その日の午後から週末いっぱい、俺はwktkで地に足もつかない気分だった。組織から、金が出る!?考えてみれば、至極当然の話だ。もっと早く持ちかけておくべきだったんだ。
 しかし、今はそんな事は問題ではない。問題は、いくら貰えるか、と言う事。考えてみれば、ハルヒのご機嫌取りは言ってしまえば世界で一番重要な仕事と言っても過言ではない。こいつの機嫌次第で、この世界、いや宇宙の存続が左右されるんだからな。100万くらい?いやいや、もっとあってもいい筈だ。数千万、数億かけてもいい職務だからな。1千万あったら何に使えるか…億の金を貰えたら、いっそ家とかだって買える訳だしな。
しかし、ぬか喜びになっても悔しいので、沸いてくる期待を何とか押しとめる。
組織ったってそこまで無尽蔵に金があるようにも思えないし…もしかしたら、月1万程度かも…
 しかし、それにしたって団関係での出費には大いに足しになるんだし、非常に助かる事には違いない。まあ、谷口からの借金を清算できるぐらいはあるといい、等と考えながら、週末は過ごした。

 

 次の月曜の1時間目の休み時間、古泉が俺達の教室のドアを半開きにして、俺を目で呼んだ。軽く手招きもしている。

 こんなに早く来るとは!やはりこいつ使える奴だな。息せき切って駆けつけたい所を、あえて何事もないかのようにゆったりと歩み寄る。ハルヒに感づかれても厄介だ。俺が歩み寄ると、そのまま教室を離れて廊下を歩き出す古泉。二人で並んで歩きながら話を進めると言う事か。

 

 無言で差し出される白い封筒。厚い!厚いぞこれは!何気なく受け取って、ごく自然なそぶりで内ポケットに封筒を収める。

 

「月5万で、年60万円。去年の分と今年の分とで、120万です。当面はこれでまかなえると思いますが、他に必要な時があったら知らせてください。」

 

 特に声も潜めず、ごく普通の世間話といった調子でそう話すと、古泉はそれではと告げて9組の教室へと戻っていった。

 自然にこぼれる笑みを、うつむいて隠す。にやける顔を手で掴む。120万。120万か。充分すぎる。その足で便所の個室に行き、封筒の中身を確認する。現ナマを目にして、頭に血が昇る。深呼吸。こんなにもでっかい力を手中に収めてしまったのか、俺は… とりあえず20万を取り分けて財布に移し、封筒をポケットに戻す。そろそろ授業が始まる。教室へ戻る間も、あふれ出る笑みを咳払いで打ち消す。フウ、財布がパンパンだぜ…

 

 昼休み、飯もそこそこに谷口を階段最上階の踊り場まで引っ張っていった俺は、借金の清算を申し出た。少しいぶかしむそぶりを見せた谷口だったが、臨時収入があったと言って納得させ金を受け取らせる。金を確認した谷口は、例の借金をつけていたメモを取り出すと、4枚に破って俺に手渡した。俺はそのメモを、とりあえず財布にしまう。後で、もっと細かくちぎってからどこかに捨てよう。

 

「俺は、お前が大学入ったり、就職してから返してくれんのかと思ってたよ。」

 そう言って、階段を下りていく谷口。そこまで待ってくれるつもりだったのか…あたりまえだが、高校生にしては常識外れの額だ。貸している谷口だって手に余っていたのかも知れん。

 

「ところでキョン、6時間目の英語なんだけどさ、宿題まだやってねえんだ。これからやるから、教科書見せてくんねえか?」

 階段の途中で振り返って谷口が聞いてくる。

 

『構わんぞ。カバンの中にあるから、勝手に持っていってくれ』

 かまやしないさそんな事、お前には恩があるしな。しかしお前、ホントに学校に教科書持ってこないのな。


「サンキュー」

 谷口が階段を駆け下りていく。少しだらしないかも知れんが、いい奴だ。今は女はお前のよさを理解しないかもしれないが、いつの日か…

 と、ここまで考えたところで大事な事に気付く。あの封筒、カバンの中だ!

 

『谷口!谷口!』

 大声で谷口を呼び止めながら、階段を駆け下りる。クソ、もう教室に戻ってやがんのか?
 ドアを蹴破る勢いで教室に躍りこむと、まさに谷口が身をかがめ、机のわきに提げてある俺のカバンを開けようという瞬間だった。

 

『待て、待て!』

 大声で谷口を制すると、急いで駆け寄ってカバンに手を突っ込み、英語の教科書を谷口に手渡す。

 

『これだろ?』

 息を切らせながら教科書を差し出す俺を、キョトンとした顔で見つめる谷口。

「いや、そうだけどさ、 …おまえ、何かカバンの中見られたくないのか?」
『ああ、ちょっとな』

 誤魔化す。

 

「何だ?何か見られたくないもんでも入ってんのか?もしかしてラブレターか?」

 違う。しかしお前はそんな事しか頭にないのか。

『いや違う、違う、大したもんじゃない。ちょっと、そっとしといてくれ…』

 

 不審そうな顔をしながらも、渋々と引き下がる谷口。ああ、お前ってホントに話のわかる奴だ。
 しかし、俺にはまだ一つ大きな懸念がある。こういう展開になった以上、決して避けられないであろう絶望的な懸念が。

 後ろの席から、鋭い声がかかる。

 

「キョン、あんたカバンの中に、なに隠してんのよ!?」


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