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早起きは三文の得、と昔の人は言ったらしいが、文明の発達によって昼夜問わず活動できるようになった現代においてむしろ朝は金を払ってでも寝いていたい、と思うのが大多数の意見だろう。

無論、ご多分にもれず俺もその意見を支持する極当たり前の高校生の一人だ。
特に朝食も満足に消化しきらないうちに、ハイキングコースばりの坂道を上るという義務を負っている身となればなおさらであろう。

だが、これも誰にでもあることだと思うが、極まれにびっくりするぐらいの早朝に目覚めてしまうこともある、本人の意思と関わらず、だ。
薄暗がりの中、デジタル時計の光を見つけ、あーまだ寝れるなーなどと思いつつ、二度寝の至福を味わおうと再びまぶたを閉じるも、眠気は一向に訪れない。
やれやれなんだか損した気分だ、俺は夜明け前の薄闇の中、早起きによって得られるはずの三文をどうやって回収しようか考えるはめになってしまった。

 

で、考えた結果、俺は早朝の町をあてもなく散策することにしてみた。
我ながら安直な発想だとは思うが、いったん外に出てみると案外悪くない。
つい数日前まで、テスト明けの暗鬱たる気分を象徴するかのごとく空を覆っていた梅雨前線は、今では本気を出した太平洋高気圧によって北のかなたへ追いやられ、夜明け前の空は雲ひとつなく、やがて上ってくる夏の太陽を待ち焦がれるかのように薄紫色に輝いている。
頬を撫でる風もひんやりとして気持ちいい。


うむ、夏休みに入って早々、こういうのも悪くない。

只でさえ、ここのところ驚天動地の事件がオンパレードで、これまでの価値観やら人生観やらが粉微塵にされたところなんだ。
たまにはこうして爽やかな孤独感に浸ってみてもバチはあたるまい。

 

そんなことを考えつつ歩いていると、なぜか足はいつものハイキングコースを辿っていた。日頃の習性ってのはまったくもって恐ろしい。
だがまてよ、ふと空を見上げてみる。このまま登っていけば、これから上ってくる朝日を拝むのに絶好のポイントがあるじゃないか。
今なら十分間に合う、よしものはついでだと少しづつ明らいでくる空を見上げつつ俺は歩を進めた。

そして目指す場所に着いてみると、なんと意外な事に先客がいた。

 

「よう、長門じゃないか」

 

そう、北高登校ハイキングコース上り坂頂上付近の道路脇には、対涼宮ハルヒ用人型インターフェイス兼SOS団無口用員の長門有希がただ一人立ち尽くしていたのだ。
声をかけると長門は無言でこちらを一瞥し、再びその視線を夜明けの空にむけた。なんとなくだがその表情は何かを期待しているように見える。

 

「なにしてんだ? こんな朝早くから」

 

ひょっとしてあれだろうか、長門のボスである統合情報思念体とかなんとかから指令の電波でも受信しているんだろうか。

 

「テスト」

 

長門はいつもと変わらぬロートーンでそう言った。

 

「テスト?」

 

思ってもみない答えに俺は思わず聞き返す。

 

「そう」

 

「なんのテストだ? こんな朝早くから」

 

「…………」

 

長門は再び視線をこちらに向け、少し間を置いておもむろに解説を始めた。

 

「この星の有機生命体は日常生活においてあまり観測する機会のない視覚情報を得るとある種の興奮状態に陥ると推測される、それがわたしという固体にも該当するか否かそれを確認する必要がある」

 

えーと、つまり

 

「ひょっとして、日の出を見にきたのか? 長門も」

 

「……そう」

 

長門は空に視線を戻す、なんとなく説明をあきらめられた感が漂っているがまあいい、俺の理解もそう間違っちゃいないと思う。

つまり長門は、日の出というのはどんなもんか見に来たってことなんだろう。

 

「奇遇だな、実は俺もなんだ、そのテストとやらの邪魔じゃなかったら一緒に見てもいいか?」

 

「いい」

 

「日の出、見るの初めてなのか?」

 

「肉眼で観測するのは初めて」

 

やがて空は少しづつ明らみ、眼下の街を赤く赤く染めていった。

長門はまるで神聖な儀式を前にするかのごとく、ただその光景を見守っていた。その身を朝の光で赤く染めながら。

 

どのくらいそうしていただろうか、ふと気付くと日はすっかり昇りきり、見慣れたいつもの夏の空に変わりつつある。

 

「どうだ? 長門、はじめて見た日の出の感想は」

 

「……分析及びその結果に対する考察の必要を認める」

 

長門にもなにかしら得るものがあったってことか、いいことだ。この一見無感動に見える宇宙人も人間で言うところの情緒ってやつを除々に学びつつあるのかもしれない。
そして俺はというと、正直な所けっこう感動していた。朝焼けがこんなに綺麗だったなんてな、まったく早起きはしてみるもんだ。

 

「さて、この後はなにかあるのか?」

 

「特にない」

 

「じゃ朝飯でもどうだ」

 

長門はこちらを向き、小さく頷く。

よし、この小さな宇宙人の小さな成長を記念して、なにか奢ってやることにするか。

そして俺はよく晴れた夏の朝にふさわしい気分でいつもの坂道をゆっくりと下っていった。

 

しかし長門よ、いくらなんでもハンバーガー三個はやりすぎだと思うぞ。

つーか朝からそんなに食べて大丈夫か?

 

「問題ない」

 

ないらしい。

やれやれ、やはり諺ってのはあてにならない。
この現代において、気まぐれな早起きは金銭的に大きなマイナスになるようにできてるようだ。

 


■限定条件下での太陽観測が心身に及ぼす影響についての考察

 

身体に対する影響:

心拍数の上昇、及び微量な発汗が認められた

 

思考への影響:

論理的矛盾が発生、目的を達したにも拘らずその場を離れたくない、という思考パターンを確認。
エラーの可能性大

 

上記は前回の日没観測時にはいずれも認められず。
これらが今回の条件下で限定的に発生するものか、又は別の要因の影響によって発生するものであるかは不明。

 

異なる条件下おけるデータ収集の必要性を認める。

 

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