…さて今の状況を説明しなければならない。こういう時はまずいつ・どこでを明らかにするのが正道だろう。
放課後、文芸部室だ。大体のイベントはここで我らがSOS団団長によってもたらされるが、
今回ばかりはハルヒも原因のほんの一端を担ったに過ぎず、
本日のイベンターの言葉に元々規格外にデカい口と目を更に拡張している。
つまり驚愕してるって事だ。
かく言う俺も予想だにしなかった真相に驚きを隠せない。
落ち着いて見えるのは…トンデモ三人組だけだ。
今回のゲスト、鶴屋さんは大口開けて爆笑しているから落ち着いてない方に分類するべきだろう。
三人組?朝比奈さんは卒業しただろう?
ごもっともな指摘だ。だが、卒業したからといって涼宮ハルヒが彼女を解放すると思うかい?
SOS団専属メイドたる彼女は団活には自由参加でいいとの辞令を受けながら、定期試験の時期以外はここで給仕してくれている。
しかし、それにしても朝比奈さんが落ち着いているのは不思議としか言いようがないね。
こんな状況ではあたふたとするのが彼女の役割で、それを微笑ましく眺めるのが俺の…
早く状況説明しろって?俺もまだ驚愕状態から回復してないんだ。勘弁してくれよ。
…隣に立っている奴の真っ赤な顔を見るのはどうも落ち着かん。
ともあれ、『発端』はやっぱりハルヒだ。こうなる事を意図していなかったにしてもな。
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鶴屋さんの事を考えながらキョンや谷口の話を聞けるくらいまでの心の余裕を得た僕は、
谷口の追求を受け流し、キョンの妙な視線(何か疲れてるような…)を気にしつつ弁当を食べていた。
ねぇキョン、おととい自分が言ってたじゃない、笑顔は敵を減らすってさ。
僕は身を持って知ったんだ。鶴屋さんの笑顔のわけ、大事な事は行動で示す…ってこと。
「あ?そんなに不機嫌な顔してたか」
「不機嫌ってより、疲れ切った顔ってところだな。ま、涼宮に関わっていたらそうなるのも無理はない」
ふふっ、今キョン少しムッとした顔になった。すぐ取り繕うように疲れ顔に戻ったけど。
映画の時もそうだったし、キョンは涼宮さんがけなされるとすぐ怒るんだ。そういうキョンはかわいいと思う。
「あー、国木田。ニコニコしてる所に悪いが非常に…ヒジョーに残念なお知らせがある」
な、なんだろ。いきなり僕に話題が振られるとは思わなかったな。
「うぅむ…言いにくい、いや言いたくないのだが…その、だな」
「おいキョン、まさかお前…ホモだったのか?」
「何を的外れな事を言ってるんだお前はアホだな」
僕も谷口はアホだと思うけど、正直今のキョンの雰囲気は
何だか谷口の言うような重大告白をしようとしてるようにも見えた。
ねぇキョ…
「ちょっとキョン!あんたまだ伝えてないの?」
恐る恐る先を促そうとした僕の言葉は、彼女に…涼宮さんに完全遮断された。
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涼宮のヤツは俺達の食事の場に乱入してきていつも通りの命令口調で国木田に告げた。
「放課後、部室に来なさい!」
「部室って…」
「SOS団の部室!」
「で、でもどうして…」
「ウダウダ言わないで来るの!いいわね!」
ってな感じでな。恐らくキョンの野郎はこれを国木田に言えと命令されていて中々言い出せずにいたんだろう。
くだらねー。キョンも国木田も情けないぜ。いつまでもあの女の言いなりになってるといい。
「わざわざハルヒが教室を出るのを待ってやっとひねりだした言葉がそれか」
ぐっ…
「まぁまぁキョン、谷口は自分が呼び出されなかったのが寂しいんだよ」
そ、そんなわけあるか!俺は忙しいんだよお前らのように浮かれてる場合じゃねーんだ!
と言ってみても二人は弁当もぐもぐしてるだけだった。
…しかしよく考えたら池に落とされたり野球やらされたりエッセイ書かされたりはしたが
あの部室に入ったことはない…
チキショーめ俺だってあの美少女の巣窟に行きてぇよ…!
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谷口の恨めしそうな視線とキョンの「来たくなければ来なくてもいいぞ」という言葉を受けながら
昼休みは過ぎていった。キョンはそう言ってるけど、僕は行くつもりでいる。
行かなかったら涼宮さんに何を言われるか分からないし、
SOS団の脇役として借り出される事はあっても部室に入ったことはないから
行ってみたいっていう好奇心もあったからね。
それにしても一体何の用なんだろう。僕、宇宙人でも未来人でも異世界人でも超能力者でもないのになぁ。
あ、そういえばキョンも普通の人間だよね。
何だかんだ言っても涼宮さんは気に入ってる人を集めただけなのかな。
でも僕、自分で言うのもなんだけど…っていうか悔しいけど
涼宮さんに気に入られるようなタイプじゃないと思う。
んー…まぁ気にしてもしかたないかな。谷口には申し訳ないけど、とりあえず楽しみに待ってよう。
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「先に行ってるからちゃんと国木田連れてくるのよ!」
そうキョンに言うと涼宮さんは猛スピードで教室を出ていった。
僕には聞こえないように言うべきセリフだと思うけどな。
キョンの心地良さそうなうんざりした表情が面白い。
じゃキョン、いこっか。
「…お前、本当にいいのか?具体的にはわからんがかなり面倒な事になると思うぞ」
僕は今まで涼宮さんに関わったイベント事は全部楽しかったよ。
「あのな、今回は今までと違ってだな…」
「じゃあなキョン!じゃあな国木田!」
キョンの言葉は谷口のトゲトゲした別れの挨拶で遮られた。
キョンがお決まりのセリフを吐いて歩き始めたから、黙ってついていくことにする。
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ふふふふふっ…あたし、サプライズを仕掛けて待ってるこのひと時がたまらなく好きなのよね。
今日は超ビックリのゲストもいるし、キョンや国木田のアホ面が見られるはず…
笑顔が抑えられないわね…ふふふっ。
あっ、足音が聞こえてきたわ…みんな、まだ静かにしてるのよ。
しーっ、というあたしのジェスチャーにみんなが従ってくれる。
ドアノブが回転して…
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「ようこそSOS団部室へっ!」
ドアを開けた途端涼宮さんの大声が襲ってきた。それにももちろんびっくりしたんだけど、
本当に僕の口を無理やり開けて閉じさせなかったのは別の事だった。
な、なんで…
何で鶴屋さんがいるの!?
しかも北高の制服で…
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