今朝は妹のボディプレスを受ける寸前に起きたようだ。
以前のような、あの忌々しい夢を見たわけでもないのにな。

その証拠にたった今、ドアを開けた妹が「なんだー。もう起きてたの?つまんなーい」などと言っている。
珍しいこともあるものだな。槍でも降ってこなければいいが。

適当に妹をあしらって部屋から追い出すと、太股から脹脛(ふくらはぎ)にかけて、違和感があることに気付いた。

シャミセンが足の間に挟まっていた。

上半身だけをベットから起こし、布団を捲り、気持ちよさそうに寝ている雄猫を眺める。
西高東低の気圧配置の冬真っ盛りの中で、暖かい寝床を求めた結果らしい。

どうやら、起きる気はないようだ。
せっかく早く起きたというのに三文の徳が得られないとは、なんだか損をした気分になる。

起こしても良かったのだが、あまりにもスヤスヤと良い顔をして寝ているので、
なんとなくそのままにしておくことにした。ハルヒもこんな顔で寝ていれば可愛い…って何を考えているんだ俺。

妄想を振り払うついでに眠気も覚めるように、顔を左右に振ると、
近くに置いてあった携帯電話の着信ランプが点滅していることに気付いた。

夜中に誰かからメールがあったのだろうか。またハルヒか?
料金プランを変更してから、やたらと電話やメールが増えたからな。
とりあえず、手を伸ばして確認しようとしたそのとき、

「フシャーーーーー!!!!!」

シャミセンが威嚇をしている。間違いない。
待て。落ち着け。いつ起きたのかは知らないが、何故、俺を威嚇するんだ!?

目を見開いて、尻尾を太くするシャミセンは初めて見るぞ。何が起きたんだ!?俺が何かしたか!?
さては長門か。いや、それともドッキリか。看板はどこだ。

俺がそれなりに驚いて怯えつつ冷静に分析していると、当の本猫は少し落ち着いたようだ。
足から少しずつ離れながら、目線はこちらを向いたまま後ずさりをしている。
あのー。そのままだと、ベットから落ちるぞ。シャミセン。

「フギャ!」

落ちた。猫がバランスを崩して落ちた。ベットから落ちた。
猫の三半規管には詳しくないが、その持ち前の感覚で体勢を立て直すことはできなかったのだろうか。
あれは木から落ちたときだっけっか。今度、哲学者の名前を付けられた黒猫の本を読み返してみよう。

おい、大丈夫かシャミセン。
猫なのに腰を抜かしているのだろうか。再起不能に陥っている猫に手を貸そうとすると、
急に飛び上がり、さらに俺から距離をとった。なんだ、ピンピンしているじゃないか。

そういえば、携帯に何か来てたんだったな。どれどれ。

From:古泉
Sub:緊急です
本文:
大きな閉鎖空間が発生しました。
涼宮さんと何かありましたか?

と入力しているうちに消滅したようです。
原因は不明ですが、またすぐに発生する可能性があります。
起こしてしまったのであればすみません。

なんのこっちゃ。
ん?もう一件あるな。

From:長門
Sub:
本文:
涼宮ハルヒの人間としての存在が消滅し、一時的に彼女の力が弱まっている。
しかし、完全に消えてしまった訳ではない。
安心して。
彼女の部屋の暖房器具が故障していることが確認されている。
無意識的に力を使い、暖かい場所に適したものに変化した可能性がある。
あなたの家には猫がいたはず。
万が一のことを考えて、丁重に扱って。

また、厄介なことになったな。

シャミセンはドアを開けようと頑張ってカリカリと爪を立てて奮闘しているが、暖簾に腕押しだ。
ドアで爪を研いでほしくなかったのと、早く元に戻ってほしいのと、ちょっと遊んでみるかの三択があったが、
後の事を考えて夢から覚めてもらうことにした。

逃げ回るシャミセンを必死に追いかけて、傷だらけになりながら、やっとのことで捕まえてこう言ってやった。

そんなに寒かったのか。ハルヒ。

ぎゅうっと抱きしめてしばらくすると、シャミセンは何事もなかったかのように毛づくろいを始めた。
大欠伸もしている。嗚呼、俺もこんな風に平和に暮らしてみたいもんだ。
まぁ、団長さんに振り回されている方が楽しいから、こっちでもいいか。

さて、シャミセンの相手をしていたらあっと言う間に家を出なければならない時間になっていた。
これは、まずい。

予鈴ギリギリで教室へ駆け込むと、ハルヒが俺の首の辺りを見て、一瞬ハッとした表情をしてから、話しかけてきた。

「おはよう、キョン。その傷どうしたのよ?まさか、いじめられているの?だったらSOS団の総ry「そうなんだ」
「えっ…?」
「今朝な、猫にギッタンギッタンに引っかかれるといういじめに遭ったんだ」
「そ、そうなの?あの大人しいシャミセンが…なの?」
「誰もシャミセンとは言ってないぞ。何か心当たりでもあるのか?」
「あ、う…な、何でもないわよ。ちょっと夢でね」
「そうか、抱きしめてやったら急に大人しくなってな、今まで暴れていたのが嘘みたいに静かになって、まるで…」
「まるで、何よ?」
「どっかの誰かさんみたいだったな」
「…!」

ありゃりゃ、顔を真っ赤にして大人しくなってしまったようだ。やれやれ。


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