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―――夜明け、差し込む朝日―――


カーテンの無い部室は朝の日差しを直に私達に届ける。この部室であれだけ過ごしておいて、あればよかったものがまだあったなんて驚きだ。
この部室を手に入れたのは三年前の四月のハレの日で、それから何百ものハレの日とアメの日を迎えた。今思い返してみてもまるで遠い昔の出来事のようだ。いったい本当はどれくらいの時間を過ごしたのだろうか…。

 

ここでため息をひとつつく、過去の事を思い返すのは昨日やり尽くしたじゃないか、もうやめよう。それよりまだ片付けきれていない部室をどうにかしなければ。立ち上がり、少しよろける、昨日の慣れない酒がまだのこっている。アイツはまだ空きカンが散らかった机に倒れ込んで寝ている。

 

私は壁に掛かった陽気な顔で笑う太陽のオブジェに手をかけ、そっと持ち上げる。焦げ茶の黒板の枠のそこだけが少し色が薄い。

 

不意に視界がぼやける―そうか、それだけの時間が―頭の中で思い出が渦を巻き頭の中をいっぱいにする。その少しズレたオブジェの隙間から思い出が漏れ出している気がしてすぐに元の位置に戻そうと思った。しかし細かい細工の施されたオブジェは先ほどまでのバランスを失い、元の位置にぴたりと戻ることはなかった。

 

右に持ち上げれば左が、左に持ち上げれば右が、

戻れっ、戻れっ―――思い出は戻らない―――

とまれっとまれっ―――思い出は止まらない―――

 

いつしか、自分の目からも“オモイ”が零れ始める。アイツを起こさないように嗚咽をかみ殺す、溢れ出る“オモイ”が私を押し流す。その場に崩れるよう座り込み、顔を押さえる、涙よとまって。

 

 

 

昨夜、アイツは何も言ってはくれなかった。
私の留学送別会の後、アイツだけ理由をつけて呼び止めた、もちろんみんなには気付かれないように。

 

押し黙る二人に空き缶だけが増えていった。彼に伝えなければ―――開口の瞬間、彼の濁らない瞳に射抜かれた。その瞳が何を言おうとしたか、私には分かった。彼は取り計らってくれたのだ私が上手に後悔できるように、そういう人だとは十分わかっていた。

 

そのまま二人はひたすらに黙り込んだ。徐々にアルコールに逆らえなくなりながら、私は思う、この愛が流れても良い、今という瞬間が続けば と。

 


ねえ、嘘をついて
最後だけ本当の嘘をついてよ

私が嫌いになったって

 

 

 

先ほどから漏れ聞こえるアイツの嗚咽に俺の意識は覚醒していった。

 

昨夜、欠くした一言を言わせてしまえばアイツは自分で歩けなくなる、言わせなくて正解なんだったんだ。自分言い聞かす。

 

泣きたいならアイツがいなくなってしばらくしたら泣けば良い、ましてや向こうの先生からのお呼びにあんなに輝かせていた瞳を曇らせることだけはしてはいけないんだ。弱気になんてならないで欲しい、いつでも胸を張っているお前でいてくれ。

 

伝えたい“オモイ”を互いに持っていたのは知っていた。だからこそ、俺は寝たフリをするんだ。今アイツの肩を抱いたら引き止めてしまう。突き放すことも、引き止めることもできないちっぽけな俺は静かに泣いた。

 


なあ、嘘をついてくれ
一度だけ心からの嘘をついてくれよ

すぐに忘れてしまうって

 

 

 

 

 

 

 


ねえ、嘘をついて
最後だけ本当の嘘をついてよ

私が嫌いになったって

 


なあ、嘘をついてくれ
一度だけ心から嘘をついてくれよ

すぐに忘れてしまうって

 

 


 

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