俺がそれについて認識する以前より、実際の所は俺以外の人間はみなそうだと認識していたようだ。
俺はその事について確たる証拠は持っていなかった。自信だけが先走って、思い込みに走っていただけにすぎないのだ。
若さゆえの過ちではすまさない。罪である。罰を伴う罪である。
その事を説明するにあたって、遠回りな言い回しや、小難しい形容詞などは必要無いはずだ。
無いのは自信だけだ。
今の透き通った視界なら、見えないものはない。盲目だったのだ。
砕かれた自信が再び治る事は無い。安易な過信が自信を崩し、崩れた自信が俺を崩した。
盲目の人間が突っ走り、自ら硬い壁に突き当たり怪我をしたというだけだ。
ああ、馬鹿ものさ。涙も涸れるほどの、馬鹿ものさ。
「もう、だめだな」
こうしている間にも時は流れ続け、傷口は開いてゆく。時も見放した癒えぬ傷だ。
自己憐憫に陥った事による自己嫌悪さえもわかない。末期だ。
するりと回された腕は暖かかった。



その事を今、分析する事はいくらでも出来るだろう。
それは自分の事なのだから、容易に決まっている。
動機にしても、その時の思考も、全て思い出し分析する事は容易なんだよ。
繰り返すようだけど、自分の事を自分以上に知ってる人間はいないからね。
だからこそ、自分を縛り付ける人間は自分以外の誰にもいないんだ。
厄介な機能だと思うが、僕は人間の持っている機能で一番慎ましいものだと思っててね、嫌いにはなれない。
だから僕は君の事を嫌いにはならないよ。哀れにも思わない。
君も言っている通り、なんら難しいことは必要ない。
「残念だったな」
それだけさ。
本来ならそれだけで済む事なんだ。君が悔やんだってしょうがないし、何より意味がない。
きりがないんだよ。
だから、誤魔化してしまえばいいんだ。


妄想がこびりついた体じゃあ誤魔化すこともままならないさ。


妄想?
妄執だね。過去への妄執なんてものほど非生産的なものはない。
自己満足を得られたとしても、時間が経ちすぎたろう。もう、目を背けてしまえばいいんだよ。
君にとって、それが価値ある事だとしよう。
しかし、現実問題それはもう目を背ける事しか出来ないんだよ。
君が経てきた数多くの出来事のように、一つの過去としておけばいいんだ。
そんな簡単な事さえも許さないのは君のなんなんだ?
罪悪感なんて高潔なものじゃないよ。
プライドさ。
それさえ、という安っぽいプライドが君を邪魔して、貶めているんだ。
「無意味だよ」


「そうかもしれないな」


簡単に認めるのもプライドを守るための手段でしかない。君は何も納得しようとしていないよ。
綺麗な思いを守るためだけに自分を汚している。状況は悪化する一方なんだよ。
虚構だったと思えばいいんだ。
虚構の中で生きる人間にどれだけの価値と意味がある?
何も無いんだよ。消えてしまうものは数あれど、生まれる物は何一つ無い。
君は記憶を手で掴むことが出来ない。抱くことも出来ない。
記憶という虚構は綺麗なだけで奥行きも温もりもないんだ。
自分の作り出した空想の一部になるだけなんだ。
わかるかい。今君は空想の中で生きているんだ。
もう、十分生きたろう。
そろそろ、死ねよ。


死にたくない。


なあに、僕も死のうと思っていたところだ。一人よりかは心細くは無いはずだ。
死に時を計らうのは死に場所を探すよりも大変だ。だが、僕は今が無難だと考えるよ。
ベストな時期なんて、無いからね。思い立ったときがどんなに最悪の状況だったとしても、最悪な時期はないんだ。
最初から自信のある人間なんていないさ。崩れても積みなおせば良い。時間はそのためにある。
でもこのままじゃ時間はなくなる一方だ。
さぁ、早く死のう。死んだら楽になれるんだ。
いや、むしろ頼むんだ。
君が死んでくれれば、その虚構に生きてた僕も死ぬんだ。
一歩踏み出した先が崖であっても、どんなに傷ついても、最後には地面が受け止めてくれるから落ち続ける事なんてない。
二人なら、庇いあう事だって出来る。
キョン。君と死ねるなら僕は本望さ。


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