涼宮ハルヒが泣いていた。

まっすぐ前を見つめてさびしそうに泣いていた。

 

 

______4月19日 卒業式

 

おかしい。卒業式が普通に行われている。去年の朝比奈さんの卒業式では、いや朝比奈さんが出るはずだった卒業式には朝比奈さんはでれてない。ハルヒの情報改変能力のおかげ、いやせいで、朝比奈さんの成績が三学期になって急に悪くなったのだ。朝比奈さんはそれがハルヒの力だとわかるまでわけがわからず部室にも来ないで必死に勉強していた。だがハルヒのだと知ってからは「規定事項だからしょうがないですねぇ」なんて、笑顔でやけにあっさり諦めた。おかげで、いやせいで朝比奈さんは留年。ちなみに鶴屋さんは無事卒業した。ハルヒなりの遠慮のあらわれなのか?ハルヒは笑みをこらえるようなつくり悲しみ顔で「そう。・・・それは残念だったわね。でも、よかったじゃないみくるちゃん!これでもう1年SOS団でいられるわ!」「ふえぇ・・あ、はい!」

なんだか本当にうれしそうに見えたのが記憶に残っている。

 

それから早1年。俺達の卒業式ってわけだ。朝比奈さんは「ふえぇっ」とか「ひぐっ」とか嗚咽をもらしながら大泣きしていた。驚く事に古泉も整った顔立ちを台無しにして泣いていた。そしてもっと驚く事に長門の黒い目の下あたりが濡れていた。おい、長門それは汗か?俺には涙に見えるぞ。長門は入学当初から比べるとホントに変わった。蟻の成長ぐらいの変化なのだが俺には分かる。いつか本当に普通の人間になれる日も遠くないのかもな。長門、俺はこころからそれを望んでいるぞ。

 

そして俺はハルヒを見た。どうせ偉そうな顔をしてふんぞりかえってるんだろう。そう思った。

 

涼宮ハルヒが泣いていた。

まっすぐ前を見つめてさみしそうに泣いていた。

 

俺は呆然とした。俺はハルヒの前の列にいるのだが後ろを向いたまま呆然としていた。どれくらいそうしていただろうか。谷口が俺のわき腹をこずく。「何にみとれてんだ。馬鹿野郎。卒業式ぐらいシャキッとしろ。」あぁ、谷口まで泣いているのか。「うるせえな。いいから前向け」谷口はハルヒの涙にきずいてないようだ。ハルヒよ、それではまるで普通の女子高生みたいじゃないか。

 

卒業式が終わり俺達は今、部室にいる。部室の片付けをしなければならなかったのだ。自然とみんな無言だった。

 

長門によるとハルヒは昨日、情報改変能力を失ったらしい。同時に時間断層もなくなり、閉鎖空間の出現もなくなった。急なことだった。これで朝比奈さんは未来に帰る事になり、古泉のアルバイトもなくなった。長門はどうなるんだろう?まさか消えたりしないよな。ハルヒには朝比奈さんは海外に引越しすると説明したが、ハルヒは最後の最後まで絶対にゆるそうとしなかった。今も許してない。ハルヒと俺と古泉はそれぞれ違う大学だ。ハルヒは最後まで俺と古泉をを自分の志望校に入れようとした。古泉はまだしも俺が無理だとわかったら今度は自分と古泉がが俺の志望する大学に行くと言った。

まったく古泉の意見も聞かずに。まあ、イエスマン古泉は必ずいいえなどと答えないだろうが。おれは自分のために2人が志望校を落とすなんてことはして欲しくなかった。俺が真剣に説得すると。ハルヒは意外とあっさり了承した。古泉も「あなたがそういうならしょうがないですね」とそれぞれ別の学校に行く事になった。寂しいがしょうがない

 

俺はコンピ研から強奪したパソコンをコンピ研の部室に返すために持ち上げた。軽い。そういえば最新機種だったなコレ。今はどうか知らんが。俺の目の前にパソコンを強奪してきた遠い日の思い出がフラッシュバックしてきた。あれからもう3年か。なんだか熱いものかこみあげてきそうになった。まずい、ココで泣いたりしたらハルヒになんと言われるか。俺は必死にのんきな顔のシャミセンをイメージして涙をこらえる。

長門はハルヒに命じられてスツールに収納された朝比奈さんコスチュームを片付けていた。本棚を崩壊させんばかりに溜まっていた本は1ヶ月ぐらいまえから少しずつ長門が持って帰っていて、自分のやる仕事は片付いていたためだ。長門は朝比奈さんのいわば正装であるメイド服を持ち上げて自分にあてて鏡を見ている。長門、お前着たかったのか?長門は俺が見ているのに気がつくと首を振って見せた。否定してるのか。顔がこころなしか赤くなってるぞ。長門はメイド服をみくるちゃんと書かれたダンボールに入れた。

朝比奈さんは給湯道具一式を大事そうにダンボールにつめていた。俺が見ているのに気がつくと、微笑んでくれた。ああ、朝比奈さんのお茶も飲めなくなるな。また体のどっかから熱いものがこみ上げてくる。この野郎っ。俺はシャミセンがケツを掻いてる姿を思い浮かべ必死に涙をこらえた。

古泉はオセロ、碁、チェス、野球版、TRPGなどのボードゲームを自分の名前がかかれたダンボールにしまっていた。俺が見ているのに気がつくといつものニヤケ顔を見せてくれた。ほお、俺はこいつのニヤケ顔にまで未練があるとはな。いざ見られなくなると思うと寂しい。おっとシャミセン、シャミセン。

ハルヒは窓の外をずっと眺めていた。団員に仕事させてなにしてやがる、といつもなら言いたい所だがハルヒの涙を見た後じゃ気が引ける。よくみるとハルヒは団長と記された三角錐を両手でつかんでいた。おまけに目を閉じていたからその姿は何かを願うような姿に見えた。「何見てんのよ。はやく働きなさい」ハルヒはしかめっ面でそういうと、三角錐を自分の名前が書かれたダンボールのなかに大事そうに入れた。ハルヒのダンボールの中は物は少なかった。団長と記された腕章、三角錐、そして写真。写真にはみんなの笑顔がうつっていた。なんだ俺も笑顔じゃないか。なんだかんだいって楽しかったもんな。3年間。思えばハルヒのおかげだ。

「ありがとな。ハルヒ」

「なによ。いきなり」

「SOS団なんてわけのわからん団体に無理やり巻き込んでくれてありがとな、っていったんだ」

「・・・・・」

「お前のおかげで3年間楽しかったぞ」

ふときずくとみんなハルヒを見ていた。

「私も感謝している。」

「涼宮さんいままでありがとうございましたぁ」

「最初はびっくりしましたが、僕も楽しかったですよ。SOS団でのことはかけがえのない思い出になりました。これも涼宮さん、あなたのおかげですよ。」

最後の最後までかっこつけやがって。俺ももっとセリフを考えればよかったなどと考えてると、ハルヒが急に声をあげて泣き出した。

「うぇーん、えぐっ」

おい、ハルヒ?

「イヤだよぉ!もっとみんなと一緒にいたいよぉ。今までありがとうなんていわないでよ!」

ハルヒ・・・・。

俺は正直ハルヒにかけてやる言葉が見つからなかった。でも、残念だがハルヒの観察が終わった二人、長門と朝比奈さんはここにいることはできない。

「ハルヒ、俺の話を聞いてくれ。長門と朝比奈さんとは理由があってもう会えないだろう。俺も必死で抵抗した。そんなの嫌だからな。でも、どうしても無理だそうだ。」

 

数時間前 卒業式終了後―――

 

「長門!あっ、朝比奈さんも来てください。古泉お前もだ。」

俺たちは階段の踊り場・・そう、よくハルヒに連れてかれた階段の踊り場で集まった。

「順番に聞こう」

「まず長門だ。お前はこれからどうなる?」

「私は涼宮ハルヒの観察のために存在することが許されていた。その必要がなくなった今、私の存在意義はなくなった」

「それは違うぞ!長門・・・お前は、ハルヒの観察だけのために俺たちと一緒にいたのか?」

「それは違う。わたしは涼宮ハルヒの能力の有無に関係なく、”ここにいたい”と望んでいる。」

”ここにいたい”その言葉がなによりも嬉しかった。

「しかし、情報統合思念体はそれを許さなかった。

涼宮ハルヒ以外にも、つまり地球以外にも観察対照はある。私はその観察任務に配属される」

「嫌だ!そんなことは俺がゆるさねえぞ。長門の意思を聞いた以上俺がなんとかして・・」

「不可能。人間個人が情報統合思念体に対立することはつまりその人間の抹消を意味する。わたしはあなたに消えて欲しくはない」

俺はあれほど悩まされたハルヒの情報改変能力が惜しいと思った。

ちくしょう。俺にはなにもできないのか・・・。

散々長門に俺が守るだの言っておいて・・・。

「あなたに一つ言いたい事がある。」

「・・・何だ」

「ありがとう。これは情報統合思念体関係なく、私個人の気持ち」

 

俺は涙をこらえることで精一杯だった。

 

「キョン君・・・」

「あのう・・・わ、わたしもこの時間に留まることはできません。わ、わたしも未来に何度も申請しました。でも、無理みたいです。わたしも別の任務にあたることになりました・・・。ひぐっホントはずっと、ずっとここに居たいんですけど、無理なんです。もうすぐ強制帰還指令コードが来ます、ひぐっあたしもっとみんなと・・・ひぐっ」

「朝比奈さん・・・もうわかりました。俺も赤ん坊じゃないんです。無理な事とそうではないことの区別はつきます」

「キョン君・・・ありがとう・・・」

「古泉、お前はどうなんだ」

「僕は超能力が失われました。そして機関も今日で解散です。でも、僕はもともとこの世界、時間にいた者ですから今までどおりここにいます。これからもあなたと涼宮さんとは仲良くして頂くつもりですよ」

「そうか・・・それはよかった・・・本当に」

俺は泣きそうだった。てっきり古泉ももといた場所に、つまり引っ越す前の場所に帰るもんだと思っていたからだ。さてハルヒにどう説明すればいいんだ・・。

 

――――――

 

「嫌だ!あたしは誰も離れていってほしくない!」

「ハルヒ・・・」

「嫌って言ったら嫌なんだからね!」

「ハルヒ、思えばいろんなことがあったよな」

「・・・・なによ。こんな時に」

「SOS団での活動は今日でお終いだ。だがな、俺たちの頭にはSOS団での活動が思い出となって、頭にのこるんだ。二度と忘れないような事いっぱいあったろ?それでいいじゃないか」

俺は嘘をついていた。それでいいわけない

「思い出は永遠だ。消えることなんてない」

「・・・・なによ。似合わないこといっちゃって。あんたうそついてるでしょ。」

「嘘なんかついてないさ」

「じゃあその涙はなによ!」

俺は泣いていた。そりゃそうだ。大変な事がいろいろあったが俺は正直楽しかったんだ。

「嫌だ!あたしは絶対に嫌だからね!あたしは・・・あたしは・・・・・・・」

 

 

 

「SOS団が大好きなんだから!」

 

 

 

 

なにか大きな力が溢れ出すような感覚を覚えた。

 

 

 

「涼宮ハルヒの情報改変能力が復活した」

「えっ?本当か?!」

「本当」

長門がうれしそうにしている。

今度は朝比奈さんが泣き出した。

「うぇーん!えぐっ、また時間断層が・・えぐっ・・発生しましたぁ・・えぐっ。あたしもっとここにいられます!本当によかったぁ」

「閉鎖空間が発生しました。しばらくまた忙しい日々が続きそうです。」古泉はやれやれと肩をすくめてみせた。嬉しそうじゃねぇか。

「えっ?みんな何いってんの?」

ハルヒは泣き顔でわけのわからない顔をしている。

「ハルヒ!俺たちはもっと一緒にいられるぞ!まだまだSOS団はこれからだ!」

「えっ?!ホント?・・・やったぁ!!!」

ハルヒは飛びあがって俺にアッパーを食らわせた。

「やっぱりこうなるとおもってたわ。そうよSOS団は永遠よ!」

「本当に良かったなぁ・・ハルヒ」

「わぁキョン君が泣いてるぅ」

「おやおや、めずらしいですね」

「何?キョン泣いてんの?!あははおっかしい!」

 

長門によると、ハルヒがこころからなにがどうなってもSOS団が続いて欲しいと願った事から、ハルヒの情報改変能力が復活したらしい。そのあとは大変だった。大学がつぶれるやら、合併するやらでみんな同じ大学に行く事になったのだ。

まあなんとハルヒ様にはかないません。

ハルヒは大喜びし、もちろん俺も大喜びした。

 

そして入学式―――――

 

桜が舞う中入学式びよりだった。

そんななか当然のように俺の後ろの席にいるハルヒは自己紹介でいうのだった。

 

「北高出身 涼宮ハルヒ」

まえとまったくおなじだ。いやひとつ違うハルヒは笑顔だった。そして俺も

「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしのところに来なさい。以上!」

 

その後の俺の生活が充実したものになるだろうということは誰でも予想できるだろう。さて、まずは学校に提出する書類を書かなきゃな。やれやれ

 

「キョン!SOS団発進よ!!」

 

――――― 完

 


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