『梅雨空に舞う雪』

 

 

 

○ エピローグ

 

梅雨明け十日、とはよく言ったもので、ここ数日はかぁーっと晴れの日が続いている。もう夏休みだというのに、「どうせ暇でしょ、いつものように部室に集合よ」というハルヒの命令で、毎日のように律儀に冷房などない部室に来ているんだから、俺たちってどこまで人がいいのやら。

地獄のハイキングコースで大汗をかきながら普段より少し早めに部室に着いてみると、そこにはこの灼熱の部室でも汗ひとつかいていない長門が、涼しい顔をして厚い本を読んでいた。

「よぉ、暑いなぁ」

「外気温は三十三度、室温は三十一度」

「そ、そうか。中の方が低いのか」

「直射日光がない分だけ」

お前は何度超えると暑いと感じるんだ? という疑問を感じつつ、俺は窓辺に立って遠くに浮かぶ入道雲のでき始めのような白い雲の塊を見つめていた。

「こう暑いと夕立のひとつでも欲しいもんだな」

「今日も大気の状態は安定している。夕立はない」

「そうか、それは残念」

「残念」

夕立の雨が待ち遠しいことを話していると、雨とともにやってきて、雨と共に去っていった液体宇宙人のことが思い出された。

ふと振り返ると、長門が読書している後方の壁には、五人のメイド服の美少女たちが並んだ真新しい写真が貼られている。その中央には、今日のような快晴の笑顔で微笑むこゆきの姿が輝いていた。

 

そのメイド達と大騒ぎした翌日、梅雨明け宣言が出た日、こゆきが急遽両親の元に帰ったと聞かされたハルヒは、

「だから、どーしてあたしに知らせないの!」

と、団長机を叩いて怒っていた。

「本当に急なことだった。こゆきも残念がっていた。ごめんなさい」

深々と頭を下げる長門の姿に、

「いいわよ、有希、頭をあげて。事情はわかるから……。その代わり、今度こゆきちゃんが帰ってきたら、真っ先に知らせなさいよ」

そう言ってハルヒも納得したように、にっこりと笑った。

「それより、みんなで行こうかしら、ジンバブエだっけ? 何か不思議がありそうなところじゃない?」

などと恐ろしいことを言い出したのには驚いたね。

朝比奈さんと古泉には俺からそっと実際のところを説明しておいた。二人とも激しく残念がっていたこと事は言うまでもないことだ。

 

俺は、写真の中で微笑むこゆきから、再び窓の外、空の彼方に視線を移した。

「……こゆき、元気かな」

「彼女は彼女達に適した場所に行った。問題はない」

背後から長門が答えてくれた。

「俺たちのこと、覚えていてくれるだろうか」

「わたしたちが彼女のことを忘れることがないように、彼女もわたしたちのことを忘れることはない」

「そうだな」

「そう」

パタンと本が閉じる音がして長門は読書を中断すると、俺の隣に立って一緒に青空を見上げている。遠くを見つめる長門の少し哀しげな横顔に、にっこり微笑むこゆきの横顔がオーバーラップして一瞬どきりとした。

「またいつか逢えるだろうか」

「きっと逢える。大丈夫」

長門が大丈夫と言うなら、それは二百パーセント大丈夫と言うことだ。

 

突然降り出す大粒の雨の中から、こゆきがひょっこり現れるような気がして、俺は、ますます夕立が待ち遠しくなった。

 

 

Fin.

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