『少しでも面識があって、嫌いだという感情がなければ別に嫌悪感は抱かないよ』

『面識があって、嫌いだという感情がなければ別に嫌悪感は抱かない』

『嫌いだという感情がなければ別に』

『嫌いだという感情がなければ』

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帰り道。佐々木さんの言葉が頭の中でぐるぐる回ってる。
僕は鶴屋さんに嫌われてない…はず。
土曜日にあれだけこっぱずかしいこと言っといて何言ってるんだとか思われるかもしれない。
でも何かわからないけど自信がない…っていうか怖い?のかな。
僕は今すごく曖昧な気持ちでいる。鶴屋さんはあの時、確かにデートがどうとか言ってたけど…

ん?電話だ。

もしもし…あぁキョン。どうしたの?

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佐々木から電話を受けた俺は直ぐさま国木田にコールする。
確かに奴の最近の態度はおかしかったからな。中学からの長い付き合いの友人の苦悩だ。
それを放っておくような薄情な人間ではないし、ハルヒの相手よりは荷が軽いだろう。
何しろ超常的なファクターが介入してこない。
スリーコールで応答してきた国木田の第一声はやはり憂いを帯びていた。

『もしもし…あぁキョン。どうしたの?』
ん、いや…今日の学校での様子が気になってな。

ここは佐々木からの電話は明らかにしないほうがいいだろう。
しかし、考えなしに電話してしまったが俺に何が出来るだろうか。
正直言って俺もそういった場数のようなものは踏んでいない… 

『その事か…大丈夫だよ。あまりこういうのに慣れてないだけで』
-全然大丈夫そうじゃない。仕方ない、褒め殺し作戦で行くか。その位しか思い付かんしな。

あのな国木田、今から言うことは俺にとっては非常に腹立たしい事だが事実だ。
自信は持っていい。ただつけあがるなよ。

『何言ってるの?』

いつだったか、文芸部室でお前や谷口の事が話題にのぼってな。
谷口は変な奴という評価しか得ていなかったが、
お前に関してはやれ可愛いだの年上にモテそうだの母性本能がどうだのと…


『はははっ。それ、涼宮さんが言ったの?妬いてるんでしょ』

何を言ってるんだ。ハルヒの奴は朝比奈さんや鶴屋さんがしゃべってるのにふんふん頷いてただけだ。

『…え…?』

…どうした?

『ブッ…プーップーッ…』

切りやがった!何だ今の反応は。悩みが解決できたとは思えん。
力になれなかったのは残念だが国木田の奴何を考えているんだ?
ハルヒがお前の事を褒めるなど大地がひっくり返ってもありえん。
…そうか、あの発言は奴の願望か?ハルヒに惚れるとは難儀な奴だな。
まぁ俺には関係ないね。そろそろ晩飯だろう。妹が騒ぎ出す前にリビングに行くとしよう。

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『朝比奈さんや鶴屋さんが』って言ってた…!『鶴屋さん』って…

時間を確認する。夜7時半。大丈夫…かな?
行ってしまおう!
うん、この時僕は完全に付け上がって調子に乗って舞い上がってしまっていた。 

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付け上がり状態は長続きせず、携帯を握ったまま小走りで大きな門の前に到着した僕はまた迷っていた。
勢いで来ちゃったけど…
どうしよう。時間も時間だし、明日は土曜日だ。明日まで待てば会えるかもしれない。

-でも、会えないかもしれない- 

そ、そうだ。キョンに教えてもらえばいいんだ!
鶴屋さんのアドレス。メールで聞いて…でもなぁ。他人から自分のアドレス知られるのって
嫌な感じだし、やっぱり自分で聞くのが礼儀で、それにキョンに知られちゃうのは…

…違う。こんなの言い訳だ。

僕は明日まで待てない。明日会えるかどうかもわからないし…

僕は…僕は今すぐ鶴屋さんに会いたい…。

はぁあ…。 

「おっきなため息だねっ!幸せ逃げちゃうぞっ!」 



心臓が止まるかと思った。いや一瞬止まったと思う。
鶴屋さんが僕の背後から音もなく近寄り、肩をぽんと叩きながら声をかけてきたんだから。

「ふふふん♪いいリアクションじゃないかっ。んでっ、うちの前で何してたのっ?」

どうにか振り返れたけど、声が出ない。口がぱくぱく動くだけ。

「あはははははっ!国木田くんっ、魚みたいだよっ…ぷふーっ」

腹を抱えてケラケラと笑う鶴屋さん。僕もつられて笑顔になってしまう。

次の言葉を発する時は、俯かずにはいられなかったけど。 


「会いたくて…来ちゃいました…」
ぴたりと鶴屋さんの動きが止まる。彼女はいつものように体中で笑ってたから。

「迷惑かもとは思ったんですけど、ダメでした。
明日図書館に行けば会えるかもしれないって考えてもダメで、とにかく早く会いたくて」

「…そ、そっか…いやぁははははっ…照れるねっ」
初めて会った時はあの野球の時だったっけ。その時は『テンション高いなぁ』としか思わなかった。
でも今は違う。一歩踏み出すのはこのタイミングだ!
僕にだって男らしい決断力があるんだって思わせてやろう。
「それで…今度からこんな勝手な事しなくて済むように…」
「アドレス交換しよっかっ!そうすれば図書館で待ちぼうけすることもなくなるしっ。
うん、ないすあいでぃあ」 

僕の一大決心は、鶴屋さんの一言で完全に粉砕された。
アドレスの聞き方とか、相談した意味なくなっちゃったよ。
安心したような、悔しいような。
じゃあ赤外線通信で…

「いくよっ、あたしの番号は…」

えっと、赤外線ついてないんですか?

「ついてるよっ?」
んん?鶴屋さんって天然…だったのかな?

じゃ、じゃあ何で…
「だって…ちょっとでも一緒にいられるほうがいいっさ」

この時僕は心臓をわしづかみにされるような感覚と、痺れるような緊張感と…

「5分でも、10分でもねっ」

-幸せを感じていた。
こんな鶴屋さんを見られるのは僕だけだ。 

じゃあ、僕の番号を…
「あれ?あたしの番号とアドレスわかったんだし、そこに送ってくれればいいにょろよ?」

彼女は今あの悪戯っぽい笑みを浮かべているに違いない。顔を上げられないからわからないけど。

「ちょっとでも一緒にいられるほうがいいですから…!」

「へへへ♪」

意を決して目を見て鶴屋さんの台詞を真似してみる。やっぱり彼女は予想通りの顔をしていた。 

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「それじゃっ、いつでもメールしてきてよっ。あたしもするからさっ」

そう言って手を振った鶴屋さんと別れ、鶴屋家から自宅に向かう途中僕はまたまた迷っていた。

別れてすぐメールしていいものかな…?

明日土曜日、図書館で会えるのか確認もしてない。どうしよう。

ピピピッ

うわっ!

メール作成画面と睨み合っていた僕に、電子音と『鶴屋さん様からメールが届いています』という
ちょっと間抜けなメッセージが不意打ちを食らわせてきた。
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Fm:鶴屋さん
sub:やっほー☆
txt:
今日はありがとね。気をつけて帰るんだよ!
明日図書館で待ってるから。 

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また先手を取られてしまった。僕の男としてのプライドが…
とか言って。告白?したのは僕が先だし、これから男らしさを磨いて見てもらえば…いい。

それに、ふふっ…へへへ…
また会えるんだ…!

はぁああっ…。またため息一つ。でも、今のため息はさっきまでと違って幸せを排出したりしないよ。絶対に。


…メール、何て返そう?


おしまい

 


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