「寝ぐせ」のキョン視点です。


「じゃあねキョンくん、行ってきま~す!」
「おう、車に気をつけるんだぞ」
「は~~い!」
 こういう所は素直なくせに、なぜ朝の目覚ましプロレスと”キョンくん”は素直にやめてくれないのだ妹よ。
 そんな妹も、来年は中学生。
未だに想像出来んな、こいつの中学生姿は。
制服姿をどう想像しても、やはり小学生にしか見えない。
本当に中学生になれるんだろうか?
 だがああ見えて、物怖じしない所がある。
初めてハルヒ達と会った時もすぐに打ち解けてたし、妹なりにうまくやっていけるだろう。
あいつの美点の一つだ。
 でも中学に上がると、部活やらなんやらで時間が不規則になるな。
そうなるとこうして途中まで一緒に登校するのも出来なくなるか。
同じ屋根の下にいながら顔を合わす時間も減るだろうし、
普段はうるさい位にまとわりついてきてたのが無くなるとなると、
それはそれで一抹の寂しさが沸いてくる。
 ま、これも妹が成長する過程で必要な事だ。
これを機に少しは兄離れしてくれる事を切に願おう。
 だがな妹よ、一つだけ言わせてもらうぞ。
 決して擦れた人間になるなよ。
悩みや相談事があれば聞いてやる。
もちろん親に言えないような事も秘密厳守で受け付けてやるぞ。
まぁ、解決出来るかどうかは別だが…とにかく聞く事は出来る。
だれかに聞いてもらうだけでも、案外スッキリするもんだからな。
 だから今まで通り、素直なままでいてくれ。
積み木を崩すような事があれば、お兄ちゃんは本気でいくからな。
…ただ一つだけ頼みだ。
いい加減「キョンくん」はやめてくれ。


 高校に入ってからというもの、五月は特別な月になってしまった。
 それまではゴールデンウィークしか特色を見いだせなかったこの月に、
俺はSOS団という超独裁的治外法権組織に強制参加させられ、
そこでどこかの教授が徹底的に否定しまくるような属性を持つ三人と
邂逅し、
そして絶対的権力者と自負する団長と不思議空間でキス…
ゲホッ、ゲホッ。
 と、とにかく…ということはもう一年になるんだな。
…俺の日常が壊れだしてから。
 今日あたり、あのイベント好きの記念日好きの、
とにかくなんだかんだ口実をでっち上げてみんなと騒ぎたいだけの我が団の団長さまが、
やーのやーのと唾を飛ばしながら捲くし立ててきそうだ。
…やれやれ。
 

 この坂にもすっかり慣れちまったもんだ。
人間の環境適応能力は侮れん。
 そのうち宇宙へも、ちょっと友達の家に遊びに行く感覚で行けるようになっちまうんだろうな。
そうなったら、長門の親玉んちへも遊びに行ってやるか。
…いろいろと言ってやりたい事があるしな。長門を通さず直接に。
そん時は、ハルヒのやつも連れてったらどんな顔するか見物だぜ。
…顔があったらの話だが。
 そういえば…
朝比奈さんの時代では、もうお手軽に宇宙旅行など行けてるんだろうか。
時間を跳べるくらいだから、ちょちょいって感じで行けるんだろう。
そうか…身近にいたんだな、その手の事を知ってそうな人物が。
でもま、『禁則事項で~す』で片付けられちまうのがオチだが。
 そんな未来人でなく、現代人の中では俺は飛び抜けた存在と言えるだろう。
自信をもって言えるぜ。
 なにしろ宇宙人、
未来人とすでに一緒に付き合ってるんだ。
超能力者?そいつはすでに昔からいたじゃないか。
だがまぁ入れてやるか。うちのは特殊だからな。
 そんな連中と一年も付き合ってるんだ。
しかもこっそり世界を守りながら。
 誰かこんな俺に感謝してほしいもんだぜ。
賞の一つくらい授けてくれてもいいと思うぞ。
それならやはりノーベルさんだろう。賞金が一億だったか。
それだけあれば今までの損失補填プラス天寿を全うするまで奢り続けられるぞ!
…ておいおい、他に使い道がないのか俺?
 やれやれ、すっかりSOS団が生活の一部になっちまってるな。
壊された日常が、ありふれた日常に取って変わっちまった。
ま、はっきり言って…楽しいから構わないんだが。
これも環境適応能力のなせる技だろう。
そんな人類に創ってくれた神様に感謝だ。
 …神様?
この一年、俺は未だに信じちゃいないが、この単語を聞くとどうしてもあいつの笑顔が…
…ん?今誰か俺を呼んで…
 バシンッ!
どわっ!!
……痛ぇーじゃねーかっ、誰だっ!
て、ハルヒ?
 なんだお前か…朝っぱらから何すんだよ、まったく。
今のは挨拶のつもりか?
お前のは挨拶の度を越えてるぞ。
 …はぁ?誰に感謝しろだと?
冗談じゃねぇ。背骨の軋む音が聞こえる位ど突かれて感謝する人間が、
どこにいるって言うんだよ。
ちっとは手加減て言葉を学習しろよ、お前は。
 …だがそんなお前だからこそ、今ここに繋がってるんだよな。
なぁ、ハルヒ。
 お前のあの自己紹介の時から、俺の日常はこんなにも変わっちまったんだ。
このままでいいんだと思ってた日常が、ここまで面白くスケールアップ出来るんだって事をお前に教えられたよ。
もしハルヒに会わなかったら、こんな日常なんて米粒ほども思わずに
日々を平々凡々と、ただ享受し続けるだけだっただろう。
 だからそういう点ではお前に感謝する。


 ありがとうな、俺を巻き込んでくれて。


 それにしてもハルヒのやつ、やけに元気だな。
そんなに飛び跳ねてると…見えるぞ。
 いったいどうしたんだハルヒ、なんで朝からそんなに元気なんだ?
…ん?なんだそれ?それは俺に当ててみろというクイズか?
 いくら長門で鍛えられた俺の表情読みとり能力でも、
その普段の三割り増しの極上スマイルだけじゃわからんぞ。
また何かよからぬ事でも企んでるんじゃないだろうな。
 にしてもこんな時間に、こんなシチュエーションでハルヒに会うのは初めてじゃないのか?
これは何かの前兆か?
それとも今日の俺の運勢を暗示するイベントなのだろうか。
 もしそうだとしたら、俺の今日の運勢は決まったようだ。
 良くも悪くも、ハルヒに振り回される、とな。
…て、結局いつもと同じじゃねえか。
 ま、期待してるぜハルヒよ。
お前が変に暴走しないように俺達が付いてってやるから、
程々に暴れてみろ。


 なにしろ俺だって、楽しいんだからな。


 …おいハルヒ、頭の上に何か立ったぞ。
それって…妖怪アンテナか?
まさかっ…!


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