宇宙人、未来人、超能力者を引き連れたハルヒと同じように、閉鎖空間と言う、まぁわけのわからん不思議な小宇宙を作れる神様の1人であり、これまたハルヒと同じく宇宙人、未来人、超能力者を従えた佐々木との再会から早一ヶ月が経った。
いや、佐々木との再開が原因で起こった一連の事件が終結してからか……

今現在、宇宙人がスペースオペラを繰り広げること、未来人が未来の世界の秘密兵器を使うこと、超能力者が「ロードラーラーだッ!!」とか言い出すことも無く……いつもどおりの平凡な日常を皆が過ごせるのは、ハルヒや佐々木の間を俺らが上手く立ち回ったからなのである。

色々と俺の疲れる要素が散りばめられた一大イベントではあったがその甲斐もありハルヒはまだ、真実には気付いてはなく、俺と佐々木との誤解も解け、佐々木達の集まりを佐々木団と称しライバル扱いする、と言った我ながら「よくやった!!」と誉めてやりたいぐらい絶好でグンバツな地点に着地することに成功した。バッチコイ!ノーベル平和賞! 
一方の佐々木も、「涼宮さんとは良い友達になれそうだよ」などと、そのXポイントに満足していた様子だった。 無論、長門、古泉、朝比奈さんの御三方、さらには、ハルヒ命名佐々木団の変属性トリオ、九曜、橘、藤原もこの位置は満足らしく、しばらくは敵対組織同士で争う必要も無いらしい。 

つまり、この一連の騒動の結果は、ハルヒにとっては『宇宙的脅威、未来的テクノロジー、サイキックパワーなど毛ほども存在しない‘日常的なレベル’のライバル、佐々木団、登場!』と言った感じで終結したのである。 原作もこんな感じでお願いしますよ。谷川先生。

しかし、この一ヶ月がこれまで通りかというと、何箇所かちがうところがある。
まぁ、そいつは順を追って説明するとして、皆は我がSOS団では毎週土曜日に不思議探索というイベントを催しているのをご存知だろうか?知らない人は原作を読め!アニメを見ろ!と言っておきたいが、原作を読みもしないでここに来た猛者のためにあえて説明すると、近くに居る宇宙人、未来人、超能力者や、見つかりもしない不思議なコトを探すと言う、金と時間を浪費するだけの、とんでもなく無駄なイベントのことである。

そんな無駄イベントも年を越し一周年を迎えた頃、とつぜん佐々木団がそれに参加を表明したのだ!どうも佐々木は、あの事件……ええぃ!面倒だ。『分裂』と『驚愕』をへて厄介ごとに巻き込まれるのが趣味になったらしい。
この参戦宣言にハルヒは手放しでOKするんだろうな、と傍観を決め込んでいた俺だったが、予想に反しハルヒは「だめよ!コレは私たちの団活なの。残念だけど別行動にさせてもらうわ!」とNOの一点張りだった。 それに対し、あまり熱血タイプではない佐々木は「いいじゃないか?僕はSOS団と親交を深めたいんだ」と、破廉恥極まりないしつこさでハルヒに食らいついたのも印象的だったが…… 
その口論の横で「俺はてっきりOKすると思ったんだが……」と古泉に行ってみたところ
「やれやれ、あなたはまだ自分の立場がわかっていらっしゃら無いようですね……
人数が増えれば確立が下がるじゃないですか……」
ハテナ?確立と聞いて何の確立か、と閃くまでに数秒時間が掛かったが、古泉にしては簡潔でわかりやすい説明だ。クジの確立である。ではハルヒは誰と一緒になりたいのか。
……そうか……ハルヒは……
「ようやくあなたにもわかりましたか?」
「ああ、ハルヒはそんなにも朝比奈さんを弄くりたいんだな」
「……鈍感」
と言ったあとの古泉の苦笑いと長門の呟きもはっきりと覚えている。何か変なこと言ったか?俺。
古泉や長門を問いただそうと軽く体を向け、いざアクション!と思った矢先、なんと佐々木が俺に話題を振ってきた。
「キョンは僕らの参加について、どう考えているんだい?」
佐々木はなぜ、不思議探索に拘るのだろうか?九曜、橘、藤原は参加するのか?
疑念はあるが、まぁなんだ、俺的には大賛成なのである。ハルヒと佐々木はもちろんのこと、宇宙人、未来人、超能力者同士にも仲良くなってもらいたいし、ハルヒに振り回される確立が減るのには御の字であるからだ。
ハルヒは誰と合ったっても我侭に振り回すだろうが、朝比奈さんが藤原と2人きりで当たるのはなんとしても避けたいし、長門と九曜が二人並んで歩き回ってる様は限りなくシュールだろう。
頭に問題はあるが橘は社交的そうだ。古泉はどうでもいいが。
敵対組織同士の抗争も、ハルヒと佐々木が居るしなんとかなるだろう。そんな楽観的思考の元、俺も参加を認めてやろう。しかし俺がOKを出しても対して意味はないぞ。
SOS団の中での俺の発言力は、スペースノイド並みの低さであり、いつかエゥーゴが助けにきてくれるのを待ってるくらいだ。
「俺は別にいいと思うが……」
「キョン!アンタは黙ってなさい!皆は?」
ほらな。早く助けにきてくれ反連邦組織。
「佐々木さんも必死に頼んでいるので、無下に断るのは可哀想かと……」
おっ!がんばったなイエスマン古泉。
「私も特に異論はない」
長門も賛成のようだ。長門の賛成票って俺の何倍効果あるのだろうか?悲しくなるから考えないぞ。
「わ、私も賛成でしゅ」
断っておくが朝比奈さんは最初っからこの場にちゃんといたぞ。いままでずっとオロオロしながら、ハルヒ、佐々木に相打ちを打っていてくれていたんだ。決して空気とかではなく単に言い忘れていただけだ。そういうことにしといてくれ。
と、この場に居るハルヒ以外は賛成。当然、可決という判決で幕を閉じた……というわけは無く、あくまで民主主義に徹しないハルヒであったが、最後の最後にはアポイントセールスを彷彿とさせる佐々木のいやらしいまでのしつこさと、破廉恥極まりない粘つきの前に「わかったわよ……」と渋々納得したのだった。
そう、これまでと違うところの一つ目はこのことである。
この一ヶ月、ハルヒが集合時間を二時間早めたりするなどの地味な嫌がらせのほか、橘のレズが発覚したり、古泉のホモが発覚したりなどと波乱に満ち満ちたものではあったが、超常的な厄介事はまったく無く、九曜の感情を多少なら読めるくらいにまで、俺の感受性も成長できたし、藤原も橘も満更でもない様子であった。すくなくとも表面上はな。

この一ヶ月で佐々木団とも仲良くなり、初回は閉鎖空間のバーゲンセールだったハルヒも今ではすっかり何時もどおりである。古泉曰く、あの時賛成したのはコレが狙いらしく、これによりハルヒの精神状態は更に安定し、多少のコトでは揺るがない強靭な精神を獲得したらしいとのことなので、素直に誉めたくは無いが、古泉はなかなかの策士であると認めてやろう。
俺は……と言えば少し後悔していたりする。
佐々木に聞かれたときは、超常的な問題しか考慮しなかったのだが、それ以外にもとんだ伏兵が居たのだ!人数が倍近くにふえたのである。それにともない当然、倍近く……いや、倍以上のスピードで俺の財布は軽くなりやがる。
佐々木はもちろんだが、なんと九曜、藤原も遠慮と言うものを知っているらしく、飲み物ぐらいで済ませてくれる。いや飲み物だけでも、9人も集まればいい感じに俺のサイフを減量させるのだが、まあそれだけならまだ良かった。
なんでおれと財布がこれまで以上に音を上げてるのかというと、もう一人しかいない。橘である。奴の、遠慮を母体に置いて来たかのような情け容赦の欠片も無い、ある意味尊敬できるオーダーはハルヒを頭一つ超えている。コレが競馬なら、サラブレットハルヒの対抗馬として、まあまあの期待馬としてのデビューだったのであろうが、未成年であり競馬場など入ったことも無ければ馬券も買ったことの無い俺にとっては、すこぶるどうでもいい話である。このくらい現実逃避もさせてくれ。
そんなことが一ヶ月も続けば、俺の財布はもちろんのこと、心まで荒んでしまう。
たとえばだ。もし俺ではなく橘がビリなら、俺は何の迷いもなしにコーヒー七杯とか言ってしまえるだろう。たとえばだがな。そう、たとえばそのくらい俺の心は荒れているのだ。

てなわけで、SOS団+佐々木団という八人の変態と一人の凡人による総勢九人の集まりにも慣れつつある、そんな中、この物語は始まるのである。


『-接触編-前編』

そして今日は、土曜日。五回目の佐々木団も参加しての不思議探索の日である。
「あっ、すいません。俺、コーヒー七杯で」
「話が違います!さっき安心しろって言ったじゃあないですか!」
「普段のお前に比べたらやすいもんだろ」
ははは、今日がたとえ話を実行に移せる日だとは思っても見なかったぜ。今日の俺はビリではないのだ。

俺は9:00集合という取り決めの中、一時間も早く着くように家を出た。
俺が一番ノリならどうしよう?さすがに、一人で一時間も待ちたくないぞ。
なぞと、思いつつ歩を進めていたが、それは杞憂であったらしく俺は七番着でゴールイン!

まだ着てないのはハルヒと橘なのだが、お前ら、そんなにこの集まりが楽しみなのか?
「僕が一番乗りなのは規定事項なのさ」
無駄に誇らしげなパンジー。コイツもアホの子なんだな。
「…………不覚」
そのヨコで軽く毒吐きつつも本から目を離さない長門。そんなに一番乗りに執着していたのか?
「今日は早かったじゃあないかキョン。僕としては君の奢りのレモンティーの方が好ましいんだけどね」
クックッと喉を鳴らす佐々木。そんなに俺を苛めて楽しいか?
以上、上位三名の言葉である。佐々木はともかくとして、パンジー藤原と長門には絶対に勝てないだろうし、勝ってしまったら、なんかまずい気がする。そこまで病的に執着するものだったのか?これだから不思議探索は侮れないのである。案外、不思議なのはコイツ等なのかもしれない。いや、実際に不思議な奴等なのだが、そういう意味ではなく性格に普遍的な性質を持っていないという意味でだぞ。
そう思うと不思議探索とは『不思議』を探索するんじゃなく『不思議ちゃん』が探索することなのじゃないだろうか?えっ!じゃあ俺も不思議ちゃんなのか?それは勘弁してくれ!などと思考を巡らせていると
「キョン!!今日は早いじゃない!!どんな風の吹き回し?」
いつのまにか、ハルヒは着ていた。……ビリは橘か。やったぜ!
「いや、ちょいっと早く起きちまってな。偶然に」
もちろん、嘘である。奴に恨みを晴らすために、昨日は9時に寝たのだ。普遍的で一般的な男子高校生である俺にとって、それは色々とつらいものであり覚悟の一つや二つ決めてからではないと行えないものである。そう!それほどまでに俺は橘が憎かったのだ。
「……ふーん。まあいいわ。たまにはアンタの奢りじゃなくても……」
などと、意味深にセリフを吐くハルヒの相手をしばらくしていると
ハルヒから遅れること少し、橘も到着。すかさず俺は古泉的な笑みを浮かべ橘に詰め寄った。
「今日はゴチになるぞ」
おうおう、橘の顔が、機関車トーマスも真っ青なほど青ちょびてきたぞ。あれ?トーマスは顔は青じゃなかったっけな?まあそんなことは、どうでもいい。
喫茶店への移動中、しつこく「今日は、給料日前できついのです!」とか「今までのことは謝りますので、どうかご勘弁を……」などと懇願する橘はスルー。

そして今に至る。俺はその憎しみを食欲に変えて、橘の泣き声をBGMに目の前の七つのカップと格闘していた。
だが、しかし朝から七杯というのは流石に調子乗りすぎたな………五杯目に口をつけたとき、なんか色々と生まれそうになったぜ。うへっ、まずいぞ!
「キョン!あんた欲張るからこうなるのよ!あたしが手伝ってあげるわ!!」
おっ、助かるぞ。人に奢らせたものを飲ませるのは、なんとなく頼み辛かったんだ。そこの二つをよろしく頼む。
「………まっ、まずは、それ貸しなさいよ!その……あんたが持ってる奴」
何、興奮してるんだ?ハルヒ。
「……うっさいわね!はやく、寄越しなさい!」
「ああ、口付けで悪いが、コレもよろしく頼むぞ。」
新しいのを飲めばいいのにな。やっぱコイツが一番、不思議ってるな。
と思いつつも、持ってるカップをハルヒの方に渡そうと向けると
「僕も、手伝わせてもらうよ」
言うが早いか、佐々木がそのカップに手を伸ばしてきたのだ。
「いらないわ、あたし一人で三杯ぐらい飲めるわよ」
「いや、僕もちょうど何か頼もうかと思ってたからね」
おーい。どっちが飲むんだ?コレ。
「なら、そこの二杯、お願いね!」
「僕の位置から、それは遠いからね。これをもらうよ」
全然、話を聞いてねー。さて、どうしたものか?とか思いつつもここはとりあえず……
「このコーヒー、ここおいとくからな!」
しばらく、傍観を決め込もうと思ったのだがなんか、ハルヒも佐々木も背後から変なオーラ力がでてるぞ!ここに来て、決裂とかはいやだ。ここは俺が仲裁に入った方がいいのか?と古泉に視線を向けると、いつものハンサムスマイルに二割ほどネガティブ要素を混ぜた微妙な微笑みを携え近づいてきた。顔が近いぞ!
「あの争いを鎮圧させるいい手段があります」
おっ、なんだ?言ってみろ。
「あのカップを僕にください」
鼻息荒く更に顔、というか体を近づける古泉から、逃げるように席を立ち、少し間合いを取る。
「却下!!余計ややこしくなる。」
自分で頼め。そして橘のサイフを二度とペンペン草も生えないように搾りつくしてやれ!とも思ったが流石に声に出すのは踏みとどまる。俺はそこまで腐れ外道ではない。
「……では、あれはどう沈下させましょうか?」
飛ぶ鳥を落とす勢い、と慣用句としてつかうには間違えた用法ではあるが、そんな言葉を今にも体言しそうな目つきで正面の人物を睨み続けるハルヒと、「実は僕も極めたんだ。あの日にね!」とか今にも言い出しそうなほどに、ハルヒとどっこいどっこいの名勝負を繰り広げる佐々木に、視線を向け古泉は外国人講師のような大げさなジェスチャーをしてみせた。
長門は…読書モードか……。佐々木三人衆も基本的にへたれだ。ここは、俺がやるしかないのか?
「そんなにコーヒーが飲みたいんだったら、そこにあるだろ。それでも足りないなら頼め。どうせ橘のおごりなんだし」
「キョン!!ちょっと、黙ってなさい!」
「僕は涼宮さんに話してるんだ!」
はい。すいませんでした。とかおもわず謝っちまいそうになるほどの剣幕で俺に弾幕を入れるハルヒ&佐々木。だが俺は何もおかしいことは言っていない。ここで謝ったら負けである。
「………鈍感」
「―――KY」
更に、長門と九曜の追撃を受けたもののこのままじゃ埒があかない。どうなってもかまわんのだが不思議探索はどうするんだ?
「そうね……じゃあ、あたしは佐々木さんとペアね。ケリをつけなくちゃ!あとは適当に決めといて!」
「望む所だよ。涼宮さん!」
ハルヒ対佐々木の争いに一抹の不安はあるものの、古泉のニヤケ面とおちついて読書する長門を根拠に、俺はスルーを敢行する。

さて……SOS団に佐々木団も加えた真不思議探索(真はチェンジとは読まないからな)の班分けの人数は午前は2,2,2,3午後は3,3,3で行われる取り決めになっている。
ハルヒ、佐々木の団長ペアは決まりであるので、残りでクジをした結果、
朝比奈さん、藤原の未来人コンビと長門、九曜の宇宙人デュオ、そして古泉、橘の超能力者の二人に俺を加えたトリオに決まった。
いままで、何とか避けてきた未来人ペアがついに揃っちまったかッ……
「おい、藤原。朝比奈さんに、何かしてみろ。そのときは……」
ここまで言って口をつむぐ。ヤバいっ!ハルヒの前だぞ。、ハルヒはハルヒで忙しいので別に心配する必要はないのだろうが、先の事件のせいもあり、かなり神経をつかってしまう。
「大丈夫ですよ。ね?藤原さん」
などととびっきりの笑顔で返してくれた朝比奈さん。
この場で初めて喋った朝比奈さんだが始めから、ちゃんと居たぞ。ハルヒと佐々木の間で「喧嘩はいけないとおもいましゅ!」と仲裁に入っててくれていたのだ。決して影が薄いというわけではなく、単にあまり意味が無い行動だったので、説明しなかっただけだ。本当だからな。信じてくれ
「ああ、この時間平面上では、争う必要はないさ……」
と語尾に不安を感じつつも、朝比奈さんの極上のスマイルを信じることにした。藤原となら朝比奈さんも目立てるだろうし……
などと要らぬ世話を焼いていた間に、長門、九曜も消えていた。…………大丈夫だよな?
『長門有希の消失』なんてやっても他のSSの二番煎じだろうし大丈夫だな。などと無理に自分に言い聞かせてはみるが、あまり安心はできない。前回の一件もあるしな………
だがしかしここは九曜を信じるしかない。初めて会ったときに比べ九曜の目にも、感情の色がついてきたし信じてやろう。

という経路を辿り俺は現在
「古泉さんのところの機関は経費でおちるんですか?」
「ビリになったことは無いので存じ上げないのですが、多分無理でしょうね」
などと、所帯地味たことを話す超能力者とともに、宛ても無くそこいらをうろついている。
まぁ機関だか組織だか知らんが、バックに何もついていない俺には関係の無い話だ。
「関係ないって、誰のせいだとおもってるんですかぁ!」
「自業自得だ。コレに懲りたら、コレまでの悪事を改め、少しは遠慮というものをわきまえろ」
「二人とも仲直りしてもらえないでしょうか?争いは何も生みませんし、正直、僕は居心地が悪いです」
「その言葉をどっかの二人にも聞かせてあげたいですね……」
と橘が口に出したことにより、妙にしんみりしつつも、不思議探索午前の部は無事終了。

さすがにコーヒー一杯で何時間も争えないだろう、などと思い油断していたのが運の尽きだった。別に警戒していても変わらんかったのだろうが、心の準備ぐらいさせてほしかったものだ。なんてったってハルヒの第一声がコレである。
「みんな!カラオケ行くわよ!!第一回合同カラオケ大会開催!!」
「涼宮さんと話し合いで決まったんだ」
コーヒーの奪い合いからどうすればカラオケに結びつくんだ?と言う俺の疑問を軽くスルーし店を出るハルヒと佐々木。どうでもいいコトではあるが、さっきから佐々木が、ハルヒの腰ぎんちゃくの嫌な中間管理職みたいにハルヒにかぶしたタイミングで喋ってくる。狙っているのだろうか?


移動中、この後のハルヒ、佐々木の傾向と対策を模索する。端的に言えば情報収集である。
「長門、なんでカラオケにいくことになったのか、経緯をしってるか?」
「知っている」
「教えてくれ。できるだけ簡潔にな」
「私と周防九曜が、あの喫茶店に戻ってったとき、私たちの存在に驚いた涼宮ハルヒ、佐々木はカップを誤って落としてしまう。結果カップは割れてしまい、しばらく罪の擦りあいをした二人は残りの二つを一つずつ飲んだ」
まだコーヒーひっぱてたんだな。それで、どうすればそっからカラオケに繋がるんだ?
「貴方のコーヒーを飲めず残念に思った二人は、コーヒーの代わりに貴方に何かさせるコトでこの無念を晴らそうとした。」
あのコーヒーは俺のというより橘のだし、結局その後二人仲良く飲んだんだから代わりも何もないだろう。逆恨みもいいとこだ。それでアイツらは俺に何を望んでいるんだ?
「………フラクラ」
なんだって!?長門。
「別に………」
「ここは長門さんに代わり僕が説明いたしましょう」
うぉ!いつの間にきた?古泉。と言うか顔が近いぞ!
「多分、彼女達は貴方と一緒にデュエットしたいのでしょう」
なんでだ?俺の歌唱能力は別にどうてことのない程度のレベルであり、一緒に歌う相手としては、これほど魅力のない奴もいないぞ。と、おもわず悲しくなるようなコトを口走ってしまった。

と言う感じで世界平和について古泉、長門とかるく議論をしていると後ろから肩を叩かれる。ハルヒである。俺がそっちを向くと、普段の無駄なハイトーンボイスはなりを潜め、それとは逆の囁くような小声で
「有希と古泉君二人きりにしてあげなさい」
などと、言ってきた。俺は軽く古泉、長門から距離を取り、ハルヒに返す。
「なんでだよ?」
「………もう!あんたは本当に鈍いんだから!有希が古泉君のコト、どう思ってるかくらいわかるでしょ?」
語尾にエクスクラメーションマークはついてるが、器用にも俺にしか聞こえないような小声で語り掛けるハルヒ。お前、こんな小声もだせたんだな……
「しるか!」
「………有希は古泉君のこと好きなのよ」
えっ?これって長古話だったのか?読者もだれ一人予想してなかったぞ。
などと思ったもののまあある意味、納得のいく話ではある。

長門が風邪で学校を休んだ日、つまりは分裂ラストからのことなのだが、あの後お見舞いに行った俺たちを待っていたのは、わりと普段通りの長門だった。
いや普段が普段だから表面上だけだったのかもしれないが、長門にべったりのハルヒの手前、それを確かめることも、積もる話も出来ず、一時撤退を余儀なくされた。
その後、長門が心配ではあったものの、もし何かしらあるのであればあの長門のことだ。何かしらヒントを送ってくるだろうし、長門の無事な顔を見れた安堵感だろうかね?俺は深く考えもせずに床についた。しかし次の日も長門は学校に来なかった。
この時は昨日の自分を恨んだ。あんな楽観的に考えずに、もっと深く真面目に考えていれば………などと懺悔する隙も与えないほどに、後ろの某団長は俺の背中を突いてきた。
「今日も団活は中止!!有希のお見舞いに行くわよ!!」
なんて感じのニュアンスのことをエンドレスに言われながらも授業は終了。古泉、朝比奈さん、さらに鶴屋さんを引き連れ、再度長門のマンションへ。
鶴屋さんは見舞いの品なるものを買いにいくとのことでハルヒを連れ何処かへいってしまった。
別れ際にウィンクをされたのだが、どこまで彼女は気付いてるのだろうか?
だがそんなことを考えてる暇はないのである。俺たちは急いで長門に会いに行く。いくら鶴屋さんと云えど、限界はある。 そしてリミットギリギリまで長門に突っ込んだ質問をしたのだが、その解答を要約するとこうなる。

「天蓋領域の情報端末は情報統合思念体に比べてまだまだ発展途上。幼稚。パーソナルネーム周防九曜が私の情報連結を解除できる可能性は皆無に等しい。しかし彼女と片をつけるのには時間が掛かる」

「私の任務は涼宮ハルヒやあなたの観察、保安。敵はまず私に狙いをしぼっている。よって私は涼宮ハルヒの近くに居ない方がよいと判断した」

「現在のトコロ、あなたや古泉一樹、朝比奈みくるの手を借りる必要はない。しかしその気持ちには感謝する」
とのコトだ。何も出来ることが無いのは歯がゆいが事態は小規模らしく、長門の気遣いも手伝い俺はあまり関らない方が良いのかと思い、それ以降この話を切った。
俺も古泉も朝比奈さんもこの説明で納得したのだが、一人この話を聞けずに心配する奴が居た。もちろんハルヒである。ハルヒも長門がズル休みしているなどなどとは思ってないだろうが、いや思えないからこそ、何か怪しんでいた。
帰り道、ハルヒに「長門が何かとてつもない病を抱えていて………」などと相談され一悶着あったのだが、それは別の話だ。これはカラオケに行くまでの移動シーン中の回想であり、別に本筋に深くかかわりはしない。適度に省いて説明するぞ。ただでさえ回想にしては長いんだ。
俺の解答を聞いたハルヒはおとなしく帰っていってしまった。多分、納得したのだろう。
………などと油断したのは甘かった。さっきから油断しっぱなしなのだが、わが家に着き、一息ついてたところに不吉な着信が……古泉からである。コイツからくる用件など考えるまでも無い
やい。閉鎖空間がおきたのは俺のせいじゃないぞ。
「はい、わかっています。ただ少し問題が生じてしまいまして……」
なんだ?この回想はただでさえ長いんだ。単刀直入に言え。
「閉鎖空間に長門さんが閉じ込められてしまっています。このままでは神人の格好の獲物です。多分、周防さんは閉鎖空間を行帰する能力を持っていると思われ、コレを狙って軽めにジャブをかけ長門さんに学校を休ませてたのでしょう」
なんだと?でも、それならお前が助け出せばいいじゃないか!
「そう簡単にもいかないのです。我々、機関にも色々と思惑がありまして………長門さんが消えた後に閉鎖空間を消滅させるコトに決定しました」
「お前はコレでいいのか?俺は嫌だぞ!」
流石に怒鳴ったね、この時は。俺は長門を助けたい。けどそれは無理なんだ。助けることが出来るのはお前しか居ないんだッ!古泉、なんとしても助け出してもらうぞ!などとどうやって古泉を説得しようかと考えていると
「もちろん、良いわけはありません。あなたは雪山の件、覚えてますか?」
すんなりOKしやがった。いや、嬉しいしありがたいんだが、ちょっと肩透かしを食らった気分だ。
「俺に出来ることは?」
「閉鎖空間が自然消滅してしまえば長門さんも消えてしまいます。こんなことを頼むのはすこし皮肉なのですが、涼宮さんの機嫌を直さないでおいてください」
これ結構言ってみたかったセリフなんですよ、と付け加え古泉は笑った。俺もつられて笑った。
断言するが古泉が面白かったわけではない。まったくつまらんかった。ただ、ちょっと不謹慎なのだが嬉しかったのだ。 何がそんなに嬉しかったの?とか聞くなよ。野暮ってもんだぜ。

そのとき、バンッとなにかが破裂したような鋭い音が笑い声を遮った。おい!古泉!どうした!?
「後、もう一つ機関の者があなた方に危害を加えるかもしれません。朝比奈さんと一緒に生徒会室に避難していてください。喜び緑さんには話をつけてあります」
さっきとは一転シリアス声になった古泉は早口に、こういうと一方的に電話を切りやがった。あれ銃声だよな……?いや多分、夜食の海苔か何かを開けた音だろう……などと納得できるわけはなく、しばらく自分の部屋で塞ぎこんでいた。
あんなに気軽に「長門を助けてくれ!」といって良かったのだろうか?
この世界では機関の人に狙われ、一人で神人が暴れ狂う閉鎖空間に飛び込む。そんな命がけの作業をあいつ一人に任せちまったのか?俺は………
しかし、考える暇は無い。俺も、さらには朝比奈さんにも、その危機は迫っているかもしれないのだ。
俺に任された仕事。ハルヒの方は、無視しとけば大丈夫だろう。
となると、まずは朝比奈さんに連絡、そして学校で待っているワカメと合流、保護してもらう。といった一連の流れがあるのだが、そこらへんはカット。本来は学校に逃亡中には多丸兄弟あたりとの掛け合いが用意されていたのだが、余計長くなるだけだし、大して山場でもなければ燃えない。しょせんは多丸なのだ。

喜緑さん、朝比奈さんと合流して、しばらくは「機関が何故、長門を消そうとしているか?」などという議題に花を咲かせていた俺たち三人だったが、事態はまたもや動き出した。
「長門さん達を迎えに行きます。あなた方もついてきてください」
と有無を言わさず、立ち上がる喜び緑さん。多丸ブラザーズ更には森さんの粋な計らいにより、機関の妨害を受けずに何とか閉鎖空間発生座標とやらに着くことが出来た。そしてついた場所は長門のマンション前。やはりハルヒの関心は長門にむいていたのだ。

いままで考えないように考えないようにしてきた古泉、長門の心配ばかりしてしまう。いや生徒会室や、喜緑さんに連れられて来たここまでの道中だって、ずっと考えていたが別のコトに気を紛らわせていたのだ。しばしの待ち時間により手持ち沙汰にはなってしまったからだろう。
ハルヒの太鼓持ちなんて、器用な立ち振舞いと忍耐力をようするポジションは古泉にしか任せられないし、長門が居なければこのとおり閉鎖空間発生だ。
お前等が戻って来なくちゃ世界が………いや世界も大事だがそんなコトじゃあない。
俺は、お前たちとまた一緒にいつもの部室でいつものなんてコトのない日々をいつもどおり過ごしたいんだ!
ハルヒは変化を望んでいるのかもしれない。宇宙への夢も、未来への望みも、超能力への憧れもまだまだ待ち望んでいるのかもしれない。それでもこのSOS団団活はそんなものより価値があるはずだろ!お前にとっても。
神頼みという奴である。別に俺は神様を信じるほど信心深いわけではないし、ハルヒ=神様説なんてものも肯定できるほど人間できちゃいない。俺には、ハルヒにとってSOS団と不思議なこと、どっちが大事かなんて、本当はわかるはずがない。それでもなんとなくハルヒの本心を考えたくなったのだ。
さて……そんな願掛けが効いたのかどうか………それはわからんが事態に動きはあった。
「………戻ってきます」
朝比奈さんか喜緑さんか、どちらのセリフか今一覚えてないのだが、ここはあまり目立ってない朝比奈さんのセリフってことで脳内補完を頼む。このくらいの見せ場はつくってあげようぜ。とは言いつつも実は俺も朝比奈さんと同じく今回は何一つしては居ないんだが………
とりあえず彼女らの向いていた方に視線を向ける。超常的なことに関してアマチュアのおれにもわかるほどに視覚的に、その先の空間は歪んでいた。
最初は曇りガラスLv15みたいなゆがみもスルスルLv1ずつ低下していき、とうとう虫眼鏡レベルの軽いシルエットクイズ並みに歪みの先が見えてくる。

そこには……はじめ人間を彷彿とさせるほどにボロボロの制服、痛々しく赤く染まっている右足。その苦痛に歪ませてはいたが、それでもいつも以上の眩しさのニヤケ面で長門をお姫様だっこする古泉の姿があった。
手伝えなくてすまなかったな。足は大丈夫なのか?長門は無事なのか?言いたいことは沢山あった。いや沢山ありすぎたから逆に言葉に詰まってしまったんだろう。俺はそのとき何も言えず、ただただ唖然と古泉を見ていた。それを古泉は察したのだろう、沈黙を奴は破った。
「ただいまもどりました。SOS団、古泉一樹です。長門さんも健在ですよ」
「………ただいま」
このときの奴ならケツを預けても大丈夫だと思えた。いや冗談だぞ!ただそんなことを思いつく程に古泉がかっこよくみえたのだ。そしてようやくなんて言えばいいのか思いついた俺はその言葉をさっそく口に出す。
「………おかえり古泉、長門は無事か?」
「………大丈夫。まだ情報統合思念体との接続は復元できていないので情報操作を行使できない。それと天蓋領域端末との戦いですこし力を使い過ぎた、肉体的衰弱がみられる。がそれは直に治る」
二人の健在っぷりと、長門の説明口調を聞いた安堵で肩の力が一気に抜ける。
その時初めて俺は朝比奈さんがわんわん泣き出しているのに気付いた。決して空気だったとかじゃなくて、単に俺の思考は古泉、長門に手一杯だっただけだぞ。
そんな俺たちとは対照的に喜緑さんは一人テキパキと二人を介抱し始めた

その後、喜緑さんによって力を取り戻した長門によって古泉のケガはたちどころに治った。
喜緑さんが直接、古泉を治したほうが早いのだが、
「………喜緑江美里、古泉一樹は私が治す。とりあえず、彼には痛み止めだけで」
長門は自分で古泉の足を治すことに拘っていた。
多分、長門なりの感謝の印なのだろうと納得した俺は、そんなことを考えられるようになった長門を見つめ、ちょっと感慨に耽ってしまった。
「古泉一樹、本当に感謝する。ありがとう」
「いえいえ、こうやって傷も癒してもらってるんですからお互い様です」
「それは私を助けるために潜入した閉鎖空間内での負傷。私の責任」
確かに今思ってみると、このときの長門は羨望の眼差しのようなもので古泉を見つめていたし、朝比奈さん、喜び緑さんは「あらあら」見たいな感じのお姉さん的な笑みでそれを見守っていた。ってことは気付いてなかったのってもしかして俺だけ?
さてこの事項に対する最後の案件。閉鎖空間である。傷は治ったとはいえ、古泉を駆り出させるのは忍びないし、機関もこの閉鎖空間に関しては不介入だ。そして古泉発案である例の方法は当然、却下だ。それに今回はそんな分け判らん対処法ではなく、ちゃんとした根拠に基づいた打開策がある。
最後の仕上げに長門にメールを打たせたのだ。送る相手は当然ハルヒ。件名は『明日こそ学校に行く』ってな。一分と待たずに古泉、朝比奈さん、そして俺の携帯電話は震えだした。
件名はもちろん『明日は久々に五人揃うわよ』
そして少し遅れ長門にもメールが来たらしく、長門はこころなしか困ったような照れたようなそれでいて嬉しいようなという、とても器用な感情を目に宿しピコピコと携帯と格闘していた。
「閉鎖空間は消滅しました。あとは機関と僕との問題だけですね」
ああ……その件だがなぁ……森さんや多丸ブラザーズが色々と考えてくれてるらしいから、そこまで気にする必要はないぞ。
と言うわけで、この一件はこれで終結した。いや、まだ元凶の九曜はピンピンしているし、佐々木を取り巻く他二名とも話をつけなければならなかったのだが、とりあえず長門消滅の危機は免れた。一区切りはついたんだから、終結したと言ってもいいはずだぜ。


次の日。ようやく長門は学校に来た。それにともない昨日の不機嫌が嘘のように、真夏の太陽のような笑顔のハルヒ。嬉しいのはわかるが、休み時間になるたびに俺を引きづり、わざわざ隣のクラスに行くのは迷惑だぞ!6組にも俺にも。とは思ったものの長門の満更でもないような顔に免じ、今日くらいは止めないでおいてやった。
ハルヒもハルヒなりに真剣に長門の身を心配してたんだ。だからこんくらいは、許してやろうぜ。
そして団活動。久々に5人揃った日常は戻ってきたのである。とは言ってもハルヒは掃除当番で遅れ、古泉は始末書とやらを部室で書くわけにもいかないと、9組で書いているらしくこれまた遅れ、朝比奈さんも3年生だけあってなにやら小難しいあれやこれやがあるらしく当然遅れ。
今の部室は俺と長門だけだ。俺なりの「お帰り」の意味を込め、読書中の長門に茶をさしだす。 朝比奈さんのとは比べるまでもなくまずい俺のお茶だが、まぁ飲んでくれ。
いつもは本からチラリとも目を離さない長門なのだが、今回は俺を見上げてくる。なんだ?礼ならいらないぞ。お前には世話になりっぱなしだし、昨日、お前を助けたのは古泉だ。
しかし長門の口からは俺の予想なぞ、五馬身差のぶっちぎりで追い抜いた言葉が出た。
「…………さようなら。私の初恋」
多分、これは読書中の本の音読だったのだろう。詳しく意図やら意味やらを聞き出す気にはなれなかった。以上、回想終わり。

などとこれだけで一つSSできるんじゃねーの?って感じなのだが、長古話になったのも納得いっていただけただろうか?
『九曜によって閉鎖空間に閉じ込められた長門。それを助けた古泉。』
軽く一行でまとめるとこんな感じだな。

しかし今現在のそいつは
「文芸部室っていい名前ですよね。文‘ゲイ’部室って」
「…………」
長門じゃなくても沈黙するしかないようなコトを言っているこのお方が『男の俺でも一瞬ケツを預けても大丈夫だと思ったほどのいい男古泉』である。今は改めて日本が銃社会じゃなくてよかったと思う。おい、長門!こんな奴捨てちまえ

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最終更新:2008年04月23日 06:01