囁いた言葉。さりげなくって言われてもなぁ。
涼宮さん鋭そうだし、キョンにばれないよう情報横流しするのってかなり難易度高いよ。
でも放っておいたらいつまでたってもあの二人が付き合う時は訪れない気がする。
高一からあんなに仲良いのにそれじゃ涼宮さんがあまりにかわいそうだ。キョンは鈍すぎだよ。
…うん、決めた。明日から鶴屋さんに言われた通りにしよう。鈍キョンにはお灸が必要だ。
あっ、もうこんな時間だ。塾に行かないと。
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    弱点だった英語も鶴屋流感覚翻訳術で結構分かるようになってきた。ふふふ、これであの大学に一緒に行けるかも。
涼宮さんに似た声の人がトップランナーって番組で『目標は決めたくない』なんて言ってたけど、受験生には目標は必要だね。
どんどんそれが近づいてきてるのが数字で実感できて、自信にもなるし。何より勉強が苦にならないのがいい。
さて、今日は母さんも父さんも遅くなるみたいだし喫茶店で勉強しよう。昨日鶴屋さんが飲んでたストレートアイスティーでも飲みながら。
…このチョイスは失敗しちゃったかも。昨日の彼女の言葉を思い出してどうしても明日学校でどうするかを考えてしまう。
「おや」

「また会ったね」

苦笑してる僕に声をかけたのは佐々木さんだった。
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「前回とは打って変わって上機嫌じゃないか。悩みが解決したようで何よりだ」
向かいの席に座った佐々木さんが言う。あの時佐々木さんと話した事が僕の心を後押ししてくれたのは確かだ。
佐々木さんのおかげだよ。勉強にも集中できるようになったんだ。
「くっくっ、それにしてもあの時のキミは完全に心ここに在らずのようだった、あれほどわかりやすい人間はキミくらいだ」
そうかなぁ。僕はキョンの方がわかりやすいと思うけど…
「キョンは第三者的視点で見た時『何かを隠している』とか『自分の本心に気付いていない』という事については外見から判断しやすいと言えるね。
しかしキミは殊に恋愛沙汰となると非常に本心を推測しやすい表情をする。
有り体に言えばキョンは隠し事をしているという事を隠せない、そしてキミは隠している事そのものが明け透けだという事だよ」
言い終わって喉を鳴らして笑う佐々木さん。けど僕の耳は後半をほとんど聞き取っていなかった。 

佐々木さんの事を考えると、鶴屋さんの作戦を実行するのには結構…いやかなり気が引ける。やっぱり自然な流れに任せるのがいいんじゃ…
っていうか今この場でキョンの名前出したのが完全にミスだよね。僕はバカだ。
謝るのもおかしいしな、どうしよう…。
「大丈夫だよ」
え…?顔を上げると佐々木さんは微笑んで、
「僕はキョンを恋愛対象としては見ていない。あぁ、よき友人だとは思うよ」

思わず鏡を探してしまった。そんなに僕、わかりやすい?
「くっくっく、彼女さんには隠し事をしないことだ。では僕はお先に失礼するよ。バスが無くなってしまう」
そう、それじゃ…

「あぁそうそう、キョンと涼宮さんの事だけれど、存分に応援してやってくれたまえ。
お互い親友に鈍感などという不名誉な称号を定着させたくないだろう?」

と言って手を振った彼女の顔には、清々したような笑顔が広がっていた。

ちょ、ちょっとトイレで鏡を見てこよう。表情はこのままで。
こんなに考えてる事を完全に読まれるとは思わなかったよ…。
鶴屋さんにも読まれてるのかな。恥ずかしいな。

なんて事を佐々木さんの背中を見送りながら考えていた。もう勉強なんかできないのは確定だ。
帰って寝よう。



おしまい


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