※この章の最後にちょろんとオリキャラ登場します。オリキャラ嫌いな方は注意にょろ。

 

 

次の日、

昨日の一件が心をかすめ胸中おだやかでない中、
俺は早朝ハイキングコースをノタノタと重い足取りで歩いていた。
天気は昨晩に引き続き、雨だ。水溜りでスボンの裾が濡れて、鬱陶しいことこの上ない。

ハルヒとの電話を思い返す。

「はぁ・・・」

俺は思わず陰鬱なため息をついた。
ハルヒからの謝罪表明・・・それはあいつを泣かせてしまった俺の罪悪感を増長させた。
昨日のハルヒの言葉が、俺の脳内にコダマする。

「デートのことはあんたの好きにしていいから」

それと同時に、俺の心に罪悪感とは別の感情が湧き上がった。なんだろう、この気持ち。
この違和感。モヤモヤと形を成さないその感情は、俺の心にとどまり続けた。

「好きにしていい・・・か」

なんだよハルヒ。俺がクリスマスイブのパーティに参加できなくてもいいと言うのか。

 

 

学校に到着した俺は生徒用玄関でハルヒと出くわした。
正直に言うと、焦った。鼓動が高鳴る。
何か言わなくては。でも何を?何でもいい。とにかく声をかけろ!
しかし、先ほどのモヤモヤとした感情が俺の邪魔をする。くそ、鬱陶しい。
なんとか俺の口から出た言葉が、

「よ、よお。」
だった。ここで「よ、よお。」はねえだろ俺。

「・・・・・・。」

無視された。完全にスルーだ。泣いていいか?

結局その日、俺はハルヒと言葉を交わすことはなかった。
ハルヒは授業中はひたすら窓の外を眺めて俺の方を見ようとしなかったし、
休み時間になるとその場に突っ伏して寝たフリをしていた。

放課後部室に行けば、ハルヒと会話するチャンスがあると思ったのだが・・・ 

 

「ちわっす・・・あれ?二人だけか?」

クリスマス風に彩られた部室には、
昨日と同じサンタコスチュームに身をつつんだ(ハルヒの命令だ)朝比奈さんと、
パイプ椅子に鎮座して読書に励む長門の二人しかいなかった。

「キョンくん、こんにちは。」

と、朝比奈さん。長門は無言で俺を一べつし、すぐにハードカバーに視線を戻した。

「二人・・・だけですか?ハルヒと古泉は?」

その場に突っ立ったまま俺はもう一度聞きなおした。

「古泉くんはさっき、アルバイトがあるからって先に帰っちゃいました。
涼宮さんのことは何も聞いてないけど・・・掃除当番とかじゃないんですか?」

ではハルヒは帰ったのだろう。俺が教室を出たとき、あいつはすでにいなかったからな。

「そうなんですかぁ。珍しいですねぇ。じゃあこれを着る必要もなかったかな。」

朝比奈さんは自分の着ているサンタ服の胸元をつまみ上げながらそう言った。
いえ、とんでもございません。正直、たまりません。それ。

「あ、今お茶煎れますね。」

笑顔でそう言ってからガタガタと席を立ち、お茶の用意に取り掛かる朝比奈さん。
癒やし系っていうのはこの人のために作られた言葉なんじゃないかな。

 

「はい、どうぞぉ。」

 

緑色の液体で満たされた湯のみを受け取り、俺は自分の定位置であるパイプ椅子に腰かけた。
一口すすり、考える。
ハルヒはともかく、古泉まで欠席か。
古泉のアルバイト・・・まさか。嫌な予感がする。

「あのぉ・・・キョンくん?」

その言葉で我に返る俺。

「どうしたの?口に合いませんでした?」

心配そうに俺の顔を覗き込む朝比奈さん。

「いえ、とてもおいしいですよ。朝比奈さんの煎れてくれたお茶が、口に合わないはずありませんから。」

 

俺がそう言うと朝比奈さんはニコリと頷き、トタトタと自分の定位置に戻った。
再び思考を再開する俺。

閉鎖空間、ハルヒの機嫌が悪くなると地上に発生するドーム状の空間。
神人、閉鎖空間内で暴れまわるでっけえ人型のばけもん。
古泉の「アルバイト」は、その神人を「狩る」ことだ。
神人を倒せば、地上を覆っていた閉鎖空間は消滅する。だったな、古泉。
とすれば、今まさに閉鎖空間が発生しているのか?なぜ?
答えは一つしかない。昨日の一件だ。
俺との喧嘩は、そこまでハルヒの機嫌を損ねてしまったのだろうか。

 

「キョンくん?」

深刻な表情を顔に浮かべた俺を見かねたのか、朝比奈さんが声をかけてくれた。

「本当にどうしたの?具合でも悪いの?お茶、やっぱりおいしくなかった?昨日・・・」

朝比奈さんはそこで一旦言葉を区切り、核心をついた。

「・・・涼宮さんと何かあったの?」

その言葉を聞いた長門がハードカバーから目を逸らし、顔を上げて俺を見つめた。
どうなんだ?なにかあったのか?と、無機質な顔で俺に訴えかける長門。
俺はとっさに笑顔を作り、

「なんでもありません。ちょっと、考え事をしてだけですよ。」
と、嘘をついておいた。おまけに、

「俺、用事を思い出したので今日はもう帰ります。すいません朝比奈さん。じゃあな、長門。」

と言い放ち、鞄を引っつかんだ俺は部室を飛び出した。

 

ちくしょう。一体なんなんだこの気持ちは。
モヤモヤしてムシャクシャして、鬱陶しいったらありゃしない。
閉鎖空間?そんなもんどうでもいい。古泉がなんとかしろ。
俺には関係ない。俺は!!

俺は・・・

ハルヒが俺を引きずってでもクリスマスイブのパーティに連れて行く事を期待していた。

「団員を出し抜いてデートなんて許さないわ!恋愛感情なんて気の迷いよ!」
ハルヒならそう俺を言いくるめ、俺のネクタイを引っつかんで部室まで引っ張っていくことだろうと、期待を抱いていたんだ。

これじゃ俺がまるで・・・その先は言いたくない。

だが電話越しのハルヒは言った。俺の好きにすればいい、と。
なんでだよ?ハルヒ。本当にいいのか?行っちまうぞ。デート。

 

玄関まで来てしまってから、俺は部室に傘を忘れたことに気がついた。
あんなに勢いよく飛び出しておいて、今更取りに戻るのも気が引けた。
まだ雨が降っている。
しょうがないか、と俺が濡れて帰る覚悟を決めたそのときだ。

「あの・・・キョンちゃん?」

後ろから声をかけられた。キョンちゃん?
振り返ると、可愛らしい顔立ちをした女子がそこに立っていた。
驚いたな。俺はこの女子を知っている。こいつは・・・

「相沢。」

俺宛のラブレターの差出人、相沢だった。
言葉を交わすのは実に1年半以上ぶりだ。
昨晩卒業アルバムで確認した幼げな顔より、若干大人びている。
髪型も変わっていて、中学時代は外ハネのショートカットだったのが、今はあろう事か短めのポニーテールだ。
あえて言おう。萌え。

 

「えへへ。久しぶりっ。キョンちゃん。」

写真より、全然かわいい。
それにしても、キョンちゃんて。

「傘、忘れたの?良かったら・・・一緒に帰ろ。入れてあげるから。」

相沢は上目遣いで俺を見つめ、傘を握る両手をモジモジと持て余しつつそう言った。


二日続けて違う女子と相相傘で下校・・・なんていうシチュエーションはなかなかないだろう。
もし俺が谷口ばりの女たらしだったなら、話は別だが。
しかし、今の俺はまさしくその状況だ。
昨日はハルヒ、今日は相沢。
俺の横を歩く相沢は、さっきからもじもじと肩を揺らしている。
その姿がとても愛らしく見えた俺は、傘を相沢の方に寄せてやった。

 

「あの・・・手紙、読んだ?」 
相沢が、頬を赤らめつつ心配そうに聞いた。

「ああ。」 
内心緊張していたのだが、俺はできるだけ普通を装って答えた。こいつこんなに可愛かったか?

「ごめんね。いきなり。困ったでしょ・・・。」 
心配そうに俺の顔を覗き込む相沢。

「そんなことねえよ。」

「えへへ、良かった。」 
そう言ってはにかんだ相沢の笑顔は、正直もうまいっちゃうくらい可愛く見えた。

「じゃ、じゃあさ。クリスマス・イブは・・・ヒマ?あんな事書いちゃって、迷惑じゃなかった?」

返答に困る俺。
『あんたの好きにしていいわよ。』
ハルヒの言葉がもう一度よみがえる。

「ごめんね・・・。」
俺の沈黙をどう勘違いしたのか、相沢はうつむいて消え入るような声で言った。慌てて俺は、

「謝ることねえって!イブなら俺もヒマしてたし、二人でどっか行こうぜ。」

そう答えていた。

「本当!?えへへ、絶対だよっ。」 
途端に笑顔を取り戻す相沢。

もう一度言ってみる。こいつこんなに可愛かったか?

 

 

その後俺たちは中学の思い出話に花を咲かせ、駅前で別れた。
コンビニでビニール傘を購入した俺は、駐輪所に停めていた自転車に跨って帰路についた。

「まいったな。」

OKしちまった。勢いで。
「ごめんね・・・。」とつぶやいたときの相沢のあの泣きそうな顔は、俺の母性本能を的確につついていた。
あんな顔されたら、誰だって落ちるさ。

雨はますます激しさを増す。
灰褐色の空は、俺のことを非難しているように見えた。

「そう攻めるなよ。俺だって悩んでるんだ。」

俺は空に向かってそう言った。
明日は祝日だ。クリスマスイブは二日後に迫っていた。

 

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