どういう事よコレ…国木田のヘコミ→ニヤケの謎を追って来たってのに、
あいつただ一人キャンパスツアーしてるだけじゃない…!
つっまんないわねー…ちょっとキョン何か面白いこと言いなさいよ。

「何言ってるんだ…真面目な国木田の事だから、今日こうしてキャンパスに来れるのが嬉しくてニヤついてたんじゃないのか?」

…そうかもしれない気がしてきたわ。勉強だけが取り柄みたいな奴だしね。
文芸部の会誌の時だって退屈な原稿だったし、
「それはお前が指定したんだろ?」
わかってる!あたしはただ、退屈だって言ってるの!今この時間が!

「そうかい…それじゃあ俺達もキャンパスツアーに予定変更するか?何だかんだで俺達も受験生だ。
俺は正直いち早く動いている国木田を見て焦ってるぜ」

ん、これはキョンにしてはいいアイデアかもしれない。

…仕方ないわね。あんたがいいなら別にいいわよ。

「…やれやれ」

何よ!

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その後、あたしとキョンは国木田の尾行をやめてキャンパス内の探索をし、ご飯を食べて帰った。
なぜかキョンといる時は落ち着かなくてわかんなかったんだけど
家に帰ってから気付いたのよね。あそこ、確か鶴屋さんが行った大学だわ。

…いい事思いついた。

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教室の前で鶴屋さんがぶんぶん手を振っている。嬉しいんだけどちょっと恥ずかしい。

小走りで近づくと鶴屋さんの笑顔は明度を増した。
その表情を見ると幸せなのはもちろんなんだけど、尊敬の念すら感じてしまうよ。
僕は一人でいる時は自信満々で、思い出し笑いっていうか想像笑いで気持ち悪い笑顔を浮かべてるみたいだけど
鶴屋さんの近くにいるともうダメだ。ドキドキしてガチガチに緊張してしまう。不安になる。

「やっ♪今日は学校あったでしょっ?着替えてから来たんだねっ」

授業に潜入するっていう話だったから…

「はははっ、別に大丈夫っさ。おっきい教室だからねっ」
鶴屋さんの言う通り、僕達の前にあるドアは凄く大きく、重そうだった。

「んじゃいこっかっ」
は、はい。あ…待って。っとと…よいしょ。

「へへ…ありがとっ♪」

カッコつけて開けたドアはやっぱりかなり重かった。

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僕が潜入した授業は、心理学総論っていう授業だ。
最初は高校の授業との余りの違いに面食らっていたけど、
鶴屋さんと筆談しながら受ける授業は中々興味深い内容だった。

この時抱えた興味が後の暴走に繋がるなんて思ってもみなかったけど…
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「どうだった?」
帰り道、微妙な距離を保ったまま並んで歩きながら僕に語りかけてくる鶴屋さん。

とても面白かったです。あんな大きい教室があるんだなぁ…
「あそこは八号棟で1番でっかい教室だからねっ。気を張ってないとすぐ寝ちゃうんだっ」

そういえば確かに寝ててもバレなさそうだ。

「そうなんだよっ。何を隠そういつもはねてるっさ。はははっ」
頭をかりかりとかく鶴屋さんと他愛ない話をしながらこの時から僕は別の事を考え始めていた。

-鶴屋さんはいつも笑っている。僕は鶴屋さんといると鼓動が高鳴って表情が固くなってしまう。
→つまり鶴屋さんは僕といても何も変わらない…って事なのだろうか。

たった一回聴講しただけで心理学かぶれになった僕は、鶴屋さんの表情を勝手に解釈してしまった。
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こうなるともう疑心暗鬼だ。鶴屋さんのあの日の返事は、ホントに僕が求めている意味を持っているんだろうか。
鶴屋さんにも僕と同じレベルの心拍数を求めるのはわがままなのかな…。

そんな事ばかり考えながら上の空で会話しているとすぐに沈黙が訪れ、焦れたように鶴屋さんが携帯を取り出す。
メールが来たみたいだ。ふと僕がそちらを見ると、やっぱり彼女は笑顔…

-僕は、メールと同じ…?-


「ど、どしたのっ…?」

つと立ち止まった僕に、鶴屋さんが振り返って尋ねてきた。

「鶴屋さんは、いつでも笑ってますよね」
沈黙したままの鶴屋さんに僕は言葉を続ける。もう僕の思いのダムは決壊してしまった。
「誰と話していても、笑ってる…メールをしているときにも、…っ僕といる時も」

彼女が一歩歩み寄って、僕の顔をじっと見つめる。いつもの満面の笑顔ではなく、微笑をたたえて。
「今も、僕の顔を見つめてる。僕は鶴屋さんの顔をまともに見れない…
それはすごく、あの、ドキドキしてしまっているからで…う、うまく言えません」

これだ。さっきまでは淀みなく話せていたのにちょっと近づかれただけでしどろもどろ。
「だから、その、鶴屋さんも僕と同じなのかわかんなくて、あ、あの僕が言いたいことわかります…?」
顔を上げると鶴屋さんの微笑みはさっきよりも優しく、また明るくなっていた。
彼女が沈黙を破って語り出す。

「あたしさ、心理療法士になりたいんだっ。だから今日みたいに大学でも授業とってるし、自分でも勉強してる」
「でさっ、その中でホントに当たり前なことなんだけど気付いたことがあるっさ」

とさっ、と僕の胸に重みが加わる。

「言葉じゃホントの所は伝わらないんだよっ」

「だからあたしは好かれたい人の前じゃ笑顔だしっ…まぁみんなに好かれたいからいつも笑ってるけどさっ、なはは」

えと、えっ…

ぼ、僕は手をどこに置いとけばいいんだっ、どこ見てればいいの?っんん…やばい、心臓が爆発するっ!

「だからあたしはっ…大事な事は行動で示すんだっ」

ぎゅっと圧力が強まって…

僕は上に上げていた腕を彼女の肩に回す以外の選択肢を思い付かなかった。

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しばらくそうして…だ、抱き合ったあと僕らはいつもと同じ帰り道をいつもと違って手を繋いで歩き、
彼女の家の前で立ち止まる。

それじゃ、おやすみなさい。

鶴屋さんと会うようになって初めて僕からお別れを言う。

今回の僕にとって(多分鶴屋さんにとっても)大きな前進っていうか、
価値のあるデートは彼女のよくわからない返答で締め括られた。

「今度は制服デートがしたいっさ。ほいじゃおやすみっ!」

…どういうこと?鶴屋さんもまた北高の制服着るって事かな。

い、いいかも…!

疑問は残るけど、不安はない。今日で僕と鶴屋さんはちゃんと繋がってるって分かったからね。

だってあの時、彼女の鼓動は僕の暴走する心臓と同じテンポを刻んでいたもの。


おしまい


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