太陽が本領発揮し過ぎ感が否めない茹だるような暑さの8月、
自宅から10分ほど離れたビルの一室にある仕事場で夏の休暇を前におれは一人黙々と仕事に励んでいた。
時刻は昼前、本来ならハルヒや有希も一緒なのだか子供達が夏休みであるためハルヒは自宅に、朝は一緒だった有希は一時間ほどで自らの仕事を全て片付け早々に自宅に戻り、今はハルヒと共に昼食の支度でもしているのだろう。
仕事といっても休暇前の残務処理が残っている程度であり、まぁ、幾分のんびりとした気分で残りの仕事を片付けていたわけだが、そんなのんびりした雰囲気も一本の電話で脆くも崩れさることになる。
 
昼を少し回った頃そろそろ自宅に戻り昼食にしようかと思い始めたとき唐突に携帯がなりだした。
着信はハルヒからで飯が出来たから早く戻れ!なんて催促だと思い出てみると、いきなり耳元に大音量か響き渡った。
 
ハ「キョンっ!大変なのっ!ハルカとハルキが誘拐されそうになったって、今電話で警察からくぁwせrtyふじこlp;@」
 
誘拐…?誰が…?ハルカとハルキが…?おいっ!ちょっと待てっ!
 
キ「おいっ、ハルヒ、なんだ誘拐って!?説明しろ!」
 
有「おとうさん」
 
キ「有希かっ!?どういうことか説明してくれ」
 
有「大丈夫。落ち着いて。誘拐は未遂。すでに二人は警察に保護されている。今は検査の為〇〇病院に搬送されているはず。わたし達もすぐ向かう。おとうさんも急いで。」
 
キ「〇〇病院だな!?わかった、すぐ向かう。」
 
病院に着き、中へ駆け込むと受付で聞くまでもなく、ハルヒの怒鳴り声が聞こえてきた。
声のする方へ行くとハルヒが一人スーツを着ている男のネクタイを掴んで絞め上げていて、数人の傍らの警官に必死に止められているところだった。どうやらスーツの男は刑事らしい。
 
キ「おい、ハルヒ!落ち着け!」
 
ハ「うるさいっ!落ち着いてなんていられないわよ!あんた達!ハルカとハルキが少しでも怪我してたらただじゃおかないわよっ!」
 
そのとき、目の前の処置室と書かれた部屋から白衣を着た女性が出て来て言った。
 
「お父さんとお母さん?安心して下さい。二人とも無事ですよ。ただちょっと薬の様な物で眠らされているだけです。外傷などは見当たりません。」
 
その言葉に処置室に駆け込んだハルヒはスースーと安らかに寝息を立てる二人を見て安堵したように、ヘタリ込んでしまった。
 
その後、警察から少々、事の説明を受けた、ハルカとハルキが犯人の車に連れ込まれた直後、事件を目撃した一般人の車が犯人の進路を遮断し二人を救出、誘拐未遂犯は現在徒歩で逃走中だという。しかしおれはその説明には疑問をもった。目撃者がいたことはたぶん偶然ではないだろう。
おそらく古泉あたりに聞けば事の詳細な説明が返ってくるに違いない。
 
自宅に戻ると留守番をしていてくれた妹が不安そうな面持ちで迎えてくれた。
連絡を受けて駆け付けてくれたうちの両親やハルヒの両親と重苦しい空気にコハルとハルヒコも不安げな表情を見せている。
おれが二人の無事を伝えるとみんな一様に安堵した表情を見せていた。
夜になりひどく疲れた表情の古泉が妹達を迎えに来た。その疲労が閉鎖空間によるものだとは容易に推測できた。
迎えに来た古泉が帰り際、古「今日の事で少々お話したいことがあります。明日の朝、会社の方へ出向きますのでお願いします」なんて言って帰っていった。
やはりなにか裏がありそうだな。
 
深夜、日付が変わる頃、ハルヒが寝静まる待ってたかのように有希が話を切り出した。
 
有「ごめんなさい。」
 
キ「どうした、なにがだ?」
 
有「今日の事。事態を把握しながら防ぐことが出来なかった。」
 
キ「いや、ハルカもハルキも無事だったんだ、おまえが謝ることはないさ。」
 
有「本来なら直ぐに駆けつけて事態を収拾して、二人を救出するはずだった。しかし、あの時、わたしの隣におかあさんがいて情報操作を行うわけにいかなかった。」
 
たしかにハルヒの目の前で超常的な力を使う訳にはいかない。
 
キ「それならしょうがないさ。気にするな。それより一つ聞きたいんだが、今日の事はハルヒの力の事に何か関係はあるのか?」
 
有「おそらく関連性はない。そのため、事態が発生したとき、事態の収拾と二人の救出を近くに居た古泉一樹の機関の護衛に任せることにした。その時居た人物は森園生と新川の両名。彼らなら信頼出来ると判断し事態の収拾と二人の救出を彼らに任せ、わたしはそのまま事態の情報の収集に終始した」
 
やはり機関が関わっていたか。しかし、たしかに森さんと新川さんなら信頼できる。
有希が動けない状態で彼らがいてくれたのは幸いだったな。
 
キ「じゃあ、犯人の目的は一体なんだ?」
 
有「わからない。現在、犯人は古泉一樹の機関が拘束していると思われる。古泉一樹から詳細を聞くべき。」
 
今の時点で有希がわかるのはここまでらしかった。それ以上は推測の域は出ないと思い、話はそこまでにして寝ることにした。
翌日の古泉の話を聞いてみないことにはなにも判断出来そうにない。
翌朝、有希と共に仕事場へと向かうとすでに古泉が待っていた。
 
古「おはようございます。さっそく昨日の事の詳細を話したいのですが、よろしいですか?」
 
キ「ああ、頼む。」
 
古「結論から言わせていただきますと、今回の件はハルヒさんの力を目的としたものではありません。現在、実行犯を含め主導した組織の人員全て機関で拘束しています。まぁ、組織と言ってもそこらの不良グループと大差ないものでして、計画性もなく一般人に目撃され警察に通報までされています。そのためまったくのノーマークだったので、・・・申し訳ありません。対処が遅れてしまい警察の介入も止められずハルヒさんに知られる事になってしまいました。」
 
キ「いや、謝らなくていい。森さんと新川さんにも礼を言っておいてくれ。それで犯人の目的は一体なんだったんだ?
 
古「ご存知でしたか、伝えておきます。目的は一言で言うなら、あなた方への妬みと逆恨みと言ったところでしょうか。」
 
キ「そんな知らんやつらから妬まれる覚えはないぞ?」
 
古「それが、どうもあなた方の会社の急激な成功を快く思わない同業種の人物が嫌がらせの為に件の不良グループに誘拐を依頼したのがことの発端のようです。」
 
キ「まさかそんなくだらない理由の為にハルカとハルキは危険に晒されたのか!?」
 
古「もともと脅しのつもりだったようで危害を加えるつもりは無かったようですね。実行した不良グループも金欲しさの犯行だったようです」
 
昨夜の二人の無事を確認したときのあのハルヒの姿を思い出す。あいつが人前であんな取り乱す姿はもう見たくない。
なんでこんなくだらない理由の為におれたちがあんな思いしなきゃならんのだ。
 
古「今回の件で機関では警備を強化する方針を固めました。依頼主と不良グループにもそれなりの対処を致します。今後二度とこのような事が起こさせませんので、ご安心下さい。」
 
キ「ああ、すまなかったな、ありがとう、世話になった。」
 
古「いえ、これは機関にとって役目のようなものですし、ハルカちゃんとハルキくんは僕にとっても大切な姪と甥です。礼には及びません。しかし今回の件、少々不可解な点がありましてそれに関していくつか有希さんにお尋ねしたいことがあるのですが。」
 
キ「不可解な点?」
 
古「実は事件発生時、犯人を追跡していた森さんと新川さんが僅かな間ではありますが犯人の車を見失うという事態がありました。先ほど話した通り、実行犯は素人のようなものです。プロ中のプロである二人が素人相手にそのようなミスを犯すとは考えられないんですよ」
 
キ「ハルカとハルキを助けてくれたのは森さんと新川さんなんだろ?」
 
古「確かに最後に二人を保護したのは彼らです。ですが、彼らが犯人に接触する前のその僅かな間に何者かによって犯人は行動不能状態にされていたんです。」
 
キ「ちょっとまて、森さんと新川さんの他に誰かいたのか?」
 
古「それについて有希さんがなにかご存知ではないかと思いまして。」
 
キ「有希、なにがあったかわかるか?」
 
有「何者かの介入があった可能性が高い」
 
古「それは一体何者かはわかりませんか?」
 
有「明確には不明。森、新川両名は犯人を追跡中に9.824秒間、目標を消失している。情報収集のため遠隔追跡していたわたしも同じく目標を消失した。次に目標を確認したときには事態はすでに収拾して、犯人は行動不能状態だった。」
 
キ「ちょっとまて、森さんと新川さんやおまえの目まで欺くなんて、そんなこと出来る奴がいるのか?」
 
有「通常の方法では可能性は低い。分析した結果、その時目標の周囲に不可視遮音フィールドの発生を確認している。」
 
キ「・・・・・・おい、おまえの他にそんなことが出来るやつって・・・」
 
有「・・・ヒューマノイドインターフェースなら可能。」
 
古「では、この件には情報統合思念体が関わっていると?」
 
有「その可能性が高い。そのため幾度も情報統合思念体に説明を求めているが明確な解答が得られない。」
 
古「情報統合思念体にもわからないってことですか?」
 
有「そうではなく、解答が要領を得ない。・・・わかりやすく言うなら、・・・・・・・・・歯切れが悪い?」
 
・・・・・・歯切れが悪い銀河の統括者ってなんだよ。なんだかよけいわかりにくいぞ。
 
古「・・・・・・とにかく情報統合思念体が関わってる可能性が高いとなるとこれは少々厄介なことになるかもしれませんね。」
 
「あら、別にそんなことはないわよ?」
 
突然かけられたその声におれ達は一斉に振り向いた。今までなんの存在感も感じさせていなかったその声の主を見ておれの体が一瞬にして凍りつく。体が恐怖に支配され出したくても声にならない。それでも搾り出すようにして声の主に問い掛けた。
 
キ「・・・・・・朝倉、・・・なぜおまえが」
 
背中に嫌な汗が流れるのを感じる。おれは無意識のうちにあの改変世界で抉られた脇腹を押さえた。
 
有「朝倉涼子、あなたがなぜここに?」
 
警戒する有希からなにかプレッシャーのようなものが部屋全体に拡がる。
 
朝倉「そんなに構えないで。危害を加えるつもりはないわ。せっかく今回の事の説明をするために来てあげたんじゃない」
 
キ「嘘をつくな。なにたくらんでやがる?目的はなんだ。」
 
朝倉「なにも企んでないわ。目的はそれはハルカちゃんとハルキくんの救出。本当にそれだけ。」
 
キ「・・・・・・信用できるかよ。」
 
有「大丈夫。おとうさん。」
 
キ「有希?」
 
有「朝倉涼子は嘘は言っていない。」
 
そう言った有希を見ると、さっきまでのプレッシャーは消え去りまるで警戒している素振りは見えない。
 
有「情報統合思念体から通信があった。彼女に敵意はない。」
 
キ「・・・本当に大丈夫なのか?」
 
有「大丈夫。今は話を聞くべき。」
 
朝倉「ありがとう。長門さん、あ、そういえば今は違うんだっけ、・・・それじゃあ有希ちゃんて呼んでいい?」
 
有「・・・かまわない。説明を求める。」
 
朝倉「ありがとう、有希ちゃん。じゃあ、説明するわね。えっと、どう説明したらいいかな、とりあえず今回のことはまず、急進派の独断専行なんだけど、情報統合思念体全体の意思でもあるの。」
 
急進派。・・・その言葉に有希の顔が少し翳ったように見えた。
 
有「あなたの言うことは矛盾している。情報統合思念体全体の意思なら独断専行ではないはず。」
 
朝倉「そうね、たしかに矛盾してるわ。その矛盾のせいで情報統合思念体内はかなり混乱してるわ」
 
有「混乱?」
 
朝倉「情報統合思念体も今回の自分たちの行動に関してはよくわかってないの。だから有希ちゃんの問いにも明確な回答が出せないでいる。」
 
キ「なぜわからないんだ?自分たちの取った行動だろ。」
 
朝倉「本来なら取るはずのない行動だったからよ。あの状況ならハルカちゃんとハルキくんに深刻な被害がないことは十分予測できたしね。」
 
古「では、情報統合思念体内部でなにか異変が起こっているということですか?
 
朝倉「今わかるのはハルカちゃんとハルキくんの危機に情報統合思念体内部に多大なエラーが発生したってことだけ。」
 
エラー。おれはあの改変された世界での有希を思い出した。
 
朝倉「情報統合思念体はずっと有希ちゃんを通じて観測してきたんだけどハルカちゃんとハルキくん生まれたとき、有希ちゃんからもたらされる情報が明らかにそれ以前とは変化していることに注目したの。最初はその情報はただのエラーとして処理されていた。でもあるときその情報をエラーとして処理すると情報統合思念体内部に微小の別のエラーは発生するようになったの。情報統合思念体はその有り得ない事態に有希ちゃんのもたらす情報に鍵があると考え情報をエラーとして処理せず解析を始めた。そのエラーの元になった情報を解析した結果わかったことは情報統合思念体には理解しがたい有機生命体のある行動が元になっていた。」
 
古「ある行動?それはなんなのですか?」
 
朝倉「それは"自身の保全を放棄してまで他を守ろうとする行動"」
 
古「それは自己犠牲ということですか?」
 
朝倉「そう。情報統合思念体にとって自己の保全は最優先にされること。それを放棄するなんて考えられなかった。情報統合思念体はその情報をやはりエラーであると認識してそれで終わりのはずだった。その時今回の事件が起こったの。状況を分析した結果、ハルカちゃんとハルキくんに危険は無いと判断して静観することを決定した。でもその時、情報統合思念体内部に膨大なエラーが発生したの。いくら処理してもしきれないほどのエラーに情報統合思念体は混乱を極めた。そんな中、エラーの影響でわたしの属する急進派が行動を起こしたの。これまでは急進派にとってなにかあったほうが情報爆発を観測出来て都合が良かった。なのにわたしを再構成して二人の救出に向かわせた。するとどういうわけか、情報統合思念体内部のエラーが急速に無くなっていった。」
 
…正直理解が追いつかない。どういう事態なんだ?わけがわからない。有希をみると無表情ではあるがやはり驚きを隠せないでいる。
 
朝倉「情報統合思念体は今、今回のこの自分たちの行動を全力で解析している。でも一向に答えは出ない。それが今回のことの全容よ。」
 
おれは発する言葉がなく黙っていると、なにやら難しい顔で考え込んでいた古泉が口を開いた。
 
古「……それは大変興味深い現象ですね。情報統合思念体がまるで人間の感情に基づいたような行動とるとは……。」
 
朝倉「感情?これが?」
 
古「そうです。人間はときとして自らの命を犠牲にしてでも大切ななにかを守ろうとします。」
 
朝倉「わからないわ、なぜそんな行動をとるの?」
 
古「その行動に理屈は有りません。ただ大切な者を守りたい、その思いだけです。でもその思いが人を動かすもっとも大きな力でもあります。」
 
朝倉「理解できないわ。なぜ自分を犠牲にすることが人を動かす大きな力なの?有希ちゃん、あなたはなぜそんな行動を取ろうとするの?」
 
有「・・・・・・わからない。わたしはおとうさんとおかあさん、子供達が傷つくのも悲しむのも見たくない。だから守る。それだけ。」
 
わからない。有希はそう言った。だがその目はいつか見たときと同じ強い意志が感じられた。
 
朝倉「・・・・・・守りたいか、やっぱりよくわからない、・・・でも情報統合思念体に発生したエラーはもしかしたらそうなのかもしれないわね。たしかにあの時、わたしや情報統合思念体はハルカちゃんとハルキくんを助けることしか考えてなかった・・・。」
 
”なんだか悪くないわね”最後に笑顔でそう言った朝倉が、なぜだろう、おれはすごく寂しそうに見えた・・・。
 
朝倉「長々とおしゃべりしちゃったけどもう戻らなきゃ。・・・有希ちゃん、お願いね。」
 
キ「戻る?どこへだ?」
 
朝倉「情報統合思念体に回帰するの。わたしの目的はハルカちゃんとハルキくんの救出と今回のことをあなたたちに説明すること。目的が達成されればわたしが存在している理由はないもの。」
 
古「有希さんにお願いとはどういうことです?」
 
古泉が疑問を口にした。
 
朝倉「情報連結を解除してもらうの。自己の保全を最優先にするわたしたちには自分の情報連結を解除することは出来ないから。」
 
そう言った朝倉を見ておれはなんだか複雑な気分だった。たしかに朝倉は過去に暴走しておれを殺そうとした。
でも今回はちがう、ハルカとハルキ助けてくれた。それでも消えなきゃならないのか・・・なんだかやりきれない気分だ。
 
朝倉「なんかおかしいわ。前に消されたときはなんとも思わなかったのに・・・、今は少し寂しいわね、・・・これが有機生命体の死の概念てものなのかしら。」
 
朝倉は寂しそうな笑顔を浮かべて言っていた。ふと、有希を見ると朝倉ではなく真っ直ぐにおれを見つめていた。
有希は昔からなにか判断に迷うときおれを見ることがあった。でも今はちがう、判断に迷っているわけじゃない、有希は今、ただ一つの許可ををおれに求めている。
 
(長門さんを傷つけることは許さない)
 
(あなたが望んだんじゃないの・・・・・・今も・・・・・・どうして・・・・・・)
 
おれの脳裏に過去のあの改変世界での情景が蘇る。
あの時、有希はなぜ朝倉を復活させたのか。わかりきってる。そうだよな。
有希、おまえは朝倉を消したりなんかしたくなかったんだな・・・。・・・何度も同じことを繰り返したくなんてないよな。
 
真っ直ぐにおれを見つめてくる有希に向かい、おれはただ大きく肯いた。
それを見た有希が朝倉に向き直り言った。
 
有「拒否する。」
 
朝倉「え・・・・・・?」
 
有「あなたの情報連結の解除の要請を拒否する。」
 
朝倉「・・・どうして?」
 
有「したくないから。わたしはあなたを消したくない。」
 
朝倉「なぜ・・・?」
 
有「あなたにはここに居てほしい。わたしはそう感じているから。」
 
朝倉「でも・・・それは・・・・・・」
 
朝倉がおれを見ている。おれはただ首を横に振った。朝倉はハルカとハルキ助けてくれた。
その朝倉が消えずにここにいることにおれは反対する理由はない。なにより有希がそう望んでいるんだ。
有希にもうそんな後悔するようなことはさせたくはないしな。
 
有「今、あなたがここに残れるように情報統合思念体に申請、許可された。あなたにはわたしに変わりに主に様々な観測に努めてもらう、わたしの最優先任務は保全。その際、今回のような事態や外敵からの攻撃があったとき、これの排除に対する協力を要請する。」
 
朝倉「・・・・・・わかったわ。でも本当にそれでいいの?」
 
有「いい。ただ、あなたは過去に一度暴走を起こしている。その為、通常の観測任務の間は喜緑江美里の監視下に置かれることを了承してほしい。」
 
朝倉「・・・了解。あなたがそれでいいなら・・・ありがとう。有希ちゃん。」
 
そう答えた朝倉に有希も微かに肯いて答える。そのときの有希がおれはどことなく嬉しそうに見えた。
 
朝倉「じゃあ、ひとまず喜緑さんの所にでも行くわね。えっと・・・、古泉くんだっけ?そういうことだから、これからわたしの手が必要なら遠慮なく呼んでね。」
 
古「わかりました、ありがとうございます。実に頼もしく思いますよ。」
 
朝倉「それとキョンくん。過去にあんなことしておいて言えたことじゃないけど不快な気分にさせちゃってごめんなさい。これからは極力あなたの前には姿を現さないから許して。」
 
キ「あ、ああ。」
 
そういった朝倉の顔がおれはどうにも悲しそうに見えてしまった。
 
キ「・・・おい、朝倉」
 
朝倉「なに?」
 
キ「その、ハルカとハルキを助けてくれてありがとうな。」
 
朝倉「うん。」
 
キ「・・・それと、今度家に遊びにでも来てくれ。有希もいるし子供達にも紹介してやる。ハルヒも・・・会えたらきっと喜ぶ。」
 
朝倉「・・・・・・いいの?」
 
キ「ああ、ただ、おまえは急にカナダに転校したことになってるからな、ハルヒに追求されてもいいようにしっかり言い訳考えて来てくれよ。おれじゃフォローし切れん。」
 
朝倉「フフッ、わかったわ、ありがとう、キョンくん」
 
そう言って笑顔で去っていった朝倉の瞳に少し光るものが見えた気がしたのはおれの気のせいだろうか。
 
古「そろそろ僕も失礼します、このことを機関に報告しなければなりませんので。」
 
キ「ああ、またあとでな。妹のやつ今日も家にきてるはずだ、早いうちに迎えに来てやれよ。おまえの帰りが遅いと拗ねてしょうがないからな、あいつ。それと森さんと新川さんによろしくな。」
 
古「わかりました。善処しますよ。では。」
 
古泉が出て行ったあと、時計を見ると結構な時間がたっていた。もう昼をまわりかけている。
こりゃ、早く帰らんと昨日の今日でなにしてんだとハルヒにどやされるな。
 
自宅へと戻る帰り道、歩きながら今日のことを考えていた。
朝倉は言っていた。有希からもたらされる情報が情報統合思念体内部にエラーを引き起こしたと。
有希はおれたちと暮らすうちにどんどん人間らしくなってきた。
冬なんかジャージ着てこたつから出ないでひたすらみかん食ってるくらい人間らしいからな。
思念体はそんな有希に影響されたのだろうか、だとしたらそれは一体なんだ?たぶんこれまた思いっきりベタなシロモノだ。
だが、あんな神様みたいな連中がそんな簡単に影響なんてされるもんなのだろうか・・・。
有希は昔言っていた。ハルヒは進化の可能性だと。あんな神様みたいな連中に影響を与えられるなんてのはやっぱり神様みたいなやつしかいないだろう。
・・・なーんて考えてみても難しいことはよくわからん。
誘拐未遂だのなんだのとあったが結果良ければそれでいいだろうよ。
子供達も無事で、有希にとって良い事があった。それで十分だ。
 
おれは隣でどことなく機嫌良さそうに歩いている有希に聞いてみた。
 
キ「なあ、有希、嬉しかったか?」
 
有「・・・・・・?」
 
キ「朝倉が戻ってきてくれて嬉しかったか?」
 
有希は俯いてしばらく思案したあとおれの目を真っ直ぐに見つめ言った。
 
有「・・・・・・・・・うれしい。わたしは朝倉涼子が戻って来てくれて嬉しく感じている。」
 
キ「そうか。よかったな。今度家に呼んでおまえの作った特製カレーでもご馳走してやれ。きっと喜ぶぞ。」
 
有「わかった。がんばる。」
 
そう答えた有希の頭をおれはくしゃくしゃと撫でた。・・・なんかクセみたいになってんなこれ。
 
黙って撫でられている有希はいつか見たときのように優しく微笑んでいた。
 
 
おわり


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