腐女子・オタクネタ、キャラ崩壊注意



SS作者古泉くん保守番外編』

 


古泉「……うーん」
古泉「……『ユニーク』、と」

カチカチ……

森「さっきから携帯で何やってんの?」
古泉「も、森さん!? いつの間に背後に!?」
森「ずっといたわよ……って、何? 小説書いてるの?」
古泉「み、見ないで下さい!」
森「まぁまぁ、お姉さんに見せてみなさい」
古泉「いやぁぁぁぁ!」


古泉「……汚された……もうお嫁に行けません」
森「人聞き悪いこと言わないの。それより……何の二次創作か分からないけど、結構面白いじゃない」
古泉(二次創作なのは分かるんだ……)
森「ねぇ、古泉」
古泉「……なんですか?」
森「BL、書いてみない?」
古泉「……は?」


SS作者古泉くん保守番外編
『腐女子上司』


古泉「嫌ですよ! 気持ち悪い!」
森「そうよねぇ……いきなり言っても無理よね」
古泉「いきなりじゃなくても無理です」
森「ん~……どうするべきか」
古泉「書きませんよ、僕は」
森「まずはこちら側の嗜好を理解して貰おうかな?」
古泉「……嗜好?」
森「取り敢えず、軽いトコからってことで……普通の少女漫画を読んでみない?」
古泉「……」ピク
森「興味はあるみたいね?」
古泉「……少しは」
森「じゃ、読んでみよっか。その代わり何か萌え系の漫画貸して。私もそういうの読んでみたいし」
古泉「分かりました」

~熟読~

古泉「……」
森「……」
古泉「……手違いで男子寮に住むことになった女の子と、その周りのタイプの違う魅力的な男子とのラブコメ」
森「……親の再婚で出来た義理の妹とのドキドキラブストーリー」
古泉「男女が入れ替わっただけで男向けとシチュは一緒ですね」
森「……こっちも似たような話を読んだことあるわ。姉と弟だけど」
古泉「萌えポイントは男も女も変わらないのかも知れませんね」
森「うーん……なんとなくは知ってたけど、こうして比べてみると顕著ね」
古泉「僕は女性向けを読んだことがなかったので意外な発見でした」
森「ならさぁ……BLは百合と同じと考えれば書けそうじゃない?」
古泉「確かに……この分なら基本的な心理描写や萌え所は近いものがありそうですし……」
森「同性に恋心を抱いた葛藤とか?」
古泉「そうですね。個人的にはその辺をコミカルに…………って、書きませんよ?」
森(……惜しい)


森「お待ちかねのBL本よ」
古泉「待ってません。全く待ってません」
森「さぁ、これを参考に小説を書きなさい」
古泉「書かないと言ってるじゃないですか?」
森「そんな……ここまで来といて!?」
古泉「どこにも到達してませんよ」
森「……古泉、考えてみなさい」
古泉「何をです?」
森「これは自分の幅を広げるいいチャンスじゃない? これを書き終えたら、あんたはきっと一回り大きくなった物書きになれると思うの」
古泉「結構です。いい話っぽくまとめないで下さい。それに、あくまで趣味ですから好きな話以外は書きたくありません」
森「……」
古泉「……」
森「……じゃあ、仕方ないわね」
古泉「分かって頂けましたか」
森「うん。もう無理には頼まないわ」

ガシ

古泉「……そう言いながら、なぜ僕をホールドするんですか、森さん?」
森「それはねぇ……」

森「今からあんたを洗脳するからよ」ニコリ

古泉「……え?」
森「最初は原作漫画から行くわよ」
古泉「ちょっと? 森さん?」
森「その後、アニメに一般向けアンソロに同人漫画、小説……二、三日は寝かせないから覚悟しなさい」
古泉「ま、待って下さい!」
森「レッツゴー」

ズルズル……

古泉「誰か! 誰か助け――」

バタン


~数日後~

古泉「……」
キョン「……古泉のヤツ、連休明けてやつれたな? なんかあったのか?」
長門「……彼は連休の間、森園生のマンションで彼女と二人きりで過ごしていた」
キョン「……なんだと?」
長門「……その間、二人は一度足りともマンションから外に出ず、彼は不眠不休で彼女の相手をしていた」
キョン「なんてこった……じゃあ、あの精根尽き果てた様子は……」
長門「……」
キョン「古泉……お前、森さんとどんな羨ましいことをしてたんだ!?」

古泉「……ブツブツ」

キョン「……ん?」
古泉「……表面上の性格とカップリングの攻め、受けは必ずしも一致しない。むしろ、正反対なものも多い……」
キョン「古泉~? 大丈夫か?」
古泉「……王道はツンデレ。しかし、ツンデレの中にも分類があり、その系統は多岐に渡る」
キョン「……おーい?」
古泉「……あぁ、起きてます。大丈夫、寝てませんよ、森さん」
キョン「……本当に何をしてたんだ?」
長門「……ユニーク」

 


森「うーん……」ジー
古泉「なんですか? 人の顔をじっと凝視して」
森「あんたってさぁ……」
古泉「はい」
森「攻めね」

ガス!

森「どしたの? 盛大に頭を机に打ち付けて?」
古泉「いきなり上司にそんなこと言われたら誰でもコケますよ!」
森「うん。私も新川あたりに『森はネコだな』って言われたら引くわね」ケラケラ
古泉「じゃあ言わないで下さい!」
森「なんとなくよ、なんとなく」
古泉「まったく、もう……」

森「……」ペラ
古泉「……」ペラ

森「はぁ……それにしても、若い男女が週末にマンションに篭って漫画交換してるってどーよ?」
古泉「一緒にしないで下さい。僕は不思議探索で若者らしく遊んでいます」
森「と言っても街を歩き回ってるだけじゃない。半分仕事だし」
古泉「……それなりに充実してるからいいんです」
森「……なんか虚しくなってきた」
古泉(じゃあ、言わなきゃいいのに……)

森「……」ペラ
古泉「……」ペラ

森「古泉ぃ。イケメンの同級生とかいないの?」
古泉「……やっとBLから足を洗って、まともな恋愛に目を向ける気になりましたか?」
森「いや、あんたとカップリングの話でも作ろうかなって」
古泉「絶対に紹介しません!」
森「あ、ほら、報告書にあった国木田君とか、生徒会長とかは?」
古泉「名前を出さないで下さい! まともに彼らを見れなくなるじゃないですか!」
森「お? それは恋かね?」
古泉「違います! 一方的に気まずいって意味です!」
森「国木田君だと古泉は受けだけど、会長だと攻めになる……不思議!」
古泉「聞きたくない聞きたくない……」
森「この際だから三角関係いっちゃう?」
古泉「この際の意味が分かりません!」
森「で、古泉的にはどっちが本命なのかな?」
古泉「あぁぁぁぁ! もう! いい加減にして下さい!」

森「……」ペラ
古泉「……」ペラ

森「……でも、実際の話、彼氏欲しいかなぁ……」
古泉「へぇ?」
森「なによ、その意外そうな顔?」
古泉「いえいえ、失礼しました」
森「オタク趣味にも理解があって、この不規則なシフトの仕事も気にしない人がいいなぁ」
古泉「少しハードルが高いですね」
森「んで、女子高生の五人に一人は振り向くくらいのルックスで、なんだかんだで私のわがままに付き合ってくれる程度に優しくて、ついでに年下」
古泉「一気にハードル上がりましたね。なかなかいないと思いますよ」
森「そうね、自分でもそう思うわ」ケラケラ
森「あ、この巻の続きどれ?」
古泉「そこに積んでます。あ、僕も。この漫画の次はどこですか?」
森「これか。あ、そっちは鞄に入ってるから適当に漁って」
古泉「えっと……あったあった」

森「……」ペラ
古泉「……」ペラ

 


古泉「あれ? こんな本買いましたっけ?」
古泉「……表紙を見ても思い出せませんね」
古泉「……」ペラ

~森宅~

~♪~♪

ピッ

森「はいは~い? 古泉? どしたの?」
古泉『何を普通に僕の本棚にBL本置いてるんですか! 序盤は普通の話なんで騙されて読んじゃいましたよ!』
森「あ、うちにないと思ったらそっちにあったのね」
古泉『……あれ?』
森「ごめんごめん、この前忘れて帰ったみたい」
古泉『わざと置いていった訳じゃないんですか?』
森「違うわよ~」
古泉『……失礼しました。てっきり森さんが僕に読ませるために仕込んだのかと……』
森「あ、仕込んだのは押し入れの中のカラーボックスね」
古泉『……』


『ガタガタ! ガラ!』
『あぁぁぁぁ!』


森「おー狼狽えてる狼狽えてる」

古泉『仕込んだってレベルじゃないですよ! 一段丸々BLじゃないですか!?』
森「いや~流石に本棚に仕込んだら友達が来た時に気まずいかな~って思ってね」
古泉『中途半端な気遣いするくらいなら最初からやらないで下さい! というか、中に入れてた僕の本はどうしたんですか!?』
森「私が今読んでる」
古泉『うわぁぁぁぁ!』
森「へ~……こっちの趣味は三次元が多めね、古泉?」
古泉『~~ッ!』
森「お……これはエロい」
古泉『返して下さい! そして引き取って下さい!』
森「それがさ……意外と面白いのよね。もうちょっと貸しといて」
古泉『それならせめてBL本の回収だけでも!』
森「あんたも読めばいいじゃない? 面白いかもよ?」
古泉『いりません!』
森「ふむ……愛読書交換の次は性癖暴露。私たちの親睦は確実に深まってるわね」
古泉『どこのセクハラオヤジですか! あなたは!?』


古泉『……』
森「……あ~……ごめん、そんなに怒るとは思わなかったわ」
古泉『……』
森「う~……夕飯一回奢りでどうよ?」
古泉『……』
森「……二回?」
古泉『……』
森「……分かったわよ! 三回! しかも、それなりに高い店で!」
古泉『……くくっ』
森「!」
古泉『攻守が入れ替わると意外と弱いですね、森さん?』
森「な!?」
古泉『夕食三回、ご馳走様です』
森「……こ~い~ず~みぃ~!」
古泉『では、また』
森「あ、こら!」

ピッ

森「まったく……」
森「……夕飯三回、か」
森「……」ポリポリ
森「……ま、いっか」

 

 


森「ほ~……これが中学の頃の古泉か」
古泉「……もういいでしょう? アルバム返して下さいよ」
森「もうちょっと見せなさい……いやいや、十代は一、二歳違うだけで随分印象変わるわね」
古泉「はぁ……さっさと掃除に戻りましょうよ?」
森「あんた一人で頑張りなさいよ。ここはあんたの部屋なんだし」
古泉「……森さんが私物を持ち込み過ぎたせいで掃除が必要になったんですよ?」
森「そうだったかしら? ところで中学は学ランだったのね」
古泉「ええ」
森「ふーん……学ランか……」
古泉「さ、掃除をやりましょう」
森「ねぇ、学ランまだある?」
古泉「は? 学ランですか? 一応押し入れに保管してますが……それよりも掃除を……」
森「ちょっと出してみて」
古泉「学ランなんて出してどうするんですか? それに掃除が……」
森「出しなさい」
古泉「……はい」

~発掘中~

古泉「……はい、ありましたよ」
森「うむ、ご苦労」
古泉「……で、どうするんです? まさか、僕に着ろだなんて言いませんよね?」
森「そんなこと言わないわよ」
古泉(ふぅ……)
森「私が着るの」
古泉「……は?」
森「さぁ、出てった出てった」
古泉「ちょ、森さん!?」
森「……それとも生着替えを見たいの? 見掛けによらず大胆ね、古泉?」
古泉「うわわ! 待って下さい! 出ます!」

~お着替え中~

コンコン

古泉「森さん? 終わりましたか?」
森『どうぞ~』

ガチャ 

古泉(本当に着てるよ、この人……わざわざ髪型まで変えてるし……)
森「どうよ?」
古泉「……いや、どうよ? と言われましても……」
森「似合ってない?」
古泉「……女顔の男子中学生に見えないことはないですが……」
森「そうかそうか」
古泉「……満足されましたか? では、掃除の続きを……」
森「……古泉先輩」
古泉「!」
森「僕……先輩のことが……」
古泉「!?!?」
森「……男同士なんて変ですよね……でも、でも……!」
古泉「ストーップ!」
森「なによ? これから切々と初々しい恋心が語られて盛り上がるトコなのに」
古泉「……」
森「おーい?」
古泉(……落ち着け、古泉一樹。あれは森さんだ。分類上は間違いなく女性。僕は決して男にときめいた訳ではないんだ……)
森「……ま、いっか。で、どう? ドキドキした?」
古泉「え? あ……まぁ、少しは……」
森「ほほ~? これはBL好きの素質アリね」
古泉「何故そうなるんですか!?」
森「だって、ドキドキしたんでしょ?」
古泉「…………はい」
森「なら言い逃れ出来ないわね。あんたは男に萌えたのよ」
古泉「でも、それは森さんが!」
森「私が?」
古泉「……」パクパク
森「……?」
古泉「~~ッ! ああ! もう!」
森「どしたの?」
古泉「か、帰って下さい!」
森「いや、帰れと言われても……ほら、私今学ランだし」
古泉「では、僕が出ていきます!」
森「は?」
古泉「鍵だけは掛けて下さいね」
森「ちょ、ちょっと、古泉?」
古泉「失礼します!」

ドタドタドタ! バタン!

森「……本当に出ていっちゃった」
森「……うーん」
森「……男に萌えた自分がそんなにショックだったのかしら?」


~一月某日・機関にて~

新川「森、すまないが日曜日に休日出勤してくれないか? 少し人手が足りないんだ」
森「あ~……その日だけは無理。ずっと前から約束入れてるの」
古泉(……おや? 珍しい)
新川「どうしても無理か?」
森「悪いけど、かなり大事な約束なんだわ」
新川「……分かった。そこまで言うなら他を当たろう」
森「ごめんね」

~翌日・生徒会室にて~

会長「……ふむ。多少の遅れはあるが、土日を使えばなんとかなるだろう」
古泉「生徒会長もなかなか大変そうですね」
会長「ふん、もう慣れたものだ。喜緑君、土日も登校するように他のメンバーへ連絡を回しておいてくれ」
喜緑「分かりました……ですが、申し訳ありません。生憎私は参加出来ませんね」
会長「何故だね?」
喜緑「日曜日にどうしても外せない用事がございまして」
古泉(……あれ? 昨日も似たような台詞を聞いたような?)
会長「……仕方ないな。普段は無理をして貰ってることだし、今回だけは許可を出そう」
喜緑「ありがとうございます」
古泉(……ま、偶然ですよね)

~同日・文芸部部室にて~

ハルヒ「なに? みくるちゃん、週末は予定あるの?」
みくる「すいませ~ん……日曜はどうしても……」
長門「……」
古泉(……偶然……なのか?)
ハルヒ「どんな用事なの?」
みくる「内容は言えませんけど、大阪まで行かなくちゃいけないんです」
キョン「大阪ですか? 結構遠出ですね?」
ハルヒ「……ま、いいわ。なにか大事な用事みたいだし、今週は活動自体を休みにしましょう」
みくる「ごめんなさい~」
古泉(……うーん……考えすぎですかね?)

~日曜日早朝・大阪某所~

ザッザッザッザッ……

森「みんな、リストは頭に入ってるわね?」
みくる「はい」
喜緑「もちろんです」
古泉「……ここ、どこですか? なんで僕がこんなところにいるんですか?」
森「喜緑さん、予定ルートに変更はある?」
古泉「……誰か答えて下さいよ。僕は家で寝てたはずなんですが?」
喜緑「少々お待ちを……ん~……朝比奈さんのルートですが、三番目の予定を一つ繰り上げたほうがいいですね」
みくる「了解です」
喜緑「他は大丈夫です。アクシデントが起きない限り我々に敗北はありません」
森「じゃ、あとは手筈通りね」
古泉「あの、本当に意味が分からないんですが?」

森「関西最大規模の同人誌即売会……全てはこの時のために!」

古泉「……は?」
森「行くわよ!」
みくる・喜緑「はい!」
古泉「まさか……同人誌を確保させるためだけに僕を拉致したんですか!?」
森「ぎゃーぎゃー言わないの。せめてもの情けで数が少ない一般向けルートにしてあげたんだから」
古泉「そういう問題じゃないでしょう!?」
喜緑「古泉君……買い逃したら後が恐いですよ?」
古泉「ひっ……!」
古泉「……それより……このイベントに参加しているということは、まさかお二人も腐……」
みくる「禁則事項です♪」
古泉「全然誤魔化せてませんよ! 朝比奈さん!?」
森「さ、キリキリ歩く!」
古泉「ま、待って下さい! 今日は楽しみにしてる連載の投下予告が……」

ズルズル……

古泉「……あぁ、僕の安らかな休日が……」

ザッザッザッザッ……

 


~某国際展示場~

ガヤガヤガヤ……

古泉「……噂には聞いてましたが凄い人ですね? 人を見てるだけで疲れてしまいそうです……」
古泉「はぁ……今日は日がな一日SSを書いたり、新作SSを読んだり、保守ネタを投下したりと、非常に有意義な休日になる予定だったのに……」
古泉「……仕方ありません。さっさとリストの買い物を済ませましょう……」

~そして~

古泉「……ふぅ、これで全部ですか? 案外楽勝でしたね」
古泉「さて、あとは森さんたちに戦利品を渡して終わりです。なんとか僕だけでも先に帰らせて貰いましょう」

ガヤガヤガヤ……

古泉「……あれ?」
古泉「……こ、ここは……?」

~集合場所~

森「……遅い。古泉のヤツ、どこで油を売ってるのかしら?」
喜緑「確かに……もう約束の時間から三十分も過ぎてますね」
森「携帯は繋がらないし……何か妙な事件に巻き込まれたりしてないわよね?」
みくる「……まさか、買いそびれて逃げ出したんじゃ?」
森「……うーん、あいつに限ってそんなことはないと思うけど……」
喜緑「ちょっと探してみますか? 私ならすぐに見付けられると思いますが」
森「……いや、私が連れて来たんだし私が探してみるわ。二人は自分の買い物に行ってきて」
みくる「いいんですか?」
森「ま、弟分の尻拭いは姉貴分の仕事ってことで」
喜緑「……では、お言葉に甘えましょうか、朝比奈さん?」
みくる「……分かりました。お願いしますね、森さん」
森「了解。んじゃ、また後でね」

ガヤガヤガヤ……

森「……とは言ったものの、一体どこを探せばいいのやら?」
森「うーん……とにかく古泉の予定ルートを辿ってみるか」

ガヤガヤガヤ……

古泉「…………」

森「お? いたいた。ここまで来てるってことは買い物は無事に済んでるみたいね?」
森「ったく、何をやってるんだか……」
森「おーい、古いず……」
森「……」
森「……あー……そういうことね」

ガヤガヤガヤ……

古泉「……むぅ、やはりハルキョン物は数が多いですね」
古泉「……ちゃんと狙いを絞らないと。いきなり連れて来られたのでもう資金が尽きそうです」
古泉「……むむむ」

森「い・つ・き・くん?」

古泉「!?」ビクゥッ
森「……嫌々だった割りには結構楽しんでるみたいね?」
古泉「も、森さん!?」
森「いやいや、無理矢理連れてきたからどうかと思ったけど、楽しんでくれてるならそれに越したことはないわ。うん」
古泉「は、はぁ……?」
森「ただねぇ……」

森「あんたを待ってたり探してたりしたせいで、私の自由時間が減っちゃったのは、ちょーっと不満かなぁ?」

古泉「…………あぁ! す、すいません!」
森「それに……何かあったのかもって心配するじゃないの」
古泉「……本当にすいません……」
森「よろしい」

森「それはさておき……どうやってお詫びして貰おっかな~?」
古泉「!」ビクッ
森「……ま、予定にあった本は全部買えてるみたいだし、軽い罰ゲーム一回で許してあげるわ」
古泉「……罰ゲーム、ですか?」
森「そ、罰ゲーム」ニコリ
古泉「……肉体系ですか? 精神系ですか?」
森「ん~とねぇ……」
森「――――」ゴニョゴニョ
古泉「な!? 全然軽くないですよ、それ!」
森「今日帰ったらやるわよ?」
古泉「……無理です……想像しただけで死にたくなりました」
森「大丈夫。相手は私一人だから」
古泉「……お願いします。他の罰ゲームで……」
森「却下」
古泉「そんな……」
森「ほら、荷物持ちもやって貰うわよ。今から回れるだけ回るんだから」
古泉「……あぁぁぁぁ」

 


~その夜のこと~

古泉「……本当にやるんですか?」
森「もちろん」
古泉「……なんとか別のことには……」
森「ならないわねぇ」
古泉「……」
森「覚悟、決めなさい」

森「じゃ、『一樹くんが買ったエロ同人誌朗読会』の始まり始まり~」

古泉「……本気で恥ずかしいんですが」
森「だからこそ罰ゲームになると思わない?」
古泉「……男のエロ朗読を聞いて楽しいですか?」
森「かなり面白そうではあるわね」
古泉「……はぁ」
森「……しっかし、見事に主人公×メインヒロインの純愛路線ばかりね。鬼畜入ってるヤツないの? 読ませるならそっちの方が面白いのに」
古泉「あの……出来たら短いヤツで……」
森「よし、これにしよう。モノローグが多いから雰囲気出るわ」
古泉「うわ……」
森「そんじゃ、行ってみよっか」

古泉「……」
古泉『ここはどこだなんてかんがえるよりさきに……』

森「はい、カーット」
古泉「え?」
森「何よ、その棒読み? あんた文化祭じゃ結構ノリノリだったらしいじゃない?」
古泉「……これをノリノリで朗読出来たら変態ですよ?」
森「あんたは今エロゲ声優を敵に回したわね」
古泉「……知りませんよ」
森「照れを捨てなさい。私が満足するまでこの罰ゲームは終わらないわよ?」
古泉「……分かりましたよ。やればいいんでしょ! やれば!」
森「いい感じにふっ切れてきたわね? その感じで行きましょう」
古泉「……はぁ」

古泉『――ここはどこだ?……なんて考える先よりに、これは誰の仕業だ? という疑問が頭に浮かんだ。こういう異常事態に順応してきている自分の思考回路に、呆れに近い苦笑いが溢れる』

森(……お?)

古泉『――一面灰色に覆われた空。一目でハルヒの閉鎖空間だということは分かった。なら、またハルヒに何かあったんだろう……閉鎖空間を作るような何かが……』
古泉『……ちょっと待て』
古泉『――その何かを俺は知っている。知っているはずだ。なのに……なんで思い出せないんだ?』

森(これは意外と……)

古泉『……ハルヒ?』
古泉『キョン……何しに来たのよ?』

森(くく……女役はまだ照れがあるみたいね?)

古泉『……何しにって……俺自身がなんでこんな所にいるのかさっぱり分からないんだが』
古泉『……誰もこの世界には呼んでないわよ。ここはあたしだけの場所なの』
古泉『――呼んでないって……まさか、こいつ自力で閉鎖空間に引き込もったのか?』

森(……だんだんノってきたかしら? ま、エロシーンまではオマケみたいなもんだけど)

古泉『なに驚いた顔してんのよ……あんたは知ってたんでしょ? この力のこと』
古泉『――……ああ、そうか。なんで忘れてたんだろ? ほんの少し前に、こいつは自分のことを……』

森(……あ、録音しときゃよかった)

古泉『……帰って。一人にして欲しいの』
古泉『――……これがあの涼宮ハルヒか? こいつの背中はこんなにも小さかったのか?』
古泉『……帰れ、か……』

森(まずったなぁ……こんなおいしいネタ、滅多にないのに)

古泉『……そう、帰りなさい。帰る場所はあるはずだから』
古泉『――……まぁ、帰れと言われても一人で帰る気はないんだけどな』
古泉『よっ……と』
古泉『……なんで隣に座るのよ? 帰れって言ってるでしょう?』

森(……ん?)

古泉『やだね』
古泉『……喧嘩売ってるの?』
古泉『俺がいたいからここにいさせて貰う』

森(……あ、なんか雰囲気が違うと思ったら一人称が『俺』だからか)

古泉『はぁ?』
古泉『本当のことを知ってショックを受けたか? それとも、現実世界が色褪せて見えたか?……ま、どっちでもいいか』
古泉『……何が言いたいのよ?』

森(それに、ちょっとぶっきらぼうなキャラみたいだし)

古泉『……その、なんだ。とにかく付き合わさせて貰うぞ。お前が向こうに帰る気になるまで、ずっとな』
古泉『……余計なお世話よ。なんであんたがそんなことするのよ……』
古泉『……それはな』

森(普段の古泉とのギャップが……)


古泉『……俺はお前のことが好きだからだよ』


森「…………」


古泉『……は? 何を言っ――』

森「……すとーっぷ」
古泉「……あれ? 何かまずかったでしょうか?」
森「いや、そうじゃないんだけどねぇ……」ポリポリ
古泉「?」
森「……えっと、その本はもういいわ。次はこっち、この本行ってみよう」
古泉「……今度はまたベタ甘なチョイスを……というか、一冊で終わりじゃなかったんですか?」
森「誰もそんなこと言ってないでしょ? さ、読みなさい」
古泉「はぁ……分かりましたよ。もう一冊も二冊も一緒です」
森「あ、それと……今度は男役のセリフだけでやってみて」
古泉「それだと話の内容が分かりにくくないですか?」
森「……いいからいいから」
古泉「はぁ……? 分かりました」
森「……感情を込めてね」
古泉「はいはい」

 


~生徒会長の日記~

前日予習に使った英語のノートを、うっかり家に置き忘れてしまった。そのことを喜緑君に話すと快くノートを貸してくれた。ありがたい。
喜緑君のノートはとても見やすくまとめられていて授業でも非常に助かったのだが……。
ノートの隅に気になる落書きを見付けてしまった。

『やっぱり眼鏡っ漢は受けですよ』
『いずれは眼鏡総攻め派の未来人と決着をつけなければならないでしょう』
『○○×△△(←人名?)』

……めがねっ……かん? 受け? 総攻め? 未来人?……数式?……SF小説か何かの設定だろうか?
他にも見たことのないアルファベットの略語や聞いたこともない単語が多数確認出来た。
ノートを返す時にでも尋ねてみようと思っていたのだが、いざ喜緑君を前にすると何故か口に出すことが憚られた。
……まるで本能が危機を回避するかのように……。
……考え過ぎか。

……一つだけ分かったことは、喜緑君のメモによれば、どうやら俺は「受け」とやらにカテゴライズされるらしい。「受け」が何を意味するかはよく分からないが、彼女のノートに自分の名前があったことが気恥ずかしくもあり……嬉しくもあった。
……いつか彼女に「受け」とは何か尋ねてみようと思う。
……何事も包み隠さず話せる、そんな間柄になれた時に。
〈終〉

 


~居酒屋にて~

古泉「森さん遅いですね」
多丸圭一「ったく、言い出しっぺが遅れるってどういうことだよ?」
多丸裕「あいつが飲み会に遅れるのも珍しいな」
新川「仕方ない。先に始めるか」
古泉「そうですね」
新川「それでは……みんな、今月もご苦労だった。また来月も頑張っていこう、乾杯」
一同「カンパーイ」

カチン

古泉「…………」
圭一「どうした、古泉? 全然飲み食いしてないじゃないか?」
古泉「……あの、今しか聞くチャンスがないと思うので、少しお聞きしたいのですが……」
裕「なんだ? 恋の相談か? はははは」
古泉「……森さんってお何歳ですか?」
裕「……」
圭一「……」
新川「……」グビ
裕「……どうしてそんなことを気にするんだ?」
古泉「……この前ですね、森さんが古いアニメについて、やたら詳しく解説してたんですよ」
圭一「……ふむ……まぁ、あいつはアニメとか好きらしいし、別におかしくはないんじゃないか?」
古泉「……後で調べたら80年代のアニメでした」
圭一「……」
裕「……」
新川「……」グビ
古泉「……」
裕「だ、だからと言って放送当時に見ていたとは限らないだろう?」
古泉「それはそうなんですが……それより、皆さんは森さんの年齢を知っているんでしょう? 何故そんな風に誤魔化すような態度を取るんですか?」
圭一「それは……なぁ?」
裕「だって……なぁ?」
新川「……」グビ
古泉「なんですか? 凄く気になるじゃないですか?」
圭一「気にするな。飲め」
古泉「あからさまに話を逸らしてません?」
裕「すいませーん、瓶ビール追加で」
古泉「……」
古泉「……そんなに言いにくいってことは……まさか、本当に森さんはみそ――」
裕「ストップ。そこから先は言わない方がいい」
古泉「え?」
裕「何故なら……」
古泉「何故なら……?」
裕「本人が後ろにいるからな」
森「やっほー、遅れてごめんね?」
古泉「……」

ガシィ!

古泉「はぅ!」ビクゥッ
森「……古泉君」
古泉「は、はい!」
森「私ってそんなにおばさんに見えるのかしら?」ギリギリギリ
古泉「痛ッ! か、関節……関節が!」
森「どうなの?」ギリギリギリ
古泉「森さんはお若いです! はい!」
森「あんた、さっき『みそ』って言いかけたよね? 『みそ』って何のことなのかしら?」ギリッ!
古泉「ぎ、ギブ……ギブアップ……」タンタン
森「……古泉、あんたには再教育が必要のようね?」
古泉「待って下さい……だって、圭一さんたちが……」
森「問答無用! カウンター席行くわよ! マスター! 焼酎ボトルで!」
古泉「た、助けて……」

ズルズル……

新川「……」グビ
新川「……何故本当の歳を教えてやらなかったんだ? 見た目からすれば別に隠すような歳でもないだろ?」
圭一「いや、こっちの方が面白いでしょう?」
裕「そうそう」
新川「……はぁ、あまり若い奴らで遊ぶなよ?」
圭一「くく……そう言う新川さんだって黙ってたじゃないか?」
裕「なんだかんだであいつら見てるのが楽しいんでしょ?」
新川「……なんのことかよく分からんな」グビ
圭一「ま、おっさん連中はこっちでのんびりやりましょうや」
裕「ちょっと違うけど、あとは若い二人に任せて、ってヤツで」チラ

『待って下さい! 焼酎を日本酒で割ってもそれはただのチャンポンです!』
『いいから飲みなさい!』
『無理ですって!』
『マスター! 次、ウォッカで割って!』
『もっと危険ですよ!』

新川「……やれやれ」

 


~森宅~

森「古泉」
古泉「……ん」
森「起きなさい、古泉」
古泉(……うぅ)
森「そんな格好で寝てたら風邪ひくわよ?」
古泉(……そうだ、確か居酒屋で飲んでて……)
森「それに……」
古泉(……それから……えーっと……)

森「あなたは女の子なんだから、うたた寝なんかしちゃはしたないわよ?」

古泉「……」

ガバッ

古泉「……今、なんて言いました? 僕が女の子?」
森「そうよ、一美ちゃん」
古泉「いつみ? 誰ですか、それ?」
森「あなたのことじゃない?」
古泉「は?」
森「お酒飲んで混乱してるのね。ほら、鏡を見てみなさい」
古泉「鏡……?」
森「ね? どこから見ても女の子じゃないの?」
古泉「……なぁッ!?」

そこには、どこか見覚えのある美少女がいた。
……見覚えがあるはずだ……だって、見間違うはずがない。
……それは紛れもなく『僕』自身だったのだから……。

森「……そんな馬鹿な……目が覚めたら女の子になってるなんて……」
古泉「勝手にモノローグを付けないで下さい! なんですか! これは!?」
森「だから、あなたは女の子になったのよ」
古泉「そのネタはもういいですよ! 僕が聞きたいのは――」

古泉「なんで僕がセーラー服を着てるのかってことです!」

森「いや~巷で性転換ネタが大流行らしいから、やっちゃいました♪」
古泉「やっちゃいました♪、じゃないですよ! ただの女装じゃないですか!」
森「あははは♪」
古泉「すぐに僕の服を返して下さい!」
森「覚えてないの? あんた、服にお酒溢しちゃったから洗濯したのよ。朝まで乾かないわね」ケラケラ
古泉「な!?」
森「くく……安心して。脱がす時も下着までしか見てないから」
古泉「~~ッ!」
森「うふふふ……かわいいわよ、一美ちゃん」
古泉「……さては、まだ酔ってますね?」
森「お酒を飲んだら酔っ払うのは当たり前じゃない?」
古泉「うわ、空き缶がこんなに……」
森「ま、ま、飲みなさい。酔いが足りないから恥ずかしいのよ」
古泉「……いや、それよりも別の服はないんですか?」
森「あんたにサイズの合う服なんてウチにあるはずないじゃない?」
古泉「……じゃあ、このセーラー服は一体どこから……よく見れば北高の制服じゃないですか?」
森「何かに使えないかと思って未来人とTFEI端末の知り合いにお願いしときました♪」
古泉「……それだけの人脈を恐ろしく駄目な方向に活用してますね」
森「あははは♪なんなら体操服とブルマもあるわよ?」
古泉「いりません!」

森「まぁまぁ、飲んでたらその内に楽しくなるわよ♪」

トクトクトク……

古泉「……」

グビッグビッグビッ……

古泉「ふぅ……」
森「おぉ~いい飲みっぷりね。そうこなくっちゃ」
古泉「……こうなりゃヤケです。森さんも飲んで下さい」
森「はいは~い♪」

トクトクトク……

グビッグビッグビッ……

森「ぷはぁ……よし! このまま朝まで行くわよ!」
古泉「うぅ……下半身がスースーする」
森「飲みなさい。お酒が全てを解決してくれるわ」

トクトクトク……


~翌朝~

チュン……チュンチュン

森「……う」
森「……うぁ……頭痛い」
森「……」
森「あ~……またやっちゃったか」ポリポリ
森「……居酒屋で飲んで、そっからどうしたっけ?」
古泉「……」スゥスゥ
森「……あれ? なんで古泉がウチに……」

森「げッ!?」

古泉「ん……」ゴロ
森「……どうして古泉がセーラー服を……?」
森「……」
森「あ、そうか。昨日私が着せたんだっけ?」
古泉「……」スヤスヤ
森「うーん……なんか違うわね」
森「……そうだ。メイクしてみよう」

ゴソゴソ……

パタパタ、ペタペタ……

古泉「……んぅ」
森「…………」

ゴソゴソ

カシャ、カシャ

森「……ふぅ、いい画が撮れたわ」
古泉「ふぁ……」
森「!?」ビクッ
古泉「う……ん、おはようございます」
森「お、おはよう」
古泉「どうしたんですか? なんか顔が赤いですよ?」
森「だ、大丈夫! なんでもないから!」
古泉「そうですか……? それならいいんですが」
森(……ふぅ)
古泉「……あ、そうだ。『とれた』、って何のことですか?」
森「!!」ビクゥッ
古泉「……あの、森さん?」
森「あ、安心して! 他の誰にも見せないから!」
古泉「……話が見えないんですが? 誰にも見せないとは?」
森「あぅ……そ、空耳よ、空耳!」
古泉「……何か誤魔化してません?」
森「えーっと、えーっと……そ、そうだ! もう乾いてるはずだから服を着替えてきたら?」
古泉「……それもそうですね。流石に素面でこれは恥ずかしいですし」ヒラヒラ
森「……うゎ」
古泉「……本当に大丈夫ですか? さっきから様子が変ですよ?」
森「い、いいから! さっさと着替えてきなさい!」グイッ
古泉「ちょ、ちょっと、森さん?」
森「バスルームの場所は分かるわね!? そこに干してるから!」

バタン!

古泉「……いきなりどうしたんだろ?」
古泉「……うーん……」
古泉「何か気に障るようなことをしたでしょうか?」


~注意~

長門「……未成年の飲酒は法律で禁じられている」
長門「……それと、他人に飲酒を強要することは推奨しない。一気飲みなどは以ての外」
長門「……約束」

 


~生徒会長の日記・2~

最近は生徒会の雑務を処理するために、昼休みも生徒会室に赴くことが増えてきた。普通なら貴重な休み時間を削られることに愚痴の一つも言いたくなるところだが、そこに喜緑君との昼食というオプションが付くなら話は別だ。
特に昼休みが終わるまでの僅かな歓談の時間は、今の俺には何事にも代えがたい至福の一時となっていた。
今日の話題は野球部の話から一昔前に流行った野球漫画の話になった。俺が持っている数少ない漫画の一つだったが、驚いたことに喜緑君もその漫画を好きだと言ってくれた。
自分の好きな漫画を彼女も好きだった。それだけで胸にとても暖かいモノが溢れていく。
それからチャイムが終わりの鐘を鳴らすまで、俺は真面目な生徒会長の仮面を外して、ただの高校生のように好きな漫画について語った。
あとになって気恥ずかしなったが、喜緑君との会話が弾んだことに比べれば些細なことだ。今日のような出来事があるからこそ、俺は明日からも生徒会の仕事を頑張っていける。
そう思った。


そう言えば、気になったことが一つだけ。
喜緑君は「主人公と眼鏡の子がお似合いですよね」と興奮気味に語っていたが……。
はて? あの漫画に眼鏡の女の子なんて出てきただろうか?
〈終〉

 


~機関にて~

森「あれ? 古泉は?」
圭一「電話みたいだな。携帯持って廊下に行ったよ」
森「あいつ……仕事中だってのに、私用電話とはいい度胸ね」
圭一「んー……今あいつにやらせる仕事はないし、別にいいんじゃないか?」
森「ダメ。呼んでくる」
圭一「……ま、説教は程々にな」


森「あ、いたいた。コラ、古いず――」
古泉「はい。では、明日の正午に駅前で待ち合わせということで」
森「……む?」
古泉「ええ……そうですね、昼食はご一緒しましょうか?」
森「……」ピク
古泉「それでは、デートを楽しみにしてますよ」
森「!」
古泉「あははは。明日お会いしましょう」

ピッ

森「……古泉」
古泉「あ、森さん。すいません、すぐに戻ります」
森「……いや、それよりさ……えっと」
古泉「?」
森「……その、明日はデートなの?」
古泉「あ、聞かれちゃいましたか?」
森「……どうなの?」
古泉「そうですね、ただ二人で遊びに行くだけですが……まぁ、デートみたいなものですかね? あはは」
森「…………ふーん」
古泉「森さん? どうかなさいましたか?」
森「……なんでもないわよ」


森「――ということがあったんだけど、何か知らない?」
みくる『う~ん……残念ながら。古泉君はあまりそういうことを話すタイプじゃないですからね』
森「……やっぱり知らないか」
みくる『気になります?』
森「……そういう訳じゃないけど……」
みくる『……』
森「……」
みくる『……分かりました。明日は古泉君を尾行してみましょう!』
森「は?」
みくる『私も古泉君のお相手は気になりますし』
森「あの……それはやりすぎじゃないかしら?」
みくる『どちらにしろ、古泉君に恋人が出来たら機関は調べるんじゃないですか?』
森「それはそうだけど……」
みくる『では、決まりですね?』
森「あ、で、でも明日は仕事があるから無理だわ。朝比奈さんも一人じゃ難しいんじゃない?」
みくる『いえ、森さんがいなくても大丈夫です! 古泉君の様子はリアルタイムでメールで報告しますね!』
森「そ、そう……でも――」
みくる『朝比奈みくる、頑張ります! では、また明日!』

ピッ

森「あ……」
森「……古泉のデートの相手、か」
森「……知りたいような、知りたくないような」
森「……なんでこんなに落ち着かないんだろ?」

 


~デート当日~

みくる「ふむ、古泉君もお相手の方もまだ来てませんね」
長門「……朝比奈みくる、何故私まで呼び出されたのか説明を求める」
みくる「森さんには一人で大丈夫って言っちゃいましたけど、やっぱりちょっと不安で……協力してくれませんか?」
長門「……そもそもこれはあなたには関係がない問題のはず。あなたがこの役目を買って出る必要はない」
みくる「森さんは(BL繋りの)お友達です。友達の恋を応援するのに理由なんかいりませんよ」
長門「……それはつまり古泉一樹と森園生の二人が?」
みくる「そういうことみたいですね」
長門「…………」
長門「理解した。知的好奇心により私も協力する」
みくる「あ、ありがとうございます!」


みくる「むむ? 古泉君が来ましたね」
長門「……約束の10分前。デートの待ち合わせとしては普通」
みくる「『ごめん、待った?』『いえ、今来たところですよ』とかやっちゃうんですかねぇ?……チッ」
長門「……朝比奈みくる?」
みくる「おや? 古泉君が手を振ってますね? お相手も来たみたいですよ」
長門「……あれは……」


古泉「お待ちしてましたよ」
キョン「俺は時間ぴったりに来たぞ。お前が早く来すぎだ」
古泉「はは、デートに遅れる訳にはいきませんので」
キョン「冗談でもやめろ。気持ち悪い」
古泉「ひどい言われ様ですね。涼宮さんとのデートの予行演習に付き合って差し上げてるというのに」
キョン「……ハルヒとはデートじゃないし、これは予行演習でもない」
古泉「おや? では、中止しますか?」
キョン「……当日にハルヒが機嫌損ねたらお前らも困るだろ?」
古泉「それは困りますね」
キョン「……なら『ご機嫌取りのために連れていく場所』の下見に行くぞ」
古泉「はいはい」


長門「……相手は女性ではなかった。デートという情報は間違いだったのでは?」
みくる「……いえ、これは間違いなくデートですね」
長門「?」
みくる「これはやばいですよ! 森さんに超強力ライバルの出現です!」
長門「……まさか、彼らは男同士。そのような関係にはなりえない」
みくる「何を言っているんですか!」
長門「!?」ビクッ
みくる「いいですか、そもそも思春期の男子というのは――」


~ただいま朝比奈先生によるBL講座が展開されていますので、しばらくお待ち下さい~


みくる「――という訳で、彼らの行動が青い衝動によるものだという可能性は捨て切れないのです!」
長門「…………はぁ」
みくる「早速森さんにメールを!」
長門「あ……」


~♪~♪

森「……朝比奈さんからかな?」

カチカチ

『やばいです。本気のラブラブデートです。』

森「……って、それだけ? 相手は誰なのよ?」
森「それに、ラブラブってどういうことよ?……そんな相手があいつにいたなんて聞いてないわよ」
森「う~……気になる」
新川「コラ、手が止まってるぞ」
森「あ……」
新川「今日中に全部の資料を仕上げる必要があるからな。休憩もないと思っておけよ?」
森「……了解」


みくる「あ、二人が移動しますね。早速尾行開始です!」
長門「……色々と疑問は残るけど、了解した」


古泉「昼食はファーストフードですか」
キョン「何か問題あるのか?」
古泉「いえ……そうですね、初デートならそこまで気合いを入れなくてもいいでしょう」
キョン「……初と言われても次なんかないぞ。ハルヒに付き合うのは一回だけだ」
古泉「それにファーストフードならではのイベントもありますし」
キョン「話を聞け。つーか、イベントって何だよ?」
古泉「『はい、あ~ん』などでしょうか?」
キョン「……頼むから実演しないでくれ。リアクションに困る」
古泉「実際に食べられたら僕も困りますけどね」パク
キョン「……ならやるなよ」


みくる「み、見ましたか!? ポテトで『あ~ん』ですよ!?」
長門「落ち着いて。今のは明らかにジョークの類。その証拠にすぐに自分で食べた」
みくる「きっと照れ隠しですよ! これは報告しなきゃ!」


森「あ、『あ~ん』ですって?」
森「なんというバカップル……どんなバカ女なのよ、相手は……」
新川「森、さっきから仕事をしないで一体何を――」
森「うっさい! やればいいんでしょう!」
新川「!」ビクッ
森「さっさと終わらせてやるわよ!」
新川「あ、あぁ……頼む……」


古泉「次は映画ですか?」
キョン「ああ」
古泉「恋愛映画とアクション映画がありますね?」
キョン「ハルヒならアクションかな?」
古泉「…………」
キョン「その可哀想なものを見る目はやめろ」
古泉「ここは恋愛映画一択ですよ。涼宮さんはああ見えてロマンティストですから、その方が喜ばれるでしょう」
キョン「……そういうものか?」
古泉「そういうものです。では、行きましょう」


みくる「男二人でベタベタの恋愛映画……これはカップル確定ですね!」
長門「……何故その結論に至ったのか、説明を求める」
みくる「男同士で見る恋愛映画ほど辛いものはないと聞きます。しかし、それが恋人同士なら?」
長門「……なるほど……いや、しかし……」
みくる「ひとまず送信、と。私たちも行きますよ」


森「…………」イライラ
圭一「……森のヤツ、なんか荒れてない?」
裕「ああ……危険ゾーンに突入してるな」
新川「どうも携帯を見る度に機嫌が悪くなってるようだ」
圭一「いつもなら古泉を生贄に捧げるところだが……あいつは今日休みだしな」
裕「どうします? 新川さん」
新川「触らぬ神になんとやらだ。ここは穏便に行こう」
多丸兄弟「ラジャ!」


キョン「わりと面白かったな」
古泉「はい。……ただ、男同士で見るものではありませんね」
キョン「……それには同意しとこう」
古泉「それで、次はどうするんですか?」
キョン「実はここから先は決めてないんだ」
古泉「ふむ……では、今から散策しながらプランを考えますか?」
キョン「そうだな」


古泉「……あ」
キョン「どうした?」
古泉「いえ、こちらの値段もチェックしておきますか?」
キョン「こちらって……ぶっ!」
古泉「いざという時、お金が足りないでは困りますよ?」
キョン「……古泉」
古泉「はい?」
キョン「何故ハルヒと遊ぶのにラブホの値段をチェックする必要があるんだ!?」
古泉「ジョークですよ、ジョーク。流石に初デートでそこまで行けるとは思いませんから」
キョン「……それはそれでむかつく発言だな」
古泉「おや? 自信がおありで?」
キョン「それ以前にデートじゃねぇって言ってるだろ!」


みくる「……見ました?」
長門「……見た」
みくる「……ラブホテルを指差してましたね?」
長門「……」コクリ
みくる「……送信」


森「…………」ミシミシッ
圭一「も、森? そんなに力一杯握り締めたらマウスが壊れるぞ?」
森「黙れ」
圭一「はい」

 


~その夜・古泉のマンション前にて~

森「…………」
古泉「……おや? 森さん、どうされましたか?」
森「……おかえり、古泉」
古泉「わざわざマンションの前で待ってるなんて……僕の部屋に何か忘れ物でも?」
森「あのさ……」
古泉「はい?」
森「……デート、楽しかった?」
古泉「デート……? あ、今日のことですか? まぁ、それなりに楽しかったですけど、それが何か?」
森「……あんた、彼女いたんだね?」
古泉「え?」
森「……いや、隠してたことを怒ってる訳じゃないのよ。あんたのプライベートの問題だしさ。でもね、ちょっと寂しさを感じたっていうか、なんか納得いかないというか……」
古泉「あの~? 何か勘違いしてませんか?」
森「……何をよ?」
古泉「えーと……今日一緒に出掛けた相手はSOS団の『彼』ですよ?」
森「『彼』って……キョン君?」
古泉「はい」
森「……」
古泉「……」
森「そんな……あんた、キョン君と『あ~ん』したり、恋愛映画見たり、ラブホに入ろうとしたりしたの!?」
古泉「は?…………いや、ちょっと待って下さい! 最後のだけは明らかに違います!……って言うか、なんでそんなことまで知ってるんですか!?」
森「そんなことより! 最後以外は事実なの!?」
古泉「事実ですけど、多分何か勘違いしてますよ!」
森「……そんな……私がBLを薦めたばっかりに……」
古泉「あの、森さん? 話を聞いてますか?」
森「私はそんなつもりであんたを腐男子に育てた訳じゃないわよ!」
古泉「育てられてません!」
森「じゃあ、あんた元々男が好きだったのね!?」
古泉「いや、もう本気で意味が分かりませんよ! というか、話を聞いて下さい!」
森「もういい! 古泉のバカァ!」

ダッ!

古泉「あ、ちょっと! 森さん!」
古泉「……えぇ~?」
古泉「……一体何がどうなってるんだ……?」

~その後~

圭一「んで、結局どうなったんだっけ?」
古泉「……今朝、僕と彼が付き合っているという誤情報が涼宮さんに伝わってまして、ご存知の通り大閉鎖空間が発生しました」
裕「あぁ、凄かったらしいな」
古泉「それで閉鎖空間の対処に、女性陣への弁明にと、僕は東奔西走の一日……先程やっと解放されたところですよ」
圭一「お疲れさん。まぁ、コーヒーだが飲め」

コポコポ……

古泉「ありがとうございます……」
裕「ま、誤解も解けたみたいだし、よかったじゃないか」
古泉「そうですね、誤情報の出所も判明しましたし……でも、ひとつ腑に落ちないことがあるんですよね」
裕「なんだ?」
古泉「……昨晩、なんで森さんはあんなに取り乱してたんでしょうか?」
多丸兄弟「…………」
圭一「あ~……たまにいるよな。他人には気が回るくせに、自分のことになるとまるで気付かないヤツ」
裕「……まぁ、森もはっきりと自覚してないみたいだからお互い様だけど」
古泉「なんですか? いきなり二人で内緒話を始めたりして」
圭一「お前は人のことを気にする前に、自分の現状を見つめ直すべきだな」
裕「そうそう」
古泉「はぁ……?」

 


 ~12月24日・古泉宅~

森「明日のパーティーで使う物はこれで全部かしら?」
古泉「はい。僕が用意する物はそうですね」
森「SOS団のイベントも鶴屋家主催だと私たちはやることが少ないわね」
古泉「そうですね。ただ、新川さんも森さんもいらっしゃらないので緊急時が少々不安ですが」
森「ま、長門さんたちもいるし大丈夫でしょ。それより本当に忘れ物はないわね?」
古泉「……あ、そういえば」
森「ん? どしたの?」
古泉「明日着て行く服を用意してませんでした」
森「なんだ。そんなのさっさと決めちゃいなさいよ」
古泉「ええ。忘れない内に準備しておきますか」

ガラッ

古泉「さて、どれを着て行きましょう?」
森「……ん?」
古泉「えーっと……下はコレで、上はコレを着て……」
森「…………」
古泉「こんな感じですか」
森「……ねぇ、古泉」
古泉「なんでしょう?」
森「私の見間違いじゃなけりゃ、それって二年近く前に機関が支給した服じゃない?」
古泉「ええ、そうですよ。よく分かりましたね?」
森「……うん、だって用意したの私だし、何回か着てるトコ見てるし」
古泉「そうでしたか。大きめのサイズだったお蔭で、今でも充分着られるのでありがたいですよ」
森「それはよかった……じゃなくて、ちょっとくたびれてるみたいだし、別のにしたら?」
古泉「そうでしょうか?……でしたら……」ゴソゴソ
森「…………」
古泉「これにしますか」
森「……うん、それも見覚えがあるわ。やっぱり私が用意した機関からの支給品よね?」
古泉「こっちは昔に比べるとサイズが少しきついんですけど、あまり着ていないので見た目もまだ新しいですよ?」
森「…………」
古泉「どうされましたか?」
森「……古泉」
古泉「はい」
森「最後に服を買ったのはいつ?」
古泉「最後に、ですか?……えーっと、夏にユ○クロでシャツを三枚セットで買った時ですかね」
森「……いや、シャツとかじゃなくて……それにユ○クロって……」
古泉「上着とかですか? それなら去年の秋にやっぱりユ○クロで……」
森「…………」
古泉「……森さん?」
森「……凄く嫌な予感がする……」
古泉「はい?」
森「古泉、今すぐクローゼットとタンスの中身を全部見せなさい」
古泉「え?」
森「早くしなさい!」
古泉「は、はい」


森「…………」
古泉「あの……何か問題がありますか?」
森「……うかつだったわ。そういえば仕事には学校の制服で来るし、家ではラフな格好しか見てないし、ここ半年ほどこいつのまともな私服を見ることはなかった……」
古泉「えーっと……?」
森「……それにしてもよ」
古泉「も、森さん?」

森「機関が大昔に支給したのしかまともな服がないってどういうことよ!?」

古泉「!?」ビクッ
森「あんたそれなりに給料貰ってるんだから古くなったら新しいの買いなさいよ!」
古泉「で、ですが、機関から頂いた服ならまだどれも着られますし……」
森「そんなこと言って、どうせ服に回すべきお金を趣味に突っ込んでるだけでしょうが!」
古泉「!?……な、なぜそれを……」
森「長くオタクやってれば誰もが一度は通る道よ。服の次は髪や靴、その次は食費。オタク活動のための費用削減は止まることがないのよ?」
古泉「……いや、僕はまだそこまで酷くはないと自分では思――」

ガシッ

古泉「ひっ!?」
森「……いい? 古泉?」
古泉「は、はい!」
森「こっから本音なんだけどさぁ……」
古泉「…………」コクコク
森「……社会人の女はね、どうしても最低限は化ける必要があるの」
古泉(化けるって……)
森「もちろん男もそうだろうけど、比べ物にならないくらい女の方が費用は重むの」
古泉「はぁ……?」
森「嗚呼、このDVDBOXを買いたい……でも、これを買うと化粧品や食費に回すお金がなくなる……それでもやっぱり欲しい」
森「そういう葛藤を毎月のように繰り返してる訳」
古泉「…………」
森「そんな風に生活してる私を尻目に、最低限の身だしなみすらせず買いたい物を買い漁ってるあんたを――」

森「――私が見逃すと思ってるの?」

古泉(……理不尽な)

 


~駅前~

森「という訳で、今からあんたの服を買いに行くわよ」
古泉「はい……」
森「私もアドバイスするけど、外出用のそれなりにいいものを選ぶように。分かった?」
古泉「分かりました……」


森「あ、これなんてどう?」
古泉「こういう服はあまり持ってませんね」
森「合わせてみなさいよ。ほら、こんな感じ」
古泉「……ふむ」
森「なかなかいいみたいね?」
古泉「はい。これなら……って、高!」
森「こ、こら! 恥ずかしいからそんなこと言わないの!」ヒソヒソ
古泉「で、でも、これは明らかに高いですよ」ヒソヒソ
森「いい物が高くなるのは仕方がないことじゃない」
古泉「しかし……」
森「いい? 服を買うコツは値段は見ない、いいと思ったら買う、以上」
古泉「そんなことをしてたらお金が足りませんよ」
森「あんたも本を買う時は値段を見ないでしょ? それと一緒」
古泉「……いやいや、少し納得しかけましたけど、値段が全然違いますよ!」
森「とにかく! 今回は値段を気にせずに買うわよ!」
古泉「そんな……」


森「こんなのはどうかしら?」
古泉「……少し派手じゃないですか?」
森「イメチェンよ。たまにはこういうのもいいと思うわよ?」
古泉「うーん……?」
森「こう……髪型も少し変えて……」チョイチョイ
古泉「ちょ、ちょっと森さん……」
森「どうよ?」
古泉「……確かにイメージは変わりましたね」
森「うん。凄く『受け』っぽくなったわ」
古泉「…………」
森「これは決定、っと」
古泉「却下です」


シャーッ

古泉「試着してみましたが……こんな感じですか?」
森「……なんかイメージと違うわね」
古泉「そうですか?」
森「そうだ。シャツをきちんと中に入れてみなさい」
古泉「シャツを……? 分かりました」

シャーッ

古泉「入れてみましたけど……」
森「いいわね」
古泉「これでは印象が堅すぎませんか?」
森「それでいいのよ」
古泉「そうでしょうか?」
森「そういうキャラも需要はあるしね」
古泉「…………」
森「あ、そうだ。ついでに伊達眼鏡も買わない?」
古泉「アドバイスするなら真面目にやって下さい!」


古泉「はぁ……やっと一通り回りましたね……」
森「随分疲れたみたいね?」
古泉「……たかが買い物でこんなに疲れたのは初めてですよ」
森「そう? それじゃ、次の店を見に行こうか?」
古泉「……え?」
森「どしたの?」
古泉「……次の店?」
森「そうよ。気に入ったのだけチェックして最後にまとめて買うの」
古泉「……これで終わりじゃないんですか?」
森「当然。あと三軒は回るわよ」
古泉「ああぁ……」

 


~数時間後~

森「はあ~……買った買った」
古泉「…………」
森「なによ、辛気臭い顔しちゃって? 気に入らなかった?」
古泉「いえ……」
森「お金のことなら気にしなくていいのよ? 明日は半分仕事でもある訳だし、これくらいは助けてあげるわ」
古泉「ですが……こんなに高価な物を買って頂いて……」
森「ん~……それじゃ、クリスマスプレゼントってことで」
古泉「…………」
森「次からはちゃんと自分で買いなさいよ?」
古泉「…………」
森「古泉?」
古泉「あ、あの、荷物を見ていて下さい!」
森「え?」
古泉「すぐに戻ります!」
森「ちょっと! 古泉!?」


森「…………」

タッタッタッタッ

古泉「ハァ……ハァ……」
森「…………」
古泉「た、ただいま戻りました」
森「おかえり」
古泉「あ、あの……急だったので大した物は用意出来ませんでしたが……」
森「……駄目よ、古泉」
古泉「え?」
森「そういうのは気持ちが大事なんだから。野暮なことを言わないで渡すものよ?」
古泉「あ……」
古泉「……では、メリークリスマス、森さん」
森「メリークリスマス、古泉」
森「早速だけど開けていいかしら?」
古泉「……どうぞ」

ガサガサ

森「腕時計か……なんだかんだ言いながら結構頑張ったわね」
古泉「…………」

チャリ……

森「……ふ~ん」
古泉「あの、どうでしょう?」
森「だから、野暮なことを聞かないの」
古泉「……すいません」

チャリ……

森「……ふふ」
古泉「…………」
森「よし! ついでだからご飯食べて帰るわよ!」
古泉「……随分いきなりですね?」
森「せっかく駅前まで来てるんだし、どう?」
古泉「でも、イブですよ? どこも混んでるんじゃないですか?」
森「ラーメン屋とかなら空いてるでしょ。それに今日はお互いお金がないから気取った店なんて無理じゃない?」
古泉「……それもそうですね」
森「じゃ、行きましょうか?」
古泉「はい。お供します」
森「あ、こっちは奢らないわよ?」
古泉「分かってますよ」

 


~翌日~

森「~♪」

圭一・裕「…………」
裕「……なぁ、兄貴」
圭一「……なんだ?」
裕「森の笑顔が恐いんだが……」
圭一「……あれはヤケクソで無理矢理楽しそうに仕事してるのかも知れんな」
裕「……あのお祭り好きがクリスマスに仕事で機嫌がいい訳ないもんな」
圭一「……なるべく仕事を任せないようにしよう」
裕「ああ……」

森「~♪」

チャリ……

 


~かなりメタい話 ※『涼宮ハルヒの驚愕』のネタバレあり~

古泉「森さん、驚愕はもう読まれましたか?」
森「ええ、とっくに」
古泉「まさかここにきて僕が機関創設者でリーダーの可能性が出てくるとは……」
森「そうね」
古泉「これは下克上の時が来ましたよ。手始めにこのSSのタイトルを腐女子部下に変更して――」
森「ところで古泉」
古泉「なんでしょうか? 今から色々直したりと忙しくなるので手短にお願いします」
森「下克上とか言ってるけど、あんたこの私に勝てるの?」
古泉「……え?」
森「手段はなんでもいいから屈服させられる? この私を」
古泉「……」
森「……」
古泉「……すいませんでした」
森「よろしい」

森「そういうことだからこのSSでは今まで通り私が古泉の上司よ」
古泉「驚愕以前にスタートしていたSSということで一つご容赦を」
森「ていうか、もし古泉を上司にしても結局振り回される役は古泉なんだけどね」
古泉「……真面目キャラが振り回される……二次創作コメディーの悲しい宿命です」
森「そんな感じで今回も振り回される古泉でお楽しみ下さい」
古泉「では、どうぞ」
 


~被害者の朝~

ピッピピ、ピッピピ

古泉「う……」

ピッピピ、ピ……

古泉「ん……もう朝ですか」
古泉「……むぅ、森さんに借りた漫画をうっかり全部読んでしまいました」
古泉「お陰で寝不足ですよ……ふぁ……」

喜緑「おはようございます、古泉君」
みくる「お、お邪魔してます……」

古泉「…………」
喜緑「どうなさいましたか? 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をされて」
古泉「……こういう心臓に悪い登場の仕方はやめて頂けませんか? 鍵は掛かってましたよね?」
喜緑「失礼しました。出来る限りこのような手段は取りたくなかったのですが、何分緊急事態でして」
古泉「緊急事態?」
喜緑「涼宮さん絡みで少々」
古泉「……なるほど」
喜緑「理解して頂けたようで何よりです」
古泉「それで今回は一体何が? 彼が羊のぬいぐるみにされたとかその辺りですか?」
みくる「涼宮さんはそのネタを知らないと思いますけど……」
喜緑「口で説明するよりは実際に見て頂くのが一番ですね」
古泉「実際に、と言いますと?」
みくる「あの……今から何を見ても驚かないで下さいね」
古泉「大丈夫です。これまでに様々な事件を体験してきましたし、余程のことでなければ驚きませんよ」
みくる「……だといいんですが」
古泉「?」
喜緑「では、こちらをどうぞ」
古泉「こちらを……って、手鏡?」
みくる「……」
古泉「この手鏡が一体……?」
古泉「…………」

古泉「えぇぇぇぇぇぇッ!」

みくる「こ、古泉君! 気を確かに!」
古泉「なんですか、これは!?」
喜緑「……残念ながら見た通り、そういうことです」
古泉「な、なんで……」

古泉「なんで僕が子供になってるんですか!?」
 


~基本ですよ?~

喜緑「説明するまでもないと思いますが、涼宮さんの力によってあなたは小学生にされてしまいました」
古泉「……小学生……」
喜緑「当事者に対してこう言っては失礼ですが、幸いなことに直接的な被害を受けているのはSOS団の男子団員のお二人だけです」
古泉「……僕と彼の二人だけですか?」
みくる「みたいですね」
古泉「……」
喜緑「何かご不明な点でも?」
古泉「いえ……彼だけならともかく、僕にまで被害が及んだ理由がいまいち分からなくて……」
みくる「あのぅ……それは多分、涼宮さんから見てキョン君と古泉君が一番近いお友達だからじゃないでしょうか?」
古泉「友達だから、ですか?」
みくる「つまり涼宮さんが小学生のキョン君を想像した時に、その隣にいたのが小学生の古泉君だった、ということです」
喜緑「彼だけが小学生という世界に彼女の中でしっくりこないものがあったのかも知れませんね」
古泉「……そういうものですか?」
みくる・喜緑「そういうものです」
古泉「は、はぁ……?」
みくる(……メイン一人だけじゃ妄想の世界観が広がりませんしね)
喜緑(親友キャラは大事です)
古泉(……何か嫌な空気が……)

 


~正太郎~

古泉「そういえば、彼の方は大丈夫なんですか? ご家族もいらっしゃいますし、周りはパニックになっているのでは?」
喜緑「いえ、周りの人間にはお二人は元々小学生だったと認識されているので問題はありません。当事者以外で高校生のあなた方を覚えているのは私と長門さん、朝比奈さんだけです」
古泉「なら問題は彼本人が現在置かれている状況を把握出来ているかどうかですね」
みくる「それについては長門さんが迎えにいってるので大丈夫ですよ」
古泉「ふむ……取り敢えずどういう状況なのかは理解しました」
喜緑「飲み込みが早くて助かります」
古泉「しかし、涼宮さんはなんでまたこんなことを望んだのでしょう?」
みくる「……」ビクッ
喜緑「生憎私も長門さんも原因までは分かりませんでした」
みくる「……」
古泉「僕も心当たりはないですね。昨日も特に変わったところはありませんでした」
みくる「……」
喜緑「……」
古泉「……」
みくる「……」
古泉「……朝比奈さん。何故さっきから黙っているんですか?」
みくる「え? あ、そ、それは……」
喜緑「さては何か知ってますね?」
みくる「えっと……」
古泉「……正直に話して頂けませんか?」
みくる「……」
みくる「あ、あの、これが直接の原因かどうかは分からないんですけど……」
古泉「はい」
みくる「その、昨日の帰りに涼宮さんと本屋さんに寄って、そこで漫画の新刊を買ったんです」
古泉「漫画ですか?」
みくる「……はい。そうしたら涼宮さんがその漫画に興味を持って……」
喜緑「そのシリーズを貸してあげた、と」
みくる「……はい」
古泉「それで、どんな漫画なんですか?」
みくる「……女性向けの……えっと、いわゆるショタ漫画です」
古泉「……ショタ?」
みくる「小学生の男の子と年上のお姉さんのちょっと危ない関係を描いた話なんですが……」
古泉「……」
喜緑「……」
みくる「……あはは」
古泉「どう考えてもそれが原因じゃないですか!?」
みくる「ああ! ごめんなさい! ごめんなさい~!」
喜緑「とにかく、これで原因ははっきりしましたね」
古泉「はあ……そうですね。ほぼ間違いなくその漫画を読んで影響されたのでしょう」
みくる「あぅ……」
喜緑「つまり、これは涼宮さんの願望というよりはむしろ妄想ですね」
古泉「嫌な表現ですが……そうなりますね」
喜緑「ふむ、一般人にそこまで妄想させるとはなかなか興味深い漫画です。朝比奈さん、今度貸して下さい」
古泉「今はそれどころじゃないでしょう!」
 


~守備範囲に定評あり~

古泉「……とはいえ、文句を言っていても始まりませんね」
みくる「ごめんなさい……」
古泉「仕方ありませんよ。こんな事態になるなんて誰も予想出来ません」
喜緑「そうですね」
みくる「本当にごめんなさい……」
古泉「……」
喜緑「……」
みくる「……」

ピンポーン

古泉「おや? こんな朝早くにどなたでしょう?」
喜緑「恐らく長門さんたちですね」
みくる「あ、私が出てきます!」

ガチャ

古泉「……」
喜緑「……」
古泉「……ところで」
喜緑「はい?」
古泉「……朝比奈さん、ショタが好きだったんですね」
喜緑「いえ、彼女は色んなジャンルを嗜んでいるので、ショタが特別好きだということではないようです」
古泉「……そうなんですか?」
喜緑「彼女の趣味はかなり豊富ですから。今回のようなケースならショタはむしろ被害が軽い方かと」
古泉「……これで軽いんですか」
喜緑「そうですね。例えばケ――」
古泉「あ、言わなくて結構です」

 


~幼馴染みでお姉さんで~

ガチャ

古泉「あ……」
キョン「……古泉」
古泉「どうも……」
キョン「……本当にお前も同じ目にあってたんだな」
古泉「今回は僕も当事者だけに掛ける言葉も浮かびませんが……まあ、座って下さい。お茶でも淹れますよ」
キョン「悪い……残念だがゆっくり茶を飲んでる状況じゃなくなった」
古泉「どういうことですか?」
みくる「あの……その……」
長門「……申し訳ない。捕まった」

ハルヒ「あら? なんか勢揃いって感じね?」

喜緑「……ああ」
古泉「……そういうことですか」
キョン「……すまん」
長門「……私がうかつだった」

ハルヒ「ごめんね、古泉君。キョンと遊ぶ約束してたみたいだけど、この子は今日うちでお勉強しなきゃいけないの」
キョン「なっ、勝手に決めるな!」
ハルヒ「あんたのお母さんに頼まれてるのよ。今日はみっちりシゴくつもりだから覚悟しなさい」ガシッ
キョン「は、離せ!」
ハルヒ「駄目よ。勉強が嫌で逃げるつもりでしょ?」
キョン「ハルヒ、今はそれどころじゃないんだ。事情は説明出来ないが、今日のところはおとなしく帰ってくれ」
ハルヒ「コラ」ペシッ
キョン「痛っ」
ハルヒ「『ハルヒ』じゃなくて『お姉ちゃん』でしょ? まったく、最近急に生意気になっちゃって」
キョン「お、『お姉ちゃん』だぁ!?」
ハルヒ「はあ……キョンももっと小さい頃は可愛かったのになあ……」
キョン「おい! 勝手に過去を捏造するな!」
ハルヒ「また年上にそんな言葉遣いをして。あたしはあんたをそんな風に育てた覚えはないわよ!」
キョン「育てられてねえよ!」

ギャーギャー!

四人「……」
みくる「今のやり取りだけで涼宮さんがどんな設定を妄想したのか丸分かりですね」
古泉「確かに」

 


~二人目のお姉ちゃん~

ハルヒ「んじゃ、そういうことだからキョンは貰って行くわよ」ヒョイ
キョン「くそ、下ろせ! この!」ジタバタ
四人「あ……」
ハルヒ「それじゃ、みんなまたね」
キョン「離せぇぇぇぇ!」

バタン!

四人「……」
みくる「……助けなくて大丈夫でしょうか?」
古泉「この場合、涼宮さんのことは彼にお任せするのも一つの手のように思えますが」
みくる「でも、キョン君大丈夫ですかね?」
喜緑「いくら涼宮さんでも小学生を相手に無茶はしないでしょう」
長門「……だけど、断言は出来ない」
四人「……」

ガチャ

古泉「ん? また玄関に誰かいらっしゃいましたね?」
みくる「涼宮さんたち……じゃないですよね?」
長門「……恐らくは彼女」
古泉「彼女?」
喜緑「ああ、そういえばまだ話してませんでしたね」
古泉「何をですか?」
喜緑「元の世界では古泉君は一人暮らしをされていたようですが、小学生ということになっているこの世界で一人暮らしはおかしいでしょう?」
古泉「……言われてみれば確かにそうですね」
喜緑「なので、こちらの世界の古泉君はある方と同居をされています」
古泉「え……?」
喜緑「そして、こちらの世界でも古泉君が超能力者で機関に属しているという事実はそのままなんですよ」
古泉「……まさか、同居人というのは……」
喜緑「先程も言った通り、私たち以外は高校生のあなたを覚えていないので気を付けて下さいね」

ガチャ

森「ただいま~。ごめんね、残業が朝までかかっちゃった」
古泉「…………」
 


~お約束展開~

喜緑「おかえりなさい、森さん」
みくる「お邪魔してます」
長門「……」
森「……なんか珍しい面子ね? 何かあったの?」
みくる「あ、それは、その……」
森「……涼宮さん絡み?」
喜緑「いえいえ、森さんが気にするようなことじゃありませんよ。ね、朝比奈さん?」
みくる「え? あ、は、はい!」
森「ふーん……ま、いいわ」
喜緑「それにそろそろお暇するところでしたので」
古泉「え?」
森「あら? お茶くらい飲んでいかない?」
喜緑「いえいえ、お構いなく」
森「そう? 残念ね」
古泉「ちょ、ちょっと待って下さい」ヒソヒソ
喜緑「なんでしょう?」
古泉「この流れはみんなで世界を元に戻す方法を考えるところじゃないんですか?」ヒソヒソ
喜緑「それがそうも行かないんですよ」
古泉「?」
長門「……今回の改変に対する情報統合思念体の方針は涼宮ハルヒの観察」
喜緑「そういう訳ですので、この件は森さんにも内密にお願いします」
古泉「な!?」
喜緑「それが終えたら私と長門さんも協力しますので、申し訳ないですがしばらく我慢して下さい」
古泉「そんな……」
森「どうかしたの?」
喜緑「いえ、なんでもありません。そろそろ行きましょうか、朝比奈さん、長門さん」
みくる「あ、はい。お邪魔しました」
長門「……」
森「今度はゆっくりしていってね」
喜緑「はい、機会があれば是非。では失礼します」
古泉「……」
森「またね~」

バタン

喜緑「さて、どうなりますかね」
みくる「……あの、喜緑さん」
喜緑「なんでしょう?」
みくる「……本当にしばらくはこのままなんですか?」
喜緑「そうですね」
みくる「……」
喜緑「大丈夫です。そんな不安そうにしなくても、元の世界に戻るだけなら案外簡単だと思いますよ?」
みくる「ふぇ?」
長門「……」
 


~ねえ、ちゃんとしようよ~

古泉(う~ん……)
森「えーっと、トーストにサラダに……っと」テキパキ
古泉(あの森さんが僕のマンションで僕のためにご飯を作ってる……今の状況を理解していても物凄く違和感がありますね……)
森「一樹くん、卵は目玉焼きでいい?」
古泉「い、一樹くん?」
森「ん? どうかしたの?」
古泉(そうか、歳が違えば呼び方が変わるのも道理ですね。となると、僕から森さんへの呼び方も変わっていかもしれません)
古泉(無難なのはいつも通り『森さん』ですが、小学生にしては少々堅すぎますかね? ここは『園生さん』なんていう呼び方の可能性も)
森「お~い?」
古泉(うーん……ひとまず呼んでみてリアクションを見ますか)
森「凄く悩んでるみたいだけど、そろそろ卵どうするか決めてくれない?」
古泉「失礼しました。目玉焼きでお願いします、森さん」
森「……『森さん』?」ピク
古泉(……む、これは違いましたか?)
森「駄目よ、一樹くん。いつも言ってるでしょ」
古泉(……ん?)
森「『森さん』なんて味気ない呼び方はやめて、『姉さん』もしくは『お姉ちゃん』と呼びなさい」
古泉「…………」
森「あ、『ねえねえ』でも可!」
古泉(うん、色んな意味でいつも通りですね)
 


~長門さんが見てる~

ハルヒ「凄いじゃない! 算数は文句なしよ!」
キョン「……流石に小学生の問題を間違えてたまるか」ボソッ
ハルヒ「よしよし、お姉ちゃんが誉めてあげるわ」ナデナデ
キョン「うわ、やめろ! 恥ずかしい!」
ハルヒ「これくらいで照れないの。じゃあ一旦休憩にして、お昼ご飯でも食べよっか?」
キョン「……」
ハルヒ「ちょっと待ってなさい」

バタン

キョン「……」
キョン「はぁ~……」
長門「……お疲れ様」
キョン「……な、長門。来てくれたのか?」
長門「先程から監視はしていた」
キョン「……俺はもうこの状況に耐えられない。なんとかならないのか?」
長門「……現在監視以外の干渉は禁じられている。こうして会話するのが精一杯」
キョン「そんな……」
長門「そろそろ彼女が戻ってくるので私は消える」
キョン「もう帰るのか?」
長門「不可視モードで見えなくなるだけ。緊急事態に備えて常にそばにいる」
キョン「なら少しは安心……か?」
長門「また後で」

ガチャ

ハルヒ「お待たせ! お昼はあたしが作った炒飯よ!」
キョン「……」
ハルヒ「あんた昔からあたしの手料理が好きだったでしょ?」
キョン(……次々と都合のいい設定を作りやがって)
ハルヒ「昔みたいに食べさせてあげようか? はい、あ~ん」
キョン「……」
キョン(……ハルヒのあ~ん……)
ハルヒ「ほら、あ~んしなさい」
キョン「……」
キョン(……ま、まあ、食い物に罪はないしな。腹も減ってるし。うん)
キョン「……」
キョン「あ、あ~――」
キョン「……ッ!?」
ハルヒ「どうしたの?」
キョン(――っぶねえ! 今この部屋に長門もいるの忘れてた!)
ハルヒ「変なコねえ。ほらさっさと食べちゃいなさいよ。これ食べ終わったら次は国語やるんだから」
キョン(え? ていうかこれからずっとハルヒと二人の場面を長門に見られて……)
ハルヒ「はい、キョン。あ~ん」
キョン(か、勘弁してくれ……)

 


~恥ずかしくて読み飛ばした小学生時代→隠れて読んだ中学時代→何も気にせず普通に読んだ高校時代~

古泉「あ、本棚は全部森さんの漫画になってる」
古泉「そう言えばこの少女漫画の続きはまだ読んでませんね」
古泉「……」ペラ
古泉「ふむ……」ペラ

森「一樹くん、洗濯物を――」
森「って、何読んでるの!?」
古泉「何って、ただの漫画ですが?」
森「こっちの本棚は読んじゃ駄目って言ったでしょ!?」
古泉「え?」
森「読むならそっちの棚!」
古泉(……読んではいけない方は少女漫画ばかりで、読んでもいい方は少年漫画中心……?)
古泉「うーん……?」
古泉「何故こちらの本を読んではいけないのですか?」
森「な、何故って……それはその……」
森(Hなシーンがあるからと言ってこの歳の子供に伝わるのかしら? いや、ここはむしろきちんと性教育をしなくちゃいけない場面?)
森(でも……)
古泉「……?」
森(……無理! あんな純粋な目をしてる子に教えるなんて無理!)
 


~初めてのお泊り~

キョン「一人で帰れるから大丈夫だ」
ハルヒ「もう遅いんだから泊まっていきなさい。お母さんにも電話しといてあげるから」
キョン「いや、本当に大丈夫だから。もう家に帰らせてくれよ」
ハルヒ「今日うちの親は帰ってこないけど、ご飯はあたしが作るから心配しないで」
キョン「ぶっ!?」
ハルヒ「あ、でも来客用の布団を干してないか……まあ、寝るのはあたしのベッドでいいわよね?」
キョン「か、帰る! 意地でも帰る!」
ハルヒ「こーら、手間を掛けさせないの」ガシッ
キョン「誰か助けてくれ!」
 


~※ただし二次元に限る~

古泉「お風呂先に頂きました」ホカホカ
森「……ふむ」ジー
古泉「どうかされましたか?」
森「このくらいの歳だとまだ男女の差が然程ないわね。Tシャツにハーフパンツだからまだ男の子に見えるけど……」
古泉(……子供にはどうせ意味が通じないと思って好き放題言ってますね)
森「すねもまだスベスベ……髪も長い方だし、これは行けるかもしれない」
古泉(ツッコミたいけど我慢我慢)
森「……ねえ、一樹くん」
古泉「……なんでしょうか?」
森「女の子の服に興味は――」
古泉「ありません」
 


~守りたい、この一線~

ダッダッダッダッ!

ハルヒ「待ちなさい! キョン!」
キョン「誰が待つか!」
ハルヒ「またお姉ちゃんにそんな口を聞いて! 反抗期にはまだ早いわよ!」
キョン「これだけは何があっても抵抗する!」
ハルヒ「おとなしくお風呂に入りなさい!」
キョン「なら一人で入らせてくれ!」
ハルヒ「だーめ、一緒に入るわよ!」
キョン「断る!」

ダッダッダッダッ!
 


~シリアスなら死亡フラグ~

~一方その頃~

古泉(やれやれ。こんな体でここに来るはめになるとは思いませんでした)
森「――という訳で神人にはいつも通りの配置で当たるわ。みんな所定の位置に着いて」
古泉(あれだけ楽しそうだった涼宮さんがストレスを抱えられたということは……やはり彼のせいですかね?)
森「一樹くん、聞いてる?」
古泉(まったく、涼宮さんから好意を向けられているのは明白なんですから、さっさとくっついてしまえばいいんですよ)
森「一樹くん?」
古泉(特に今回の改変など動機があからさまじゃないですか。一体何をまごついているのやら……)
森「一樹くん!」
古泉「は、はい!」ビクッ
森「……さっきから心ここにあらずと言った感じね。他のメンバーはもう行っちゃったわよ?」
古泉「……すいません。不注意でした」
古泉(……しまった。これは制裁されてもおかしくないパターンです)
森「ちょっとこっちに来なさい」ガシッ
古泉(ひぃ……)ビクッ
森「あのね、一樹くん」
古泉「はい……」

森「……恐いなら無理しなくてもいいのよ?」ギュッ

古泉「…………え?」
森「あなたはまだ子供なんだから、恐いなら逃げてもいいの」
古泉「そんな、今更恐いだなんて。実際もう何年も……あっ」
森「もう何年も?」
古泉「い、いえ……」
古泉(……そうでした。今の僕は小学生の姿で……)
森「本当は子供に戦わせるなんて無茶なのよ。こんな危険な役目は大人たちだけでやるべきなの」
古泉(……森さん)
森「でも、あなたは出来てしまうから、あなたは文句一つ言わないから、みんな甘えてしまっているのよ」
古泉「……」
森「もし嫌になったのならいつでも言いなさい。他の誰が文句を言ってきても私があなたを守ってあげるわ」ギュウッ
古泉「……あの」
森「……なに?」
古泉「……少し息が苦しいです」
森「……こういう時は我慢するものよ」ポフッ
古泉「……そういうものですか」
森「……そういうものなの」
古泉「……」

森「……行くの?」
古泉「……はい」
森「……そう」
古泉「……」
森「……」
古泉「……森さん、僕は逃げませんよ」
森「……」
古泉「物凄く陳腐で恥ずかしくて使い古された言葉ですけど……」
森「うん」
古泉「守りたい人たちがいますから」
森「そっか」
古泉「行ってきます、森さん」
森「……いってらっしゃい、一樹くん」
 


~長門さんだけが見てた~

~翌日~

みくる「こんにちは~」
ハルヒ「いらっしゃい、みくるちゃん。さ、入って」
みくる「お邪魔します」
ハルヒ「急に家に来るなんて言うから驚いたわ。休みの日に遊びに来るなんて珍しいわね?」
みくる「いえ、その……今回はちょっと責任を感じてるので様子を見に……」ゴニョゴニョ
ハルヒ「何か言った?」
みくる「い、いえ、何も……」
ハルヒ「そう? あたしは飲み物を用意してくるから、みくるちゃんはキョンの相手してて」
みくる「わ、分かりました」

ガチャ

キョン「あ、朝比奈さん……」
みくる「あの、大丈夫ですか?」
キョン「……はは……もう無理です……」
みくる「な、何があったんですか?」
キョン「…………」
みくる「……キョン君?」
みくる「ああ、キョン君が部屋の隅っこで体育座りを……」
みくる「一体どんな目にあったらあんな風になるんでしょう……」

長門「詳細は私が説明する」
みくる「きゃっ……な、長門さん、いたんですか?」
長門「昨晩、入浴を共にしようという涼宮ハルヒの要請を彼が拒んだため、彼女が実力行使に出て彼が逃亡を始めた」
みくる「い、一緒にお風呂ですか? 涼宮さんもこの世界では大胆ですね」
長門「彼は必死に逃げ続けたが、慣れない男子小学生の肉体の限界を見誤っていた」
みくる「……」
長門「一日分の疲労の蓄積もあって彼の体力はすぐに尽きた。それでも彼は最後の力を振り絞って押し入れに身を隠した」
みくる「……」
長門「しかし、抵抗もむなしく涼宮ハルヒは彼を発見。彼女は怒鳴りつけようとしたが、彼の寝顔を見た瞬間それまでの怒りを忘れたように苦笑し……」
みくる「……」ゴクリ
長門「『仕方ないわねえ』と言いながら、彼を抱き上げ寝室へと連れて行き――」
みくる「……」ドキドキ
長門「……涼宮ハルヒが帰ってきた。私は隠れる」
みくる「ああ! 一番大事なシーンが!」
キョン「…………」ドヨーン
 


~今回のオチ~

ハルヒ「ほら、キョン、いつまでも拗ねてないで機嫌直しなさいよ」
キョン「……うるせえ。話し掛けんな」
ハルヒ「すっかりへそ曲げちゃって。もう、可愛くないわね」
キョン「ふん……」
みくる「えっと……キョン君もそろそろ難しい年頃なんですよ。あまり構いすぎてもよくないと思いますよ」
ハルヒ「あ~あ、昔のキョンはあんなに可愛かったのに」
みくる「……そ、そうなんですか?」
キョン「……」
ハルヒ「昔は結婚の約束までしたのよ?」
みくる「まあ」
キョン「はあ!?」
ハルヒ「『大きくなったらお姉ちゃんと結婚する!』って言ってきたからOKしてあげたの」
キョン「捏造だ! 訂正しろ!」
ハルヒ「それが最近はこんな感じなのよねえ。早めの反抗期かしら?」
みくる「あはは……」
キョン「~~ッ!」ガバッ
ハルヒ「あら、どこ行くの?」
キョン「トイレだよ!」

バタン!

ハルヒ「ああいうところはまだまだ可愛いんだけどねえ」
みくる(なるほど。涼宮さんがずっとこの調子だとキョン君も大変ですね……)

みくる「……あ、でも、あれですね」
ハルヒ「なに?」
みくる「もし同い年ならあと数年で結婚出来ますが、二人の歳の差じゃ十年以上は結婚出来ませんね」
ハルヒ「…………え?」
みくる「……あれ? 私なんか変なこと言いましたか?」
ハルヒ「ば、バカね、みくるちゃん! 約束といっても小さい頃のお遊びみたいなものよ!」
みくる「ふぇ? 本当の約束じゃないんですか?」
ハルヒ「そうよ! そんな遊びの約束を今でも本気にしてるはずないでしょ!」
みくる「それもそうですね」
ハルヒ「そうよ……うん……」
ハルヒ「さ、さあ! せっかくみくるちゃんが遊びに来たんだし、今から古泉君と有希も呼んでみんなで遊ぶわよ!」
みくる「分かりました~」
ハルヒ「……」

ハルヒ「……十年、か」
 


~後日談~

古泉「――それでその事実に気付いた涼宮さんは今回の改変した世界に見切りを付けて、再び元の世界に改変し直した、という訳です」
森「それが今回の事件の顛末か。無茶苦茶だけど被害が『彼一人』だった点や動機を考えると、まあ可愛いものね」
古泉「そうですね」
森「それじゃいつも通り報告書にまとめといて」
古泉「かしこまりました」

古泉「……」カタカタ
森「……」

古泉「ところで森さん」
森「なによ?」
古泉「もし僕がもう閉鎖空間で戦いたくないって泣き事を言ったらどうしますか?」
森「……なに? 辛いの?」
古泉「いえ、全然そんなことはないのでご安心を。ただの暇つぶしの仮定話です」
森「ふーむ……」
古泉「……」
森「分かんない」
古泉「おや、意外な答えですね?」
森「まず閉鎖空間から逃げるあんたってのが想像出来ないから仕方ないわ」
古泉「そうですか? これでも繊細な十代の若者ですよ?」
森「本当に繊細な奴は自分からそんなこと言わないの。ほら、余計なお喋りしないでさっさと報告書上げなさい」
古泉「すいません、つまらないことを聞いて」
森「まったく……」

古泉「……」カタカタ
森「……」

森「……さっきの話だけどさ」
古泉「はい」
森「……少なくとも慰めたり、優しくしたりはしないわね」
古泉「ほう?」
森「やっぱり尻を蹴飛ばしてでも戦わせると思うわ」
古泉(……それがそうでもなかったんですけどね)
森「……なにニヤついてんのよ?」
古泉「いえ、なんでもありません」
森「なーんかムカつくわね」
古泉「お気になさらずに」
森「ムカつくからこれ終わったらあんたの奢りでご飯ね」
古泉「構いませんよ」
森「……本当にどうしたの? 何か悪いものでも食べた?」
古泉「たまには頼れる上司に感謝の意でも示そうかと」
森「……ふーん」
古泉「あ、でも出来ればラーメン辺りでお願いします」
森「……冗談なんだから割り勘でいいわよ。それより早く終わらせなさい」
古泉「分かりました」

古泉「……」カタカタ
森「……」


~オタク娘たちの雑談~

森「最近の男キャラってさあ」
喜緑「はい」
森「家事スキルが高い男多くない?」
みくる「家事スキルというと、お料理が得意な主人公とかですか?」
森「そうそう。男向けのラブコメで主人公がさらっと食卓いっぱいに料理を並べて『大した物は作れなかったけど』とか言っちゃうアレね」
みくる「ヒロインがそれを食べて『……あたしより料理上手いじゃん』とショック受けるアレですね」
喜緑「男性向け作品でも家事をする男性キャラが増えてるんですか? 女性向けには昔から少なくありませんでしたが」
森「詳しい時期は分からないけど、何年か前から地味に増えてる気はするわね」
みくる「いわゆる草食系主人公が持っていても違和感のない特技ですし、そういう方面でキャラ付けをしやすいんでしょう」
森「ふーむ。大人しい平凡キャラでも活躍出来る程よいスキルって訳ね」
みくる「それと家事が壊滅的なヒロインが増えたのも関係してるかも知れませんね」
喜緑「なるほど。でも家事が似合う大人しいタイプの男性キャラ以外でも家事スキルは映えますよ」
森「ああ、分かるわ。全然家庭的じゃない男キャラが実は料理得意、っていうギャップね」
喜緑「そういうギャップは美味しいですよね」
喜緑「学校ではぶっきらぼうなのに、家だと家族のためにエプロン姿で甲斐甲斐しく家事をしてる、なんてシチュは萌えます」
みくる「エプロンは大事ですね」
森「男のエプロン姿はいいわね」
喜緑「いいですよね」
みくる「もちろん、エプロンは黒のシックなかっこいいやつですよね?」
喜緑「まったく似合ってない、白のフリル付きエプロンを着てる男性なんか可愛いですよね?」
みくる「むっ?」
喜緑「あら?」
みくる「また意見が分かれましたね、喜緑さん」
喜緑「そのようですね、朝比奈さん」
二人「ではいつものように語り尽くしますか」
森(……エプロン着けて料理する男かあ)

 


~別の日・古泉宅~

古泉「ああ……この出目だと5000オーバーの物件に……」
森「残念。これで私は目標金額クリアね」
古泉「……やはりこういうボードゲームはTVゲームでやると勝手が違います」
森「TVゲームじゃなくてもあんたゲーム全般で弱いじゃない」
古泉「ぐぅ……」
古泉「……マップを変えてもう一度やりましょう」
森「えー。このゲーム長いからもういいわよ」
古泉「勝ち逃げする気ですか?」
森「勝ち逃げも何も古泉ってCPUより弱いんだもの」
古泉「くっ……そこをなんとか」
森「んー……今日の夕飯を賭けるならやってもいいわよ」
古泉「……分かりました。今日は無理ですが、次のゲームに負けたら今度食事を奢りますよ」
森「あれ? 今日は誰かとご飯の予定があるの?」
古泉「いえ、今日の夕飯はもう材料を買ってあるので。出来れば今日中に食べてしまいたい物もありますし」
森「えっ? あんたって自炊してたの?」
古泉「少し前から始めました。今じゃ自炊と外食が半々くらいですかね」
森「へえ~」
古泉「それでゲームの続きはどうされますか?」
森「……ふむ」
森「ねえ、食材はいっぱいあるの?」
古泉「え、あ、はい。今日森さんがいらっしゃる前にまとめ買いしてきたので数日分はありますが」
森「よし。んじゃ、次の勝負に私が勝ったらあんたの手料理を振る舞って貰おうっと」
古泉「……ええ!?」
森「外で奢るよりは安上がりでしょ?」
古泉「それはそうですが……いや、でも手料理となると……」
森「なに、勝てばいいのよ、勝てば。それともゲームに勝つ自信ないの?」
古泉「む……」
森「私は別にやらなくてもいいのよ? どうせ勝ちは見えてるし」
古泉「むむむ……」
森「どうするの?」
古泉「……いいでしょう。元は僕が言い出した勝負です。やりましょう」
森「決まりね。ハンデでマップは選ばせてあげるわ」
古泉「その余裕、後悔させてみせますよ」

~そして~

古泉「ああ……マハラジャが森さんの最高額物件に……」
森「今回は惜しかったわね。負けは負けだけど」
古泉「くっ……」
森「いや~楽しみだわ。古泉の手料理」
古泉「……そういう賭けでしたから仕方ありません。森さんの分も作りますよ」
森「頑張って~」

 


~お料理パート~

森「私は一切口も手も出さないから。普段通りに作ってね」
古泉「元々いつもの食材しか買っていないので凝った物なんて作れませんよ」
森「そう? んじゃ、私は隣の部屋から古泉の様子を観察してるわね」
古泉「……やりにくいなあ、もう」

古泉「さて」キュッ

森(お、エプロンはグリーンか。これはなかなか高得点)

古泉「……」グイッ

森(うんうん。袖捲りは大事な萌えポイントよね)

古泉「まずは野菜から、と」

トントントントン

森(包丁の音は結構様になってるわね)

古泉「次は炒めで……」

ジャッジャッジャッジャッ

森(おー炒める姿もなかなか)

古泉「あ、鍋が……」
古泉「熱っ!」ジュウッ

森(ちょっとしたドジっ子アピール。まあこれはこれで)

古泉「ん……よし、と」コク

森(ふむ、注目してなかったけど小皿で味見する姿ってのも意外といいわね。今度二人に話してみよう)

 


 ~実食~

古泉「森さん、そろそろ出来るのでそっちの机の上を片して下さい」
森「はいは~い」
森(さて、どんなメニューが来るかな。炒め物みたいだし中華かなあ?)
古泉「お待たせしました。急だったので大した物は作れませんでしたが……」
森(お約束の台詞ねえ)
森「どれどれ」

・ご飯
・豚野菜炒め(目玉焼き乗せ)
・野菜たっぷり味噌汁(具大きめ)
・かぼちゃの煮物(スーパーの惣菜)
・スライストマトときゅうりのサラダっぽい一品(市販和風ドレッシングで)

森「…………」
古泉「どうぞ召し上がって下さい」
森「…………」
古泉「森さん?」
森「……なんか違う」
古泉「は?」
森「もっとこう……ラブコメのご馳走イベントだとさ、簡単な料理なんだけど洋食とかイタリアンとか中華とかさ、家庭的ながらもちょっと頑張ってみました感をさ」
古泉「……今の台詞で森さんが何を想像されていたのか大体分かりました」
古泉「でも男子高校生の手料理なんて実際はこんな感じですよ」
森「む~……」
古泉「現実と二次元を一緒にしないで下さい」
森「くっ……まさか古泉に今更そんなことを言われるなんて」
古泉「さあ現実を見つめて。いただきます」
森「……いただきます」
森「……」モグ
森「あ、でも普通に美味しい」
古泉「まあ、野菜炒めなら不味く作る方が難しいでしょうね」モグ
森「むぅ……無難すぎてリアクションに困るわ」モグモグ
古泉「普段の家庭料理なんて大体そんなものでしょう」ズズズ
森「ちなみにこれはサラダ?」
古泉「はい。千切りキャベツでも添えようかと思ったんですが、他に野菜をいっぱい使ったので今回はなくていいかなと」
森「……分からなくもないけどなんか物足りないわね」モグモグ
森「ん? この煮物はスーパーの惣菜か」モグ
古泉「ふと食べたくなったんですが、煮物はわざわざ作るのが手間でして」
森「ことごとく家事キャラ路線から外してくるわねえ……」ズズズ
古泉「先に言っておきますが、お味噌汁のだしは市販の顆粒だしです」モグモグ
森「ここまでの流れを見たらなんとなく予想ついてたわ」
森「うん、でも具はちゃんとしてるからお味噌汁はなかなかいける」ズズズ
古泉「ご飯とお味噌汁はおかわりがありますよ」
森「じゃあ、おかわり。どっちもお椀半分くらいで」
古泉「かしこまりました」

 


~食後~

森「ご馳走様でした」
古泉「お粗末様でした」
古泉「ご感想は?」
森「普通だった。手抜きポイント込みで普通としか評価出来ない味だったわ」
森「普通に、それなりに美味しかった」
古泉「でしょうね」
森「でも満足したわ、うん」
古泉「それはよかったです。今お茶淹れますね」
森「よろしく~」

古泉「そういう森さんは普段料理をされるんですか?」コポコポ
森「してるわよ。というか、私の手料理なら何回も食べたことあるでしょ?」
古泉「え?……あっ」
森「ほら、孤島とか雪山とか」
古泉「……愚問でした。そう言えば森さんはイベントでよく料理をされてましたね」
古泉「イベントだったせいか、それとも高級料理が多かったせいか、森さんと手料理という単語がなかなか結び付きませんでした」
森「微妙に失礼な話ね」
古泉「いや、本当に失礼しました。……はい、お茶です」コト
森「うん、ありがと」

二人「……」ズズズ
二人「ふぅ……」

森「もちろん家庭料理もいけるわよ? 有名所ならレシピを見なくても大体作れるわ」
古泉「それは凄いですね」
森「慣れれば普通よ。ま、それでも一人だと結構ローテーションが固まっちゃったりするんだけどね」
古泉「……ふむ」
森「ん? どしたの?」
古泉「いえ、そろそろ揚げ物にチャレンジしてみようかと思ってるんですが、若干尻込みしてまして」
森「あー確かに初めてだとちょっと恐いわよね」
古泉「出来れば森さんに教えて頂けないかと」
森「別にいいけど、揚げ物ってそんなに教えることないわよ?」
古泉「いえ、是非お願いします」
森「ふーん? で、何を作りたいの?」
古泉「まずは定番のとんかつか唐揚げですかね」
森「じゃあ唐揚げでいきましょ。衣がサックリなやつと柔らかいやつ、どっちがいい?」
古泉「そうですねえ……では、サックリの方でお願いします」
森「了解。明日は予定ある?」
古泉「涼宮さんの気紛れがなければ大丈夫です」
森「んじゃ、明日は一緒にスーパーへ行くわよ。食材選びから教えてあげる」
古泉「はい。楽しみにしてます」

 


~それからしばらくして~

森「それでは、お先に失礼します」
新川「うむ」
森「……っと、古泉に電話しとかないと」
新川「ん?」
森「もしもし、古泉? 準備出来た?」
新川「……」
森「そう、ご飯だけ炊いといて。今日のおかずは全部私が作るから」
新川「!?」
森「ふっふ~ん。リクエストのコロッケ以外も色々作って見せてあげるから、楽しみにしてて」
森「ちゃんとお腹空かせときなさいよ? んじゃ、また後でね」ピッ
新川「……」
森「さて、と」
新川「あ~……森?」
森「はい、なんでしょうか?」
新川「いや、盗み聞きするつもりはなかったが今の会話が聞こえてしまってな」
新川「それで少し気になったんだが……その、森は古泉に夕飯を作ってやる仲なのか?」
森「ええ、たまに。あ、古泉が作ってくれることもありますが」
新川「こ、古泉も作るのか……」
新川「……ということは、それはいわゆる、その、なんだ?」
森「?」
新川「……二人はアレなのか?」
森「アレとはなんでしょう?」キョトン
新川「…………あ~、いや、なんでもない。引き留めてすまなかった」
森「はあ……?」
新川「いや、気にするな。ほら、古泉が待っているのだろう? 早く帰ってやれ」
森「……そうですね。そうさせて頂きます」
新川「うむ、また明日な」
森「はい。お疲れ様でした。失礼します」

バタン

新川「…………」
新川「……てっきり同棲か、そうでなくても男女付き合いをしているのかと思ったが……」
新川「……あの全く分かってない様子を見ると、そうでもないのか?」
新川「時代が変わったのか、それともあいつらが変わっているのか」
新川「ふぅ……最近の若い奴らは分からん」


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