プロローグ

運命の赤い糸、なんてもんは、所詮少女漫画か月9ドラマあるいは恋愛映画の中の話だ。
俺は高校生活において、登校中に食パンを口にぶら下げた美少女と曲がり角で正面衝突したり、
幼稚園の頃に結婚を約束したままどこかへ引っ越してしまった幼馴染のこれまた美少女が突然転校してきたり、
または電車で酔っ払いに絡まれているやっぱり美少女を助けてそこからウンヌンしてみたり・・・
なんていう、思わず「それなんてエロゲ?」と突っ込みたくなるようなベタベタなシチュエーションから始まる運命的な恋なんてものは、はなから期待しちゃいなかった。
ドラマみたいな恋がしたい!などという声をクラスメートの女子からよく聞くが、俺は声を大にして言いたい。
ドラマみたいな恋?はあ?お前ら、現実を見ろ!

 

言っておくがこれはひがみではない。
俺はなにも恋愛自体を否定するわけじゃない。
俺だって健全な男子学生だしな。
彼女と肩を並べて登下校なんて、実に青春的ですばらしいじゃないか。
この際正直に言おう。俺はカップルというものに憧れている。

 

でもな、現実ってのはやっぱり意外と厳しい。
俺はなにもドラマのようなロマンチックな展開で、谷口言うところのAランクに入るような美少女と結ばれたいわけではないのだ。
無論、最大公約数的なことを言えば美人であるに越したことはない・・・ないが、
性格さえ良ければ多少見劣りしても・・・いやいや、やっぱり顔は重要だな・・・
ってこんなこたどうでもいいか。
俺は谷口のように高望みなんぞしていない。
それにクラスメートの半分は女子なのだ。
俺に彼女ができたからと言って不思議でもないし、文句を言うのはハルヒくらいのもんだろう。
「あんたに彼女なんてできたら、SOS団の活動に支障をきたすに違いないわ!恋愛なんてくだらないってなんでわかんないのよこのバカキョン!!」
と、唾を飛ばしながら捲し立てるハルヒの顔が目に浮かぶ。
なんの女っ気も無しに高校3年間の青春の半分をSOS団なるわけのわからない団体の活動で無駄にしてきた俺なのだが、やっぱり彼女くらい欲しいよな。
そうだな、まずはメールで心を通わせつつ、さりげなーくデートにお誘いしてお近づきになり、放課後の教室に呼び出して告白!見事OKの返事をもらい、俺の学園青春ライフがスタートする!
コレだ。コレコレ。テンプレートなパターン。だけど十分だ。
運命の赤い糸なんてもんは恋愛に必要ねえ。
要るのはイチャイチャトークを交えつつデートの待ち合わせ場所の連絡をするために使用するこの携帯電話という偉大なる発明品のみだ。
俺は携帯電話を発明した人にぜひ金メダルを差しあげたい。 

こんなことを授業中にボンヤリ考えていても、
俺の下駄箱に入ってきたのはバレンタインのチョコでも無ければラブレターでも無く、
朝比奈さん(大)からの指令書や故朝倉からの呼び出し文書もとい不幸の手紙であった。
放課後に待っているのは体育館裏告白イベントでは無く、
気色悪いサイキック野郎とのオセロ対決イベントのみだ。
うれし恥ずかしいことと言えばたまにランダムで発生する朝比奈さんの着替えイベントくらいか・・・て何言ってんだ俺?

まあ、しかし、なんだ。
恋愛的要素は排除されていたにしても、SOS団団員としてハルヒのわがままに付き合う生活は悪くなかった。
このままでも楽しいからいいか、と多少妥協していたっていうのも俺にいつまでたっても彼女の一人でもできん一因かもしれん。
妥協?いや、違うな。
俺は心の底からこの生活に満足していた。
いや、していると言い換えよう。
ビミョーに非日常系学園ストーリー。結構じゃねえか。
彼女なんかいなくたって、俺には宇宙人、未来人、超能力者の友人(?)と、わざわざ俺の学校生活を忙しくしてくれるハルヒがいる。
考えてみると、ハルヒの無茶苦茶に付き合う一方で女とも付き合うなんてのは不可能に近い。
そうなのだ。ハルヒに振り回される役目は俺にしかできない。
時々週7のシフトを週4程度に変更して欲しくもなるが、この職を誰かに譲る気にはならない。
それこそが毎日足しげく部室に通ってしまう所以であり、
(たいていはハルヒの持ち出す)ヘンテコな騒動も、ある種のスパイスと同じで、なんとなく味気無い日常に刺激的な味覚を加えてくれるものだった。

 

・・・と自分で納得したところで授業終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
なんの気も無しにふと窓の外を見る(俺の席は現在、窓際後方2番目というグッドポジションだ。もちろん後部座席にはハルヒ。)と、
雪が降っていた。道理で寒いはずだ。
そして俺はなぜ自分がこんなことを考えてしまっていたか、
その理由に気がついた。そうか、
「もうすぐクリスマスか・・・」
思わず俺の口から出た言葉は、授業終了直後の教室のガヤガヤという騒音にかき消された。
去年のクリスマスはトナカイのコスプレをして一発芸をやらされたっけな。忘れたい・・・。
とは言え、ハルヒの特性鍋はなかなか美味だったし、クリスマスカラーに彩られた部室での宴会は楽しかった。
「イベントごとは大事にしなきゃだめなのよ!」とのたもうた我が団長は、
残り数日に差し迫った今年のクリスマスというイエス・キリスト生誕イベントには一体何をするつもりなのだろう。
そんなことを考えながら、俺は校庭にしきりに降り続ける雪をしばらくながめていた。

 

→セカンド・キス 1

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最終更新:2020年03月15日 00:29