その日の放課後のことだ。



ホームルームが終わり、今日も俺は部室へと足を運ぶ。
ハルヒはと言うと、6限が終わるや否や後部座席から忽然と姿を消していた。
いつものことだ。そう驚くことでもない。

「ホームルームなんて時間の無駄よ。あたしはもっと生産性のある時間の使い方をしたいの。」

と、これはいつかのハルヒの台詞だが、どの口が時間の生産性について説いているんだよ!
しかし、一体どこで何をやっているのやら。
嫌な予感に苛まれつつ、俺は部室のドアノブに手をかけた。 

 

 

部室に足を踏み入れた途端、嫌でも目に付いた。
いつかのサンタコスチュームに身をまとい、満面の笑みを浮かべ仁王立ちするハルヒがそこにいた。
右手には去年のクリスマスイブ、俺がハルヒにかぶらされたトナカイの頭を握り締めている。
後方のホワイトボードには、「SOS団緊急ミーティング!」と書きなぐってあり、
その傍らにはハルヒと同じサンタ衣装に身を包んだ朝比奈さん。
俺の姿を発見するなり恥ずかしそうに頬を赤らめる。(「あ、こんにちわぁ、キョンくん。」)たまらん。
そこには長門と古泉もすでに揃っていて、それぞれオプションの無表情とニヤケ面を顔に浮かべつつ、
赤い三角帽子を被って定位置に着席していた。
フッと肩をすくめてみせてから、俺にウインクを飛ばす古泉。止めろ、気色悪い。

「遅いわよ。何やってんのあんた?重要な緊急ミーティングがあるっていうのに。」

開口一番、笑顔のまま怒鳴るハルヒ。なあ、それどうやってんだ?

「はあ?何言ってるのよ。意味わかんない。いーい?今日は緊急ミーティングなの!わかったらさっさとコレを被って着席する!」
忌まわしき過去の記憶、トナカイヘッドを俺の手に押し付け、ハルヒは俺の定位置であるパイプ椅子を指差した。
被る必要あるのか?コレ。っていうかせめて俺も三角帽にしてくれ。それに、ミーティングがあるなんて一言も聞いてないぞ。

「だまりなさい。帽子はもう売り切れよ。あんたにはトナカイがお似合いなの。
それ被ったままサンタコスのみくるちゃんを背中に乗せて『メリークリスマース!』って叫びながら校内一周させられたくなかったら、早く言うとおりにしなさい!」

それを聞いた朝比奈さんがビクッと肩をすくませる。(「ふぇぇ・・・それはちょっとおぉ・・・」)
恐ろしいことを考え付くやつだ。仕方ない。朝比奈さんを背中に乗せるのはかまわないが、トナカイで校内一周は勘弁だ。俺は渋々言うとおりにしてやった。
我ながら、馬鹿馬鹿しい格好だ。頭が痛い。

 

ハルヒはコスプレ集団に早変わりしたSOS団員4名を眺め、満足気にうなずいた。

「よしっ!」

なにがよしだ。

「それではただいまより、SOS団緊急ミーティングを始めます!」
ミーティングとは名ばかりで、ハルヒが俺たち団員の意見を聞き入れることはありえない。ハルヒの提案にところどころ俺が突っ込みを入れつつ、結局は同意を余儀なくされることは周知の結末だ。
ていうか、この3人も首ふり人形のようにハルヒの言動にうんうん頷いてばっかりいないで、たまには反旗の一つでも翻してみて欲しいものだ。はあーっとため息をついて正面を見ると、三角帽子を頭にのせた長門と目が合った。相変わらずの無表情ぶりは健在だ。
こいつは本当に何を考えているんだろうな。俺を見つめる瞳は、なんだかハルヒに呆れているように見えたし、私は早く読書に戻りたいのだけれども、と訴えているようにも見えた。
長門はすぐに視線をハルヒに戻し、俺もそれに習った。

笑顔を崩さず、早口でいきなり捲し立てるハルヒ。

「さてみなさん!もうすぐクリスマスです!偽サンタが街を練り歩く季節がやってまいりました!
みくるちゃん、キョン、あんた達は特に気をつけなさい!だまされちゃだめよ!
去年も言ったけど、本物はピンポイントにしか現れないから。」

うるせえ。

「あんたのためを思って言ってるの!そんなことより、今年も盛大にSOS団クリスマスパーティを開催することが決定されました。
日時と場所はクリスマス・イブ、12月24日の終業式が終わり次第部室でね。」

それはいつ、どこで、誰が下した決定だ。

「今、ここで、あたしが下した決定よ。なんか文句あんの?」

ムッと口を真一文字に結んだハルヒは、俺が「やれやれ」と言いながら首を横に振ると一瞬でもとの笑顔に戻り、こう続けた。

「何か不都合がある人はいる?みくるちゃん?」
「あ、あたしは大丈夫でぇす。」
「古泉くんは?」
「残念ながら、その日は暇です。謹んで参加いたしましょう。」
「有希?」
「大丈夫。」
「よし、全員OKね!今年もパーッと盛り上がりましょう!あ、アルコールは無しね。もちろん。」

ちょっと待て。なぜ俺に聞かん。

「あ?あんたはどうせヒマでしょ。聞くまでもないわ。でもそうね、どうしてもって言うなら聞いてあげる。
キョン?あんたは?クリスマスイブにデートのご予定でもあるのかしら?」
「う・・・」

言葉を詰まらせる俺。ハルヒは意地悪くニタニタ笑いを浮かべている。

「無いのね?ほれ見ろ。言ったとおりでしょ?あんたに女っ気が無いのは百も承知よ!」

お前はどうなんだお前は。と、反論しようとしたが止めておいた。
何を言っても負け惜しみにしか聞こえない。

かくして、第二回SOS団クリスマスパーティの開催が決まった。
俺とて不本意ではない。癪だけど、俺がクリスマスイブに暇を持て余しているっていうのは当たり前のように本当の話だ。
それに、またハルヒ鍋が食えるというだけでも、パーティーに参加する意義はあると言えよう。
今年はアホみたいなトナカイをかぶって余興をする必要もないしな。 
その代わりだ。これまたハルヒの提案なのだが・・・

「今年はプレゼント交換をやりましょう!やっぱりクリスマスパーティと言えばプレゼント交換よねえ。
くじ引きかあみだで、誰が誰のプレゼントを手に入れるのか決めるの!
あたしのに当った人は泣いて喜びなさい!団長じきじきの贈与なんだから。
ちなみに、ちゃんとみんなが喜ぶようなモノを選ぶこと。変なプレゼント貰っても、しらけるし場の空気を悪くするだけだわ。」

とのことだった。「変なプレゼント」を持ってくる可能性が一番高いのはお前だ。
と思ったが、こいつにしてはテンプレートかつマシな提案だ。

「名案ですねえ。面白そうです。では僕もとっておきを用意しますよ。」

と、古泉。とっておきってなんだ。気味悪いぞ。

「誰のにあたるかわからないなんて、ちょっとドキドキしますねぇ。でも、楽しみですぅ!」

と、朝比奈さん。

「・・・。」

ちなみにこれは長門だ。

「決まりね!みんな、ちゃんとあたしを喜ばせるようなモノを選んでよね!特にキョン!
あんたのプレゼントなんてたかが知れてるけど、あたしは貧乏クジだけは引きたくないからね!」

俺はため息で返事をしつつ、お前にだけは言われたくねえ、と心の中でつっ込みを入れておいた。
しかしプレゼント交換か。確かに楽しみだ。
くじ引きだろうがあみだだろうが、意地でも朝比奈さんのプレゼントをゲットしてやるぜ。
これは俺の想像だが、あの人のことだ。手編みのマフラーかセーターか手袋に違いない!

 

その日、SOS団のミーティングはそこで終了し、その後はハルヒの指示によってひたすら部室の飾りつけにいそしんだ。
やったのはほとんど俺と古泉だけどな。
ハルヒはあーしろこーしろとうるさく口出しするだけだったし、
朝比奈さんはやたらにモノをひっくり返す癖があるので、パイプ椅子に腰掛けて静観することをハルヒに命じられていた。
言うまでもなく、長門は黙々と読書にいそしんでいた。少しはお前も手伝えよ、長門。

金、銀のモールやチカチカ点滅する電飾などが部室全体を彩り。
窓にはスノースプレーで「メリークリスマス!bySOS団」の文字がトナカイのイラストと共に書きなぐられていた。
前にも言ったが、外側から見たら鏡文字だぞ。それ。
ハルヒがどこからか持ってきた大きめのクリスマスツリーは、団長机の横に設置した。

「うーん、いい感じね!我ながら上出来だわ!これならサンタも文句ないでしょ。」

だから、やったのは俺と古泉だっつーの。

 

 

その後は言わばいつも通りのSOS団だった。
俺と古泉はオセロ、朝比奈さんはお茶くみ、長門は読書、ハルヒはパソコンとにらめっこにそれぞれ徹し、結構な時間が過ぎた。
窓の外に目をやると、雪は小降り雨に変わっていた。まいったな。
そろそろ下校時間だ。

「おや、雨ですか。」

パタパタと石をひっくり返す手を止め、古泉がつぶやいた。

「まいったな。誰か傘持ってるか?」

沈黙。

「本降りになる前に帰ったほうがいいな。ハルヒ、今日はもう帰ろう。」

いつかのように教職員用の傘を失敬してもいいと思ったのだが、さすがに五本もいっぺんになくなると怪しまれるかもしれない。
ハルヒはパソコンのディスプレイから窓の外、そして時計へと目を移して言った。

「そうね。もうすぐ下校時間だし。やることやったし。みんな、今日はこれで帰るわよ。」

 

部室を後にした俺たちは、生徒用玄関まで足を運んで絶句した。
なんというタイミングの悪さ。どしゃ降りだ。
仕方なしに、教職員用の傘を2本拝借し、家の近いもの同士でいっしょに使うことにした。
俺とハルヒの二人、古泉と長門と朝比奈さんの三人という組み合わせだ。
この組み合わせには不本意だが、仕方あるまい。俺は渋々同意した。

「あんたと相相傘なんて私だって不本意よ。文句言うなら入れてあげないわよ!この傘を取ってきたのは私なんだから。」

そう言いつつ、靴を履き替えようと下駄箱に手を伸ばすハルヒ。俺もそれに習う。

「文句なんてとんでもない。まことに光栄でございますよ団長さ・・・」

皮肉の一つでも言ってやろうと思っていた。
しかし、下駄箱の中を覗き込んであるものを発見した俺は、突如の驚きのあまり言葉を失った。

 

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