「気配は4つ。1つがこちらに向かっている。あなたは隠れて。」

「残り3つはハルヒの方に行ったのか!?
古泉はともかく朝比奈さんとハルヒが戦える訳ないだろ!?」

「あちらに向かっている気配は2つだけ。大丈夫、
――彼女は強い。」

――

「ハハッ、久々だな『雁ヶ音』!」

「何、みくるちゃん知り合い?いい歳して人形抱いてるわよ…ヤバいんじゃないの?」

「…『狩人』、ですか。人形遊びとパンジーの花壇を漁る事が趣味の危険な徒です。
涼宮さんは危ないのでここを動かないで下さい。」

「それは危険ね…末期だわ。」

「パンジーはいい…、醜い物を全て覆い隠してくれる。人間も、トーチも、そしてフレイムヘイズもな。
お前も俺の巨大パンジーに呑まれて消えていくがいい!!」

「――どうやらあなたも、私のお茶が飲みたい様ですね。」

――

「おや、これはこれは。えー…いや、…お久しぶりですね。
えぇと…あー、うん…、お久しぶりです本当に…」

「橘ですよ!何で忘れてるんですか!?あんまりです!!」

「すみません、悪意は無いんです。いや余りにも印象が薄かったもので。」

「おぉう…悪意が無い方が余程タチが悪いのです…、いやそんな事はどうでもいい!
今日こそ決着を着けさせてもらうのです!!」

「ほう…、灰色の世界で戦いに明け暮れて来た僕と、
セピア色の空間で淡い恋の妄想に耽っているだけのあなた。まさか勝てるとお思いですか?」

「ななななぜそれを!?…い、いやそんな事してません!!
もう許せない!あなたを倒して、あのミステスは私達が手に入れるのです!!」

――

フレイムヘイズがどうとかは置いといて…

「・・、・・・・・、・・、・、・・、・・・・。」
「――――、―――、―、――、―、――――、―。」

何この超絶バトル…。

「…っ。」
「――っ―。」

「長門、大丈夫か!?」

「…大丈夫、私は胸が無いのではない。成長期なだけ。」
「――私の頭―――毛筆――ではない――。」

「なに高速で女特有の陰湿な喧嘩してんだお前らァッ!!」

――

全く、どこに行ってしまったんだあの3人は。
それに何なんだろうここは。涼宮さんの閉鎖空間は灰色と聞いていたけど。
…まあ彼女なら何でもアリ、か?

「もしかして…あれが神人というやつかな?」

――

あの巨人、前学校で見た…何で?あれは夢だったんじゃないの?

「キョン…!」

――

「神人…!」

あの厨2病サイキッカーは気付いてやがんのか!?
まさか自分の仕事まで忘れちまってるんじゃないだろうな…!!

「ハルヒ…!!」

携帯のメモリーから000番を呼び出す。
――通話中。
「…くそっ、こんな時に誰と話してやがんだあいつは!!」

一年前。嬉々としてアレに近づいていったハルヒの姿が頭をよぎった。
俺に何が出来るとも思えんが。…放ってはおけないか。

「長門、ハルヒがアレに近寄らんとも限らん。念のためハルヒを探してくる。
お前も早いとこそいつとの口喧嘩は切り上げて手伝いに来てくれ。」

「分かった。」

――

何で?何でアイツ街を壊してんの?人だっていっぱいいるのに。
何でみんな動いてないの?何なのよここ。
あたしは何であのデカブツに親近感を覚えていたんだろう?夢だからはっきりとは覚えてないけど…。

またビルを壊した…有希とキョンはどこ?

携帯のメモリーから000番を呼び出す。
――通話中。
「…何でこんな時に話し中なのよあのバカキョンッ!!」

もしアレに有希が巻き込まれたら…もし、キョンが巻き込まれたら…。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。見つけなきゃ、絶対に。絶対。
くそっ…なんであんな遠くにいんの!!どんだけ走らせりゃ気が済むのよ!!
不気味な光を放つその巨人。遠近感が狂う。どれだけ走っても近づいている気がしない。

足が重い……足が…。
息が上がる……体が、

――熱い。

…………?

「なに…これ…?」

――

派手に壊してんなおい…。
「ハルヒーッ!!いんのかー!?」

この空間を覆い尽くす濁った赤色。
なんというか…本能的な危険を感じる。
有害な動植物が持つ警戒色、あれに似たものを。

一向に見つからないハルヒ。
履歴を出し何十回目か分からないリダイヤルを実行しようとしたその時――。

視界の端、遥か上空で封絶の色とは明らかに違う輝く赤色が目に入った。

「やっと来たか古泉。早いとこ片付け…、」

………?
何か違う…アイツの赤玉はレーザーポインタみたいな色じゃなかったか?
あれは赤というより…、

――紅蓮?

ズシャアァァァァァッ!!

派手な音と共に、頭頂部から正中線を通って股下へ。
一瞬にしてあの巨体が真っ二つに裂かれ崩れ落ちていく。


地面に降り立つ細身のシルエット。
炎髪灼眼、炎の翼。そして、

――見慣れた黄色いカチューシャ。

その手に持つのは何とまぁ、


こいつ…、角材で神人ぶった斬りやがった…。

――

「なるほど。その調律というのを僕に手伝って欲しい、と。」
「はい、あなたが最適の様なので。大丈夫、危険はありません。」

「へえ、紅世の徒にフレイムヘイズ、そしてトーチ。大体の話は理解したよ。
…で、何をしている国木田。」

「いえ僕は、『儀装の駆り手』カムシン。これは『不抜の尖嶺』ベヘ…」
「分かったもういい。…はぁ、君もか。」

「手伝って頂けますか?」
「そんな事をしなくても元には戻るよ。
その前に、少し彼女に説教をしてこなければならないな…、僕は行くよ国木田。」

「いえ僕は『儀装の駆り…」
「――国木田。」


「……はい…。」

―― 

 

「目、充血してんぞ。」
「寝不足よ。」

「髪も真っ赤じゃねーか。」
「穏やかな心と大いなる怒りのせいね。週4でこんな感じだわ。」

大して疑問は持ってないんだな…いい加減な奴…。
まぁそっちの方が助かるか。

「朝比奈さんと古泉はどうした?」
「向こうでアホな事やってたわ。引っぱたいてでも正気に戻してやんないと。有希は?」
「あいつも同じだ。俺がやめさせてくる。」
「そう、分かった。じゃあ駅前集合ね。」

「……ハルヒ、」
「なに?」

「助かった。ありがとな。」
「う…うるさいうるさいうるさいっ!!」

――

「橘さん。」
「佐々木さん!?危ないので下がっていて下さい。必ずこいつを倒し」

――バチンッ

「きゃうっ!!……あ…、え…??」

「君は以前言ったね、不安定な涼宮さんより安定している僕に力を移すべきだと。
それがこれは何だ?紅世の徒?好き勝手やって世界のバランスを崩す存在だそうだが。
この「ごっこ」がどんな影響を与えるのかは知らないが、言う事とやる事が逆だろう。
そろそろ正気に戻るんだ。君の仕事は僕の観察だろう?」

「あ…あれ…私何してたんだっけ…?」

「君もだ、古泉一樹。」
「え…?」

「君の仕事は涼宮さんのストレスを取り除く事だろう。
神人が出たというのにそっちのけで何をしてるんだ?」

「いえ、僕の仕事は紅…」

「僕に『地』を出させるな。」

「…はっ、はい……。」



「「(怖い…。)」」

――

「バカな…俺の花達が枯れて…!?」
「夏の昼間、花に水をやろうとして怒られた記憶はありませんか?
高い気温に温められた水が花を弱らせてしまうからです。
今のはそれと同じ。あなたの花壇にポットのお茶をかけました。」

「なんという奴だ…それでも女かお前!!花を愛する心は無いのか!?」

「それとこれとは話が別……あれ、涼宮さん?――きゃあぁ!?」
「……?」

「なんですか…?何で私水かけられたんですかぁ…?」

「そろそろ正気に戻りなさいみくるちゃん。犬耳透明スクール水着で町中歩かせるわよ?」
「…ふぇ!?」

「アンタもよ、パンジー男。」
「何…?」

「これ以上みくるちゃんにちょっかい出してみなさい。――摺り潰して再生紙工場に持ち込んでやるから。」

「…あ…、くっ……。」



「「(怖い…。)」」

――

まだやってるよこの二人…。

「――、―、――――。」
「…、………、…………、…。」

「長門、切り上げろって言ったじゃないか…あんまり言う事聞かないようだと、
――文芸部室にブックオフの出張買取呼んじまうぞ?」

(――ピクッ)

「お前もだ、周防なんとか。」
「――?」

「雪山の時のがお前かは知らないがな、長門やSOS団の連中に何かしてみろ。
長門のとは比較にならない程切れ味の鋭い言葉のナイフを食らわせてやる。生きるのが嫌になるかもな。」

「――!?」



「「(……――危険…―。)」」

――

駅周辺
「やあ、3人共。無事だったようだね。」

「はい…すいません…。」
「…悪かった…あまり記憶に無いが…。」
「――、――。」

「空間が元に戻っていくね。彼女も満足したみたいだし、結果良ければなんとやら、だ。
僕たちも帰ろうか。」

――

「どこかなぁ~、私の『贄殿遮那』~♪」
「ナイフの次は日本刀ですか…。刃物好きもそれくらいにして下さい。」

「いいじゃない、趣味があるって素敵な事よ。」
「女子高生らしい趣味を持ってください。それに残念ですが、
もう涼宮さん満足しちゃったみたいですよ。」

「そんな……。」

――

SOS団が駅前に集合した直後、赤黒かった空間が正常に戻り始めた。
あんだけ大活躍すりゃそりゃ満足するだろうよ。
自分のストレスを自分で倒せるなんてたいしたもんじゃないか。古泉の為にも定期的に炎髪灼眼化して欲しいもんだ。

今回の事もハルヒの中では以前の学校の時のように夢オチで処理される事だろう。
……される、よな…。
いや、しろ、ハルヒ………

――――――
―――
―。

数日後

「お、まだ長門一人か。」
「そう、古泉一樹は休み。」

ん?長門がハードカバーを読んでない。…嫌な予感がする。

「な、長門、今日は何読んでんだ…?」
「…読む?」

「いいのか?…じゃあ借りようかな。SF物か?」
「広義では、ミステリー。」

「…そうか、ミステリーなら割と好きだな。なんてタイトルなんだ?」


「ひぐらしのなく頃に。」

「それだけはやめてーーーーーーーーーーーーっ!!!」

おわり

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最終更新:2008年03月02日 10:17