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第3話 ネットワーク 『鶴屋家』と『機関』

 

土曜日、朝、9時5分前。

昨日の長門の話を聞いて、インターネットで調べたり、考え込んだりして夜更かししてしまった結果、約束の駅前に到着したのはその時間である。普通に考えれば間に合ったというべきなのだが・・・
すでに俺を除く4人が揃っていた。昨夜電波話をしてきた長門も含めてだ。長門は文芸部員ではなかったのか?

 

「遅い。罰金!」

 

顔を合わせるやハルヒは言った。

 

俺の約束の時間には間に合っているだろうという反論を無視して、SOS団規則第9条を押し付けてきた。ちなみに、団則はすべてハルヒの頭の中にしかなく、俺たちに確認することはできない。

しかたなく、渡橋おばさんからもらった福沢さんが財布から消えていくのを心の中で嘆きつつ、駅前喫茶店でおごることになった。

そして、店内でコーヒーを飲みつつハルヒ団長様から今日の計画を拝聴したわけだ。

 

ハルヒの提案はこうだ。
5人で二つの班に分かれて、市内の探索を行う。不思議なものを発見したら、即座に互いの携帯で連絡を取る。12時にはまた駅前に集合するという単純かつ多分無意味なものだった。
3時間程度で見つかる不思議なんてあるわけないからな。

で、くじ引きで班分けが行われたわけだ。

結果、俺と朝比奈さんの二人とハルヒ、古泉、長門の三人の二組に分かれた。


ハルヒはしるしのついていないくじ(楊枝)を不満そうに睨んでいたが、まあそれはそれだ。俺としては朝比奈さんと二人というくじ運に感謝したいところだ。

 

「キョン解ってる?デートじゃないんだからね。まじめに探索しなさいよ!」

 

「わあってるよ」

 

と答えはしたものの、俺の頭の中は3時間弱のデートの時間をどう過ごすかで埋め尽くされていた。


そして、俺と朝比奈さんは川沿いを歩いていた。

傍目にはデート中のカップルに見えるだろうか?などと不埒な考えを抱きつつ、朝比奈さんと手をつなぐタイミングを狙っていたりした。

 

「水がきれいですね。」

 

朝比奈さんは、川面を覗き込みながらそういい、川の中から石を拾いあげようとしていた。

 

「きゃっ!」

 

このかわいい悲鳴も朝比奈さんのものだ。そして、俺の体に朝比奈さんのやわらかい・・・胸があたっていた。どうやら、石の裏にくっついていた変な虫に驚いたらしい。

つい、俺が抱き寄せようと考えたのは、まあ、健全な男子高校生の思考としてはごく普通だと信じたい。

 

「ちょい、少年!うちのみくるにおいたはダメにょろよ!」

 

 へっ?

今日は土曜日だというのに近くに犬の散歩をしている人もめずらしくいない状況で、つまり周囲には誰もおらず、俺と朝比奈さんだけだ。
今の声はいったい何だ?

 


「あの~、鶴屋さん。声を出しちゃだめですよ。」

 

朝比奈さんがへんなことを言い出していた。

 

「大丈夫っさ!『人払いの結界』は張ってあるにょろ!」

 

また、聞こえた。どうやら幻聴ではないようだ、朝比奈さんのポーチの中から聞こえてきている。

 

「みくる・・・そろそろ出してほしいにょろ。めがっさ息苦しいっさ。」

 

「あっ、はい」

 

朝比奈さんがポーチから出したのは、人形?人形というかぬいぐるみというのか、コロボックルのような髪の長いそれを朝比奈さんは取り出し、そして地面に置いた。

 

「ふ~、息苦しかったにょろ。ポーチの中は無理があったにょろ。」

 

・・・こいつ、動いてるぞ。
俺は、とうとう幻をみるようになったらしい。その人形は背伸びをして、こっちに目をむけてきた。ちょこちょこと動き回る姿はちょっと愛らしかった。

 

「きみがキョンくんだね~?みくるからよっく話は聞いているよ~。ふーん。へえーっ。」
などと言ってきた。

 

俺は生きてるかのように話す人形のせいで固まってるし、朝比奈さんは真っ赤になって慌てていた。

 

俺の状態を把握したらしいその人形は、

「この姿に驚いているにょろ?みくる~、スモークチーズはあるかい?」

などと言い出すしまつだ。
ここでなぜ、スモークチーズなのか?夢をみているにしても意味不明だ。


しかも、朝比奈さんはポケットからスモークチーズを取り出して(持ってるんですか!?)人形に手渡していた。

人形の方もそれをかじってるし・・・そして、次の瞬間・・・

目の前にいたのは、ポーチサイズの人形ではなく、かつてのハルヒ並みに腰まで届くきれいな髪をした女の人だった。

 

「自己紹介が遅れたね。あたしは鶴屋、みくると同じクラスなのさ。鶴にゃんと呼んでくれてもいいにょろよ?」

 

鶴屋さんは自己紹介をしてくれたわけだが、一番重要なことが欠けている気がする。つまり、自分は何者かってところだ。

 

「えっと、朝比奈さん・・・」

 

俺は助けを求めるように朝比奈さんの方をみる。
朝比奈さんは、何かを決心したかとような真剣な表情をしていた。

 

「キョンくん」

 

朝比奈さんの栗色の髪がふわりとゆれた。

 

「お話したいことがあります。」

 

小鹿のような瞳になにかを決意したようすが浮かんでいた。

 

「わたしはこの時代の人間ではありません。もっと未来から来ました。それに・・・普通の人間とも違います。」

 

桜の木の下のベンチに座り、朝比奈さんは語り始めた。かなり躊躇していたようで、鶴屋さんから、あたしが話そうか?といわれてはじめて口を開いた。

 

「歴史を改変してしまう可能性がありますから、わたしがいつの時代から来たのかをお話することはできません。ただ、わたしがこの時代に来た目的はお伝えできます。」

 

昨日に引き続きいろんなことが起こるものだとある意味関心していた。
ちなみに、鶴屋さんは俺たちからちょっと離れて、川で石投げをして遊んでいる。おっ、8回か。

 

「涼宮さんのことです。」

 また、ハルヒか・・・

「涼宮さんは時間の流れに影響を与えるほどの力を持っています。彼女の行動がわたしたちの未来に大きな影響を与えることがわかり、監視を行うことを決定し、わたしが派遣されてきました。」

 

つまり、未来からの監視役ってことか・・・信じられない話ではあるが、

 

「で、あの人は?」

 

俺はさっきから無邪気に遊んでいる人を指差して尋ねた。

 

「鶴屋さんはわたしのこっちに来てからの友人です。鶴屋家に代々伝わる人形に魂が宿った存在、『妖怪』ちゅるや人形が鶴屋さんの正体です。それ以上のことはわたしからはちょっと・・・」

 

また、『妖怪』かよ。

 

「あとは、あたしが補足するっさ。」

 

さっきまで離れた川面で遊んでいた人が目の前にいた。

 

「あたしたちもハルにゃんには注目していたのさ。まあ、あたしは『鶴屋家』の方が忙しいという事情もあったけど、なにより、みくるがハルにゃんに選ばれたので『鶴屋家』としてみくるに協力することにしたというわけ。」

 

鶴屋さんの家に朝比奈さんが下宿でもしているのだろうか?押入れの上段で寝ている朝比奈さんのイメージが・・・

俺の勘違いを否定するように、鶴屋さんはやれやれと続けた。

 

「違うさ。『鶴屋家』はあたしたちの所属する妖怪ネットワークさ。」

 

まあ、鶴屋さんの説明を要約するとこうだ。

 

鶴屋さん自身は齢数百歳という古い人形に魂が宿った存在で、代々鶴屋というそれなりに知られた名家の主であり、かつ、この付近の妖怪を束ねる『鶴屋家』という妖怪集団(これをネットワークと呼んでいるらしい)のリーダーを務めている。

 

『鶴屋家』のような妖怪集団は各地にあるらしいが、『妖怪』には単独行動を好むものや対立するものもいるため全体像は不明らしいが。

 

『鶴屋家』の存在もあって比較的安定した状態だったこの街に降って沸いたのが、『涼宮ハルヒ』という存在。
それに対する各所からのアプローチに対応するのに『鶴屋家』が手一杯になっていたところに、未来から朝比奈さんがやってきたと。
 朝比奈さんたちと自分たちの利害が一致したことから、同盟関係を結び、『鶴屋家』は朝比奈さんに協力しているというわけである。

 

「個人的にもみくるのことがめがっさ気に入ったというのが本当のところ。みくるは面白い子だからっさ。ハルにゃんもそれでみく

るに目をつけたと思うにょろ。」

 

と鶴屋さんが屈託のない笑顔で付け加えたとき、朝比奈さんはちょっとはずかしそうにしていた。

 

「えっと、信じてもらえないでしょうね。こんなこと。」

 

鶴屋さんの説明が終わった後、朝比奈さんは川面を眺めながら、つぶやいた。

まあ、今目の前で起こったことは普通でないとは理解し始めていた。本当に『妖怪』とやらがいるということも納得しないといけないようだ。


しかし・・・

 

「いや・・・でも、お二人は何で俺にそんな話をしたんですか?」

 

「あなたが涼宮さんに選ばれた人だからです。」

 

と俺の方に振り向いて朝比奈さんは真剣な表情で、

 

「さっきいったように未来のことを伝えるのは禁則事項だから、詳しくお教えすることはできません。でも、キョンくんは涼宮さんにとってとても重要な人なんです。」

 

「長門や古泉はどうなんです?」

 

たしか長門も自分は『妖怪』だといっていた・・・しかし、古泉はどうなんだ。あの人畜無害そうな笑顔が頭に浮かぶ。

 

「あの二人はあたしたちに近い存在っさ。正直、ハルにゃんがこれだけ的確にみくるたちを集めるとは思わなかったにょろ。」

 

「そうなんです。わたしも距離を置いて観察するつもりでした。まあ、『妖怪は妖怪と惹きあうもの』ですから。」

 

また、その発言か・・・あれ、そうすると・・・

 

「おそらくハルヒにそのことを伝えるとかは禁則事項ってやつでしょうが、ひとつだけ教えてください、朝比奈さん。」

 

「はい・・・?」

 

「あなたの正体はなんですか?」

 

朝比奈さんは微笑んだ。いい笑顔だった。

 

「いまは・・・禁則事項です♪」

 

彼女はいたずらっぽく笑った。

 

そろそろ、駅前に戻ると正午になりそうな時間だった。鶴屋さんもついてくるというので、3人で駅前に向かうと、すでにハルヒたちが戻ってきていた。

 

「遅い!ってその人誰?」

 

ハルヒは文句を言いかけた後で、鶴屋さんに気づいたらしくそう問いただしてきた。

 

「えっと、わたしのクラスメイトで友人の鶴屋さんです。」

 

朝比奈さんが鶴屋さんを3人に紹介した。

 

「みくるちゃんの友達ね。よろしく、鶴屋さん。」

 

「よろしくっさ、ハルにゃん、あたしのことは鶴にゃんでいいにょろ?」

 

ハルヒはちょっと戸惑っていた。おそらく、先輩からこんな風に声をかけられたことはないんだろうな。

 

「えっと、鶴屋さん。あたし、名前言ってないけど・・・」

 

鶴屋さんはあだ名で呼んでもらえないことがちょっと不服そうだったけど、さすがに鶴屋さんの雰囲気は朝比奈さんと違って上級生っぽいというか、大人っぽいもので、さすがのハルヒでもちゃんづけで呼ぶのはためらわれたようだ。

 

「みくるからよーく話は聞いているっさ。こっちの眼鏡っ子が有希っこで、そっちが古泉くんだね。あっ、そうにょろ。みんなはご飯まだにょろ?」

 

鶴屋さんはハルヒにこれ以上問いただされないようになのか、上手に話を変えた。

 

「この近くに知り合いの店があるっさ。あたしのおごり。一緒にご飯たべるにょろ。」

 

「それはありがたいですね。どんなお店なのですか?」

 

これは古泉の発言である。ずっと、鶴屋さんを見つめていたが、惚れたか?古泉よ。

 

「ん~、なんでも大丈夫っさ。和洋中からタイ料理までこの辺にあるにょろ。」

 

さすがに驚いた。発言からすると、この付近の数店舗のお店が知り合いというか、おそらく鶴屋系列のお店なのだろう。

 

「じゃ、ご飯にしゅっぱーつ!」

 

団長の元気な言葉と共に、俺たちは鶴屋さんに案内されて、近くのイタリア料理店に向かった。

 


「おいしかったー♪学食とはえらい違いだったわね。」

 

3人前くらい食べた後、ジェラートをぱくつきながら、ハルヒは料理の感想述べている。よく入るな。ちなみに、長門とハルヒ二人で6人前を食べているわけで・・・鶴屋さんもちょっと驚いていたぞ。

 

「鶴屋さん、これ本当におごりで大丈夫なんですか?」

 

普通にパスタを堪能した後、コーヒーを飲みながら尋ねた。それなりに高級そうなお店だったし、全員で10人前食べたわけだ。福沢さん2枚でも足りそうにない。

 

「大丈夫っさ。」

 

鶴屋さんは軽くながした。さすがは鶴屋当主ってことなんだろうな。

 

 

「さて、午後の部を開始しましょう。鶴屋さんはどうするの?」

 

ハルヒは不思議探索とやらを、午後も続けるつもりらしかった。

 

「あたしは午後は予定があるっさ。だから、みくるのことよろしく頼んだよ。」

と言い残して、鶴屋さんは去っていった。『鶴屋家』が忙しいというのは本当らしい。

 

ちなみに、午後の部もくじ引きで班分けされたわけだが、今回は、俺と長門がペアで、もう一班はハルヒと朝比奈さん、古泉の3人となった。ハルヒが不満そうにくじを睨んでいたのも、出発前にデートじゃないと釘をさされたのも午前中とおなじだった。

 

ハルヒたち3人が出発した後、俺と長門が残された。

 

「・・・」

 

「どうする?」

 

長門は無言。

 

「・・・行くか。」

 

とりあえず、ハルヒたちと逆の方に歩きだす。長門も無言でついてきた。

 

「長門、昨日の話だけどな」

 

「なに?」

 

「信じざるを得ないような気がしてきた」


 
「そう」

 

長門と会話を試みるも、成功とはいえない状態が続いた。昨日の夜同様にいたたまれない沈黙が・・・

どこか時間をつぶせる場所はないかと脳内検索をかけると、昨日の長門の部屋を思い出した。こいつは部屋を本で埋めるくらいの本好きだ。ということは、図書館あたりにいけばいいかもしれない。

 

「長門、この街の図書館へ行ったことはあるか?」

 

「ない」

 

ちょっと意外ではあったが、好都合でもあったので、図書館へ向かうことにした。

図書館に来るのは久しぶりというか・・・小学生依頼だったかもしれない。以前の記憶よりかなりきれいになっていた。
 
館内に入ると長門は、夢遊病患者のようにふらふらと歩いていった。とりあえず、退屈することはないだろう。読み終わるのに数時間は軽くかかりそうな分厚い本を手に取って、立ち読みをはじめた長門の様子を見てから、俺は手ごろな本を一冊みつけて、席に座り読み始めた。

 

『おーともないせかいにー』

 

やばっ!本を読みながら寝ていたらしい。しかも、携帯をマナーモードにするのを忘れて・・・自分の携帯の着ウタが流れたのに気づき、大慌てで携帯を取り出す。周囲の迷惑そうな視線に目であやまり、携帯を受けられる場所に向かう。

 

「何やってんのこのバカ!」

 

ハルヒの声がこだました。おかげで目がはっきりと覚める。

 

「今何時だと思ってるの!」

 

時刻を確認すると、4時をまわっていた。

 

「すまん、寝過ごした。」

 

「はあ!?なにやってんのよ、このアホンダラゲ!」

 

「すぐ戻る」

 

「30秒以内にね」

 

「長門とはぐれたんだ。さがしてすぐ戻る。」

 

「はあ・・・一分待つわ。すぐ来なさい。」

 

長門とはぐれたと言った後、なぜかハルヒの声に安心したような感じが混じっていた気がしたが、気のせいだろうな。

その後が大変だった。

長門はさっきの場所にいたんだが、

 

「まだ、読み終わっていない。あと、352ページ。2時間39分で読み終わる。」

 

多いって!てか、閉館時間は5時だ。

 

「その本は貸し出し禁止じゃない。借りていけばいいだろ?」

 

「借りる?」

 

どうやら、図書館で本を借りた経験はないらしいので、大慌てで図書カードの作成手続きをして、本を借りて・・・

駅前に戻ったときは4時30分になっていた。

 

その結果・・・おろおろする朝比奈さんと肩をすくめる古泉、そして、怒った顔のハルヒと合流し、

 

「遅刻!罰金!」

 

という託宣をいただいた次第である。財布が軽くなっていく・・・

最後に、朝比奈さんから、

 

「今日はわたしたちの話を聞いてくれてありがとう。」

 

という言葉をいただいたのが、まあ、最大の戦果だな。

長門の

「ありがとう」

という声も聞こえた気がするが、小さい声だったのでほんとうにそういったのか自信はない。

 

月曜日・・・朝からハルヒは不機嫌だった。

まあ、さわらぬ神に祟り無しということで、その日は声をかけるのは避けた。俺も考えることが多かったからな。

放課後、ハルヒは掃除当番に当たっていたので、部室には、古泉と長門の二人だけだった。朝比奈さんも不在らしい。

さて、最後の一人か・・・こいつもなのだろうか?

 

「古泉、お前も俺に涼宮のことで話があるんじゃないのか?」

 

古泉の口元の笑みがほんの少し意味合いを変えた。

 

「お前も、ということは、すでにお二方からアプローチをうけているようですね。」

 

図書館で借りてきた本を読んでいる長門の方を一瞥して答えた。まるで、何でもわかっているような表情が気に入らない。

 

「場所を変えましょう。涼宮さんに聞かれてはまずいですからね。」

 

古泉と俺は食堂の屋外テーブルに自動販売機でコーヒーを買ってから向かった。コーヒーは古泉のおごりだ。

 

「どこまでご存知ですか?」

 

古泉はすべてお見通しというような笑顔で質問してきた。

普通に答えるのはしゃくだが・・・

 

「涼宮がただものじゃないってことくらいだな。」

 

「それなら話は早い。その通りなのです。」

 

まあ、この返答は予想の範囲内だった。土曜日の会話でも人間は俺だけといわれていたからな。

 

「お前も『妖怪』とかいう存在なのか?」

 

「先に言わないで欲しいですね。それに、僕は人間ですよ。」

 

ほう、ちょっと意外だ。朝比奈さんたちの間違いだったのだろうか?

 

「ただし」

 

 そうきたか。

 

「普通の人間か?と問われたら『いいえ』と答えないといけないでしょうね。」

 

「どういう意味だ。」

 

「そうですね・・・今の僕は超能力者ってことになると思います。」

 

超能力者か・・・たしかにハルヒの望みの中にもあった言葉だな。

 

「『妖怪』と無関係か?という問いにも『いいえ』と答えますよ。僕に超能力と呼ぶしかない力を与えている存在は、『妖怪』とでも呼ぶべきものですから。」

 

そこで『妖怪』なのかよ。

 

「本当はですね。この段階で接触する予定ではなかったんです。しかし、あのお二人がこうも簡単に涼宮ハルヒと結託するとは思わなかったもので、急遽転校してきたら、涼宮さんに捕獲されたという次第です。」

 

ハルヒが虫取り網で古泉を捕獲しているイメージが浮かんだ。


「僕の所属しているネットワーク『機関』は涼宮さんをずっと監視していました。距離を置いてですね。彼女の力は危険ですから。」

 

ストーカーかよ。

 

「我々も必死なんですよ。自覚されていないとはいえ『神』の力というのは危険きわまりないものですから・・・」

 

 はあ?

 

「なんだ、その『神』の力というのは?」

 

「おや、まだ聞いていませんでしたか。涼宮さんに力を与えた存在、それは『神』という妖怪です。」

 

「・・・それは、貧乏神とか厄病神のたぐいか?」

 

古泉はやれやれという風に顔を横に振った。

 

「たしかに貧乏神という『妖怪』も存在しています。しかし、ここでいう『神』は違います。僕としては、それを『神』とは呼びたくないんですけどね。
しかし、それを表現する言葉は『神』しかないんですよ。数十億の人々がその存在を信じている唯一絶対の存在、それゆえに最強の存在だった『妖怪』・・・それが『神』です。」

 

とうとう、神様まで『妖怪』かよ?

 

「これは聞いていませんか?人がその存在を信じたら、『妖怪』が誕生すると。」

 

長門の本に書いてあった気がする。

 

「ならば、『神という妖怪』が誕生してもなんの不思議もないでしょう?」

 

 ふむ

 

「しかし、涼宮に力を与えた存在は滅んだんじゃないのか?『神』は死んだとでもいうのか、ニーチェが言ったように?」

 

「僕自身は3年前のことには直接関わっていなかったので、これは『機関』の仲間からの受け売りですが、涼宮さんに力を与えた『神』というのは旧約聖書などの神が妖怪化したものだったそうです。旧約聖書を読んだことは?」

 

「ほとんどないな。アダムとイブとか、ノアの箱舟とかその程度の知識だ。」

 

「それならわかると思いますよ。ノアの箱舟で神は何をしましたか?」

まわりくどい言い方だな。こいつの癖なのだろう。

 

「雨を降らせて洪水を起こし、ノアの箱舟に乗ったもの以外を絶滅させただったかな。」

 

「ご名答です。ある意味残忍な殺戮者だと思いませんか?動物を含めて自分が選んだもの以外を絶滅させる。『神』とはそんな存在だったわけです。」

 

「まあ、物語の上ではそうだな。」

 

「そこが重要なのです。そのような『神』の実在を人類が信じたから、『神』はそのように妖怪化したのです。」

 

わかるようなわからないような話だ。

 

「しかし、その『神』は滅んだと・・・」

 

「その通りです。考えてもみてください。我々が今現在イメージしている神は、どのような存在でしょう?人類を殺戮し、選んだものだけを天国へ送り、自分に従わないものを地獄へ送る。そんな存在をイメージしていますか?あなたは望んでいますか?」

 

「少なくとも俺は望まないな。」


古泉はうなずくと話を続けた。

 

「そういうことです。その結果、『神』は二度目の滅びを迎えた。しかし、強大な力を持っていた『神』はその力をこの世界に不満をいだく誰かに託し、世界を破滅させる最後の賭に出たのです。そこで選ばれたのが・・・」

 

「涼宮というわけか・・・」

 

「そういうことです。」

 

いつもの笑顔で古泉はうなずいた。その目に真剣さが垣間見えた気がした。

 

「さっきお前は、長門と朝比奈さんが涼宮と結託するのが都合が悪いような言い方をしていたが、どういうことだ?」

 

「それも簡単にご理解いただけるかと思いますよ。核ミサイルをどこかの一ヶ国だけが持っている世界があったら、その世界はどれほど危険だと思いますか?」

 

強大な力をどこかが独占してはまずいということか。

 

「今は僕たちの『機関』も、『バロウズ』も、『鶴屋家』も比較的友好な関係を結んでいます。それ以上にたちの悪い存在があるものですから。」

 

「なんだ、『バロウズ』というのは?」

 

「ああ、それもご存知でなかったですか。3年前の『神』との戦いにおいて重要な役割を果たしたネットワークの後身にして、長門さんが属しているネットワークですよ。」

 

なるほど、長門のいっていた仲間たちか。

 

「僕としては一番不思議なのがあなたの存在なのです。」

 

「俺がか?」

 

「その通りです。僕たちの『機関』も『バロウズ』や『鶴屋家』、おそらく対立組織もですが、お互いの存在を調べようとやっきになっています。知っている分有利になりますからね。しかし、あなたはごく普通の人間です。これは僕たちが保障します。」

 

うれしいような微妙な気分だな。SOS団内では俺だけが普通の人間というわけか。普通なら逆なのだが・・・

 

「そうではありません。『妖怪と妖怪は惹きあうもの』ですし、それは僕に力を与えている存在にしても同じです。しかし、あなたにはそんな存在は確認できない。それなのにSOS団にいて、しかも重要な存在となっている。これはちょっとした謎ですよ。」

 

たまたまってやつじゃないのか?

 

「神はサイコロを振らないといいますから。」

 

いやそれは否定されてるだろ。

 

「いずれにせよ、今お話したことは涼宮さんには話さないでください。まあ、話しても信じないとは思いますが、『神』は涼宮さんが間違ってもこの世界に満足してしまわないように、彼女の願望を実現しない、もしくは、実現していることを自覚させないという呪いをかけているらしいのです。」

 

やっかいなものだな。

 

「ふたつ質問していいか?」

 

「どうぞ」

 

「涼宮の力がそれほど危険なら、涼宮を消すとかという方向に流れてしまいそうなものだが・・・」

 

「そのような強硬意見や世界の破滅をむしろ望む存在もいます。しかし、それでは『神』のおもうつぼと僕たちは考えています。
涼宮さんは今は潜在的とはいえすさまじい力を秘めています。僕たちとしては、爆弾の解体に自信がない以上解体よりもその力が潜在状態で維持されることを望んでいるわけです。」

 

「ふたつ目だが、お前は超能力を持っているといったが、それなら、証拠をみせてみろよ。例えば、この冷めたコーヒーを温めるような。」

 

その問いも予想していたかのように古泉は肩をすくめてみせた。

 

「申し訳ありません。超能力者ではあるのですが、超能力の矛盾も同時に持ってしまっているのです。

観測条件下などでは超能力は使えないのです。例えば、ほら、そこの監視カメラとかね。

わずかでも超能力が記録に残る可能性のある場所では使えない。それが僕の超能力の欠点なのです。
僕に力を与えた存在がそのように生まれたためだと思われます。カメラ付き携帯電話には参りました。
おかげで超能力が使える場所なんてほとんどありませんから。」

 

しょうがないので、冷めたコーヒーをのどに流し込んだ。たしかに冷めたままだった。

 

「そうそう、『機関』でこの学校の監視を担当しているのは僕だけではありません。その人の能力ならお見せできますよ。」

 

ほう、みせてもらいたいものだ。

 

「それでは先に戻っていますね。多分、すぐにわかると思いますよ。」

 

特になにをするでもなく、古泉は部室の方へ歩き去っていった。何がわかるというのだ?と思いながら、紙コップをくずかごに捨てようとしたとき、紙コップがきれいに真っ二つになっていることに気づいた。

 

おいおい、なにがおこったんだ。カマイタチでもあるまいし・・・

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