※本編に入れたかったけど都合上挫折したお話。アフターストーリーと言うか裏設定?

 

本編は→セカンド・キス

 

 

『セカンド・キス sideB』

パーソナルネーム長門有希より思念体へ。
16時32分24秒、涼宮ハルヒからの情報奔流の停止を確認。
新世界構築の事前阻止を報告。
再び観測に戻る。以上。


思念体への報告を終えた。思わず安堵する。
わたしの行動は間違っていなかった。
わたしの助言がなくても、彼なら『答え』にたどり着いていたはず。
ただの人間にここまで信頼をおけるわたしはどうかしている。

しかし、わたしは思う。

彼はただの人間?情報解析上彼に特別視されるような性質は存在しない。
ではわたしにとって彼はただの人間?それは違うはず。
なぜ?
彼からの言語化された情報がわたしにエラーをもたらすから。
わたし達にとって決して抱くことの許されないエラー。
わたしには有機生命体の持つ『感情』というものは理解できない。解析不能だから。
理解できないが、感じることはできる。その理由もまた解析不能。
彼に一因があることは間違いない。わたしは彼がただの人間とは思えない。

一つ気がかりなことがあった。

「・・・!」

住み慣れたマンションの一室に聞きなれないインターホンの音が鳴り響く。
やはり来た。玄関へと向かいドアを開く。

「ごめんね長門さん。私。」
「入って。」

わたしは彼女を部屋へと招き入れた。
二人で向かいあってコタツに入る。お茶を勧めると彼女は快く受け取ってくれた。
一口すすった彼女は少し困ったような笑顔を作って語り始めた。

「やっぱり駄目だったぁ。本当に好きだったんだけどね。」
わたしは、

「そう。」
としか言えなかった。

 

「有機生命体の抱く恋愛感情なんて、私達にとっては所詮理解できないものだと思ってたんだけどね。」
「・・・。」
「やっぱり私達も人間がベースなんだね。彼と一緒にいたら、自分に課せられた指名なんてどうでもよくなっちゃって。」
「・・・。」
「なんだかね、暖かくてフワフワしてるの。彼のことを思うだけで胸が苦しくなったり、目が合っただけでワクワクしたり。」
「・・・。」
「ねえ。もしかして私が彼と同じ中学に入学したのって、急進派の策略だったのかなあ。こうなることを予想していたとか。」
「・・・。」
「でも、そうだったとしても良かったなって思うんだ。彼のおかげで生み出されてからの四年半、私はとっても楽しかった。」
「・・・そう。」
「長門さん?」
「なに?」
「なんで泣いてるの?」

一筋の涙がわたしの頬を撫でる。わからない。理解できない。

「泣かないでよ。」
「・・・わかった。」

わたしは頬を伝う涙を手の甲でぬぐった。

「そっか。わたしのために泣いてくれたんだ。長門さんも人間らしくなっちゃったんだね。彼のせいで。」
「・・・。」
「でもわたしと違って長門さんはしっかりしてるし、わたしみたいなのから彼のことをしっかり守ってあげてね。」
「・・・。」
「じゃ、さっさと済ませちゃおうっ!指令・・・着てるでしょ?」

満面の笑顔でそうわたしに告げる彼女の顔を見て再び泣きそうになるのをわたしはやっと堪えた。苦しい。なぜ?
躊躇いがちなわたしを見て彼女はフッと微笑みかける。

「やっぱり長門さんは優しいね。でも指令は指令。わたしみたいに上からの命令まで無視しちゃだめだよ。」
「なぜ?あなたは間違っていない。あなたの思うまま行動した。嫌だ。やりたくない。わたしが上に掛け合う。」

「ありがとう。でもいいの。私はもう十分人生を楽しんだ。彼のおかげでね。」
そう言ってわたしの手を握る彼女。震えている。彼女は小さく開いた口でかすかに、
「・・・やって。」
と呟いた。

「あなたはあなたの想うことを信じて行動した。それは誰にでもできることじゃない。きっと。」
「・・・。」
「上がどう捉えようと、わたしという個体は今回のあなたの行動を賞賛する。」

かすかに微笑み、わたしに目で合図を送る彼女。わたしは指示に従うしかなかった。

「・・・パーソナルネーム相沢かおりを敵性と判定。情報結合を解除する。」

相沢かおりの身体を構成する分子が光粒子へと変換されていく。相沢は

「ありがとう長門さん。彼のこと、守ってあげてね。」

そう呟いて、砂となって消えた。

 

―それから数日後、

彼から電話があった。

「おう。長門か。」
「・・・。」
「こないだのことだけどな。えーと・・・。」
「心配しなくていい。涼宮ハルヒからの情報フレアは完全に停止した。
新世界の構築は阻止された。あなたのおかげ。」
「そうか。良かった。それでだな・・・えーと・・・つまり・・・。」
「・・・。」
「ハルヒと付き合うことになったんだ。これもお前と古泉のおかげだ。俺はやっと自分の気持ちに気づけたよ。」

理解できない感情がわたしの胸を襲う。苦しい。わたしは彼に・・・
しかしわたしは消えた相沢のことを思った。
『彼のこと、守ってあげてね。』
そうだ。守るために、わたしは・・・
わたしはいつものように、

「そう。」

と一言呟いておいた。



Fin...


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